コラム・連載

ゴルフジャーナリストが見た、プロゴルファーの知られざる素顔

「誰かのため」を最優先するホブランは、だからこそ人気急上昇中!

2023.7.15|text by 舩越園子

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今年6月。米ゴルフ界で、こんな出来事があった。

優勝賞金360万ドル(約5億円)が用意されていたPGAツアーの「格上げ大会」で、見事、勝利を飾った選手が、一夜明けたら全米オープン出場を目指して地区予選に挑んでいた親友ゴルファーのバッグを担ぐキャディに早変わり。

そんな驚きのニュースが米メディアによって発信されるやいなや、ゴルフファンの間では賞賛の声が溢れ返った。

ノルウェー出身の25歳、ビクトル・ホブランは、ゴルフ界の「帝王」ジャック・ニクラスがホストを務めたPGAツアーの大会、ザ・メモリアル・トーナメントで4日間72ホールを首位タイで終え、デニー・マッカーシーとのサドンデス・プレーオフに突入した。

プレーオフは1ホール目でホブランが勝利を決めたものの、難コースのミュアフィールドビレッジ(米オハイオ州ダブリン)で合計73ホールの激戦を制したホブランの疲労度はマックスに達していたはずである。

通算4勝目を挙げ、破格の360万ドルを一気に手に入れたことで、興奮もしていれば、安堵もしていたのではないだろうか。

いずれにしてもホブランは「夢見心地」だったのだろうと思うのだが、しかし彼は、その夢見心地の余韻に浸るどころか、翌朝から早起きして全米オープン地区予選の会場に出向き、親友の重いバッグを担いでいたのだ。

そんなホブランの姿を目にした人々は「えっ?あれは、昨日、メモリアルで優勝したホブラン?」「なぜ彼が地区予選でキャディをやっている?」と、みな驚いていた。

全米オープン地区予選は、英国、日本、それに米テキサス州ダラスの3会場では先行して5月に行われたが、その後の6月5日には全米9か所とカナダの合計10か所で最終予選が行われた。

ホブラン自身は世界ランキング5位のトッププレーヤーゆえ、全米オープン出場資格はもちろん事前に有していたが、オクラホマ州立大学時代のゴルフ部のチームメイトで親友のザック・バウチョは、自力出場を目指し、オハイオ州コロンバス地区予選にエントリーしていた。

その地区予選会場は、ホブランが優勝したメモリアルの会場と同地域にあり、ホブランは夢を追うバウチョのために「僕がバッグを担ぐよ」と応援がてら駆け付けたのだ。

残念ながらバウチョの全米オープン出場の夢は叶わなかった。だが、5億円をゲットしたばかりのチャンピオンが翌日には短パン姿で地区予選会場に現れ、スタンド付きのセルフバッグを担いで1日36ホールの長丁場を親友とともに戦ったこの出来事は、米ゴルフ界で語り継がれる逸話になった。

インドア育ち

北欧のノルウェーで生まれ育ったホブランが初めてゴルフクラブを手にしたのは11歳のときだった。エンジニアとして米国に単身赴任していた父親が、ゴルフクラブを携えて帰国して以来、ホブランはゴルフに夢中になった。

とはいえ、「ノルウェーでは屋外でゴルフができるのは1年の半分以下しかない」そうで、彼は屋内のゴルフ練習場で腕を磨き、自宅ではテレビやビデオ、SNSなどを駆使して情報や知識を得たという。

大学は米国の名門オクラホマ州立大学へゴルフ留学。在学中の2018年に全米アマチュアで優勝し、その資格で2019年はマスターズと全米オープンに出場。その双方でローアマに輝いた後、プロ転向した。

PGAツアーにデビューすると、2020年には早々にプエルトリコで初優勝を飾り、「インドアの練習場で育ったノルウェー出身の僕が、タイガー・ウッズと同じPGAツアーで戦っていることが信じられない想いだ」と、実感を語った。

2021年と2022年にはメキシコで開催されたマヤコバ・クラシックで連覇を達成。そして今年6月、ザ・メモリアル・トーナメントを制し、通算4勝目を挙げた。

メジャー大会でも何度も優勝争いに絡み、今では世界ランキングでトップ5に数えられるホブランは、押しも押されもしない一流選手だが、そんな彼が心身の疲労を押して親友のためにキャディを務めた理由は、「友情」と「感謝」、そして「恩返し」だった。

「誰かのために」

オクラホマ州立大学へやってきた当時のホブランは、米国では右も左もわからず、英語もあまりわからなかった。そんなホブランに「ウチに住めば?」と声をかけたのが、大学ゴルフ部のチームメイト、バウチョだった。

ホブランとバウチョは兄弟のような親友となり、そのおかげで英語も米国生活もスピーディーに覚え、格安のホームステイをさせてもらって経済的にも助かったホブランは、バウチョに心底感謝していた。

だからこそホブランは「僕がプロゴルファーになったら、僕が受けた恩に報いることをして、感謝の気持ちを行動で示したい」と思っていた。そして、夢を追いかける人々のために貢献したいと願っていた。

全米オープン地区予選に挑んだバウチョのキャディ役を引き受けたのも、「ありがとう」を行動で示したかったからだった。

そういえば、昨年のPGAツアーのシーズンエンドのプレーオフシリーズの1つ、BMW選手権の最終日にホブランはパー3の2番でホールインワンを達成した。

その副賞の12万5000ドルを、ホブランはプロキャディ養成のための奨学金「エバンス・スカラー」に全額寄付。ホブランの寄付は、将来のプロキャディを目指す1人の学生の4年間の授業料と生活費が賄われることを意味していた。

「ホールインワン達成は、そりゃあ、うれしいけど、今回はリーダーボード上で僕を上位に押し上げる効果はあまりなかった。でも、別の大きな意味で、このホールインワンが誰かの役に立ってくれたら、僕はとてもうれしい」

自分のことより誰かのことを常に気にかけ、誰かのため、社会のために行動するホブランは、心優しく、そして強いトッププレーヤーだからこそ、今、彼の人気は急上昇中だ。

次回は8月15日公開予定!

バックナンバー
  1. ゴルフジャーナリストが見た、
    プロゴルファーの知られざる素顔
  2. 80. トレーラーハウスで誓ったこと
  3. 79. 命のリレー、命のショー
  4. 78. 奇跡の復活優勝、「ミーアのミラクル」
  5. 77. 「永遠の女王」A・ソレンスタム
  6. 76. L・グローバーを大きく開花させたもの
  7. 75. 大きなゴールのための小さな目標
  8. 74. 「三つ子の魂」子どもたちのヒーロー
  9. 73. 「誰かのため」を最優先するホブランは、だからこそ人気急上昇中!
  10. 72. 亡き母のために「優勝して財団設立」を目指したW・クラークの勝利
  11. 71. 「脚光」と「薄幸」のビッグスター
  12. 70. 何かに苦しむ誰かのために活動する「フェアウエイの妖精」
  13. 69. 「0.006%」を潜り抜けたバックリーがもたらす幸運
  14. 68. 故郷をジュニア天国へ。S・ストーリングスの社会貢献
  15. 67. 鉄人レースに挑んだ女子プロのチャレンジ
  16. 66. 「ナイスガイだからこそ」のメジャー制覇と社会貢献
  17. 65. 個性派M・A・ヒメネスの恩返し
  18. 64. 全英女子オープン覇者がプロゴルファーである理由
  19. 63. メジャー3勝、だからこそ「感謝」と「貢献」
  20. 62. アフリカに水をもたらすゴルフ界のレジェンド
  21. 61. 一人の少年を讃えたフリートウッドの想い
  22. 60. 母国を離れて戦うC・スミスの母国愛
  23. 59. コロナ禍の犠牲者のために尽くした素晴らしき選手
  24. 58. 親友が闘病しながら創設した財団を守り続けるプロゴルファー
  25. 57. 救った子供が未来を救う、だからこそ救いたい
  26. 56. 「みんなのハッピー」を目指す女子ゴルフのスター
  27. 55. バレステロスからラームへ、スペインのヒーロー誕生物語
  28. 54. マリア・ファッシは幸せを運ぶアンバサダー
  29. 53. 「小さな奇跡」を信じて戦う意味
  30. 52. クールなP・カントレーの温かい社会貢献
  31. 51. L・トンプソン流、ユニークな社会貢献
  32. 50. 母国への想いが奇跡を起こす!?
  33. 49. 無名の48歳の「好きな言葉」「嫌いな言葉」
  34. 48. B・デシャンボーの熱くて厚い義理人情
  35. 47. 絵を描き続ける「みんなのヒーロー」
  36. 46. 助けたからこそ、助けられたゴルフ人生
  37. 45. 夢を追いかけられる社会にしたい
  38. 44. 負けても笑顔を輝かせた意味
  39. 43. 優しく強くなったR・マキロイの社会貢献
  40. 42. ファンファーレで送り出したい全英チャンプ
  41. 41. 「僕はそういう僕でありたい」ビリー・ホーシェルの感謝と恩返し
  42. 40. チャールズ・ハウエルの恩返し
  43. 39. メジャー・チャンプの恩返し
  44. 38. 「思い出づくり」と「自転車づくり」
  45. 37. 米ツアーの黒人選手の「声」の力
  46. 36. スネデカーは「超ナイスガイ」!
  47. 35. 「世界を救うため」動いたジュニアゴルファー姉妹
  48. 34. それが「私の生きる意味」
  49. 33. 「いつかは、私が」と誓った物語
  50. 32. 亡き母の名を冠したマンモバンを走らせて
  51. 31. ケビン・ナの人気が静かに高まりつつある理由
  52. 30. ゴルフ界の「子育て」と「本当の女王」
  53. 29. 苦難を乗り越えた3世代の物語
  54. 28. 光が当たらなかった場所に光を当てる
  55. 27. 世界ナンバー1の「自分流」チャリティ
  56. 26. 「手作りゴルフ場」から出発したプロゴルファーの社会貢献
  57. 25. ゴルフ金メダリストが考える手作り感覚のチャリティ活動
  58. 24. 惜しみなく与える「DJ」の物語
  59. 23. 輝く未来を抱くチャンス
  60. 22. 帝王の優しき野望
  61. 21. 「パットの名手」は「チャリティの名手」
  62. 20. 「ケビン・キスナー」の名前と存在感
  63. 19. ゴルフの世界でも「類は友を呼ぶ」
  64. 18. ライオン・ハートのジョン・デーリー
  65. 17. 往年の名選手と名キャディからの贈り物
  66. 16. 「たった4勝」でも「メジャー無冠」でも、どんどん高まるリッキー・ファウラーの人気
  67. 15. ジャロード・ライルの36年の人生が残してくれたもの
  68. 14. 苦労したからこそ、若者たちを手助けしたいと動き出したトニー・フィノウ
  69. 13. 授かった幸運を不運な人々のために役立てたいと願うジム・フューリックと妻の社会貢献
  70. 12. 選手もキャディも主役になった日
  71. 11. タイガー・ウッズの真心のチャリティ
  72. 10. 闘病しながらチャリティにも精を出し、「とてもラッキー」と言い切る強さ
  73. 09. ベン・クレーンの終わりなき社会貢献
  74. 08. だから、アーノルド・パーマーは誰からも愛された
  75. 07. デービス・ラブの愛
  76. 06. 彼が国民的スターである理由
  77. 05. ゴルフより大切なものを知って強くなったプロゴルファー
  78. 04. アーニー・エルスの山谷の越え方
  79. 03. マスターズ2勝のバッバ・ワトソンが一人の人間として抱く夢
  80. 02. 全英オープン覇者、ジョーダン・スピースの強さの秘密
  81. 01. プロゴルファーも、お医者さまも?「らしさ」って、難しい

著者プロフィール

舩越園子 近影
舩越 園子(ふなこし そのこ)

ゴルフジャーナリスト

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。
百貨店、広告代理店勤務を経て1989年にフリーライターとして独立。93年渡米。

在米ゴルフジャーナリストとして新聞、雑誌、ウエブサイト等への執筆に加え、講演やテレビ、ラジオにも活動の範囲を広げている。

『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。

アトランタ、フロリダ、ニューヨークを経て、現在はロサンゼルス在住。

最新の書籍紹介

『タイガー・ウッズ 復活の言霊』

タイガー・ウッズ 復活の言霊
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復活劇の裏にあったウッズの想い
すべての人の心を打つ48のメッセージ

誰もが憧れる絶対王者として
君臨していたウッズ。
不倫騒動、くり返された故障と手術、
まさかの逮捕劇……と、
人生の風雨にさらされたウッズ。

子供たちと向き合い、自分を見つめなおし、
見事に復活優勝を果たしたウッズ。
どれもタイガー・ウッズだが、
彼の言葉を追い、紐解いていくことで
人間・ウッズの実像が見えてくる。

そして逆境を乗り越えるために 一番大事なものとは……。

バックナンバー
  1. ゴルフジャーナリストが見た、
    プロゴルファーの知られざる素顔
  2. 80. トレーラーハウスで誓ったこと
  3. 79. 命のリレー、命のショー
  4. 78. 奇跡の復活優勝、「ミーアのミラクル」
  5. 77. 「永遠の女王」A・ソレンスタム
  6. 76. L・グローバーを大きく開花させたもの
  7. 75. 大きなゴールのための小さな目標
  8. 74. 「三つ子の魂」子どもたちのヒーロー
  9. 73. 「誰かのため」を最優先するホブランは、だからこそ人気急上昇中!
  10. 72. 亡き母のために「優勝して財団設立」を目指したW・クラークの勝利
  11. 71. 「脚光」と「薄幸」のビッグスター
  12. 70. 何かに苦しむ誰かのために活動する「フェアウエイの妖精」
  13. 69. 「0.006%」を潜り抜けたバックリーがもたらす幸運
  14. 68. 故郷をジュニア天国へ。S・ストーリングスの社会貢献
  15. 67. 鉄人レースに挑んだ女子プロのチャレンジ
  16. 66. 「ナイスガイだからこそ」のメジャー制覇と社会貢献
  17. 65. 個性派M・A・ヒメネスの恩返し
  18. 64. 全英女子オープン覇者がプロゴルファーである理由
  19. 63. メジャー3勝、だからこそ「感謝」と「貢献」
  20. 62. アフリカに水をもたらすゴルフ界のレジェンド
  21. 61. 一人の少年を讃えたフリートウッドの想い
  22. 60. 母国を離れて戦うC・スミスの母国愛
  23. 59. コロナ禍の犠牲者のために尽くした素晴らしき選手
  24. 58. 親友が闘病しながら創設した財団を守り続けるプロゴルファー
  25. 57. 救った子供が未来を救う、だからこそ救いたい
  26. 56. 「みんなのハッピー」を目指す女子ゴルフのスター
  27. 55. バレステロスからラームへ、スペインのヒーロー誕生物語
  28. 54. マリア・ファッシは幸せを運ぶアンバサダー
  29. 53. 「小さな奇跡」を信じて戦う意味
  30. 52. クールなP・カントレーの温かい社会貢献
  31. 51. L・トンプソン流、ユニークな社会貢献
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  33. 49. 無名の48歳の「好きな言葉」「嫌いな言葉」
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  36. 46. 助けたからこそ、助けられたゴルフ人生
  37. 45. 夢を追いかけられる社会にしたい
  38. 44. 負けても笑顔を輝かせた意味
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  41. 41. 「僕はそういう僕でありたい」ビリー・ホーシェルの感謝と恩返し
  42. 40. チャールズ・ハウエルの恩返し
  43. 39. メジャー・チャンプの恩返し
  44. 38. 「思い出づくり」と「自転車づくり」
  45. 37. 米ツアーの黒人選手の「声」の力
  46. 36. スネデカーは「超ナイスガイ」!
  47. 35. 「世界を救うため」動いたジュニアゴルファー姉妹
  48. 34. それが「私の生きる意味」
  49. 33. 「いつかは、私が」と誓った物語
  50. 32. 亡き母の名を冠したマンモバンを走らせて
  51. 31. ケビン・ナの人気が静かに高まりつつある理由
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  54. 28. 光が当たらなかった場所に光を当てる
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  56. 26. 「手作りゴルフ場」から出発したプロゴルファーの社会貢献
  57. 25. ゴルフ金メダリストが考える手作り感覚のチャリティ活動
  58. 24. 惜しみなく与える「DJ」の物語
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  64. 18. ライオン・ハートのジョン・デーリー
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