コラム・連載

在米ゴルフジャーナリストが見た、プロゴルファーの知られざる素顔

ライオン・ハートのジョン・デーリー

2018.12.15|text by 舩越園子

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 今年の全英オープンを制したイタリア人のフランチェスコ・モリナリは、12歳のとき、テレビ観戦した1995年の全英オープンで母国の英雄コンスタンチノ・ロッカが米国の当時のスター、ジョン・デーリーに惜敗した姿を眺め、「いつか自分がイタリア国旗を揚げてみせる」と心に誓ったそうだ。
 モリナリの胸の中では、敗れたロッカは英雄で、ロッカを打ち負かしたデーリーは、いわば「悪者」だったのかもしれない。
 それでなくてもデーリーは、ゴルフにおいても、私生活においても、次々に騒動を引き起こす「悪童ジョン」だった。
 だが、そうでありながらも、センセーショナルなデビューを果たし、メジャータイトルを手に入れていったデーリーは、比類稀なる飛距離を誇り、「ロング・ジョン」と呼ばれて大人気を誇った。
 そんなデーリーが52歳になった今でも大勢の人々から愛され続けているワケは、彼がとても心優しく、その優しさを人々に惜しみなく分け与え続ける「愛しきジョン」だからだろうと私は思う。

「ライオンは心優しい」

 デーリーの昔を知らない方々のために、彼の“武勇伝”をざっとご紹介しよう。
 1991年全米プロで補欠の9番目から突然繰り上がって出場することになったデーリーは、おんぼろ車を徹夜で運転して初日のスタートぎりぎりで試合会場に到着。コースチェックもウォーミングアップすらできぬまま、文字通りのぶっつけ本番で試合に臨み、持ち前のロングドライブを武器にして、いきなりメジャー初優勝を遂げ、世界を驚かせた。
 無名の新人からメジャーチャンプになったデーリーはシンデレラボーイと持て囃された。それから4年後には1995年全英オープンも制し、米ツアー通算5勝を挙げた。
 だが、飲酒、喫煙、ギャンブル、そして女性問題や暴力沙汰も相次ぎ、デーリー自身、「オレは米ツアーのエリート選手たちとうまく接することができない」と環境に順応できず、生きる気力を失いかけたこともあった。
 しかし、華々しく輝いていたときも、成績が低迷していたときも、私生活上のトラブルに陥っていたときでさえ、デーリーがチャリティ活動を止めることはなかった。
 生まれ故郷のアーカンソー州はもちろんのこと、全米各地に出向いてはチャリティ・トーナメントを開き、貧困で苦しむ人々や子供たちに救いの手を差しのべた。
 自身のトレードマークとなるライオンをデザインしたヘッドカバーやTシャツ、小物などのライオン・グッズを販売し、その収益の大半をチャリティに回してきた。
 「なぜ、ライオンをトレードマークにしたのか?」と尋ねたことがある。デーリーは「ライオンは獰猛だけど、心はとても優しい。見かけと違ってライオンのハートはとても優しいんだ。オレもそんなライオン・ハートを持ち続けたい」と、その意味を教えてくれた。
 カントリー・ミュージックが大好きで、カントリー・シンガーを招いてはミニコンサートを各地で開き、ときにはデーリー自身がギターを片手にカントリーを歌い、CDも発売した。そうした活動も、すべてチャリティのためのものだった。

体の柔軟性を生かした独特のスイングは今も健在。デーリーのロングドライブは見ているだけで楽しい。 (photo: 舩越園子) 体の柔軟性を生かした独特のスイングは今も健在。デーリーのロングドライブは見ているだけで楽しい。 (photo: 舩越園子)

自分が苦しいときも社会貢献

 2004年を最後に優勝から遠ざかったデーリーは、2006年にはシード権を失い、スポンサーは次々に離れていった。
 さまざまな問題を起こすたびに米ツアーから科された出場停止処分は実に20数回。最初の妻を皮切りに4人の女性と結婚、離婚を繰り返したが、10数人目の女性にあたるアナとは長続きし、後に結婚。
 スポンサーを失い、戦う場も失ったデーリーは、一時は「僕の転戦費用を出してください」と自ら呼びかけ、スポンサーを求めたこともあった。キャディ費用を抑えるために、妻のアナ(当時は恋人)が見よう見真似でバッグを担ぐようになった。
 そうやって自分自身が苦労していた日々の中でも、デーリーはやっぱりチャリティ活動を続けていた。
 「ジョンの心は誰よりもピュアなんです」
 そう呟いたアナの一言に、周囲の誰もが頷いた。そういうデーリーだからこそ、成績はなかなか向上せずとも、プロゴルファーとしての彼をもう一度サポートしようという企業や団体が徐々に増えていった。
 50歳になってからのデーリーはシニアのチャンピオンズツアーへ移行し、2017年のインスペリティ招待を制して、13年ぶりに勝利の美酒を味わった。
 ゴルフにおいても私生活においても、自分らしさや楽しさを取り戻した昨今のデーリーは、より一層、社会貢献に意欲を燃やしている。
 彼の活動の基本形はチャリティ・トーナメントとチャリティ・コンサートだが、毎年4月のマスターズの週は、デーリー自身がオーガスタナショナル近郊にトラックでやってきて、ライオン・グッズの即売会とサイン会を自ら開く。
 その場所はレストランチェーン「フーターズ」の駐車場の一角だ。フーターズはデーリーをスポンサードしている企業の1つで、昨年はその場所でビキニ・コンテストも開き、オーガスタ近郊の夜が大いに賑わった。
 最近ではデーリーのチャリティ活動への協力者が増え、みんなでいろいろな工夫を凝らし、寄付集めに努めている。
 「ガレージで眠っている古いクラブを提供してくれたら、新しいクラブの購入に使えるクーポンをプレゼント!」
 そんな文字が付された絵柄がデーリーの明るく豪快な笑顔とともに、しばしばSNS上に登場し、それを目にするたびに彼を思い出し、温かい気持ちになる。
 心優しいライオン・ハートのデーリーは、昔も今も、ゴルフ界きっての「愛しきジョン」だ。

次回は1月15日公開予定!

バックナンバー
  1. ゴルフジャーナリストが見た、
    プロゴルファーの知られざる素顔
  2. 29. 苦難を乗り越えた3世代の物語
  3. 28. 光が当たらなかった場所に光を当てる
  4. 27. 世界ナンバー1の「自分流」チャリティ
  5. 26. 「手作りゴルフ場」から出発したプロゴルファーの社会貢献
  6. 25. ゴルフ金メダリストが考える手作り感覚のチャリティ活動
  7. 24. 惜しみなく与える「DJ」の物語
  8. 23. 輝く未来を抱くチャンス
  9. 22. 帝王の優しき野望
  10. 21. 「パットの名手」は「チャリティの名手」
  11. 20. 「ケビン・キスナー」の名前と存在感
  12. 19. ゴルフの世界でも「類は友を呼ぶ」
  13. 18. ライオン・ハートのジョン・デーリー
  14. 17. 往年の名選手と名キャディからの贈り物
  15. 16. 「たった4勝」でも「メジャー無冠」でも、どんどん高まるリッキー・ファウラーの人気
  16. 15. ジャロード・ライルの36年の人生が残してくれたもの
  17. 14. 苦労したからこそ、若者たちを手助けしたいと動き出したトニー・フィノウ
  18. 13. 授かった幸運を不運な人々のために役立てたいと願うジム・フューリックと妻の社会貢献
  19. 12. 選手もキャディも主役になった日
  20. 11. タイガー・ウッズの真心のチャリティ
  21. 10. 闘病しながらチャリティにも精を出し、「とてもラッキー」と言い切る強さ
  22. 09. ベン・クレーンの終わりなき社会貢献
  23. 08. だから、アーノルド・パーマーは誰からも愛された
  24. 07. デービス・ラブの愛
  25. 06. 彼が国民的スターである理由
  26. 05. ゴルフより大切なものを知って強くなったプロゴルファー
  27. 04. アーニー・エルスの山谷の越え方
  28. 03. マスターズ2勝のバッバ・ワトソンが一人の人間として抱く夢
  29. 02. 全英オープン覇者、ジョーダン・スピースの強さの秘密
  30. 01. プロゴルファーも、お医者さまも?「らしさ」って、難しい

著者プロフィール

舩越園子 近影舩越園子(ふなこし そのこ)

在米ゴルフジャーナリスト

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年にフリーライターとして独立。93年渡米。在米ゴルフジャーナリストとして新聞、雑誌、ウエブサイト等への執筆に加え、講演やテレビ、ラジオにも活動の範囲を広げている。『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。アトランタ、フロリダ、ニューヨークを経て、現在はロサンゼルス在住。


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  1. ゴルフジャーナリストが見た、
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  2. 29. 苦難を乗り越えた3世代の物語
  3. 28. 光が当たらなかった場所に光を当てる
  4. 27. 世界ナンバー1の「自分流」チャリティ
  5. 26. 「手作りゴルフ場」から出発したプロゴルファーの社会貢献
  6. 25. ゴルフ金メダリストが考える手作り感覚のチャリティ活動
  7. 24. 惜しみなく与える「DJ」の物語
  8. 23. 輝く未来を抱くチャンス
  9. 22. 帝王の優しき野望
  10. 21. 「パットの名手」は「チャリティの名手」
  11. 20. 「ケビン・キスナー」の名前と存在感
  12. 19. ゴルフの世界でも「類は友を呼ぶ」
  13. 18. ライオン・ハートのジョン・デーリー
  14. 17. 往年の名選手と名キャディからの贈り物
  15. 16. 「たった4勝」でも「メジャー無冠」でも、どんどん高まるリッキー・ファウラーの人気
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