コラム・連載

在米ゴルフジャーナリストが見た、プロゴルファーの知られざる素顔

プロゴルファーも、お医者さまも?「らしさ」って、難しい

2017.7.15|text by 舩越園子

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 医療関係者にはゴルフ好きが多いと聞いているので、今、このコラムを読んでくださっている方々も「きっと、ゴルフ好き?」と思いながら筆を執っている。

グリーン攻略の必需品、グリーンブック

 みなさんは18ホールそれぞれの距離やハザードの配置、グリーンの形状などが記されているヤーデージブックをご存じだと思うのだが、欧米ツアーの現場には、それとは別にもう1冊、グリーンブックなるものが存在することをご存じだろうか。
 グリーンブックには、その名の通り、グリーンに関する詳細情報が記されている。とはいえ、これはツアー側が用意する公式なものではなく、どこかの誰か、おそらくは引退した元選手や元キャディらが自分たちのプロフェッショナルな目や経験を生かし、グリーンの傾斜や芝目、スピード等々のきめ細かな情報を記号と数字で書き記して現役選手のために1冊100ドルで販売しているもの。平たく言えば、グリーン攻略のためのアンチョコだ。

攻略本とにらめっこ、それってプロなの?

グリーンブックの実物。
米ツアーで秘かに入手したもの
 そもそも選手とキャディはヤーデージブックを1冊ずつ持っているが、それに加えて毎試合、このグリーンブックを1冊購入し、それを選手とキャディがシェアしながら使うというのが近年の彼らの典型的な姿だ。
 しかしながら、グリーンブックにじっと見入る選手の姿は、あまりプロらしくない。そして、ここだけの話、私にとってその姿は、高校生のころに日本の歯科医院で味わった不安な体験と重なって感じられる。
 治療中、「あれっ?」と怪訝そうな声を発した歯医者さん。一瞬、その場を離れ、分厚い医学書を手に戻ってきた。そして、その医学書を私の頭上で広げ、「うーん」と唸りながら医学書に見入った。正確を期すための行動だったのかもしれないが、私の口の中より医学書に見入る歯医者さんのその姿は、患者の私の目には頼りなくて、不安にさせられて、プロらしくなかった。
 グリーン面よりグリーンブックに見入るプロゴルファーの姿も、自分の五感より他人が記した情報を頼りにしているかのようで、どうもプロらしくない。

プロフェッショナルらしさは細部に現れる

 それじゃあ、プロらしさって何だろうと考えると、職務を全うし、向上を図るためのその人自身の努力や姿勢の在り方、プロ意識の在り方というような大真面目な話になるのだろうが、そうではなく、傍から見て感じ取るプロらしさというものは、案外、些細なところに垣間見える。
 10年ほど前、私はニューヨークの病院で子宮頸がんと診断され、一時帰国して東京都内の大学病院で手術を受けた。ゴルフジャーナリストでありながら、そのときの体験も活字にしようと考えていた私は、主治医の先生の動きを秘かに観察し、ある日、自分の小さな発見をちょっぴり誇らしげに先生に告げた。
「先生は立っているとき、胸の前で腕を組み、左右の手を左右それぞれの脇の下に挟む癖がありますよね?」
 すると、先生は苦笑しながら「よく見てるなあ。でも、それは癖ではない。そうしたほうが空中のホコリから手を守れるからね」。なるほど。知識が無いまま眺めるとトンチンカンな見方をしてしまうようだが、ちょっとした仕草にも実は深い意味があることを知ったとき、プロらしいなあと感心させられた。

「プロらしさ」って何だ?

 グリーンブックは見る人が見れば垂涎もののアンチョコで、それを自分のプレーの参考にすることはプロとしての作業の1つと言えるのだと思う。しかし、最近はこれを眺めることに時間がかかりすぎてスロープレーの原因になっている。英国人選手のイアン・ポールターは、彼自身も愛用しているグリーンブックを「スロープレー撲滅のためにも禁止にすべきだ」と声を上げ、ルールをつかさどる米国のUSGA、欧州のR&Aはグリーンブックの使用を2019年から禁止する提言を発表したばかり。そうなった背景には「スロープレー撲滅のため」もさることながら「プロらしくないから」という想いもあるのだと思う。

 優勝争いの大詰めで真剣な眼差しでラインを読む選手の姿にはドキドキさせられる。だが、視線の先がグリーンではなくグリーンブックばかりでは興ざめしてしまう。プロゴルファーはプロゴルファーらしく、自分自身の確かな技術と研ぎ澄まされた五感を頼りに、堂々と戦う姿を披露してほしいではないか。
 そして、病気になったときに頼りにするお医者さまには、お医者さまらしく、堂々としていていただきたいと思うのだが、「医者らしさ」と聞いて思い浮かべるのは、やっぱり白衣。私の高校時代のクラスメートで現在は大学病院で外科医をしている友人は「動きやすいから」という、なんともプロらしい理由で、いつもジャケットぐらいの短い丈の白衣を着ている。だが、「この前、病院のレストランでボーイと間違われちゃった」と苦笑い。

 いやいや、「らしさ」というものは、いろんな意味で難しい。

【著者からのご挨拶】

 はじめまして。舩越園子です。今回は連載初回ということで、医師の方々と私あるいはゴルフとの接点を探る内容のコラムを書かせていただきました。次回からは、欧米ツアーのプロゴルファーを取り上げ、彼らの医療や福祉、社会との接点を探りつつ、彼らの姿勢や活動を紹介していくようなコラムを書かせていただこうと思っています。みなさん、どうぞよろしくお願い致します。

次回は8月15日公開予定!

バックナンバー
  1. 在米ゴルフジャーナリストが見た、
    プロゴルファーの知られざる素顔
  2. 17. 往年の名選手と名キャディからの贈り物
  3. 16. 「たった4勝」でも「メジャー無冠」でも、どんどん高まるリッキー・ファウラーの人気
  4. 15. ジャロード・ライルの36年の人生が残してくれたもの
  5. 14. 苦労したからこそ、若者たちを手助けしたいと動き出したトニー・フィノウ
  6. 13. 授かった幸運を不運な人々のために役立てたいと願うジム・フューリックと妻の社会貢献
  7. 12. 選手もキャディも主役になった日
  8. 11. タイガー・ウッズの真心のチャリティ
  9. 10. 闘病しながらチャリティにも精を出し、「とてもラッキー」と言い切る強さ
  10. 09. ベン・クレーンの終わりなき社会貢献
  11. 08. だから、アーノルド・パーマーは誰からも愛された
  12. 07. デービス・ラブの愛
  13. 06. 彼が国民的スターである理由
  14. 05. ゴルフより大切なものを知って強くなったプロゴルファー
  15. 04. アーニー・エルスの山谷の越え方
  16. 03. マスターズ2勝のバッバ・ワトソンが一人の人間として抱く夢
  17. 02. 全英オープン覇者、ジョーダン・スピースの強さの秘密
  18. 01. プロゴルファーも、お医者さまも?「らしさ」って、難しい

著者プロフィール

舩越園子 近影舩越園子(ふなこし そのこ)

在米ゴルフジャーナリスト

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年にフリーライターとして独立。93年渡米。在米ゴルフジャーナリストとして新聞、雑誌、ウエブサイト等への執筆に加え、講演やテレビ、ラジオにも活動の範囲を広げている。『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。アトランタ、フロリダ、ニューヨークを経て、現在はロサンゼルス在住。