コラム・連載

ゴルフジャーナリストが見た、プロゴルファーの知られざる素顔

光が当たらなかった場所に光を当てる

2019.10.15|text by 舩越園子

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 日本ではIR(カジノを含む統合型リゾート)の誘致や建設が横浜や大阪、福岡など各地で物議を醸している。
 その良し悪しや是非については、私はまったくの門外漢だが、アメリカでは米PGAツアーの取材でさまざまな州へ赴くたびに、大型カジノの建物やきらびやかなサインが視界に飛び込んできた。

 私が渡米した90年代前半は、カジノと言えば、ラスベガスあるいはアメリカ北東部のアトランティックシティぐらいのものだった。
 だが、2000年代になり、ふと気が付いたときには、全米各地にたくさんのカジノが建設されており、ホテルやレストラン、ショッピングモール、そして何より本格的なチャンピオンシップのゴルフコースが併設され、活況を呈していて大いに驚かされた。
 そうしたカジノの多くはネイティブ・アメリカン(先住民)の居留地に建てられ、一般的には「インディアン・カジノ」と呼ばれている。
 そして、インディアン・カジノの1つが米ツアー大会の冠スポンサーとなり、トーナメントを開いたことがあった。

 2007年の秋、米ツアーのフォールシリーズ第1戦として創設されたターニング・ストーン・リゾート選手権は、ニューヨーク州郊外にあるネイティブ・アメリカンのオネイダ部族の居留地内のカジノ&ゴルフ・リゾートが舞台だった。
 選手たちは戦略性に富む7500ヤード級のゴルフコースで競い合い、選手の家族や大会関係者たちはリゾート内のカジノホテルに滞在し、豪華なレストラン、ショッピング、スパなどを謳歌し、「夢のような1週間を過ごすことができる」という触れ込みだった。

 ネイティブ・アメリカンの部族が米ツアーの冠スポンサーとなって大会を開いたのは史上初。インディアン・カジノが大会の舞台になったのも史上初。そして、大会の顔となる「オフィシャル・アンバサダー」の役割を担ったのは、米ツアーで唯一のネイティブ・アメリカン出身選手、ノタ・ビゲイだった。

両面使いのパッティング

 当時のビゲイは35歳の現役選手だった。47歳になった現在は、米TVのゴルフ解説者あるいはレポーターとして活躍しているが、日本ではあまり知られていないかもしれない。
 正式名は、ノタ・ビゲイ三世。ニュー・メキシコ州アルバカーキ―にあるネイティブ・アメリカン居留地で生まれ育ち、6歳からゴルフクラブを握ったビゲイは、居留地の近くのゴルフ場に「ボールを拾いをする代わりに無料で練習させてほしい」と頼み込み、必死でゴルフの腕を磨いた。

 学業にも励み、名門スタンフォード大学へ進学。ゴルフ部に入り、チームメイトとなったのが、あのタイガー・ウッズだった。
 ウッズより1年早い1995年にプロ転向したビゲイは、ウッズがスターダムを駆け上がっていく姿を傍目にしながら下部ツアーを経由し、1999年に米ツアーに辿り着いた。
 そして、その年に年間2勝、翌2000年にはさらに2勝を挙げ、瞬く間に通算4勝のトッププレーヤーになった。

 「タイガーの親友」「タイガーのチームメイト」という枕詞以外に、ビゲイにはゴルフファンの目を引いていた大きな特徴、いや特技があった。
 フェースの両面が使用できるパターを握り、フックラインなら右打ち、スライスラインなら左打ちでパットするという「両面使い」は、「斬新」「ユニーク」「理にかなっている」と評判になり、当時はビゲイ風にパットできる両面パターが、米国のアマチュアゴルファーの間で、ちょっとしたブームになったほどだった。
 しかし、腰の故障が悪化したビゲイは、プレーヤーとしての道を諦めざるを得なくなった。そんなとき、彼が新たに取り組み始めたのが社会貢献のための活動だった。

健全な心を育てたい

 2005年、ビゲイは自身の名を冠した「ノタ・ビゲイ財団」を設立し、主としてネイティブ・アメリカンの子供たちや若者をサポートする活動を開始した。

 最初のうちは、経済的に困窮している家庭の子供たちに食べ物や衣料雑貨を提供し、教育を受けるためのサポートなどを行なっていたが、やがてビゲイが最も力を注ぐようになったのは、子どもたちにゴルフやサッカーといったスポーツをさせることだった。
 ネイティブ・アメリカン部族に生まれ、居留地で育つ子供たちは、一般社会との関わり方に戸惑いがちであることをビゲイは身を持って知っている。だからこそ、ゴルフやサッカーをさせることで「子供たちの健全な心を育てたい」。
 スポーツに国境はないと言われるが、スポーツには民族や宗教、生まれ育った環境などによる差別や偏見、隔たりもなく、あってはならない。それを教えたい一心で、ビゲイは子供たちにゴルフクラブを握らせている。

 2007年に米ツアーにターニング・ストーン・リゾート・チャンピオンシップを創設し、「オフィシャル大使」を務めたとき、ビゲイは誇らしげだった。
 「ネイティブ・アメリカンが積極的にビジネスに取り組む姿勢を世界にアピールすることは僕の夢だった。ネイティブ・アメリカンの一部族が世界の一流企業と肩を並べ、大会スポンサーになったことがうれしい」

 2008年には「ノタ・ビゲイ三世チャレンジ(NB3チャレンジ)」というチャリティ・トーナメントを創設。ビゲイを応援するためにターニング・ストーン・リゾート内のゴルフコースに集まったのは、米ツアーの大勢の仲間たち、そして米女子ツアーの選手たちだった。
 第1回大会で優勝したのは、コロンビア出身のカミロ・ビジェガス。2009年の第2回大会を見事に制したのは、ビゲイの「親友」であり「元チームメイト」でもあるウッズだった。
 近年、この大会は個人戦からチーム戦へとフォーマットが変更されたが、ウッズはリッキー・ファウラーなど若い選手たちとチームを組み、2012年にも優勝するなど力を尽くしている。
 それは、すべてビゲイを応援するためであり、ビゲイがサポートしているネイティブ・アメリカンの子供たち、若者たちを救うためである。

 素晴らしき仲間たちの協力を得ながら、社会から目を向けられていなかった場所、閉ざされていた場所に光を当てていく。
 「その活動は、僕の生涯のライフワークだ」
 ビゲイは今日も「NB3」の活動に胸を張っている。

次回は11月15日公開予定!

バックナンバー
  1. ゴルフジャーナリストが見た、
    プロゴルファーの知られざる素顔
  2. 29. 苦難を乗り越えた3世代の物語
  3. 28. 光が当たらなかった場所に光を当てる
  4. 27. 世界ナンバー1の「自分流」チャリティ
  5. 26. 「手作りゴルフ場」から出発したプロゴルファーの社会貢献
  6. 25. ゴルフ金メダリストが考える手作り感覚のチャリティ活動
  7. 24. 惜しみなく与える「DJ」の物語
  8. 23. 輝く未来を抱くチャンス
  9. 22. 帝王の優しき野望
  10. 21. 「パットの名手」は「チャリティの名手」
  11. 20. 「ケビン・キスナー」の名前と存在感
  12. 19. ゴルフの世界でも「類は友を呼ぶ」
  13. 18. ライオン・ハートのジョン・デーリー
  14. 17. 往年の名選手と名キャディからの贈り物
  15. 16. 「たった4勝」でも「メジャー無冠」でも、どんどん高まるリッキー・ファウラーの人気
  16. 15. ジャロード・ライルの36年の人生が残してくれたもの
  17. 14. 苦労したからこそ、若者たちを手助けしたいと動き出したトニー・フィノウ
  18. 13. 授かった幸運を不運な人々のために役立てたいと願うジム・フューリックと妻の社会貢献
  19. 12. 選手もキャディも主役になった日
  20. 11. タイガー・ウッズの真心のチャリティ
  21. 10. 闘病しながらチャリティにも精を出し、「とてもラッキー」と言い切る強さ
  22. 09. ベン・クレーンの終わりなき社会貢献
  23. 08. だから、アーノルド・パーマーは誰からも愛された
  24. 07. デービス・ラブの愛
  25. 06. 彼が国民的スターである理由
  26. 05. ゴルフより大切なものを知って強くなったプロゴルファー
  27. 04. アーニー・エルスの山谷の越え方
  28. 03. マスターズ2勝のバッバ・ワトソンが一人の人間として抱く夢
  29. 02. 全英オープン覇者、ジョーダン・スピースの強さの秘密
  30. 01. プロゴルファーも、お医者さまも?「らしさ」って、難しい

著者プロフィール

舩越園子 近影
舩越 園子(ふなこし そのこ)

ゴルフジャーナリスト

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。
百貨店、広告代理店勤務を経て1989年にフリーライターとして独立。93年渡米。

在米ゴルフジャーナリストとして新聞、雑誌、ウエブサイト等への執筆に加え、講演やテレビ、ラジオにも活動の範囲を広げている。

『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。

アトランタ、フロリダ、ニューヨークを経て、現在はロサンゼルス在住。

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どれもタイガー・ウッズだが、
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そして逆境を乗り越えるために 一番大事なものとは……。

バックナンバー
  1. ゴルフジャーナリストが見た、
    プロゴルファーの知られざる素顔
  2. 29. 苦難を乗り越えた3世代の物語
  3. 28. 光が当たらなかった場所に光を当てる
  4. 27. 世界ナンバー1の「自分流」チャリティ
  5. 26. 「手作りゴルフ場」から出発したプロゴルファーの社会貢献
  6. 25. ゴルフ金メダリストが考える手作り感覚のチャリティ活動
  7. 24. 惜しみなく与える「DJ」の物語
  8. 23. 輝く未来を抱くチャンス
  9. 22. 帝王の優しき野望
  10. 21. 「パットの名手」は「チャリティの名手」
  11. 20. 「ケビン・キスナー」の名前と存在感
  12. 19. ゴルフの世界でも「類は友を呼ぶ」
  13. 18. ライオン・ハートのジョン・デーリー
  14. 17. 往年の名選手と名キャディからの贈り物
  15. 16. 「たった4勝」でも「メジャー無冠」でも、どんどん高まるリッキー・ファウラーの人気
  16. 15. ジャロード・ライルの36年の人生が残してくれたもの
  17. 14. 苦労したからこそ、若者たちを手助けしたいと動き出したトニー・フィノウ
  18. 13. 授かった幸運を不運な人々のために役立てたいと願うジム・フューリックと妻の社会貢献
  19. 12. 選手もキャディも主役になった日
  20. 11. タイガー・ウッズの真心のチャリティ
  21. 10. 闘病しながらチャリティにも精を出し、「とてもラッキー」と言い切る強さ
  22. 09. ベン・クレーンの終わりなき社会貢献
  23. 08. だから、アーノルド・パーマーは誰からも愛された
  24. 07. デービス・ラブの愛
  25. 06. 彼が国民的スターである理由
  26. 05. ゴルフより大切なものを知って強くなったプロゴルファー
  27. 04. アーニー・エルスの山谷の越え方
  28. 03. マスターズ2勝のバッバ・ワトソンが一人の人間として抱く夢
  29. 02. 全英オープン覇者、ジョーダン・スピースの強さの秘密
  30. 01. プロゴルファーも、お医者さまも?「らしさ」って、難しい