コラム・連載

ゴルフジャーナリストが見た、プロゴルファーの知られざる素顔

チャールズ・ハウエルの恩返し

2020.10.15|text by 舩越園子

このページをシェアする:

 米ツアーにチャールズ・ハウエルという41歳の米国人選手がいる。通算3勝のベテラン選手。今年でキャリア20年になる。
 「今こそ、恩返しのときだ」
 ハウエルは、そう言って、あるチャリティ活動を始めたことを明かしたが、それは単に今年がツアー歴20年の節目の年だからというだけの理由ではない。
 今年5月、米国では46歳の黒人男性、ジョージ・フロイド氏が警察官による不適切な拘束方法によって死亡する事件が起こり、「ブラック・ライブズ・マター(BLM)」を掲げて人種差別に反対する動きは米国内外へ広がっている。
 そんな社会現象を目の当たりにしたハウエルは、こう思ったのだそうだ。
 「今こそ、ゴルフを通じて米国と米国社会に貢献すべきときだ。この国をもっといい場所にしたいし、そうなってほしい」
 ハウエルはマイノリティ(少数民族)の選手たちが参加しているAPGAツアーという名のミニツアーを支援していこうと決意した。今後、ハウエルは試合でバーディーを獲るたびに50ドル、イーグルを獲るたびに100ドルをAPGAツアーへ寄付するという。
 だが、それは単なる経済的支援だけにはとどまらない。
 「お金以上に、もっともっと大きな意味と意義がある」
 APGAツアーの創設者、ケン・ベントレー氏はハウエルへの感謝の念を熱く語っていた。

最初は「知らなかった」

 ハウエルの話を耳にして、なるほどと感じさせられたのは、つい最近まで、ハウエル自身がAPGAツアーの存在すら知らなかったという事実だ。ジュニアのころからゴルフのエリート街道を突っ走ってきた白人選手のハウエルにとって、マイノリティ対象のAPGAツアーは無縁の存在だったのだろう。
 ハウエルはマスターズの開催地であるジョージア州オーガスタで生まれ、小児科医でゴルフの腕前はシングル級である父親から手ほどきを受けながら育った。
 ジュニア時代から数々のタイトルを掌中に収め、ゴルフの名門オクラホマ州立大学へ進学。在学中の2000年にプロ転向し、スポンサー推薦を頼りに挑み始めた米ツアーで出場わずか6試合でスペシャル・テンポラリー・メンバーへ昇格した。
 当時の米ツアーにおいて、そんなハウエルは「天才」「超エリート」「ネクスト・タイガー」と持て囃された。ハウエルのために米ツアーの決まりが変更されたこともあり、米メディアは米ツアーの特別扱いを「ハウエル・ルール」と名付けて批判したほどだった。
 そんなふうに、いつもスポットライトを浴びていたハウエルは、マイノリティ選手たちが置かれていたゴルフ環境に触れる機会、考える機会はほとんど皆無に近かった。
 しかし、鳴り物入りでツアー入りし、2002年に早々にミケロブ選手権を制して初優勝を挙げた後、ハウエルの成績は振るわなくなった。2勝目を挙げたのは5年後の2007年。3勝目を挙げたのは、さらに12年後の2019年だった。
 人間は苦労を味わうと、周囲の人々の苦労にも気付くようになる。エリートの世界でしか生きてこなかったハウエルは、その世界から弾き出されて初めて、いろんなモノやコトや人々が見えるようになった。

「もっといい場所にしたい」

 2年前。米ツアーのファーマーズ・インシュアランス・オープン開幕前のプロアマ戦で、ハウエルはAPGAツアー創設者のベントレー氏と同組になった。とはいえ、そのときハウエルは、APGAツアーのことを一切知らず、ベントレー氏とも初対面だった。が、ハウエルの相棒キャディが「APGAツアー創設者のケン・ベントレーだ」と教えてくれたそうだ。
 ハウエルのバッグを担いでいるニック・ジョーンズはUSC(サザン・カリフォルニア大学)卒業後の一時期、APGAツアーに出て腕を磨いていたという。それゆえ、ベントレー氏のことを知っていた。その日、ハウエルとジョーンズ、ベントレー氏は、プロアマ戦で一緒に回りながら、いろいろな話をした。
 そして、今年6月、ハウエルはベントレー氏に電話をかけ、「僕にもAPGAツアーをサポートさせてほしい。マイノリティの選手たちがもっとゴルフをする機会、もっとゴルフの試合で戦う機会を作りたい」と申し出た。
 「突然、チャールズから電話をもらってビックリした。チャールズは、この世の中をより良い場所にしたいと言ってくれました」
 ベントレー氏は嬉しそうに振り返った。

答えは「わからない。でも・・」

 APGAツアーは「Advocate Pro Golf Association」が主催するミニツアーで、黒人選手を含めたマイノリティ選手にゴルフ界でキャリアを構築してもらうことを目指し、10数年前に創設された。当初は年間3試合しかなかったが、2012年からは米ツアーが手を差し延べ、TPCスコッツデールやトーリー・パインズなどの有名コースがAPGAツアーでも使用できるようになった。そのおかげでスポンサー企業も増え、今では年間8試合、賞金総額25万ドルを誇っている。
 そして今回、ハウエルは自身のパフォーマンスに応じた寄付を申し出たのだが、ベントレー氏は「もっと大きなものをいただいている」と感謝の念は尽きない。
 「チャールズはAPGAの試合会場に出向いてくれている。大切な時間を費やし、選手たちに声もかけてくれる。そういうことがマイノリティ選手たちにとって何よりの励みになる」
 ハウエルに感銘を受けたファーマーズ・インシュアランスも年間2万5000ドルの支援金をAPGAツアーに贈ることを発表した。そうやって真心の輪、支援の輪が広がったことは、とても嬉しい知らせである。
 1950年代から60年代にかけて、米ツアーで初の黒人選手となり、活躍したのはチャーリー・シフォードだった。その後、ジム・デント、ジム・ソープが活躍。彼らに次いで1996年に米ツアー入りしたのがタイガー・ウッズだ。
 あれから、ほぼ四半世紀が過ぎ去った今、米ツアーで戦う黒人選手はウッズやハロルド・バーナーなど、わずか4名しかいない。
 なぜ、ゴルフ界には高いレベルで戦う場に黒人選手やマイノリティ選手が少ないのか。「わからない」とハウエルは答えた。だが、その代わり「これは言える」と彼は強調した。
 「僕は7歳からゴルフをやってきた。ゴルフの世界には常に誰かを救うための道が存在していた。だから、ゴルフを通じて、マイノリティの人々を支援して、この国をより良い場所、より良いアメリカにできるはず。僕はそうしたい。それが僕の恩返しだ」

次回は11月15日公開予定!

バックナンバー
  1. ゴルフジャーナリストが見た、
    プロゴルファーの知られざる素顔
  2. 41. 「僕はそういう僕でありたい」ビリー・ホーシェルの感謝と恩返し
  3. 40. チャールズ・ハウエルの恩返し
  4. 39. メジャー・チャンプの恩返し
  5. 38. 「思い出づくり」と「自転車づくり」
  6. 37. 米ツアーの黒人選手の「声」の力
  7. 36. スネデカーは「超ナイスガイ」!
  8. 35. 「世界を救うため」動いたジュニアゴルファー姉妹
  9. 34. それが「私の生きる意味」
  10. 33. 「いつかは、私が」と誓った物語
  11. 32. 亡き母の名を冠したマンモバンを走らせて
  12. 31. ケビン・ナの人気が静かに高まりつつある理由
  13. 30. ゴルフ界の「子育て」と「本当の女王」
  14. 29. 苦難を乗り越えた3世代の物語
  15. 28. 光が当たらなかった場所に光を当てる
  16. 27. 世界ナンバー1の「自分流」チャリティ
  17. 26. 「手作りゴルフ場」から出発したプロゴルファーの社会貢献
  18. 25. ゴルフ金メダリストが考える手作り感覚のチャリティ活動
  19. 24. 惜しみなく与える「DJ」の物語
  20. 23. 輝く未来を抱くチャンス
  21. 22. 帝王の優しき野望
  22. 21. 「パットの名手」は「チャリティの名手」
  23. 20. 「ケビン・キスナー」の名前と存在感
  24. 19. ゴルフの世界でも「類は友を呼ぶ」
  25. 18. ライオン・ハートのジョン・デーリー
  26. 17. 往年の名選手と名キャディからの贈り物
  27. 16. 「たった4勝」でも「メジャー無冠」でも、どんどん高まるリッキー・ファウラーの人気
  28. 15. ジャロード・ライルの36年の人生が残してくれたもの
  29. 14. 苦労したからこそ、若者たちを手助けしたいと動き出したトニー・フィノウ
  30. 13. 授かった幸運を不運な人々のために役立てたいと願うジム・フューリックと妻の社会貢献
  31. 12. 選手もキャディも主役になった日
  32. 11. タイガー・ウッズの真心のチャリティ
  33. 10. 闘病しながらチャリティにも精を出し、「とてもラッキー」と言い切る強さ
  34. 09. ベン・クレーンの終わりなき社会貢献
  35. 08. だから、アーノルド・パーマーは誰からも愛された
  36. 07. デービス・ラブの愛
  37. 06. 彼が国民的スターである理由
  38. 05. ゴルフより大切なものを知って強くなったプロゴルファー
  39. 04. アーニー・エルスの山谷の越え方
  40. 03. マスターズ2勝のバッバ・ワトソンが一人の人間として抱く夢
  41. 02. 全英オープン覇者、ジョーダン・スピースの強さの秘密
  42. 01. プロゴルファーも、お医者さまも?「らしさ」って、難しい

著者プロフィール

舩越園子 近影
舩越 園子(ふなこし そのこ)

ゴルフジャーナリスト

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。
百貨店、広告代理店勤務を経て1989年にフリーライターとして独立。93年渡米。

在米ゴルフジャーナリストとして新聞、雑誌、ウエブサイト等への執筆に加え、講演やテレビ、ラジオにも活動の範囲を広げている。

『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。

アトランタ、フロリダ、ニューヨークを経て、現在はロサンゼルス在住。

最新の書籍紹介

『タイガー・ウッズ 復活の言霊』

タイガー・ウッズ 復活の言霊
Amazonで確認

復活劇の裏にあったウッズの想い
すべての人の心を打つ48のメッセージ

誰もが憧れる絶対王者として
君臨していたウッズ。
不倫騒動、くり返された故障と手術、
まさかの逮捕劇……と、
人生の風雨にさらされたウッズ。

子供たちと向き合い、自分を見つめなおし、
見事に復活優勝を果たしたウッズ。
どれもタイガー・ウッズだが、
彼の言葉を追い、紐解いていくことで
人間・ウッズの実像が見えてくる。

そして逆境を乗り越えるために 一番大事なものとは……。

バックナンバー
  1. ゴルフジャーナリストが見た、
    プロゴルファーの知られざる素顔
  2. 41. 「僕はそういう僕でありたい」ビリー・ホーシェルの感謝と恩返し
  3. 40. チャールズ・ハウエルの恩返し
  4. 39. メジャー・チャンプの恩返し
  5. 38. 「思い出づくり」と「自転車づくり」
  6. 37. 米ツアーの黒人選手の「声」の力
  7. 36. スネデカーは「超ナイスガイ」!
  8. 35. 「世界を救うため」動いたジュニアゴルファー姉妹
  9. 34. それが「私の生きる意味」
  10. 33. 「いつかは、私が」と誓った物語
  11. 32. 亡き母の名を冠したマンモバンを走らせて
  12. 31. ケビン・ナの人気が静かに高まりつつある理由
  13. 30. ゴルフ界の「子育て」と「本当の女王」
  14. 29. 苦難を乗り越えた3世代の物語
  15. 28. 光が当たらなかった場所に光を当てる
  16. 27. 世界ナンバー1の「自分流」チャリティ
  17. 26. 「手作りゴルフ場」から出発したプロゴルファーの社会貢献
  18. 25. ゴルフ金メダリストが考える手作り感覚のチャリティ活動
  19. 24. 惜しみなく与える「DJ」の物語
  20. 23. 輝く未来を抱くチャンス
  21. 22. 帝王の優しき野望
  22. 21. 「パットの名手」は「チャリティの名手」
  23. 20. 「ケビン・キスナー」の名前と存在感
  24. 19. ゴルフの世界でも「類は友を呼ぶ」
  25. 18. ライオン・ハートのジョン・デーリー
  26. 17. 往年の名選手と名キャディからの贈り物
  27. 16. 「たった4勝」でも「メジャー無冠」でも、どんどん高まるリッキー・ファウラーの人気
  28. 15. ジャロード・ライルの36年の人生が残してくれたもの
  29. 14. 苦労したからこそ、若者たちを手助けしたいと動き出したトニー・フィノウ
  30. 13. 授かった幸運を不運な人々のために役立てたいと願うジム・フューリックと妻の社会貢献
  31. 12. 選手もキャディも主役になった日
  32. 11. タイガー・ウッズの真心のチャリティ
  33. 10. 闘病しながらチャリティにも精を出し、「とてもラッキー」と言い切る強さ
  34. 09. ベン・クレーンの終わりなき社会貢献
  35. 08. だから、アーノルド・パーマーは誰からも愛された
  36. 07. デービス・ラブの愛
  37. 06. 彼が国民的スターである理由
  38. 05. ゴルフより大切なものを知って強くなったプロゴルファー
  39. 04. アーニー・エルスの山谷の越え方
  40. 03. マスターズ2勝のバッバ・ワトソンが一人の人間として抱く夢
  41. 02. 全英オープン覇者、ジョーダン・スピースの強さの秘密
  42. 01. プロゴルファーも、お医者さまも?「らしさ」って、難しい