コラム・連載

ゴルフジャーナリストが見た、プロゴルファーの知られざる素顔

鉄人レースに挑んだ女子プロのチャレンジ

2023.1.15|text by 舩越園子

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昨秋、米欧両ツアーで戦うオランダ人プロゴルファーのアン・バン・ダムが「12月のハーフ・アイアンマン・レースに挑戦する!6時間以内で回る!」と宣言したことが、米欧ゴルフ界で話題になった。

ハーフ・アイアンマン・レースは、1.2マイルの水泳、56マイルの自転車の後、13.1マイルを走る合計70.3マイルの競技だ。トライアスロンのハーフサイズとはいえ、過酷であることに変わりはない。

そんな鉄人レースに、なぜ女子プロゴルファーが挑んだのか。なぜ「6時間以内」という一層過酷な条件を自ら科したのか。

バン・ダムの挑戦がゴルフ界で大きな注目を集めた背景には、もう1人の女子選手とその家族の苦悩があった。

未勝利でも幸せな日々

まず、バン・ダム選手のことを簡単にご紹介すると、オランダ人の彼女は現在27歳。欧州女子ツアーのLET(Ladies European Tour)で5勝を挙げ、2019年からは米女子ツアーのLPGA参戦も開始。米欧対抗戦のソルハイム・カップにも米国チームの一員として出場し、東京五輪にも参加した。

LPGAでは未勝利だが、バン・ダムのアスレチックな肉体から打ち出されるドライバーショットは実に豪快だ。飛距離ランキングでは常に1位、2位を争い、女子ゴルフ界屈指のロングヒッターとして知られている。

そんなバン・ダムには、やはりLPGAでロングヒッターとして知られる親友がいる。ジェーン・パークという選手だ。

パークは36歳の米国人。アマチュア時代からスポットライトを浴びていたパークは、2007年のQスクール(予選会)でトップ合格を果たし、鳴り物入りでデビューした。

豪快なショットを放つパークの初優勝は時間の問題と見られていたが、どうしたわけだが、彼女は勝てそうで勝てないことを繰り返し、いまなお未勝利だ。

しかし、リディア・コーをはじめとするLPGAのスター選手たちのバッグを担いできたベテラン・ツアーキャディのピート・ゴドフライと2017年に結婚すると、2020年には長女グレースちゃんを出産し、幸せな日々を送っていた。

そんなパーク一家の暮らしが一変したのは、2021年の夏だった。

1ドルでも多く集めるためなら

2021年7月のある日、生後10か月を迎えたグレースちゃんは、突然、激しい発作に見舞われ、病院へ緊急搬送された。脳にも腫れが見られ、重度のてんかんと診断された。

以来、パークはツアーを休み、グレースちゃんに付きっ切りの日々を過ごしているが、グレースちゃんの症状はなかなか改善されず、高度な検査や治療を受けるためには高額の費用が必要だと告げられたそうだ。

しかし、パーク夫妻が加入している医療保険では、グレースちゃんの医療費はカバーされないことが判明し、パークも夫のピートも途方に暮れていた。

そんな親友一家の苦境を知ったバン・ダムは、グレースちゃんの医療費を賄うために、なんとかして寄付金を集めようと考え、そこで思いついたのが、自分自身がハーフ・アイアンマン・レースに挑むことだった。

「ツアーの仲間たちからも、ゴルフ関係者たちからも、ハーフとはいえ、いきなりトライアスロンに挑むなんて『無茶だ』『ばかげている』と言われました。でも、難しいと思われることにチャレンジするからこそ、大勢の人々の注目を集めることができる。それが1ドルでも多くの寄付金を集めることにつながるのなら、私はたとえ無茶でも無理でも、何だって挑戦します。それに、トライアスロンには一度トライしてみたいと、実は以前から思っていたので、念願叶って挑戦できるんだと思えば、むしろうれしいことです」

昨秋、スペインで開催されたLET最終戦のアンダルシア・オープン会場で欧州メディアに囲まれたバン・ダムは、そう言って静かに微笑んでいた。

できる限りのチャレンジを続けたい

12月のハーフ・アイアンマン・レースに挑むと決めた直後から、バン・ダムは試合の合間に水泳と自転車の自主特訓を行なったそうだ。

筋肉隆々で「アスレチック・ウーマン」と呼ばれているバン・ダムだが、「水泳は日ごろから気分転換のためにホテルのプールでちょっと泳ぐ程度だったから、最初は1500メートル泳ぐのも大変だった」という。

バン・ダムから「アイアンマン・レースに出て、グレースちゃんの治療費を集めてくる」と告げられたパークは、「涙が溢れて止まらなくなりました。スペインの試合に出た翌週にアメリカへ戻り、すぐにカリフォルニアでトライアスロンに挑むなんて、常識では考えられないほどの無茶な冒険なのに、それを6時間以内でやると宣言して寄付を呼び掛けるなんて、、、、私も夫もグレースも何てお礼を言ったらいいのか。心から感謝しています」。

ハーフ・アイアンマン・レースは昨年12月4日にロサンゼルスから車で2時間ほどのインディアン・ウェルスで開催され、バン・ダムは見事に完走し、年齢別カテゴリー内で34位と大健闘した。

要した時間は6時間8分。「6時間以内」の宣言は残念ながら僅差で達成されなかったが、それでも16000ドル超の寄付金が即座に集まり、バン・ダムは「みなさん、本当にありがとう」と自身のSNSに記していた。

バン・ダムがグレースちゃんのために集めようとしている寄付金の当面の目標は5万ドルだそうで、「今後もできる限りのチャレンジとチャリティ活動を続けていきたい」。

バン・ダムが放つ豪打に乗って、彼女の切なる願いと祈りが世界の隅々にまで届いてくれたらいい。そして、集まった寄付金でグレースちゃんが治療を受け、元気になってほしいと私も秘かに祈っている。

次回は2月15日公開予定!

バックナンバー
  1. ゴルフジャーナリストが見た、
    プロゴルファーの知られざる素顔
  2. 67. 鉄人レースに挑んだ女子プロのチャレンジ
  3. 66. 「ナイスガイだからこそ」のメジャー制覇と社会貢献
  4. 65. 個性派M・A・ヒメネスの恩返し
  5. 64. 全英女子オープン覇者がプロゴルファーである理由
  6. 63. メジャー3勝、だからこそ「感謝」と「貢献」
  7. 62. アフリカに水をもたらすゴルフ界のレジェンド
  8. 61. 一人の少年を讃えたフリートウッドの想い
  9. 60. 母国を離れて戦うC・スミスの母国愛
  10. 59. コロナ禍の犠牲者のために尽くした素晴らしき選手
  11. 58. 親友が闘病しながら創設した財団を守り続けるプロゴルファー
  12. 57. 救った子供が未来を救う、だからこそ救いたい
  13. 56. 「みんなのハッピー」を目指す女子ゴルフのスター
  14. 55. バレステロスからラームへ、スペインのヒーロー誕生物語
  15. 54. マリア・ファッシは幸せを運ぶアンバサダー
  16. 53. 「小さな奇跡」を信じて戦う意味
  17. 52. クールなP・カントレーの温かい社会貢献
  18. 51. L・トンプソン流、ユニークな社会貢献
  19. 50. 母国への想いが奇跡を起こす!?
  20. 49. 無名の48歳の「好きな言葉」「嫌いな言葉」
  21. 48. B・デシャンボーの熱くて厚い義理人情
  22. 47. 絵を描き続ける「みんなのヒーロー」
  23. 46. 助けたからこそ、助けられたゴルフ人生
  24. 45. 夢を追いかけられる社会にしたい
  25. 44. 負けても笑顔を輝かせた意味
  26. 43. 優しく強くなったR・マキロイの社会貢献
  27. 42. ファンファーレで送り出したい全英チャンプ
  28. 41. 「僕はそういう僕でありたい」ビリー・ホーシェルの感謝と恩返し
  29. 40. チャールズ・ハウエルの恩返し
  30. 39. メジャー・チャンプの恩返し
  31. 38. 「思い出づくり」と「自転車づくり」
  32. 37. 米ツアーの黒人選手の「声」の力
  33. 36. スネデカーは「超ナイスガイ」!
  34. 35. 「世界を救うため」動いたジュニアゴルファー姉妹
  35. 34. それが「私の生きる意味」
  36. 33. 「いつかは、私が」と誓った物語
  37. 32. 亡き母の名を冠したマンモバンを走らせて
  38. 31. ケビン・ナの人気が静かに高まりつつある理由
  39. 30. ゴルフ界の「子育て」と「本当の女王」
  40. 29. 苦難を乗り越えた3世代の物語
  41. 28. 光が当たらなかった場所に光を当てる
  42. 27. 世界ナンバー1の「自分流」チャリティ
  43. 26. 「手作りゴルフ場」から出発したプロゴルファーの社会貢献
  44. 25. ゴルフ金メダリストが考える手作り感覚のチャリティ活動
  45. 24. 惜しみなく与える「DJ」の物語
  46. 23. 輝く未来を抱くチャンス
  47. 22. 帝王の優しき野望
  48. 21. 「パットの名手」は「チャリティの名手」
  49. 20. 「ケビン・キスナー」の名前と存在感
  50. 19. ゴルフの世界でも「類は友を呼ぶ」
  51. 18. ライオン・ハートのジョン・デーリー
  52. 17. 往年の名選手と名キャディからの贈り物
  53. 16. 「たった4勝」でも「メジャー無冠」でも、どんどん高まるリッキー・ファウラーの人気
  54. 15. ジャロード・ライルの36年の人生が残してくれたもの
  55. 14. 苦労したからこそ、若者たちを手助けしたいと動き出したトニー・フィノウ
  56. 13. 授かった幸運を不運な人々のために役立てたいと願うジム・フューリックと妻の社会貢献
  57. 12. 選手もキャディも主役になった日
  58. 11. タイガー・ウッズの真心のチャリティ
  59. 10. 闘病しながらチャリティにも精を出し、「とてもラッキー」と言い切る強さ
  60. 09. ベン・クレーンの終わりなき社会貢献
  61. 08. だから、アーノルド・パーマーは誰からも愛された
  62. 07. デービス・ラブの愛
  63. 06. 彼が国民的スターである理由
  64. 05. ゴルフより大切なものを知って強くなったプロゴルファー
  65. 04. アーニー・エルスの山谷の越え方
  66. 03. マスターズ2勝のバッバ・ワトソンが一人の人間として抱く夢
  67. 02. 全英オープン覇者、ジョーダン・スピースの強さの秘密
  68. 01. プロゴルファーも、お医者さまも?「らしさ」って、難しい

著者プロフィール

舩越園子 近影
舩越 園子(ふなこし そのこ)

ゴルフジャーナリスト

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。
百貨店、広告代理店勤務を経て1989年にフリーライターとして独立。93年渡米。

在米ゴルフジャーナリストとして新聞、雑誌、ウエブサイト等への執筆に加え、講演やテレビ、ラジオにも活動の範囲を広げている。

『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。

アトランタ、フロリダ、ニューヨークを経て、現在はロサンゼルス在住。

最新の書籍紹介

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子供たちと向き合い、自分を見つめなおし、
見事に復活優勝を果たしたウッズ。
どれもタイガー・ウッズだが、
彼の言葉を追い、紐解いていくことで
人間・ウッズの実像が見えてくる。

そして逆境を乗り越えるために 一番大事なものとは……。

バックナンバー
  1. ゴルフジャーナリストが見た、
    プロゴルファーの知られざる素顔
  2. 67. 鉄人レースに挑んだ女子プロのチャレンジ
  3. 66. 「ナイスガイだからこそ」のメジャー制覇と社会貢献
  4. 65. 個性派M・A・ヒメネスの恩返し
  5. 64. 全英女子オープン覇者がプロゴルファーである理由
  6. 63. メジャー3勝、だからこそ「感謝」と「貢献」
  7. 62. アフリカに水をもたらすゴルフ界のレジェンド
  8. 61. 一人の少年を讃えたフリートウッドの想い
  9. 60. 母国を離れて戦うC・スミスの母国愛
  10. 59. コロナ禍の犠牲者のために尽くした素晴らしき選手
  11. 58. 親友が闘病しながら創設した財団を守り続けるプロゴルファー
  12. 57. 救った子供が未来を救う、だからこそ救いたい
  13. 56. 「みんなのハッピー」を目指す女子ゴルフのスター
  14. 55. バレステロスからラームへ、スペインのヒーロー誕生物語
  15. 54. マリア・ファッシは幸せを運ぶアンバサダー
  16. 53. 「小さな奇跡」を信じて戦う意味
  17. 52. クールなP・カントレーの温かい社会貢献
  18. 51. L・トンプソン流、ユニークな社会貢献
  19. 50. 母国への想いが奇跡を起こす!?
  20. 49. 無名の48歳の「好きな言葉」「嫌いな言葉」
  21. 48. B・デシャンボーの熱くて厚い義理人情
  22. 47. 絵を描き続ける「みんなのヒーロー」
  23. 46. 助けたからこそ、助けられたゴルフ人生
  24. 45. 夢を追いかけられる社会にしたい
  25. 44. 負けても笑顔を輝かせた意味
  26. 43. 優しく強くなったR・マキロイの社会貢献
  27. 42. ファンファーレで送り出したい全英チャンプ
  28. 41. 「僕はそういう僕でありたい」ビリー・ホーシェルの感謝と恩返し
  29. 40. チャールズ・ハウエルの恩返し
  30. 39. メジャー・チャンプの恩返し
  31. 38. 「思い出づくり」と「自転車づくり」
  32. 37. 米ツアーの黒人選手の「声」の力
  33. 36. スネデカーは「超ナイスガイ」!
  34. 35. 「世界を救うため」動いたジュニアゴルファー姉妹
  35. 34. それが「私の生きる意味」
  36. 33. 「いつかは、私が」と誓った物語
  37. 32. 亡き母の名を冠したマンモバンを走らせて
  38. 31. ケビン・ナの人気が静かに高まりつつある理由
  39. 30. ゴルフ界の「子育て」と「本当の女王」
  40. 29. 苦難を乗り越えた3世代の物語
  41. 28. 光が当たらなかった場所に光を当てる
  42. 27. 世界ナンバー1の「自分流」チャリティ
  43. 26. 「手作りゴルフ場」から出発したプロゴルファーの社会貢献
  44. 25. ゴルフ金メダリストが考える手作り感覚のチャリティ活動
  45. 24. 惜しみなく与える「DJ」の物語
  46. 23. 輝く未来を抱くチャンス
  47. 22. 帝王の優しき野望
  48. 21. 「パットの名手」は「チャリティの名手」
  49. 20. 「ケビン・キスナー」の名前と存在感
  50. 19. ゴルフの世界でも「類は友を呼ぶ」
  51. 18. ライオン・ハートのジョン・デーリー
  52. 17. 往年の名選手と名キャディからの贈り物
  53. 16. 「たった4勝」でも「メジャー無冠」でも、どんどん高まるリッキー・ファウラーの人気
  54. 15. ジャロード・ライルの36年の人生が残してくれたもの
  55. 14. 苦労したからこそ、若者たちを手助けしたいと動き出したトニー・フィノウ
  56. 13. 授かった幸運を不運な人々のために役立てたいと願うジム・フューリックと妻の社会貢献
  57. 12. 選手もキャディも主役になった日
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  59. 10. 闘病しながらチャリティにも精を出し、「とてもラッキー」と言い切る強さ
  60. 09. ベン・クレーンの終わりなき社会貢献
  61. 08. だから、アーノルド・パーマーは誰からも愛された
  62. 07. デービス・ラブの愛
  63. 06. 彼が国民的スターである理由
  64. 05. ゴルフより大切なものを知って強くなったプロゴルファー
  65. 04. アーニー・エルスの山谷の越え方
  66. 03. マスターズ2勝のバッバ・ワトソンが一人の人間として抱く夢
  67. 02. 全英オープン覇者、ジョーダン・スピースの強さの秘密
  68. 01. プロゴルファーも、お医者さまも?「らしさ」って、難しい