コラム・連載

ゴルフジャーナリストが見た、プロゴルファーの知られざる素顔

アフリカに水をもたらすゴルフ界のレジェンド

2022.8.15|text by 舩越園子

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コロナ禍の影響で12月に開催された2020年の全米女子オープン最終日の展開は、日本のゴルフファンの記憶にも残っているのではないだろうか。

あの日、単独首位で最終日を迎えたのは日本の大スター、渋野日向子だった。2019年に全英女子オープンを制した渋野には、メジャー2勝目の期待がかかり、渋野ファンは固唾を飲んで見守っていたことだろう。

しかし、渋野は出だしから崩れ、その傍らで、白いニット帽を被り、ピンク色のダウンのベストをしっかり着込み、淡々としたプレーぶりで優勝ににじり寄っていたエイミー・オルソンの姿は、とても印象的だった。

大会開幕直前の月曜日に義父が他界し、現地で寄り添うはずだった夫は、急きょノース・ダコタ州の実家へ戻るという想定外の事態に直面しながらも、悲しみをこらえ、黙々と初優勝を目指して戦っていたオルソンに人々の視線は釘付けになった。

そして、彼女のニット帽に付けられていた「ゴルフ・フォー・アフリカ」という見慣れないロゴマークが、私はあのとき妙に気になっていた。

終わってみれば、優勝したのはオルソンではなく、韓国のキム・イェリムだった。2位タイになったオルソンは、ホールアウト後、込み上げる涙を止めることができないまま、「やり切ったから悔いはない」と語った。

そんなオルソンの白いニット帽に付けられた「アフリカ」の文字が、その後もずっと私の脳裏に焼き付いていた。

水を得るための労苦

話を現在に戻すと、最近になって私は、2年前に見たオルソンの白いニット帽の「アフリカ」の文字の意味を知ることになった。

米女子ゴルフ界のレジェンドであるベッツィ・キングが2007年から手掛けているチャリティ活動があり、そのプロジェクトこそが「ゴルフ・フォー・アフリカ」というものだった。

オルソンは、キングのチャリティ活動に賛同し、キングのチャリティ・プロジェクトのロゴマークを自身の帽子に付けて全米女子オープンを戦っていたのだ。

現在66歳になるキングは、米ペンシルベニア州で生まれ育ち、ファーマン大学時代はカレッジゴルフで大活躍。1976年全米女子オープンにはアマチュア資格で出場し、ローアマに輝いた。

その翌年、1977年から米LPGAに参戦開始。次々に勝利を重ね、1987年のナビスコ・ダイナショア選手権(現シェブロン選手権)を皮切りにメジャー大会6勝、通算34勝を挙げたスーパースターだった。

賞金女王に輝くこと3回。プレーヤー・オブ・ザ・イヤーにも3度選出され、1995年には世界ゴルフ殿堂入りを果たした。

日本でも1981年、1992年、1993年に勝利を飾った。

そんなキングが、今ではアフリカのためのチャリティ活動に心血を注いでいる。

何が彼女をそうさせたのか。きっかけは、キングがケニヤやタンザニアなどを訪問し、現地の女性たちの窮状を初めて知ったことだった。

「ただ水を得るためだけに、アフリカでは女性や少女たちが、とんでもない労苦を強いられている。同じ人間、同じ女性として、その状況を見過ごすことは私にはできない。彼女たちがもっと楽に水を得られるよう、もっと健康に、もっと楽しく幸せに生きられるよう、そのための手助けをしたい」
以来、ゴルフ界とゴルファーの力を借りつつ、アフリカの女性たちを助けるためのチャリティ活動が、キングの生き甲斐になった。

地球から月までの距離を歩く

「アフリカの平均的な女性が水を得るために歩く距離は、地球から月までの距離に相当するんです」とキングは言う。

国連の調査によれば、アフリカで水を得ることができない生活をしている人々は7億8500万人もいるという。

女性や少女たちは、水を得るために遠くまで歩いて出向き、水を入れた重い入れ物を持って再び戻ってくる。そのための往復に1日平均6時間を費やしているそうで、そのためのアフリカの全女性たちの労働量を足し上げると、1日2億時間にもなるそうだ。

「水が得られるようになり、水汲みのための時間を省くことができれば、彼女たちは教育も受けられ、少女たちは学校にも通えるようになる。きれいな水が得られれば、健康状態も向上する。シャワーも浴びられるから、感染症などから身を守ることもできる」
キングは2007年に「ゴルフ・フォー・アフリカ」と名付けた自身の財団を創設。これまで集めたチャリティ寄金は1500万ドル。今年だけを見ても「この半年ほどで、すでに125万ドルが集まっており、今年の目標260万ドルをクリアできそう」と喜んでいる。

創設15周年を迎えている今年は、例年以上に積極的に活動を広げている。

キングは、かつて米LPGAでともに戦ったジュリー・インクスターをはじめ、スター選手のステイシー・ルイス、タイガー・ウッズの姪であるシャイアン・ウッズらを伴い、アフリカの現地視察へ赴いた。

地面にドリルで穴を掘り、水が無い場所に井戸を掘る作業を初めて間近に眺めた女子選手たちは、井戸1つがあることの大切さと意義を痛感させられ、「できる限りの協力をしたい」とキングに申し出た。

6月には、そうした選手たちが勢揃いするチャリティ・イベントをニューヨークで開催し、一気に25万ドルの寄付が寄せられた。

同じ6月、ノース・カロライナ州内で全米女子オープンが開催されたときは、アンジェラ・スタンフォードやソフィア・ポポスといった女子選手たちが、会場近郊の別のゴルフ場まで足を運び、そこで開かれたキング主催のチャリティ・イベントに参加。そこでも7万5000ドルの寄付金が集まった。

「ゴルフ界の理解と協力が得られるからこそ、私たちは寄付金を集めることができ、そのお金がアフリカの女性たちを助けることにつながっていく。彼女たちが少しでも楽にきれいな水を得ることができ、笑顔を輝かせることができれば、うれしい。この活動は私の生き甲斐です。そのために私は生きていきます」
そんなキングのことを、後輩に当たる女性ゴルファーたちは「私たちのキング(王)」と呼び、リスペクトを払っている。

アフリカの女性たちにとっては、キングは王というより、水をもたらす神様のような存在なのではないだろうか。

次回は9月15日公開予定!

バックナンバー
  1. ゴルフジャーナリストが見た、
    プロゴルファーの知られざる素顔
  2. 65. 個性派M・A・ヒメネスの恩返し
  3. 64. 全英女子オープン覇者がプロゴルファーである理由
  4. 63. メジャー3勝、だからこそ「感謝」と「貢献」
  5. 62. アフリカに水をもたらすゴルフ界のレジェンド
  6. 61. 一人の少年を讃えたフリートウッドの想い
  7. 60. 母国を離れて戦うC・スミスの母国愛
  8. 59. コロナ禍の犠牲者のために尽くした素晴らしき選手
  9. 58. 親友が闘病しながら創設した財団を守り続けるプロゴルファー
  10. 57. 救った子供が未来を救う、だからこそ救いたい
  11. 56. 「みんなのハッピー」を目指す女子ゴルフのスター
  12. 55. バレステロスからラームへ、スペインのヒーロー誕生物語
  13. 54. マリア・ファッシは幸せを運ぶアンバサダー
  14. 53. 「小さな奇跡」を信じて戦う意味
  15. 52. クールなP・カントレーの温かい社会貢献
  16. 51. L・トンプソン流、ユニークな社会貢献
  17. 50. 母国への想いが奇跡を起こす!?
  18. 49. 無名の48歳の「好きな言葉」「嫌いな言葉」
  19. 48. B・デシャンボーの熱くて厚い義理人情
  20. 47. 絵を描き続ける「みんなのヒーロー」
  21. 46. 助けたからこそ、助けられたゴルフ人生
  22. 45. 夢を追いかけられる社会にしたい
  23. 44. 負けても笑顔を輝かせた意味
  24. 43. 優しく強くなったR・マキロイの社会貢献
  25. 42. ファンファーレで送り出したい全英チャンプ
  26. 41. 「僕はそういう僕でありたい」ビリー・ホーシェルの感謝と恩返し
  27. 40. チャールズ・ハウエルの恩返し
  28. 39. メジャー・チャンプの恩返し
  29. 38. 「思い出づくり」と「自転車づくり」
  30. 37. 米ツアーの黒人選手の「声」の力
  31. 36. スネデカーは「超ナイスガイ」!
  32. 35. 「世界を救うため」動いたジュニアゴルファー姉妹
  33. 34. それが「私の生きる意味」
  34. 33. 「いつかは、私が」と誓った物語
  35. 32. 亡き母の名を冠したマンモバンを走らせて
  36. 31. ケビン・ナの人気が静かに高まりつつある理由
  37. 30. ゴルフ界の「子育て」と「本当の女王」
  38. 29. 苦難を乗り越えた3世代の物語
  39. 28. 光が当たらなかった場所に光を当てる
  40. 27. 世界ナンバー1の「自分流」チャリティ
  41. 26. 「手作りゴルフ場」から出発したプロゴルファーの社会貢献
  42. 25. ゴルフ金メダリストが考える手作り感覚のチャリティ活動
  43. 24. 惜しみなく与える「DJ」の物語
  44. 23. 輝く未来を抱くチャンス
  45. 22. 帝王の優しき野望
  46. 21. 「パットの名手」は「チャリティの名手」
  47. 20. 「ケビン・キスナー」の名前と存在感
  48. 19. ゴルフの世界でも「類は友を呼ぶ」
  49. 18. ライオン・ハートのジョン・デーリー
  50. 17. 往年の名選手と名キャディからの贈り物
  51. 16. 「たった4勝」でも「メジャー無冠」でも、どんどん高まるリッキー・ファウラーの人気
  52. 15. ジャロード・ライルの36年の人生が残してくれたもの
  53. 14. 苦労したからこそ、若者たちを手助けしたいと動き出したトニー・フィノウ
  54. 13. 授かった幸運を不運な人々のために役立てたいと願うジム・フューリックと妻の社会貢献
  55. 12. 選手もキャディも主役になった日
  56. 11. タイガー・ウッズの真心のチャリティ
  57. 10. 闘病しながらチャリティにも精を出し、「とてもラッキー」と言い切る強さ
  58. 09. ベン・クレーンの終わりなき社会貢献
  59. 08. だから、アーノルド・パーマーは誰からも愛された
  60. 07. デービス・ラブの愛
  61. 06. 彼が国民的スターである理由
  62. 05. ゴルフより大切なものを知って強くなったプロゴルファー
  63. 04. アーニー・エルスの山谷の越え方
  64. 03. マスターズ2勝のバッバ・ワトソンが一人の人間として抱く夢
  65. 02. 全英オープン覇者、ジョーダン・スピースの強さの秘密
  66. 01. プロゴルファーも、お医者さまも?「らしさ」って、難しい

著者プロフィール

舩越園子 近影
舩越 園子(ふなこし そのこ)

ゴルフジャーナリスト

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。
百貨店、広告代理店勤務を経て1989年にフリーライターとして独立。93年渡米。

在米ゴルフジャーナリストとして新聞、雑誌、ウエブサイト等への執筆に加え、講演やテレビ、ラジオにも活動の範囲を広げている。

『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。

アトランタ、フロリダ、ニューヨークを経て、現在はロサンゼルス在住。

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どれもタイガー・ウッズだが、
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そして逆境を乗り越えるために 一番大事なものとは……。

バックナンバー
  1. ゴルフジャーナリストが見た、
    プロゴルファーの知られざる素顔
  2. 65. 個性派M・A・ヒメネスの恩返し
  3. 64. 全英女子オープン覇者がプロゴルファーである理由
  4. 63. メジャー3勝、だからこそ「感謝」と「貢献」
  5. 62. アフリカに水をもたらすゴルフ界のレジェンド
  6. 61. 一人の少年を讃えたフリートウッドの想い
  7. 60. 母国を離れて戦うC・スミスの母国愛
  8. 59. コロナ禍の犠牲者のために尽くした素晴らしき選手
  9. 58. 親友が闘病しながら創設した財団を守り続けるプロゴルファー
  10. 57. 救った子供が未来を救う、だからこそ救いたい
  11. 56. 「みんなのハッピー」を目指す女子ゴルフのスター
  12. 55. バレステロスからラームへ、スペインのヒーロー誕生物語
  13. 54. マリア・ファッシは幸せを運ぶアンバサダー
  14. 53. 「小さな奇跡」を信じて戦う意味
  15. 52. クールなP・カントレーの温かい社会貢献
  16. 51. L・トンプソン流、ユニークな社会貢献
  17. 50. 母国への想いが奇跡を起こす!?
  18. 49. 無名の48歳の「好きな言葉」「嫌いな言葉」
  19. 48. B・デシャンボーの熱くて厚い義理人情
  20. 47. 絵を描き続ける「みんなのヒーロー」
  21. 46. 助けたからこそ、助けられたゴルフ人生
  22. 45. 夢を追いかけられる社会にしたい
  23. 44. 負けても笑顔を輝かせた意味
  24. 43. 優しく強くなったR・マキロイの社会貢献
  25. 42. ファンファーレで送り出したい全英チャンプ
  26. 41. 「僕はそういう僕でありたい」ビリー・ホーシェルの感謝と恩返し
  27. 40. チャールズ・ハウエルの恩返し
  28. 39. メジャー・チャンプの恩返し
  29. 38. 「思い出づくり」と「自転車づくり」
  30. 37. 米ツアーの黒人選手の「声」の力
  31. 36. スネデカーは「超ナイスガイ」!
  32. 35. 「世界を救うため」動いたジュニアゴルファー姉妹
  33. 34. それが「私の生きる意味」
  34. 33. 「いつかは、私が」と誓った物語
  35. 32. 亡き母の名を冠したマンモバンを走らせて
  36. 31. ケビン・ナの人気が静かに高まりつつある理由
  37. 30. ゴルフ界の「子育て」と「本当の女王」
  38. 29. 苦難を乗り越えた3世代の物語
  39. 28. 光が当たらなかった場所に光を当てる
  40. 27. 世界ナンバー1の「自分流」チャリティ
  41. 26. 「手作りゴルフ場」から出発したプロゴルファーの社会貢献
  42. 25. ゴルフ金メダリストが考える手作り感覚のチャリティ活動
  43. 24. 惜しみなく与える「DJ」の物語
  44. 23. 輝く未来を抱くチャンス
  45. 22. 帝王の優しき野望
  46. 21. 「パットの名手」は「チャリティの名手」
  47. 20. 「ケビン・キスナー」の名前と存在感
  48. 19. ゴルフの世界でも「類は友を呼ぶ」
  49. 18. ライオン・ハートのジョン・デーリー
  50. 17. 往年の名選手と名キャディからの贈り物
  51. 16. 「たった4勝」でも「メジャー無冠」でも、どんどん高まるリッキー・ファウラーの人気
  52. 15. ジャロード・ライルの36年の人生が残してくれたもの
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  55. 12. 選手もキャディも主役になった日
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  59. 08. だから、アーノルド・パーマーは誰からも愛された
  60. 07. デービス・ラブの愛
  61. 06. 彼が国民的スターである理由
  62. 05. ゴルフより大切なものを知って強くなったプロゴルファー
  63. 04. アーニー・エルスの山谷の越え方
  64. 03. マスターズ2勝のバッバ・ワトソンが一人の人間として抱く夢
  65. 02. 全英オープン覇者、ジョーダン・スピースの強さの秘密
  66. 01. プロゴルファーも、お医者さまも?「らしさ」って、難しい