コラム・連載

ゴルフジャーナリストが見た、プロゴルファーの知られざる素顔

母国を離れて戦うC・スミスの母国愛

2022.6.15|text by 舩越園子

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キャメロン・スミスは現在28歳のオーストラリア出身選手。2015年からPGAツアー(米ツアー)で戦い始め、すでに通算5勝を挙げている。

メジャー大会でも何度も優勝争いに絡んでいるが、残念ながらメジャー初制覇はいまなお達成されておらず、「スミスにメジャー・タイトルがないことは米ゴルフ界の七不思議の1つ」とまで言われている。今年だけを見ても、4月のマスターズではスコッティ・シェフラーと最後まで勝利を競い合い、3位タイに甘んじた。

メジャー優勝こそないが、レギュラー大会では、今年1月のセントリー・トーナメント・オブ・チャンピオンズを制し、3月にはプレーヤーズ選手権で今季2勝目を挙げた。

悪天候に襲われ、不規則進行となった今年のプレーヤーズ選手権は日没サスペンデッドと日の出と同時の翌朝再開を繰り返し、選手たちはみな疲弊しきっていた。

最終日の戦いは史上8度目のマンデー・フィニッシュへとずれ込んでいったが、熾烈で長い戦いを見事に制したスミスの耐久力と忍耐力は秀逸だった。

そんなスミスの強さは、いつどうやって醸成されたのか。彼を突き動かしている原動力は何なのか。その答えは、スミスの歩みをジュニア時代まで遡ると、自ずと見えてくる。

「憧れ」と「ライバル心」

スミスの故郷はオーストラリアのブリスベン。印刷業を営む両親の下、平凡で平均的な庶民の子として生まれたスミスが巡り合った運命的な偶然は、同姓同名の10歳年上の「近所のお兄ちゃん」がラグビー選手として母国のヒーローと化していったことだった。

同じ名前の息子を持つ父親どうしが仲良くなったことで、息子である2人の「キャメロン・スミス」も、とても親しくなった。

母国では誰もが国民的スターとなった「ラグビー選手のキャメロン・スミス」と、まったく同じ名前を持つゴルフのスミスは「まるでスーパーマンの名前をもらっているみたいで、とてもうれしくて、自分の名前を名乗るたびに誇らしい気持ちになった」。

ラグビー界のスターに憧れの念を抱き、自分もあんなふうにゴルフ界のスターになりたいと思うことが、スミスにとって大きなモチベーションになったという。

スミスが「憧れ」を抱き、それが彼の向上心を押し上げることになった存在は、実を言えば、もう1人いた。

同じオーストラリア出身のマスターズ覇者アダム・スコットが、母国で時折り開催していたジュニア・クリニックに必ず参加していたスミスは、「カッコいい」「僕もあんなふうになりたい」とスコットに憧れ、彼の背中を夢中で追いかけた。

そうした憧れの存在たちとは別に、スミスの戦意を燃え上がらせたのは、母国のジュニア界のライバルたちだった。

2013年全米アマを制覇したオリバー・ゴス、2014年マスターズに出てローアマに輝き、世界アマチュア・ランキング1位にも輝いたブレイディ・ワットらの活躍を、スミスは常に悔しさを噛み締めながら眺め、「彼らを抜き去るぞ」と戦意を高めていた。

自分が抜きん出るためには「淋しいとか、心細いとか、文化や食生活の違いがどうとか、言っている場合ではなかった」とスミスは当時を振り返ったが、その言葉通り、彼は2013年にプロ転向するやいなやオーストラレイジアンツアーで転戦生活を開始。

2014年にはアジアツアーを転戦。2015年からは米国に拠点を移し、スポンサー推薦やマンデー予選を活用しつつ、PGAツアー参戦のチャンスをうかがっていた。

2015年の夏、地区予選から挑戦し、自力で出場権を獲得した全米オープンで、スミスは初出場にして、いきなり優勝争いに絡み、優勝したジョーダン・スピースに最後の最後まで追撃をかけた。

72ホール目のパー5では見事、第2打をピンそばに付け、タップイン・イーグルで4位タイ・フィニッシュ。その成績でPGAツアーのスペシャル・テンポラリー・メンバーとなり、正式メンバーへの道を歩んでいった。

あの全米オープンは、いわばスミスの世界のゴルフ界へのセンセーショナルなデビューとなり、プロゴルファー「キャメロン・スミス」の名が初めて世界のスポットライトを浴びた瞬間だった。

その後の歩みは、すこぶる順調。2017年のチューリッヒ・クラシックで初優勝を挙げると、以後は次々に勝利を重ね、今年の2勝を加えるとPGAツアーでは通算5勝の実績。

メジャー優勝こそないが、今年だけでもすでに22ミリオン(2200万ドル)、約28億円の賞金を獲得。現在は米フロリダ州に居を構えており、母国と米国の双方で所有している家は3~4軒、大好きな車はアウディ、BMW、メルセデス・ベンツなど高級車ばかりが5台ほどあるという。

すべては、幼少期に抱いた「憧れ」と「モチベーション」を膨らませ、必死に重ねた努力の結実である。

母国のために尽くしたい

母国オーストラリアを離れ、米国や世界を転戦しながら腕を磨き、戦い続けているスミスの胸の中には常に郷愁の念があり、自分を育んでくれた人々への感謝の念は年々膨らんでいるという。

ジュニア時代にスコットが主宰するジュニア・クリニックに参加したスミスは、自分もプロになったら一刻も早く子どもたちのためのクリニックに参加しようと心に決めていた。

2018年の春、やはり同郷のPGAツアー選手、ジョン・センデンが脳腫瘍による後遺症などで苦しむ人々のためのチャリティ・ゴルフ大会を開催した際、スミスは自分自身が4月のマスターズ出場権を掴めるかどうかの瀬戸際にありながら、強行日程を覚悟した上で、チャリティ・ゴルフ大会に参加。大急ぎで米国へ戻ったスミスは好成績を出し続け、マスターズにぎりぎりセーフで滑り込み、見事、5位タイに食い込んだ。

2019年の夏ごろから起きたオーストラリアの大規模森林火災の被災地域や被災者救済のため、スミスは2019年プレジデンツカップで得た12万5000ドルをすべて母国の被災地へ寄付。個人としても、さらに数千ドルを寄付した。

「帰国便がシドニー空港に着陸する際、いつもなら窓外に見えるはずの地平線が煙でまったく見えず、とてもショックを受けた」

その後も、スミスは同郷の選手たちとともに、バーディーを獲るごとに500ドル、イーグルなら1000ドルを母国へ寄付する活動を続けている。

母国への想いを強めるとともに、スミスは将来の夢も膨らませている。

「引退したら、故郷でコーヒーショップを開きたい」

心優しいスミスが淹れるコーヒーは、きっと深みとコクがある美味しいコーヒーになることだろう。

次回は7月15日公開予定!

バックナンバー
  1. ゴルフジャーナリストが見た、
    プロゴルファーの知られざる素顔
  2. 61. 一人の少年を讃えたフリートウッドの想い
  3. 60. 母国を離れて戦うC・スミスの母国愛
  4. 59. コロナ禍の犠牲者のために尽くした素晴らしき選手
  5. 58. 親友が闘病しながら創設した財団を守り続けるプロゴルファー
  6. 57. 救った子供が未来を救う、だからこそ救いたい
  7. 56. 「みんなのハッピー」を目指す女子ゴルフのスター
  8. 55. バレステロスからラームへ、スペインのヒーロー誕生物語
  9. 54. マリア・ファッシは幸せを運ぶアンバサダー
  10. 53. 「小さな奇跡」を信じて戦う意味
  11. 52. クールなP・カントレーの温かい社会貢献
  12. 51. L・トンプソン流、ユニークな社会貢献
  13. 50. 母国への想いが奇跡を起こす!?
  14. 49. 無名の48歳の「好きな言葉」「嫌いな言葉」
  15. 48. B・デシャンボーの熱くて厚い義理人情
  16. 47. 絵を描き続ける「みんなのヒーロー」
  17. 46. 助けたからこそ、助けられたゴルフ人生
  18. 45. 夢を追いかけられる社会にしたい
  19. 44. 負けても笑顔を輝かせた意味
  20. 43. 優しく強くなったR・マキロイの社会貢献
  21. 42. ファンファーレで送り出したい全英チャンプ
  22. 41. 「僕はそういう僕でありたい」ビリー・ホーシェルの感謝と恩返し
  23. 40. チャールズ・ハウエルの恩返し
  24. 39. メジャー・チャンプの恩返し
  25. 38. 「思い出づくり」と「自転車づくり」
  26. 37. 米ツアーの黒人選手の「声」の力
  27. 36. スネデカーは「超ナイスガイ」!
  28. 35. 「世界を救うため」動いたジュニアゴルファー姉妹
  29. 34. それが「私の生きる意味」
  30. 33. 「いつかは、私が」と誓った物語
  31. 32. 亡き母の名を冠したマンモバンを走らせて
  32. 31. ケビン・ナの人気が静かに高まりつつある理由
  33. 30. ゴルフ界の「子育て」と「本当の女王」
  34. 29. 苦難を乗り越えた3世代の物語
  35. 28. 光が当たらなかった場所に光を当てる
  36. 27. 世界ナンバー1の「自分流」チャリティ
  37. 26. 「手作りゴルフ場」から出発したプロゴルファーの社会貢献
  38. 25. ゴルフ金メダリストが考える手作り感覚のチャリティ活動
  39. 24. 惜しみなく与える「DJ」の物語
  40. 23. 輝く未来を抱くチャンス
  41. 22. 帝王の優しき野望
  42. 21. 「パットの名手」は「チャリティの名手」
  43. 20. 「ケビン・キスナー」の名前と存在感
  44. 19. ゴルフの世界でも「類は友を呼ぶ」
  45. 18. ライオン・ハートのジョン・デーリー
  46. 17. 往年の名選手と名キャディからの贈り物
  47. 16. 「たった4勝」でも「メジャー無冠」でも、どんどん高まるリッキー・ファウラーの人気
  48. 15. ジャロード・ライルの36年の人生が残してくれたもの
  49. 14. 苦労したからこそ、若者たちを手助けしたいと動き出したトニー・フィノウ
  50. 13. 授かった幸運を不運な人々のために役立てたいと願うジム・フューリックと妻の社会貢献
  51. 12. 選手もキャディも主役になった日
  52. 11. タイガー・ウッズの真心のチャリティ
  53. 10. 闘病しながらチャリティにも精を出し、「とてもラッキー」と言い切る強さ
  54. 09. ベン・クレーンの終わりなき社会貢献
  55. 08. だから、アーノルド・パーマーは誰からも愛された
  56. 07. デービス・ラブの愛
  57. 06. 彼が国民的スターである理由
  58. 05. ゴルフより大切なものを知って強くなったプロゴルファー
  59. 04. アーニー・エルスの山谷の越え方
  60. 03. マスターズ2勝のバッバ・ワトソンが一人の人間として抱く夢
  61. 02. 全英オープン覇者、ジョーダン・スピースの強さの秘密
  62. 01. プロゴルファーも、お医者さまも?「らしさ」って、難しい

著者プロフィール

舩越園子 近影
舩越 園子(ふなこし そのこ)

ゴルフジャーナリスト

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。
百貨店、広告代理店勤務を経て1989年にフリーライターとして独立。93年渡米。

在米ゴルフジャーナリストとして新聞、雑誌、ウエブサイト等への執筆に加え、講演やテレビ、ラジオにも活動の範囲を広げている。

『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。

アトランタ、フロリダ、ニューヨークを経て、現在はロサンゼルス在住。

最新の書籍紹介

『タイガー・ウッズ 復活の言霊』

タイガー・ウッズ 復活の言霊
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復活劇の裏にあったウッズの想い
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誰もが憧れる絶対王者として
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人生の風雨にさらされたウッズ。

子供たちと向き合い、自分を見つめなおし、
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どれもタイガー・ウッズだが、
彼の言葉を追い、紐解いていくことで
人間・ウッズの実像が見えてくる。

そして逆境を乗り越えるために 一番大事なものとは……。

バックナンバー
  1. ゴルフジャーナリストが見た、
    プロゴルファーの知られざる素顔
  2. 61. 一人の少年を讃えたフリートウッドの想い
  3. 60. 母国を離れて戦うC・スミスの母国愛
  4. 59. コロナ禍の犠牲者のために尽くした素晴らしき選手
  5. 58. 親友が闘病しながら創設した財団を守り続けるプロゴルファー
  6. 57. 救った子供が未来を救う、だからこそ救いたい
  7. 56. 「みんなのハッピー」を目指す女子ゴルフのスター
  8. 55. バレステロスからラームへ、スペインのヒーロー誕生物語
  9. 54. マリア・ファッシは幸せを運ぶアンバサダー
  10. 53. 「小さな奇跡」を信じて戦う意味
  11. 52. クールなP・カントレーの温かい社会貢献
  12. 51. L・トンプソン流、ユニークな社会貢献
  13. 50. 母国への想いが奇跡を起こす!?
  14. 49. 無名の48歳の「好きな言葉」「嫌いな言葉」
  15. 48. B・デシャンボーの熱くて厚い義理人情
  16. 47. 絵を描き続ける「みんなのヒーロー」
  17. 46. 助けたからこそ、助けられたゴルフ人生
  18. 45. 夢を追いかけられる社会にしたい
  19. 44. 負けても笑顔を輝かせた意味
  20. 43. 優しく強くなったR・マキロイの社会貢献
  21. 42. ファンファーレで送り出したい全英チャンプ
  22. 41. 「僕はそういう僕でありたい」ビリー・ホーシェルの感謝と恩返し
  23. 40. チャールズ・ハウエルの恩返し
  24. 39. メジャー・チャンプの恩返し
  25. 38. 「思い出づくり」と「自転車づくり」
  26. 37. 米ツアーの黒人選手の「声」の力
  27. 36. スネデカーは「超ナイスガイ」!
  28. 35. 「世界を救うため」動いたジュニアゴルファー姉妹
  29. 34. それが「私の生きる意味」
  30. 33. 「いつかは、私が」と誓った物語
  31. 32. 亡き母の名を冠したマンモバンを走らせて
  32. 31. ケビン・ナの人気が静かに高まりつつある理由
  33. 30. ゴルフ界の「子育て」と「本当の女王」
  34. 29. 苦難を乗り越えた3世代の物語
  35. 28. 光が当たらなかった場所に光を当てる
  36. 27. 世界ナンバー1の「自分流」チャリティ
  37. 26. 「手作りゴルフ場」から出発したプロゴルファーの社会貢献
  38. 25. ゴルフ金メダリストが考える手作り感覚のチャリティ活動
  39. 24. 惜しみなく与える「DJ」の物語
  40. 23. 輝く未来を抱くチャンス
  41. 22. 帝王の優しき野望
  42. 21. 「パットの名手」は「チャリティの名手」
  43. 20. 「ケビン・キスナー」の名前と存在感
  44. 19. ゴルフの世界でも「類は友を呼ぶ」
  45. 18. ライオン・ハートのジョン・デーリー
  46. 17. 往年の名選手と名キャディからの贈り物
  47. 16. 「たった4勝」でも「メジャー無冠」でも、どんどん高まるリッキー・ファウラーの人気
  48. 15. ジャロード・ライルの36年の人生が残してくれたもの
  49. 14. 苦労したからこそ、若者たちを手助けしたいと動き出したトニー・フィノウ
  50. 13. 授かった幸運を不運な人々のために役立てたいと願うジム・フューリックと妻の社会貢献
  51. 12. 選手もキャディも主役になった日
  52. 11. タイガー・ウッズの真心のチャリティ
  53. 10. 闘病しながらチャリティにも精を出し、「とてもラッキー」と言い切る強さ
  54. 09. ベン・クレーンの終わりなき社会貢献
  55. 08. だから、アーノルド・パーマーは誰からも愛された
  56. 07. デービス・ラブの愛
  57. 06. 彼が国民的スターである理由
  58. 05. ゴルフより大切なものを知って強くなったプロゴルファー
  59. 04. アーニー・エルスの山谷の越え方
  60. 03. マスターズ2勝のバッバ・ワトソンが一人の人間として抱く夢
  61. 02. 全英オープン覇者、ジョーダン・スピースの強さの秘密
  62. 01. プロゴルファーも、お医者さまも?「らしさ」って、難しい