コラム・連載

ゴルフジャーナリストが見た、プロゴルファーの知られざる素顔

親友が闘病しながら創設した財団を守り続けるプロゴルファー

2022.4.15|text by 舩越園子

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今、世界のゴルフ界で最大の注目を集めている選手は、今年2月と3月のわずか2か月間に次々に3勝を挙げて世界ナンバー1に上り詰め、そして4月のマスターズを見事に制してメジャー初優勝、米ツアー通算4勝目を飾った25歳の米国人、スコッティ・シェフラーだ。

ニュージャージー州で生まれ、テキサス州ダラスで育ったシェフラーは、幼いころから地元では有名な天才ゴルフ少年として脚光を浴び、テキサス大学を卒業後、2018年にプロ転向。2019年に下部ツアーで年間2勝を挙げ、2020年からPGAツアー参戦を開始すると、ルーキーイヤーにいきなりフェデックスカップ・ランキング5位でシーズンを終え、「大型新人」と呼ばれた。

何度も優勝争いに絡んだが、なかなか初優勝が挙げられず、デビュー年も2021年も未勝利に終わった。

しかし2022年は2月のフェニックス・オープンの大舞台の上で「アイアンマン」と呼ばれるパトリック・カントレーを相手に堂々と渡り合い、プレーオフを制して、ついに初優勝を挙げた。

その3週間後には、アーノルド・パーマー招待で逆転勝利を挙げ、3月にはデル・テクノロジーズ・マッチプレー選手権を制し、あれよあれよという間に通算3勝を達成して、世界ランキング1位へ躍り出た。

「たくさんの人々に支えてもらったおかげで勝つことができた。どれだけ感謝しても感謝しきれない」

そして、彼の快進撃はさらに続き、「ゴルフの祭典」マスターズを2位に3打差で圧勝。オーガスタ・ナショナルの大観衆から温かい拍手と歓声で勝利を讃えられたシェフラーは、愛妻メレディスと抱き合い、この日までの長い日々を支えてくれた人々に感謝した。

そう、シェフラーはどんな時もとても謙虚で、周囲への感謝の気持ちを強く抱いている。だが、そんなシェフラーに対する感謝の念を決して忘れない人々がいる。そして彼らは、故郷ダラスからも天国からも、常にシェフラーを応援している。

アイディアから生まれた財団

シェフラーがテキサス州内のジュニアツアーに参加していたころ、いつも一緒にプレーしていたのは3つ年上のジェームス・レーガンだった。レーガンはシェフラーにとっては親友であり、兄貴分のような存在で、「いつか、プロゴルファーになったら、一緒に戦おうね」と誓い合っていたという。

しかし、2006年、13歳にして骨肉腫と診断されたレーガンの生活は一変した。化学療法、手術、放射線治療。入退院を繰り返し、あらゆる治療が次々に試みられた。

高額な治療費がどんどんかさんでいき、レーガンは治療に伴う苦痛とともに、がんと闘病することの大変さを痛感させられ、その中で、自分にできることはないだろうかと模索し始めたそうだ。

2008年のある日、レーガンはお見舞いに来てくれた友人たちから「もうすぐ誕生日だね。バースデー・パーティを開こう」と言われ、こんなことを思い付いた。

「ありがとう。でもバースデー・ギフトは要らないから、その代わり、一人50ドルずつ寄付してほしい。それで集まったお金を僕は病院の小児科に寄付するから」

それを聞いた友人たちは「それなら、寄付を広く呼び掛けてみようよ」と頷き、インターネットやSNS、口コミで寄付を募ったところ、「いきなり4万ドル(約470万円)が集まって、びっくりした」。

寄付金を集めるという目標を持って活動し、成果が得られたことは「楽しかった」と実感したレーガンは、翌年の誕生日には同じ手法に「チャリティ・ゴルフトーナメント開催をプラスしてみたら、今度は10万ドルが集まった」。

それならばということで、レーガンは友人や家族と一緒に「トライアンフ・オーバー・キッズ・キャンサー(Triumph over kid cancer)財団を創設。「がんとともに生きる子どもたちの人生を向上させたい」という願いを込めて創設された財団だ。

そのとき、レーガンとともに財団創設に加わったのが、幼少時代からレーガンを兄のように慕っていたシェフラーだった。

持ちつ、持たれつ

「がんは不意にやってくる。僕もがんだと告げられる以前は、スポーツ大好き、ゴルフ大好きなフツウの子どもだった。でも、がんは不意にやってきた。そして、それは誰にでも起こる可能性がある」

それが起こってしまった子どもたちの人生がどう変わってしまうのか。「それを世の中に伝えたい」とレーガンは言った。

「治療は痛かったり苦しかったり。お金もかかる。だけど、その中でも何か楽しみを見い出すことができたら、幸せな時間、幸せな日々を過ごすこともできる。それも世の中に伝えたい」

闘病を続けながら、財団の活動を楽しみながら行なっていたレーガンは、2014年、20歳で天国へ逝ってしまった。そんなレーガンに寄り添い続けてきたシェフラーは、自身がプロになり、PGAツアーの選手になってからも、寄付はもちろんのころ、時間を作っては財団の活動に参加している。

ルーキーイヤーだった2020年、シェフラーはある試合のプロアマ戦の中で行なわれたお楽しみ企画で優勝し、5万ドルを獲得。その全額をそのまま財団へ寄付した。

「スコッティが電話してきて、期せずして得たお金を寄付したいと言ってくれました」

レーガンの母親はそう振り返り、レーガンの両親や弟、そして財団は、そんなシェフラーの応援団となって、いつもエールを送っている。

かつて、レーガンは「みんなに助けてもらっている。だから僕も、がんになった子どもたちの助けになりたい」と口癖のように語り、いつもそれを聞いていたからこそ、シェフラーも周囲のサポートの1つ1つに感謝するようになったのだろう。

そして今、レーガンが立ち上げた財団にシェフラーがプロゴルファーとしてできる最大限の支援を行ない、レーガンの残された家族と財団は、そんなシェフラーの熱心な応援団となっている。

そういう「持ちつ、持たれつ」が、自然に続いていることが、とても素晴らしい。そして、そこに関わるみんなが明るい笑顔をたたえていることが、何より素敵に感じられる。

次回は5月15日公開予定!

バックナンバー
  1. ゴルフジャーナリストが見た、
    プロゴルファーの知られざる素顔
  2. 65. 個性派M・A・ヒメネスの恩返し
  3. 64. 全英女子オープン覇者がプロゴルファーである理由
  4. 63. メジャー3勝、だからこそ「感謝」と「貢献」
  5. 62. アフリカに水をもたらすゴルフ界のレジェンド
  6. 61. 一人の少年を讃えたフリートウッドの想い
  7. 60. 母国を離れて戦うC・スミスの母国愛
  8. 59. コロナ禍の犠牲者のために尽くした素晴らしき選手
  9. 58. 親友が闘病しながら創設した財団を守り続けるプロゴルファー
  10. 57. 救った子供が未来を救う、だからこそ救いたい
  11. 56. 「みんなのハッピー」を目指す女子ゴルフのスター
  12. 55. バレステロスからラームへ、スペインのヒーロー誕生物語
  13. 54. マリア・ファッシは幸せを運ぶアンバサダー
  14. 53. 「小さな奇跡」を信じて戦う意味
  15. 52. クールなP・カントレーの温かい社会貢献
  16. 51. L・トンプソン流、ユニークな社会貢献
  17. 50. 母国への想いが奇跡を起こす!?
  18. 49. 無名の48歳の「好きな言葉」「嫌いな言葉」
  19. 48. B・デシャンボーの熱くて厚い義理人情
  20. 47. 絵を描き続ける「みんなのヒーロー」
  21. 46. 助けたからこそ、助けられたゴルフ人生
  22. 45. 夢を追いかけられる社会にしたい
  23. 44. 負けても笑顔を輝かせた意味
  24. 43. 優しく強くなったR・マキロイの社会貢献
  25. 42. ファンファーレで送り出したい全英チャンプ
  26. 41. 「僕はそういう僕でありたい」ビリー・ホーシェルの感謝と恩返し
  27. 40. チャールズ・ハウエルの恩返し
  28. 39. メジャー・チャンプの恩返し
  29. 38. 「思い出づくり」と「自転車づくり」
  30. 37. 米ツアーの黒人選手の「声」の力
  31. 36. スネデカーは「超ナイスガイ」!
  32. 35. 「世界を救うため」動いたジュニアゴルファー姉妹
  33. 34. それが「私の生きる意味」
  34. 33. 「いつかは、私が」と誓った物語
  35. 32. 亡き母の名を冠したマンモバンを走らせて
  36. 31. ケビン・ナの人気が静かに高まりつつある理由
  37. 30. ゴルフ界の「子育て」と「本当の女王」
  38. 29. 苦難を乗り越えた3世代の物語
  39. 28. 光が当たらなかった場所に光を当てる
  40. 27. 世界ナンバー1の「自分流」チャリティ
  41. 26. 「手作りゴルフ場」から出発したプロゴルファーの社会貢献
  42. 25. ゴルフ金メダリストが考える手作り感覚のチャリティ活動
  43. 24. 惜しみなく与える「DJ」の物語
  44. 23. 輝く未来を抱くチャンス
  45. 22. 帝王の優しき野望
  46. 21. 「パットの名手」は「チャリティの名手」
  47. 20. 「ケビン・キスナー」の名前と存在感
  48. 19. ゴルフの世界でも「類は友を呼ぶ」
  49. 18. ライオン・ハートのジョン・デーリー
  50. 17. 往年の名選手と名キャディからの贈り物
  51. 16. 「たった4勝」でも「メジャー無冠」でも、どんどん高まるリッキー・ファウラーの人気
  52. 15. ジャロード・ライルの36年の人生が残してくれたもの
  53. 14. 苦労したからこそ、若者たちを手助けしたいと動き出したトニー・フィノウ
  54. 13. 授かった幸運を不運な人々のために役立てたいと願うジム・フューリックと妻の社会貢献
  55. 12. 選手もキャディも主役になった日
  56. 11. タイガー・ウッズの真心のチャリティ
  57. 10. 闘病しながらチャリティにも精を出し、「とてもラッキー」と言い切る強さ
  58. 09. ベン・クレーンの終わりなき社会貢献
  59. 08. だから、アーノルド・パーマーは誰からも愛された
  60. 07. デービス・ラブの愛
  61. 06. 彼が国民的スターである理由
  62. 05. ゴルフより大切なものを知って強くなったプロゴルファー
  63. 04. アーニー・エルスの山谷の越え方
  64. 03. マスターズ2勝のバッバ・ワトソンが一人の人間として抱く夢
  65. 02. 全英オープン覇者、ジョーダン・スピースの強さの秘密
  66. 01. プロゴルファーも、お医者さまも?「らしさ」って、難しい

著者プロフィール

舩越園子 近影
舩越 園子(ふなこし そのこ)

ゴルフジャーナリスト

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。
百貨店、広告代理店勤務を経て1989年にフリーライターとして独立。93年渡米。

在米ゴルフジャーナリストとして新聞、雑誌、ウエブサイト等への執筆に加え、講演やテレビ、ラジオにも活動の範囲を広げている。

『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。

アトランタ、フロリダ、ニューヨークを経て、現在はロサンゼルス在住。

最新の書籍紹介

『タイガー・ウッズ 復活の言霊』

タイガー・ウッズ 復活の言霊
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復活劇の裏にあったウッズの想い
すべての人の心を打つ48のメッセージ

誰もが憧れる絶対王者として
君臨していたウッズ。
不倫騒動、くり返された故障と手術、
まさかの逮捕劇……と、
人生の風雨にさらされたウッズ。

子供たちと向き合い、自分を見つめなおし、
見事に復活優勝を果たしたウッズ。
どれもタイガー・ウッズだが、
彼の言葉を追い、紐解いていくことで
人間・ウッズの実像が見えてくる。

そして逆境を乗り越えるために 一番大事なものとは……。

バックナンバー
  1. ゴルフジャーナリストが見た、
    プロゴルファーの知られざる素顔
  2. 65. 個性派M・A・ヒメネスの恩返し
  3. 64. 全英女子オープン覇者がプロゴルファーである理由
  4. 63. メジャー3勝、だからこそ「感謝」と「貢献」
  5. 62. アフリカに水をもたらすゴルフ界のレジェンド
  6. 61. 一人の少年を讃えたフリートウッドの想い
  7. 60. 母国を離れて戦うC・スミスの母国愛
  8. 59. コロナ禍の犠牲者のために尽くした素晴らしき選手
  9. 58. 親友が闘病しながら創設した財団を守り続けるプロゴルファー
  10. 57. 救った子供が未来を救う、だからこそ救いたい
  11. 56. 「みんなのハッピー」を目指す女子ゴルフのスター
  12. 55. バレステロスからラームへ、スペインのヒーロー誕生物語
  13. 54. マリア・ファッシは幸せを運ぶアンバサダー
  14. 53. 「小さな奇跡」を信じて戦う意味
  15. 52. クールなP・カントレーの温かい社会貢献
  16. 51. L・トンプソン流、ユニークな社会貢献
  17. 50. 母国への想いが奇跡を起こす!?
  18. 49. 無名の48歳の「好きな言葉」「嫌いな言葉」
  19. 48. B・デシャンボーの熱くて厚い義理人情
  20. 47. 絵を描き続ける「みんなのヒーロー」
  21. 46. 助けたからこそ、助けられたゴルフ人生
  22. 45. 夢を追いかけられる社会にしたい
  23. 44. 負けても笑顔を輝かせた意味
  24. 43. 優しく強くなったR・マキロイの社会貢献
  25. 42. ファンファーレで送り出したい全英チャンプ
  26. 41. 「僕はそういう僕でありたい」ビリー・ホーシェルの感謝と恩返し
  27. 40. チャールズ・ハウエルの恩返し
  28. 39. メジャー・チャンプの恩返し
  29. 38. 「思い出づくり」と「自転車づくり」
  30. 37. 米ツアーの黒人選手の「声」の力
  31. 36. スネデカーは「超ナイスガイ」!
  32. 35. 「世界を救うため」動いたジュニアゴルファー姉妹
  33. 34. それが「私の生きる意味」
  34. 33. 「いつかは、私が」と誓った物語
  35. 32. 亡き母の名を冠したマンモバンを走らせて
  36. 31. ケビン・ナの人気が静かに高まりつつある理由
  37. 30. ゴルフ界の「子育て」と「本当の女王」
  38. 29. 苦難を乗り越えた3世代の物語
  39. 28. 光が当たらなかった場所に光を当てる
  40. 27. 世界ナンバー1の「自分流」チャリティ
  41. 26. 「手作りゴルフ場」から出発したプロゴルファーの社会貢献
  42. 25. ゴルフ金メダリストが考える手作り感覚のチャリティ活動
  43. 24. 惜しみなく与える「DJ」の物語
  44. 23. 輝く未来を抱くチャンス
  45. 22. 帝王の優しき野望
  46. 21. 「パットの名手」は「チャリティの名手」
  47. 20. 「ケビン・キスナー」の名前と存在感
  48. 19. ゴルフの世界でも「類は友を呼ぶ」
  49. 18. ライオン・ハートのジョン・デーリー
  50. 17. 往年の名選手と名キャディからの贈り物
  51. 16. 「たった4勝」でも「メジャー無冠」でも、どんどん高まるリッキー・ファウラーの人気
  52. 15. ジャロード・ライルの36年の人生が残してくれたもの
  53. 14. 苦労したからこそ、若者たちを手助けしたいと動き出したトニー・フィノウ
  54. 13. 授かった幸運を不運な人々のために役立てたいと願うジム・フューリックと妻の社会貢献
  55. 12. 選手もキャディも主役になった日
  56. 11. タイガー・ウッズの真心のチャリティ
  57. 10. 闘病しながらチャリティにも精を出し、「とてもラッキー」と言い切る強さ
  58. 09. ベン・クレーンの終わりなき社会貢献
  59. 08. だから、アーノルド・パーマーは誰からも愛された
  60. 07. デービス・ラブの愛
  61. 06. 彼が国民的スターである理由
  62. 05. ゴルフより大切なものを知って強くなったプロゴルファー
  63. 04. アーニー・エルスの山谷の越え方
  64. 03. マスターズ2勝のバッバ・ワトソンが一人の人間として抱く夢
  65. 02. 全英オープン覇者、ジョーダン・スピースの強さの秘密
  66. 01. プロゴルファーも、お医者さまも?「らしさ」って、難しい