コラム・連載

ゴルフジャーナリストが見た、プロゴルファーの知られざる素顔

マリア・ファッシは幸せを運ぶアンバサダー

2021.12.15|text by 舩越園子

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メキシコ出身の女子プロゴルファー、マリア・ファッシと言われて、すぐさま名前と顔が一致する方は、かなりのゴルフ通だけかもしれない。

しかし、霞ヶ関カンツリー俱楽部で開催された東京五輪女子ゴルフの初日と2日目に、日本の稲見萌寧と同組で回り、ミニスカート姿でかっ飛ばしていたロングヒッターと言われたら、「ああ、あのスラリとして陽気そうな選手のこと?」と思い出すゴルフファンは多いのではないだろうか。

ファッシは米女子ツアーのLPGAを主戦場にしている23歳。彼女は、いろんな意味で「異色」の存在と言えそうだ。

ファッシの父親はメキシコの名門サッカークラブ「CFパチューカ」の副社長を務めるなどスポーツ・ビジネスに長けており、ファッシは幼いころからプロスポーツ界の空気を肌で感じながら育った。

ファッシ自身も幼少期は女子サッカーに夢中になり、その後はゴルフ、テニス、バスケットボールもしていたが、2015年と2016年にゴルフのメキシコ女子アマチュア選手権を連覇してからはゴルフに一本化した。

2018年に米アーカンソー大学へゴルフ留学。その年の秋、早々にLPGAのQスクール(予選会)を突破したが、プロ転向とツアー参戦開始を延期し、2019年4月にはマスターズ開幕前に開かれるオーガスタ女子アマチュア選手権に出場。ジェニファー・クプショと激しく優勝を競い合い、惜敗したファッシのプレーぶりに、米国のゴルフファンも釘付けになった。

その後、ファッシは米カレッジゴルフのNCAA女子選手権で個人優勝を達成。そしてようやく周囲の大きな期待に応える形で6月の全米女子オープンでプロデビューし、12位タイに食い込んだ。

将来を嘱望されたファッシは、文字通り、鳴り物入りでプロデビューしたと言っていい。しかし、本格参戦した2020年からは、あまり成績が振るわず、2年が経過しようとしている現在も、いまなお未勝利のままだ。

稲見と同組になった五輪でも持ち前のパワフルショットを生かし切れず、23位タイに終わった。

シーズン半ば以降もロレックス・ランキングは100位を下回るほど低下。ビッグ大会に出場する枠すら回って来ない日々になった。

だが、今年10月ごろから成績が少しだけ上向き始めたせいか、11月のペリカン・ウイメンズ・チャンピオンシップには、たった2枠しかない主催者推薦をオファーされ、ファッシの出場が叶った。

よくよく聞いてみると、主催者推薦を授かった最大の理由は、成績がやや上向いたことではなく、チャリティ活動に積極的に取り組んでいるファッシの人間性や生きる姿勢に対し、主催者が共感し、大いなるリスペクトを覚えたからだそうだ。

刺激をもらい、学んだ

「自分自身の財団を創設し、障害のある人々や子どもたちのためにゴルフを教えるクリニックを行なうことは、プロになったときからの私の夢でした」

大学時代から過ごしてきた米国内の「第二の故郷」アーカンソー州内で、今年9月、ついに夢を叶えたファッシは、嬉しそうに微笑みながら、そう語った。

ファッシの同い年の従姉妹、ジョセフィーナ・ゴメスは、生まれたときから耳が聞こえず、しゃべることもできないそうだ。

そのゴメスは、ファッシが母国メキシコで開催されたゴルフの大会に出場した際、会場へ足を運び、ゴルフの楽しさに触れて、「私もゴルフを始める」と心に決めた。

以来、ファッシはゴメスにゴルフを教え始め、「障害を持つゴルファーがゴルフを覚え、上達するためには、本当にいろんなことを乗り越える必要があることを私は初めて知りました」。

教える側にも、さまざまな工夫が求められることを知り、一時的に教えるのではなく、継続的にコツコツ接してレッスンをする重要性を何よりも痛感したという。

「一生懸命に、でもとても楽しそうに、ゴルフを覚え、上手くなろうと頑張るジョセフィーナから、私はたくさん刺激をもらい、学ぶことも多かった。そのとき以来、自分がプロになったら、ジョセフィーナのように障害のあるゴルファーの役に立つことがしたいと願い続けてきました」

障害児や障害者のためのゴルフ・クリニックを継続的に開催したいと考えたファッシは、今年始めに自身の財団を創設。

そして、チャリティ・ゴルフ・クリニック「マリア・ファッシ財団&ファッシズ・フレンズ」のキックオフ大会を、今年9月のLPGA大会「ウォルマートNWアーカンソー選手権」の開幕前に同州内の2コースで開いた。

以前より格段に幸せ

キックオフ大会には、LPGAのツアー仲間であるプロたちも数人、応援に駆けつけてくれたそうだ。

親友のステイシー・ルイスいわく、このチャリティ活動は、障害のある子どもたちや障害者ゴルファーに喜ばれるものであると同時に、ファッシにとっても役立つことになるのだという。

「ゴルフは、ときとしてプロゴルファー自身を追い詰めることがあります。だからこそ、ゴルフ以外にパッション(情熱)を持てる何かが必要。その『何か』がプロゴルファーの心を癒し、才能を開花させることにつながるものです」

ルイスの言葉を聞いて、ファッシ自身も大きく頷き、こう語った。

「障害を持つ子どもたちのためのゴルフ・クリニックを、いつから始めるかを決めていたわけではありませんでした。でも、私は長年、自分にはゴルフ以外に何かが足りないと感じ続けており、今、その何かが『これだったんだ』と自信を持って断言できます。

今、私は、新たなエクストラの強いモチベーションが私の中に芽生えたと感じています。だからこそ、今の私は、以前の私より、格段に幸せだと思っています」

自分自身のためにゴルフクラブを振ってきたファッシが、誰かのためにゴルフをする喜びを知ったら、それが自分のためになり、より一層、幸せだと思えるようになっている。

そうやってプロゴルファーが幸福を運ぶアンバサダーとして社会に貢献できることは、ゴルフがこの世に存在する一番の意義だと私は思う。

次回は1月15日公開予定!

バックナンバー
  1. ゴルフジャーナリストが見た、
    プロゴルファーの知られざる素顔
  2. 59. コロナ禍の犠牲者のために尽くした素晴らしき選手
  3. 58. 親友が闘病しながら創設した財団を守り続けるプロゴルファー
  4. 57. 救った子供が未来を救う、だからこそ救いたい
  5. 56. 「みんなのハッピー」を目指す女子ゴルフのスター
  6. 55. バレステロスからラームへ、スペインのヒーロー誕生物語
  7. 54. マリア・ファッシは幸せを運ぶアンバサダー
  8. 53. 「小さな奇跡」を信じて戦う意味
  9. 52. クールなP・カントレーの温かい社会貢献
  10. 51. L・トンプソン流、ユニークな社会貢献
  11. 50. 母国への想いが奇跡を起こす!?
  12. 49. 無名の48歳の「好きな言葉」「嫌いな言葉」
  13. 48. B・デシャンボーの熱くて厚い義理人情
  14. 47. 絵を描き続ける「みんなのヒーロー」
  15. 46. 助けたからこそ、助けられたゴルフ人生
  16. 45. 夢を追いかけられる社会にしたい
  17. 44. 負けても笑顔を輝かせた意味
  18. 43. 優しく強くなったR・マキロイの社会貢献
  19. 42. ファンファーレで送り出したい全英チャンプ
  20. 41. 「僕はそういう僕でありたい」ビリー・ホーシェルの感謝と恩返し
  21. 40. チャールズ・ハウエルの恩返し
  22. 39. メジャー・チャンプの恩返し
  23. 38. 「思い出づくり」と「自転車づくり」
  24. 37. 米ツアーの黒人選手の「声」の力
  25. 36. スネデカーは「超ナイスガイ」!
  26. 35. 「世界を救うため」動いたジュニアゴルファー姉妹
  27. 34. それが「私の生きる意味」
  28. 33. 「いつかは、私が」と誓った物語
  29. 32. 亡き母の名を冠したマンモバンを走らせて
  30. 31. ケビン・ナの人気が静かに高まりつつある理由
  31. 30. ゴルフ界の「子育て」と「本当の女王」
  32. 29. 苦難を乗り越えた3世代の物語
  33. 28. 光が当たらなかった場所に光を当てる
  34. 27. 世界ナンバー1の「自分流」チャリティ
  35. 26. 「手作りゴルフ場」から出発したプロゴルファーの社会貢献
  36. 25. ゴルフ金メダリストが考える手作り感覚のチャリティ活動
  37. 24. 惜しみなく与える「DJ」の物語
  38. 23. 輝く未来を抱くチャンス
  39. 22. 帝王の優しき野望
  40. 21. 「パットの名手」は「チャリティの名手」
  41. 20. 「ケビン・キスナー」の名前と存在感
  42. 19. ゴルフの世界でも「類は友を呼ぶ」
  43. 18. ライオン・ハートのジョン・デーリー
  44. 17. 往年の名選手と名キャディからの贈り物
  45. 16. 「たった4勝」でも「メジャー無冠」でも、どんどん高まるリッキー・ファウラーの人気
  46. 15. ジャロード・ライルの36年の人生が残してくれたもの
  47. 14. 苦労したからこそ、若者たちを手助けしたいと動き出したトニー・フィノウ
  48. 13. 授かった幸運を不運な人々のために役立てたいと願うジム・フューリックと妻の社会貢献
  49. 12. 選手もキャディも主役になった日
  50. 11. タイガー・ウッズの真心のチャリティ
  51. 10. 闘病しながらチャリティにも精を出し、「とてもラッキー」と言い切る強さ
  52. 09. ベン・クレーンの終わりなき社会貢献
  53. 08. だから、アーノルド・パーマーは誰からも愛された
  54. 07. デービス・ラブの愛
  55. 06. 彼が国民的スターである理由
  56. 05. ゴルフより大切なものを知って強くなったプロゴルファー
  57. 04. アーニー・エルスの山谷の越え方
  58. 03. マスターズ2勝のバッバ・ワトソンが一人の人間として抱く夢
  59. 02. 全英オープン覇者、ジョーダン・スピースの強さの秘密
  60. 01. プロゴルファーも、お医者さまも?「らしさ」って、難しい

著者プロフィール

舩越園子 近影
舩越 園子(ふなこし そのこ)

ゴルフジャーナリスト

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。
百貨店、広告代理店勤務を経て1989年にフリーライターとして独立。93年渡米。

在米ゴルフジャーナリストとして新聞、雑誌、ウエブサイト等への執筆に加え、講演やテレビ、ラジオにも活動の範囲を広げている。

『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。

アトランタ、フロリダ、ニューヨークを経て、現在はロサンゼルス在住。

最新の書籍紹介

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タイガー・ウッズ 復活の言霊
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復活劇の裏にあったウッズの想い
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まさかの逮捕劇……と、
人生の風雨にさらされたウッズ。

子供たちと向き合い、自分を見つめなおし、
見事に復活優勝を果たしたウッズ。
どれもタイガー・ウッズだが、
彼の言葉を追い、紐解いていくことで
人間・ウッズの実像が見えてくる。

そして逆境を乗り越えるために 一番大事なものとは……。

バックナンバー
  1. ゴルフジャーナリストが見た、
    プロゴルファーの知られざる素顔
  2. 59. コロナ禍の犠牲者のために尽くした素晴らしき選手
  3. 58. 親友が闘病しながら創設した財団を守り続けるプロゴルファー
  4. 57. 救った子供が未来を救う、だからこそ救いたい
  5. 56. 「みんなのハッピー」を目指す女子ゴルフのスター
  6. 55. バレステロスからラームへ、スペインのヒーロー誕生物語
  7. 54. マリア・ファッシは幸せを運ぶアンバサダー
  8. 53. 「小さな奇跡」を信じて戦う意味
  9. 52. クールなP・カントレーの温かい社会貢献
  10. 51. L・トンプソン流、ユニークな社会貢献
  11. 50. 母国への想いが奇跡を起こす!?
  12. 49. 無名の48歳の「好きな言葉」「嫌いな言葉」
  13. 48. B・デシャンボーの熱くて厚い義理人情
  14. 47. 絵を描き続ける「みんなのヒーロー」
  15. 46. 助けたからこそ、助けられたゴルフ人生
  16. 45. 夢を追いかけられる社会にしたい
  17. 44. 負けても笑顔を輝かせた意味
  18. 43. 優しく強くなったR・マキロイの社会貢献
  19. 42. ファンファーレで送り出したい全英チャンプ
  20. 41. 「僕はそういう僕でありたい」ビリー・ホーシェルの感謝と恩返し
  21. 40. チャールズ・ハウエルの恩返し
  22. 39. メジャー・チャンプの恩返し
  23. 38. 「思い出づくり」と「自転車づくり」
  24. 37. 米ツアーの黒人選手の「声」の力
  25. 36. スネデカーは「超ナイスガイ」!
  26. 35. 「世界を救うため」動いたジュニアゴルファー姉妹
  27. 34. それが「私の生きる意味」
  28. 33. 「いつかは、私が」と誓った物語
  29. 32. 亡き母の名を冠したマンモバンを走らせて
  30. 31. ケビン・ナの人気が静かに高まりつつある理由
  31. 30. ゴルフ界の「子育て」と「本当の女王」
  32. 29. 苦難を乗り越えた3世代の物語
  33. 28. 光が当たらなかった場所に光を当てる
  34. 27. 世界ナンバー1の「自分流」チャリティ
  35. 26. 「手作りゴルフ場」から出発したプロゴルファーの社会貢献
  36. 25. ゴルフ金メダリストが考える手作り感覚のチャリティ活動
  37. 24. 惜しみなく与える「DJ」の物語
  38. 23. 輝く未来を抱くチャンス
  39. 22. 帝王の優しき野望
  40. 21. 「パットの名手」は「チャリティの名手」
  41. 20. 「ケビン・キスナー」の名前と存在感
  42. 19. ゴルフの世界でも「類は友を呼ぶ」
  43. 18. ライオン・ハートのジョン・デーリー
  44. 17. 往年の名選手と名キャディからの贈り物
  45. 16. 「たった4勝」でも「メジャー無冠」でも、どんどん高まるリッキー・ファウラーの人気
  46. 15. ジャロード・ライルの36年の人生が残してくれたもの
  47. 14. 苦労したからこそ、若者たちを手助けしたいと動き出したトニー・フィノウ
  48. 13. 授かった幸運を不運な人々のために役立てたいと願うジム・フューリックと妻の社会貢献
  49. 12. 選手もキャディも主役になった日
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  51. 10. 闘病しながらチャリティにも精を出し、「とてもラッキー」と言い切る強さ
  52. 09. ベン・クレーンの終わりなき社会貢献
  53. 08. だから、アーノルド・パーマーは誰からも愛された
  54. 07. デービス・ラブの愛
  55. 06. 彼が国民的スターである理由
  56. 05. ゴルフより大切なものを知って強くなったプロゴルファー
  57. 04. アーニー・エルスの山谷の越え方
  58. 03. マスターズ2勝のバッバ・ワトソンが一人の人間として抱く夢
  59. 02. 全英オープン覇者、ジョーダン・スピースの強さの秘密
  60. 01. プロゴルファーも、お医者さまも?「らしさ」って、難しい