コラム・連載

在米ゴルフジャーナリストが見た、プロゴルファーの知られざる素顔

ゴルフの世界でも「類は友を呼ぶ」

2019.1.15|text by 舩越園子

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 「類は友を呼ぶ」という言葉がある。その通り、米ゴルフツアーで仲良くしている選手たちを眺めていると、なるほど。類は友を呼ぶものなんだなあと頷かされる場面に頻繁に出会うから面白い。
 あれは昨年4月のマスターズ開幕直前の水曜日の昼下がりだった。大会の舞台、オーガスタ・ナショナルでは「パー3コンテスト」が賑やかに開催されていた。
 オーガスタ・ナショナルの一角には、試合で使用されるコースとは別に、パー3ばかりの9ホールで構成されるパー3コースがある。
 毎年恒例の「パー3コンテスト」は、練習日に訪れた人々に楽しんでもらうために行われるお祭り的な催しだ。試合には出場しない往年の名選手から大会初出場のヤングプレーヤーまで多彩な顔ぶれが集い、自身の妻や幼い子供たちなど思い思いの「臨時キャディ」を伴って、和気あいあいのムードの中でパー3コースをプレーする。ときには臨時キャディにショットやパットを打たせてみることもあり、詰め寄せた大観衆は日頃の試合では見ることのできない選手たちのアットホームな一面を楽しむことができる。
 昨年のパー3コンテストで、とりわけ明るいムードを醸し出していたのは、親友どうし、同組で回っていたジャスティン・トーマス、ジョーダン・スピース、リッキー・ファウラーの仲良しトリオだった。
 8番ホールでティショットをピンそば30センチほどにピタリと付けたトーマスが突然、ティグラウンドの周囲のギャラリーの群れに向かって「僕のバーディーパットを僕の代わりに決めてくれる子、いないかい?」と問いかけた。
 たった30センチの短いパットとはいえ、大観衆に見守られながらトッププレーヤーのバーディーパットに挑むことは子供たちにとっては勇気が要ることだったのだろう。誰もが尻込みしていたが、父親に背中を押された少年が一人、トーマスに導かれてロープの内側へやってきた。
 トーマスは少年をグリーン上へ連れていき、パターの握り方や打ち方を丁寧に教え、正しくセットアップさせて、「よし、これで大丈夫。打ってごらん!」。
 いざ、少年が打ち出した30センチのバーディーパットがカップに沈んだ瞬間、トーマスは少年とハイファイブを交わし、2人の様子を温かい笑顔で見守っていた同組のスピースとファウラーも「イエ―!」「やったね!」と喜びの声。大観衆も大きな拍手と歓声を送った。

スピースも。

 トーマスは10歳のとき、ゴルフのクラブプロだった父親や祖父に連れられてマスターズ観戦に訪れ、パー3コンテストで「名前はわからなかったけど、1人の選手がギャラリーの中から子供を選び、パットさせているのを見て、僕は羨ましくてたまらなかった」。
 そのときトーマスは「僕もパットに挑みたかった」と感じるとともに、子供にパットさせるファンサービスを提供できる選手がかっこいいと感じたそうだ。
 自分自身がトッププレーヤーになった今、同じことを自分自身で実践し、子供たちや人々を喜ばせたトーマスの姿はとても素敵だった。
 そして何より興味深いと感じたのは、トーマスと同組で回っていた親友2人もトーマス同様、子供たちや人々の夢を膨らませ、社会に尽くすトッププレーヤーであるという事実だった。
 スピースの家族に対する想い、とりわけ妹エリーに対して抱く気持ちや姿勢については、以前にも、このコーナーでご紹介した。
 スピースが7歳のときに生まれた妹エリーは神経に障害を持ち、兄は妹を「一生、僕が守る」と心に誓った。スペシャル・スクールの送迎をしたり、ときにはスクールでボランティアワークをしたり。スピース自身、そうやってエリーとともに成長していった。
 妹は兄を誰にも負けないスーパーマンだと信じ、そんな妹を喜ばせたい一心で兄はゴルフの腕を磨き、プロになり、メジャーチャンピオンになり、世界一にも輝いた。
 トッププレーヤーになったスピースが真っ先に行ったこと。それは、妹エリーや自分自身、スピース一家を支えてくれた地域の人々、機関、団体、社会に対する恩返しだった。
 スピース・ファミリー財団を創設し、チャリティ・トーナメント開催をはじめとする様々な社会貢献活動を開始。幼馴染みでもあり、昨冬に結婚した妻アニーも、スピースと同じように社会に尽くすことに生きがいを感じている。
 アニーは大学卒業後、ゴルフを活かして子供たちの人間育成を図る非営利団体「ザ・ファーストティ」に就職。昨今はホームレス生活やシェルター生活を余儀なくされている人々や子供たちの誕生日を祝って心を開き、社会復帰を促す非営利団体「ザ・バースデー・パーティー・プロジェクト」のディレクターを務めている。

ファウラーも。

 そして、もう一人のトッププレーヤー、ファウラーが、どれほど子供たちや人々に優しい視線を向けているかについては、昨年のこのコーナーでお伝えしたばかりだ。
 ある日、試合会場のロープ外の丘の上で、ソリのような乗り物の上から笑顔で手を振っていた幼い少年の姿に気が付いたファウラーは、試合中にも関わらず、少年に歩み寄った。
 少年は気道に障害を持って生まれ、言葉を発することができなかったが、ファウラーはそれから5年間、少年とメールなどでやり取りを続け、試合会場では毎年会って交流と激励を続けてきた。
 昨年大会直前に少年が息を引き取ると、ファウラーは少年の写真を付したバッヂを作って会場で配布。自らもバッジをキャップに付けて4日間を戦った。
 やはり昨年、白血病との3度の闘病を経て他界したオーストラリア人選手、ジャロード・ライルを、「僕の親友」と呼び、支えてきたのもファウラーだった。
 「誰かのために戦う選手は勝てないなんて謂れがあるけど、でも僕は誰かのためにゴルフをしたい」とファウラーは言う。
 スピースも「僕にとって大事なものの一番は家族や妻、そして友人で、ゴルフは3番目、4番目にすぎない」と言い切る。
 同じ方向を向いているスピース、ファウラー、トーマスらが親友であることが、「なるほど」と頷けるのではないだろうか。
 類は友を呼ぶ――彼らと「同じ類」に是非とも入りたい、入ろうと私も心に誓った。

次回は2月15日公開予定!

バックナンバー
  1. ゴルフジャーナリストが見た、
    プロゴルファーの知られざる素顔
  2. 82. 「破竹」のナップが願うこと
  3. 81. M・ホーマの「故郷への恩返し」
  4. 80. トレーラーハウスで誓ったこと
  5. 79. 命のリレー、命のショー
  6. 78. 奇跡の復活優勝、「ミーアのミラクル」
  7. 77. 「永遠の女王」A・ソレンスタム
  8. 76. L・グローバーを大きく開花させたもの
  9. 75. 大きなゴールのための小さな目標
  10. 74. 「三つ子の魂」子どもたちのヒーロー
  11. 73. 「誰かのため」を最優先するホブランは、だからこそ人気急上昇中!
  12. 72. 亡き母のために「優勝して財団設立」を目指したW・クラークの勝利
  13. 71. 「脚光」と「薄幸」のビッグスター
  14. 70. 何かに苦しむ誰かのために活動する「フェアウエイの妖精」
  15. 69. 「0.006%」を潜り抜けたバックリーがもたらす幸運
  16. 68. 故郷をジュニア天国へ。S・ストーリングスの社会貢献
  17. 67. 鉄人レースに挑んだ女子プロのチャレンジ
  18. 66. 「ナイスガイだからこそ」のメジャー制覇と社会貢献
  19. 65. 個性派M・A・ヒメネスの恩返し
  20. 64. 全英女子オープン覇者がプロゴルファーである理由
  21. 63. メジャー3勝、だからこそ「感謝」と「貢献」
  22. 62. アフリカに水をもたらすゴルフ界のレジェンド
  23. 61. 一人の少年を讃えたフリートウッドの想い
  24. 60. 母国を離れて戦うC・スミスの母国愛
  25. 59. コロナ禍の犠牲者のために尽くした素晴らしき選手
  26. 58. 親友が闘病しながら創設した財団を守り続けるプロゴルファー
  27. 57. 救った子供が未来を救う、だからこそ救いたい
  28. 56. 「みんなのハッピー」を目指す女子ゴルフのスター
  29. 55. バレステロスからラームへ、スペインのヒーロー誕生物語
  30. 54. マリア・ファッシは幸せを運ぶアンバサダー
  31. 53. 「小さな奇跡」を信じて戦う意味
  32. 52. クールなP・カントレーの温かい社会貢献
  33. 51. L・トンプソン流、ユニークな社会貢献
  34. 50. 母国への想いが奇跡を起こす!?
  35. 49. 無名の48歳の「好きな言葉」「嫌いな言葉」
  36. 48. B・デシャンボーの熱くて厚い義理人情
  37. 47. 絵を描き続ける「みんなのヒーロー」
  38. 46. 助けたからこそ、助けられたゴルフ人生
  39. 45. 夢を追いかけられる社会にしたい
  40. 44. 負けても笑顔を輝かせた意味
  41. 43. 優しく強くなったR・マキロイの社会貢献
  42. 42. ファンファーレで送り出したい全英チャンプ
  43. 41. 「僕はそういう僕でありたい」ビリー・ホーシェルの感謝と恩返し
  44. 40. チャールズ・ハウエルの恩返し
  45. 39. メジャー・チャンプの恩返し
  46. 38. 「思い出づくり」と「自転車づくり」
  47. 37. 米ツアーの黒人選手の「声」の力
  48. 36. スネデカーは「超ナイスガイ」!
  49. 35. 「世界を救うため」動いたジュニアゴルファー姉妹
  50. 34. それが「私の生きる意味」
  51. 33. 「いつかは、私が」と誓った物語
  52. 32. 亡き母の名を冠したマンモバンを走らせて
  53. 31. ケビン・ナの人気が静かに高まりつつある理由
  54. 30. ゴルフ界の「子育て」と「本当の女王」
  55. 29. 苦難を乗り越えた3世代の物語
  56. 28. 光が当たらなかった場所に光を当てる
  57. 27. 世界ナンバー1の「自分流」チャリティ
  58. 26. 「手作りゴルフ場」から出発したプロゴルファーの社会貢献
  59. 25. ゴルフ金メダリストが考える手作り感覚のチャリティ活動
  60. 24. 惜しみなく与える「DJ」の物語
  61. 23. 輝く未来を抱くチャンス
  62. 22. 帝王の優しき野望
  63. 21. 「パットの名手」は「チャリティの名手」
  64. 20. 「ケビン・キスナー」の名前と存在感
  65. 19. ゴルフの世界でも「類は友を呼ぶ」
  66. 18. ライオン・ハートのジョン・デーリー
  67. 17. 往年の名選手と名キャディからの贈り物
  68. 16. 「たった4勝」でも「メジャー無冠」でも、どんどん高まるリッキー・ファウラーの人気
  69. 15. ジャロード・ライルの36年の人生が残してくれたもの
  70. 14. 苦労したからこそ、若者たちを手助けしたいと動き出したトニー・フィノウ
  71. 13. 授かった幸運を不運な人々のために役立てたいと願うジム・フューリックと妻の社会貢献
  72. 12. 選手もキャディも主役になった日
  73. 11. タイガー・ウッズの真心のチャリティ
  74. 10. 闘病しながらチャリティにも精を出し、「とてもラッキー」と言い切る強さ
  75. 09. ベン・クレーンの終わりなき社会貢献
  76. 08. だから、アーノルド・パーマーは誰からも愛された
  77. 07. デービス・ラブの愛
  78. 06. 彼が国民的スターである理由
  79. 05. ゴルフより大切なものを知って強くなったプロゴルファー
  80. 04. アーニー・エルスの山谷の越え方
  81. 03. マスターズ2勝のバッバ・ワトソンが一人の人間として抱く夢
  82. 02. 全英オープン覇者、ジョーダン・スピースの強さの秘密
  83. 01. プロゴルファーも、お医者さまも?「らしさ」って、難しい

著者プロフィール

舩越園子 近影舩越園子(ふなこし そのこ)

在米ゴルフジャーナリスト

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年にフリーライターとして独立。93年渡米。在米ゴルフジャーナリストとして新聞、雑誌、ウエブサイト等への執筆に加え、講演やテレビ、ラジオにも活動の範囲を広げている。『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。アトランタ、フロリダ、ニューヨークを経て、現在はロサンゼルス在住。


バックナンバー
  1. ゴルフジャーナリストが見た、
    プロゴルファーの知られざる素顔
  2. 82. 「破竹」のナップが願うこと
  3. 81. M・ホーマの「故郷への恩返し」
  4. 80. トレーラーハウスで誓ったこと
  5. 79. 命のリレー、命のショー
  6. 78. 奇跡の復活優勝、「ミーアのミラクル」
  7. 77. 「永遠の女王」A・ソレンスタム
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  14. 70. 何かに苦しむ誰かのために活動する「フェアウエイの妖精」
  15. 69. 「0.006%」を潜り抜けたバックリーがもたらす幸運
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  79. 05. ゴルフより大切なものを知って強くなったプロゴルファー
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