コラム・連載

在米ゴルフジャーナリストが見た、プロゴルファーの知られざる素顔

闘病しながらチャリティにも精を出し、「とてもラッキー」と言い切る強さ

2018.4.15|text by 舩越園子

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「チャリティ」と言えば、災害や傷病で苦しむ人々に救いの手を差し伸べるものだと思われがちである。
 だが、苦しい状況にある当の本人が、同じように苦境にある人々に向けて「一緒にがんばろうね」「諦めずにがんばろうね」とエールを送るチャリティもある。
 自分が苦しい中で、その苦しさと闘いながらチャリティを行なうのだから、求められる体力気力がどれほどのものであるかは、想像すら及ばない。
 しかし、それを「苦しい」とは言わず、「そうすることが、僕がこの世に存在する意味だから」と笑顔で言い切るプロゴルファーがいる。

今、右胸の筋力が失われている

 アメリカに『プレーヤー・トリビューン』という、ちょっと風変わりな新聞がある。さまざまなフィールドのスポーツ選手たちは、日頃はメディアに取材され、メディアの言葉で記事になる。
だが、そうではなく、選手自身が自分の言葉で想いを綴り、世の中に発信していく媒体があってもいいのではないかということで創設された“アスリート新聞”のようなウエブサイト、それが『プレーヤー・トリビューン』である。
 昨年12月、その“アスリート新聞”に米ツアー選手のモーガン・ホフマンが寄稿した。
いわゆる記事を書くのは初めてで不慣れだと前置きされていたホフマンのその記事には、「だから、とてもラッキー」という見出しが付されていた。
 何の話だろうかと気になり、何気なく読み始め、そのまま引き込まれ、最後には胸が震えた。
 ホフマンは28歳の米国人選手。ゴルフの名門オクラホマ州立大学を卒業後、2011年にプロ転向したのだが、そのころから彼は自分のスイングスピードが徐々に落ちていると感じ、「25人ものドクターに診てもらったが、原因はわからなかった」。
 自分の肉体に感じる異常に不安を覚えながらも、ホフマンは2013年に米ツアーデビューを果たした。2015年には夢にまで見たマスターズ初出場も果たし、着実に成績を向上させていた。
「初優勝はもうすぐそこまで来ていると感じていた」という2016年11月、ホフマンは筋ジストロフィーと診断された。
「筋肉が萎縮し、筋力が低下していく難病だ。歩行や呼吸、食べ物を飲み込むことが困難になる人もいるそうだ。僕は今、右胸の筋力がほぼ失われ、まったく力が入らない。すぐに命が危うくなる状態ではないそうだが、そうなる可能性もあり、症状が悪化していくスピードや広がり方を測る術もない」
 ホフマンは、そう綴っていた。

キミの後ろには僕もいる

 そんな診断を下されたら、誰だって戸惑い、取り乱し、悲嘆に暮れてしまうだろう。ましてや、プロゴルファーとして転戦生活を続けていくことなど、できようがはずがないと絶望してしまいそう。
 だが、ホフマンはそうなる代わりに、難病に闘いを挑んだ。
「米ツアーで勝つという僕の夢を病気なんかに奪わせたりはしない」
 そして、筋ジストロフィーを1人でも多くの人々に知ってもらい、治療法の研究開発のための寄付を募るチャリティ基金を自ら創設。故郷のニュージャージー州でホフマン自身も「もちろん参加する」というチャリティゴルフも計画している。
 筋ジストロフィーであることを告げられた3か月後の昨年2月には、米ツアーのホンダクラシックで大学ゴルフ部のチームメイトだったリッキー・ファウラーと優勝争いを演じ、2位になった。
 そのときすでにホフマンの右胸は筋力を失っていた。入れたくも入ってはくれない力を振り絞り、それでも初優勝を追いかけ続けた昨年1年間を経て、年の瀬に彼は自身の病気を公表した。
「病気や何かの困難に苦しんでいる人々に僕は呼びかけたい。キミたちの後ろには僕もいるということを知っていてもらいたい」

ツアーきってのナイスガイとしてみんなから慕われているベン・クレーン。米ツアー通算5勝を挙げた実績の持ち主だ photo by 舩越園子 闘病しながらチャリティにも精を出し、「とてもラッキー」と言い切る強さ(photo: 舩越園子)

僕が存在している意味だ

 クラブを握れる限り、プレーができる限り、試合に出て、そして初優勝を目指して、プロゴルファー業を続けていくとホフマンは言う。
「ドクターたちは研究や実験を進めてくれている。前進していると信じている。絶対に望みは捨てない。どんなこともアングルを変えて眺めれば、人生を笑顔でいっぱいにすることができる。そうすることが、僕がこの地球上に生を受け、存在している意味、それができる僕は、だからとてもラッキーだ」
 私ごとながら、私の父は晩年、脊髄小脳変性症という難病におかされ、2009年に他界した。診断されたのは2007年。わずか2年のうちに、どんどん進行していった父の症状は、ホフマン自身が描写している症状とよく似ていた。
 力が入らず、体が動かず、自分の意志とは無関係に自分の肉体が自分のものではなくなっていく失望感と絶望感。父の苦しみを間近に見た私にとって、それでも初優勝の夢を諦めず追い続け、自分も苦しみの中にありながらチャリティにも精を出しているホフマンの強さは、驚きを超え、天命を全うする神からの使者のようにさえ感じられる。
 今年もホフマンは米ツアーを転戦中だ。1月から5試合に出場し、予選落ち3回、棄権が1回と苦しんでいるが、昨年2位になったホンダクラシックでは、初日に67をマークして好発進。「60台のスコアだって出せるんだ」と笑顔を輝かせていた。
 ゴルフクラブを振ることで、諦めないことの大切さ、生きることの大切さ、そして自分が存在することの意味を1人でも多くの人々に伝えようと頑張っているホフマン。そんな彼の笑顔と勇気を、私はペンを執ることで日本へ伝えたい。

次回は5月15日公開予定!

バックナンバー
  1. 在米ゴルフジャーナリストが見た、
    プロゴルファーの知られざる素顔
  2. 10.闘病しながらチャリティにも精を出し、「とてもラッキー」と言い切る強さ
  3. 09.ベン・クレーンの終わりなき社会貢献
  4. 08.だから、アーノルド・パーマーは誰からも愛された
  5. 07.デービス・ラブの愛
  6. 06.彼が国民的スターである理由
  7. 05.ゴルフより大切なものを知って強くなったプロゴルファー
  8. 04.アーニー・エルスの山谷の越え方
  9. 03.マスターズ2勝のバッバ・ワトソンが一人の人間として抱く夢
  10. 02.全英オープン覇者、ジョーダン・スピースの強さの秘密
  11. 01.プロゴルファーも、お医者さまも?「らしさ」って、難しい

著者プロフィール

舩越園子 近影舩越園子(ふなこし そのこ)

在米ゴルフジャーナリスト

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年にフリーライターとして独立。93年渡米。在米ゴルフジャーナリストとして新聞、雑誌、ウエブサイト等への執筆に加え、講演やテレビ、ラジオにも活動の範囲を広げている。『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。アトランタ、フロリダ、ニューヨークを経て、現在はロサンゼルス在住。