医者が知らない医療の話
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第33回

新型コロナウイルスの治療薬候補

《 2020.06.10 》

 ウイルス感染は当然免疫に関わる話になる。で、もって「コロナに効く薬ないですか?」とよく訊かれる。この「効く」と言うのが曲者で、一般的に「ウイルスを排除する」と言う意味に取られる。ご存知のように、色々言われている薬も、「ウイルスを殺す」のではなく「ウイルスの増殖を止める」作用しか無い。結局は自己の免疫力を高めるしか無い訳で、前回までに書いてように生活習慣上の注意になる。
 ところが、「過食しないで、暖かくして寝てれば良いですよ。」では皆さんご不満なのだ。「え~それだけですか?」と来る。
 結局、自然免疫あたりの話をして、うちのサプリを勧める。これは、マクロファージを活性化させて、免疫を調整させるので、自己免疫性疾患などにも良いのだが、勿論免疫力を上げるので、コロナ予防にはちょうど良いのだ。(ちょっと宣伝入っています)

 一方、もうちょっと詳しい方々との会話になると「何が効く?」より「何で効く?」に関心が行く。抗インフルエンザ剤ならまだ分かるが、寄生虫薬や膵炎の薬、はては喘息のステロイド剤まで。なんか多士済々の感があるが、そろそろ絞られてきたかな。
 アメリカのトランプ大統領なんかは「ヒドロキシクロロキンやその類似薬のクロロキンと、抗ウイルス薬のレムデシビルはゲーム チェンジャーである可能性がある。」としてレムデシビルは早々に認可を下ろし、日本にも入ってきた(押し付けられた?)。また、自身でも安全性に問題があるとされている抗マラリア薬のヒドロキシクロロキンを内服していたりと強力に推しているがさてさて。取り敢えず以下列記すると。

Remdesivir(レムデシビル)
コロナウイルスと受容体ACE2レセプターとの結合を阻害し、ウイルスのRNA合成を阻害する。アビガンもこの系統。
ただし中国での結果は、投与した患者としなかった患者では症状の改善に差がなかったが、発症早期にレムデシビルを投与した患者では、50%程度、回復が早まる傾向はみられたと言う。まだ、有効性が確立したわけでは無いのだが。

hydroxychloroquine/chloroquine(ヒドロクロロキン/クロロキン)
マラリア やSLEの治療薬として用いられているが、ウイルスの細胞侵入を抑えると考えられており、新型コロナウイルスに効果があると考えられている。しかし臨床試験では効果があったり無かったりと評価が定まらない。又、心毒性 や腎毒性などの副作用がある為、予防投与には疑問符がつく。しかし、トランプさん、アメリカの大統領が服用しているって、正直どうなんだろう?気持ちはわからないでも無いが。日本の要人みたいにコソッとアビガン服用したり出来ないのかね?コソッと。

lopinavir/ritonavir(ロピナビル/リトナビル)
抗HIV薬であり、ウイルスの増殖に必要なタンパク質分解酵素を阻害する。新型コロナウイルスにも治療効果が期待されるが、中国での臨床試験の結果によると、コントロールと比べて統計学的 に有意な効果は観察されなかった。

Camostat mesylate(カモスタット)
膵炎の治療薬で「フオイパン」なんか消化器系の先生方は古典的な馴染みの薬剤ではなかろうか。蛋白分解酵素の阻害剤がS蛋白など宿主の呼吸器系細胞から分泌される蛋白分解酵素(セリンプロテアーゼなど)で分裂して活性化するのを止めるのでは無いかと言われている。

Ciclesonide(シクレソニド)
気管支喘息治療に持ちいられる吸入タイプのステロイド。本来は免疫抑制に働くため、有効な抗菌剤や抗ウイルス剤が存在しない感染症での使用は禁忌のはずだが、2015年に韓国でCOVID-19と同じコロナウイルス感染症であるMARS流行の際に治療薬として取り上げられていたから候補に上がったのだろう。
今回、日本でもCOVID-19早期~中期の患者3人に投与。良好な結果が出たとの報告があるが、よくわかっていない。

Favipiravir(ファビビラビル)
製品名アビガン。Remdesivir同様、RNA合成を阻害するが、 Remdesivirより高濃度が必要。又、催奇形性があるため妊婦には使えないなどの制約はある。
アビガンにリボースが付加されると,RNAの材料となるグアノシンやアデノシンの前段階のイノシンに至る前駆物質であるAICARに構造が似る。そのため,ウイルスのRNA依存 性RNA合成酵素 (RdRp) は,伸長中のウイルスRNAに,アビガンをグアノシンや アデノシンと間違えて取り込んでしまい,そこで,RNA合成が停止する。アビガンの阻害活性はインフルエ ンザウイルスだけでなく,ほとんどのRNAウイルスのRdRpに対して,伸長を停止する活性を有する為、新型コロナウイルスへの効果が期待されている。

Ivermectin(イベルメクチン)
商品名「ストロメクトール」。抗寄生虫薬と言うけれど、介護施設や療養型の長期入院病棟なんかをみてる先生方にはお馴染みの薬。厄介な「疥癬」が出たら周りの患者さんにも早めに投与したりする。
コロナウイルス阻害作用は、細胞質のタンパク質を核内へ運ぶ分子 であるインポーチンと結合して、細胞内伝達シグナルの核内移行を抑制する。 その結果、コロナウイルスが インターフェロン 誘導等の自然免疫系の活性化を阻害するのを妨害します。そ の結果、宿主の自然免疫系が活動しコロナウイルスの増殖を抑制するらしい。

 ざっとこんな所だろうが、本来はまだ検証途中の薬剤をどれが効くかと予想するのは不遜な気もするが、なんせ、世界的にこれだけ流行しているんだから、有効な薬剤が出てこない事には人々の不安も抑えられないと思う。
 そこで、「周りの人達」との話だと、Ivermectin(イベルメクチン)一押しかな?それに長年臨床で使用、しかも免疫の落ちている寝たきりのお年寄り対象で用いられている安心感が大きい。
 そして、やっぱりFavipiravir(ファビビラビル)アビガン。抗RNAウイルス薬だけに解りやすい。錠剤で摂取しやすい。催奇形性も、妊婦さんにはマズイが、薬効期間が過ぎるまで男女共妊娠を我慢すれば良い。副作用による不利益と、早期投与による重症化率の低下を天秤に掛けると早く認可した良いと思うのだが、如何だろうか?中々、有効なデーターが出ないとかで承認されてないが。ウイルス量の少ない軽症者や無症状者では統計学的な優位差って出にくいと思う。中国では有効なデーターが出たとしてジャンジャン製造している。日本にも入って来ていると聞いてるが、真偽は判らない。でも、有名人でもコソッと内服して治した人は知っているから、トランプさんじゃ無いけど、みんな早く欲しいのは間違いない。流石に7月には承認されるらしいですよ。

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著者プロフィール

中川 泰一 近影Dr.中川 泰一

中川クリニック 院長

1977年関西医科大学卒業。1995年関西医科大学大学院博士課程修了。
1995年より関西医科大学附属病院勤務などを経て2006年、ときわ病院院長就任。
2016年より現職。


バックナンバー
  1. Dr.中川泰一の
    医者が知らない医療の話
  2. 34. エクソソーム (Exosome) − 細胞間情報伝達物質
  3. 33. 新型コロナウイルスの治療薬候補
  4. 32. 熱発と免疫力の関係
  5. 31. コロナウイルス肺炎 III
  6. 30. コロナウイルス肺炎 II
  7. 29. コロナウイルス肺炎
  8. 28. 腸内細菌叢による世代間の情報伝達
  9. 27. ストレスプログラム
  10. 26. 「ダイエット薬」のお話
  11. 25. inflammasome(インフラマゾーム)の活性化
  12. 24. マクロファージと腸内フローラ
  13. 23. NK細胞を用いたCAR-NK
  14. 22. CAR(chimeric antigen receptor)-T療法
  15. 21. 組織マクロファージ間のネットワーク
  16. 20. 肥満とマクロファージ
  17. 19. アルツハイマー病とマクロファージ
  18. 18. ミクログリアは「脳内のマクロファージ」
  19. 17. 「経口寛容」と腸内フローラ
  20. 16. 腸内フローラとアレルギー
  21. 15. マクロファージの働きは非常に多彩
  22. 14. 自然免疫の主役『マクロファージ』
  23. 13. 自然免疫と獲得免疫
  24. 12. 結核菌と癌との関係
  25. 11. BRM(Biological Response Modifiers)療法
  26. 10. 癌ワクチン(樹状細胞ワクチン)
  27. 09. 癌治療の免疫療法の種類について
  28. 08. 食物繊維の摂取量の減少と肥満
  29. 07. 免疫系に重要な役割を持つ腸内細菌
  30. 06. 肥満も感染症? 免疫に関わる腸の話(2)
  31. 05. 肥満も感染症? 免疫に関わる腸の話(1)
  32. 04. なぜ免疫療法なのか?(1)
  33. 03. がん治療の現状(3)
  34. 02. がん治療の現状(2)
  35. 01. がん治療の現状(1)

 

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