医者が知らない医療の話
このページをシェアする:
第31回

コロナウイルス肺炎 III

《 2020.04.10 》

 新型コロナがますます酷いことになっている。医療関係の皆さんも色々影響を受けられていると思いますが如何ですか?開業医の先生方は「コロナ感染の患者さんが来てしまったらどうしよう?」「受診抑制で売上が半分になった。」。勤務医の方々は一般業務が減るわけでもないのに、感染リスク冒してのコロナ対応などなど。医者にはあまり良い事はないですよね。知り合いの開業医の先生なんかはたいそうなN95マスクにゴーグルして宇宙人みたいな格好で診察している。街中のクリニックで患者さんは引いてしまうだろうと思うのだが、患者さんの方もお馴染みさんで、「うちの先生はいつも大袈裟やから。」と動じない。大阪の下町の話ですからね。

 ところが世界的な流行になって来て、以前お話ししたマスクなどの海外サプライ網も事情が変わって来てややこしい。「医者の知らない話」から「知らない方がいい話」になってしまっているので、深入りはやめときますね。

 ところで、こんなご時世で、先生方も色々質問されたりする事が多いと思います。明らかなデマの真偽なんか多くないですか?それと、効果のあるかもしれない薬剤が報道されると直ぐに、「手に入りませんか?」と来る。
 多少の医学的知識があれば明らかな事でも、一般の方はそうは行かない。マスコミが中途半端に取り上げて、信じ込んでしまっているからちゃんと説明しないといけない。結構めんどうくさいですよね。

 まあ、その中でも「コロナ予防」の件はちゃんと説明してあげるしかない。手洗い、うがい、人混みに行かないなどは一般的な注意として当然ですが、結局は自己の免疫を高めて罹りにくくするしかないわけだから。
 で、この日常生活で「免疫を高める」ってどうすればいいのでしょう?
 このコラムを読んで頂いている皆さんは「マクロファージと腸内細菌でしょ。」とおわかりかと思う。しかし日常生活ではどうすれば良いのでしょう?

 マクロファージを活性化するにはまず、ストレスを避け、楽観的である事だ。つまり必要な予防さえしていればやたらと「コロナにかかったらどうしよう。」などと気にし過ぎないこと。家にこもって(診察には出て来てもらいたいですがね。)コロナの話題だらけのワイドショーではなくて、面白いテレビ番組でも見ていると良いですよ。次に有酸素運動、人混みがないところでの散歩程度でも充分。それにたまには外に出て日光に当たらないとビタミンDの合成が低下する。ビタミンDはマクロファージを活性化する。

 そして、食事としては、リポポリサッカライド(LPS)やビタミンDはマクロファージを活性化するのでできるだけ摂取するよう心掛ける。食品としては、リポポリサッカライドは玄米、海藻類、きのこ類、根菜類などに多く含まれて、ビタミンD はメカジキ、きのこ類、ヨーグルト、牛乳、サーモン、牛のレバーなどに多く含まれている。

 そして、食事ではもう一つ大事な事があって、過食しない事だ。肥満などの話でも食事法は出たと思うが、実はマクロファージには免疫機能以外にも重要な役割がある。過剰な血液中の糖、脂質、たんぱく質などの栄養成分の処理だ。
 胃腸から吸収された栄養成分は血液、リンパ管により細胞に運ばれるが、余分な栄養成分は血液中に残る。そして、これを処理するのがマクロファージだ。しかしマクロファージがこれらの過剰な栄養素処理に手を取られると肝心な細菌、ウィルス、ガン等に対する免疫機能は低下してしまうのだ。野生の動物は病気すると餌が取れないから、空腹のまま安静にして治すらしい。空腹の時に免疫能が高まるのは、このような生体の防御反応の一環かも知れないですね。

コラムの一覧に戻る

著者プロフィール

中川 泰一 近影Dr.中川 泰一

中川クリニック 院長

1988年関西医科大学卒業。
1995年関西医科大学大学院博士課程修了。
1995年より関西医科大学附属病院勤務などを経て2006年、ときわ病院院長就任。
2016年より現職。


バックナンバー
  1. Dr.中川泰一の
    医者が知らない医療の話
  2. 79. マクロバイオームの精神的影響について
  3. 78. マクロバイオームの遺伝子解析Ⅲ
  4. 77. マクロバイオームの遺伝子解析Ⅱ
  5. 76. 中国訪問記Ⅱ
  6. 75. 中国訪問記
  7. 74. 口腔内のマクロバイオームⅡ
  8. 73. 口腔内のマクロバイオーム
  9. 72. マクロバイオームの遺伝子解析
  10. 71. ベトナム訪問記Ⅱ
  11. 70. ベトナム訪問記
  12. 69. COVID-19感染の後遺症
  13. 68. 遺伝子解析
  14. 67. 口腔内・腸内マクロバイオーム
  15. 66. 癌細胞の中の細菌
  16. 65. 介護施設とコロナ
  17. 64. 訪問診療の話
  18. 63. 腸内フローラの影響
  19. 62. 腸内フローラと「若返り」、そして発癌
  20. 61. 癌治療に対する考え方Ⅱ
  21. 60. 癌治療に対する考え方
  22. 59. COVID-19 第7波
  23. 58. COVID-19のPCR検査について
  24. 57. 若返りの治療Ⅵ
  25. 56. 若返りの治療Ⅴ
  26. 55. 若返りの治療Ⅳ
  27. 54. 若返りの治療Ⅲ
  28. 53. 若返りの治療Ⅱ
  29. 52. ワクチン騒動記Ⅳ
  30. 51. ヒト幹細胞培養上清液Ⅱ
  31. 50. ヒト幹細胞培養上清液
  32. 49. 日常の診療ネタ
  33. 48. ワクチン騒動記Ⅲ
  34. 47. ワクチン騒動記Ⅱ
  35. 46. ワクチン騒動記
  36. 45. 不老不死についてⅡ
  37. 44. 不老不死について
  38. 43. 若返りの治療
  39. 42. 「発毛」について II
  40. 41. 「発毛」について
  41. 40. ちょっと有名な名誉教授とのお話し
  42. 39. COVID-19と「メモリーT細胞」?
  43. 38. COVID-19の「集団免疫」
  44. 37. COVID-19のワクチン II
  45. 36. COVID-19のワクチン
  46. 35. エクソソーム化粧品
  47. 34. エクソソーム (Exosome) − 細胞間情報伝達物質
  48. 33. 新型コロナウイルスの治療薬候補
  49. 32. 熱発と免疫力の関係
  50. 31. コロナウイルス肺炎 III
  51. 30. コロナウイルス肺炎 II
  52. 29. コロナウイルス肺炎
  53. 28. 腸内細菌叢による世代間の情報伝達
  54. 27. ストレスプログラム
  55. 26. 「ダイエット薬」のお話
  56. 25. inflammasome(インフラマゾーム)の活性化
  57. 24. マクロファージと腸内フローラ
  58. 23. NK細胞を用いたCAR-NK
  59. 22. CAR(chimeric antigen receptor)-T療法
  60. 21. 組織マクロファージ間のネットワーク
  61. 20. 肥満とマクロファージ
  62. 19. アルツハイマー病とマクロファージ
  63. 18. ミクログリアは「脳内のマクロファージ」
  64. 17. 「経口寛容」と腸内フローラ
  65. 16. 腸内フローラとアレルギー
  66. 15. マクロファージの働きは非常に多彩
  67. 14. 自然免疫の主役『マクロファージ』
  68. 13. 自然免疫と獲得免疫
  69. 12. 結核菌と癌との関係
  70. 11. BRM(Biological Response Modifiers)療法
  71. 10. 癌ワクチン(樹状細胞ワクチン)
  72. 09. 癌治療の免疫療法の種類について
  73. 08. 食物繊維の摂取量の減少と肥満
  74. 07. 免疫系に重要な役割を持つ腸内細菌
  75. 06. 肥満も感染症? 免疫に関わる腸の話(2)
  76. 05. 肥満も感染症? 免疫に関わる腸の話(1)
  77. 04. なぜ免疫療法なのか?(1)
  78. 03. がん治療の現状(3)
  79. 02. がん治療の現状(2)
  80. 01. がん治療の現状(1)

 

  • Dr.井原 裕 精神科医とは、病気ではなく人間を診るもの 井原 裕Dr. 獨協医科大学越谷病院 こころの診療科教授
  • Dr.木下 平 がん専門病院での研修の奨め 木下 平Dr. 愛知県がんセンター 総長
  • Dr.武田憲夫 医学研究のすすめ 武田 憲夫Dr. 鶴岡市立湯田川温泉リハビリテーション病院 院長
  • Dr.一瀬幸人 私の研究 一瀬 幸人Dr. 国立病院機構 九州がんセンター 臨床研究センター長
  • Dr.菊池臣一 次代を担う君達へ 菊池 臣一Dr. 福島県立医科大学 前理事長兼学長
  • Dr.安藤正明 若い医師へ向けたメッセージ 安藤 正明Dr. 倉敷成人病センター 副院長・内視鏡手術センター長
  • 技術の伝承-大木永二Dr
  • 技術の伝承-赤星隆幸Dr