医者が知らない医療の話
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第32回

熱発と免疫力の関係

《 2020.05.10 》

 空腹ともう一つよく言われるのが「風邪をひいたら暖かくして寝てろ!」だ。私も経験上正しいと思う。調子が悪い時はポケベル(古いかな?知ってます?)切ってとにかく暖かくして寝てた。医師たるもの自分の身は自分で守らないとね。皆さんもそう思うでしょう?

 体温が上がれば免疫力が上がる。なんとなく当たり前の様に思っていません?一説には「体温が1度上がれば免疫力が30%上がる。」と言われている。しかし、これはちょっと胡散臭い。じゃ体温が3度上がれば免疫力は約2倍にもなるのか?そもそも、何を持って「免疫力」を規定してるのか良くわからない。根拠の文献を探してみたが見当たらない。(もし、ご存知の方が居られたらご一報くださいね。)大体、「免疫力」って何を測定すれば良いかハッキリしない。免疫の治療にしたって、数値化出来ないのが難点で、「ほら、こんなに免疫力が上がりましたよ。」と言えれば苦労ないのだが。

 では、熱発と免疫力の関係は無いのかと言うとそうでも無い。
 カルシウムイオン(Ca 2+)透過性のカチオンチャネルにTransient receptor potential channel(TRPチャネル)のmelastatin(M)フ ァミリーに属するTRPM2(トリップエムツー)というのがある。これははマクロファージや好中球など免疫系細胞において最も豊富に発現が認められている。そして、通常TRPM2は高温域(約 47°C)でないと作用しない。つまり、通常の人体の環境では作用しない。ところが、TRPM2は過酸化水素などによる酸化的 ストレスによって活性化される。
 ご存知のように、マクロファージは貪食の過程で過酸化酸素を発生する。この過酸化水素によって、通常は高温でしか活性化しないTRPM2の活性化温度閾値(約 47°C)が体温域(約 37°C)まで低下する。 すると、TRPM2 が作用しCa 2+の細胞内への流入が増加し、マクロファージが活性化されるのだ。
 TPRM2はどうして温度を感知しているかというと、視床下部視索前野神経細胞一部に脳内温度を感知すると考えられている warm-sensitive neuron が存在するが、これら神経TRPM2 チャネルを介して脳内温度を感知していたり、末梢感覚神経に発現する TRPM2 チャネルが外界の温度の感知に関与しているとも言われている。さらに面白いことにTRPM2 チャネルはより高い温度でより活性化される。(元々の活性化温度閾値が約 47°Cだから当然と言えば当然だが。)そして高温になればなるほどマクロファージの貪食能が上がるのだ。
 因みに「平熱時(37°C)と比較して熱発時(38.5°C)の時にマクロファージの貪食能が約30%上がる。TRPM2をなくしたマクロファージは平熱時と熱発時で変化は無かった。」と報告されている。  こうしてみてくると、「体温が1度上がれば免疫力が30%上がる。」説も当たらずといわずも遠からずかな?

 このように、感染時に熱発し体温が上がる理由のひとつとして、マクロファージなどの免疫系を活性化させるのことが挙げられる。38.5°Cで約30%ものマクロファージの活性化が見られるのはひとつの証拠だろう。残念ながら40°Cでのデーターは発表されていないが、40°Cだと体細胞のダメージが来るから、38.5°C辺りで最適の免疫力が発揮されるようになっているのではと思う。やっぱり39°C超えて40°C近くなると身体的にはかなりまずい状況なんだと思いますよね。

 閑話休題、新型コロナの抗体検査キットが出回ってきてるけど、皆さん試してみました?IgGだけ出れば良いけど、IgMだけ陽性なんか出たらどうするんだか?アビガンも今は統制されててなかなか手に入りにくい。中国製ってのもあるけどもうひとつ信用できない。「もうじき回りますよ。」と言われてもなあ。
 抗体検査も50人ぐらいやった先生がいるけど、陽性が一人もいなかったって。どこのキットか聞いてみたら、「中国製」「中国の何処のメーカー製?」「中国製」。どうもアテになんない。いろいろ出ているキットの性能差が激しいのは感染症学会の報告でも出ているので慎重にしないとね。そんなところに先日、最初に厚労省の認可が降りたというキットのサンプルを送って来たんだが、どうしようかと悩んでる。「まず先生でしょう!」と言われてる。何となく自分はすでに抗体持ってると思ってる。毎年、インフルエンザの季節になると何回か体調悪くなる。今年も何回もあった。タミフルで乗り切ってるけど、1回くらい新型コロナであっても不思議では無い。銀座と新地のクリニックをウロウロして、中国の人達はじめ外国の人達とも常に接してるし。疑わしいでしょ?やっぱりコソっとしようかな。

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著者プロフィール

中川 泰一 近影Dr.中川 泰一

中川クリニック 院長

1977年関西医科大学卒業。1995年関西医科大学大学院博士課程修了。
1995年より関西医科大学附属病院勤務などを経て2006年、ときわ病院院長就任。
2016年より現職。


バックナンバー
  1. Dr.中川泰一の
    医者が知らない医療の話
  2. 32. 熱発と免疫力の関係
  3. 31. コロナウイルス肺炎 III
  4. 30. コロナウイルス肺炎 II
  5. 29. コロナウイルス肺炎
  6. 28. 腸内細菌叢による世代間の情報伝達
  7. 27. ストレスプログラム
  8. 26. 「ダイエット薬」のお話
  9. 25. inflammasome(インフラマゾーム)の活性化
  10. 24. マクロファージと腸内フローラ
  11. 23. NK細胞を用いたCAR-NK
  12. 22. CAR(chimeric antigen receptor)-T療法
  13. 21. 組織マクロファージ間のネットワーク
  14. 20. 肥満とマクロファージ
  15. 19. アルツハイマー病とマクロファージ
  16. 18. ミクログリアは「脳内のマクロファージ」
  17. 17. 「経口寛容」と腸内フローラ
  18. 16. 腸内フローラとアレルギー
  19. 15. マクロファージの働きは非常に多彩
  20. 14. 自然免疫の主役『マクロファージ』
  21. 13. 自然免疫と獲得免疫
  22. 12. 結核菌と癌との関係
  23. 11. BRM(Biological Response Modifiers)療法
  24. 10. 癌ワクチン(樹状細胞ワクチン)
  25. 09. 癌治療の免疫療法の種類について
  26. 08. 食物繊維の摂取量の減少と肥満
  27. 07. 免疫系に重要な役割を持つ腸内細菌
  28. 06. 肥満も感染症? 免疫に関わる腸の話(2)
  29. 05. 肥満も感染症? 免疫に関わる腸の話(1)
  30. 04. なぜ免疫療法なのか?(1)
  31. 03. がん治療の現状(3)
  32. 02. がん治療の現状(2)
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