医者が知らない医療の話
このページをシェアする:
第25回

inflammasome(インフラマゾーム)の活性化

《 2019.10.10 》

 慢性炎症を起こす原因の一つは大腸の腸管バリアー機能の低下だ。

 前述したように、腸管腔には食物抗原や腸内細菌をはじめとしたさまざまな「異物」が存在する。そして、それらが、循環血中に入らないように防御するのが、腸管バリアー機能だ。腸管バリアー機能は、それに関わる特殊なタンパク質が関係しており、高脂肪食負荷での大腸ではそのうちの一つClaudin1(クローディン1)という細胞間結合のタイトジャンクションに関わるタンパク質が低下する。そうすると腸管腔から物質が循環血中に漏れやすくなるのだ。

   そして、腸内環境が慢性炎症に影響している事がわかったら、次は、大腸の炎症性マクロファージによる慢性炎症がどのようにインスリン抵抗性を惹起し、糖尿病を発症させていくかについてだ。
 高脂肪食により大腸の炎症のシグナルを伝達する為のアダプタータンパクであるinflammasome(インフラマゾーム)の活性化が起こる。

 ちょっと長くなるが、その機序について。

 一般に、炎症性マクロファージの数を制御するのは「ケモカイン」と「ケモカイン受容体」と言われるものだ。ケモカインとは、炎症性の免疫細胞(マクロファージを含む)を炎症の場に誘導する液性因子のことだ。一方、ケモカイン受容体は免疫細胞の膜表面にあり、それぞれのケモカインに対するケモカイン受容体が存在する。
 そして、マクロファージが炎症生マクロファージに変化する機序としては、局所のケモカイン産生に対して骨髄および末梢血液中にある対応するケモカイン受容体を持つ単核球がその局所に移動して、炎症性マクロファージになると考えられている。
 マウスでの実験によると、大腸では高脂肪食負荷によりCcl2というケモカインが大腸の腸管上皮から分泌され、Ccr2というケモカイン受容体を持つ炎症性マクロファージが集まってくる。

 そこで、実験では2種類のマウスを作成した。つまり①マクロファージのCcr2ケモカイン受容体を欠損させたマウスと②腸管上皮でCcl2ケモカインを欠損させたマウスだ。そしてこれらのマウス①、②ともに高脂肪食を与えた。すると、①、②どちらのマウスも高脂肪食を食べさせても大腸の炎症性マクロファージは増加しなかった。更に、①、②の両マウスとも対照群のマウスと同様に肥満を呈したにも 関わらず、ブドウ糖負荷による血糖の上昇は抑えられ、インスリンの感受性も良好であった。
 さらに①の腸管上皮細胞特異的Ccr2ケモカイン受容体欠損マウスでは高脂肪食負荷による血糖値の上昇が30%抑制された。そしてなんと、②の腸管上皮でCcl2ケモカインを欠損させたマウスでは、大腸だけではなく脂肪組織でも脂肪細胞が肥大化しているにも関わらず、慢性炎症が低下した。
 それだけでなく、脂肪組織における炎症性マクロファージの浸潤も抑えられたというのだ。

   ここで、アダプタータンパクであるinflammasome(インフラマゾーム)に戻る。

 高脂肪食を負荷した大腸においてはinflammasome(インフラマゾーム)の活性化が認められたが、①マクロファージのCcr2ケモカイン受容体を欠損させたマウスと②腸管上皮でCcl2ケモカインを欠損させたマウスの大腸では、それらが有意に抑制されていた。
 また、inflammasome(インフラマゾーム)に制御される炎症性サイトカインとしてIL1βとIL18があるが、①マクロファージのCcr2ケモカイン受容体を欠損させたマウスと②腸管上皮でCcl2ケモカインを欠損させたマウスの大腸では、コントロールと比較してそれらの炎症性サイトカインの発現が低下しており、それに伴い門脈内IL-18濃度が有意に低下しており、インスリン抵抗性改善の一因になっていると考えられる。

 以上の結果から、高脂肪食負荷大腸においては、inflammasomeの活性化が大腸の腸管上皮Ccl2ーマクロファージCcr2経路に制御を受ける事が示唆された。
 つまり、これらの結果は、大腸の慢性炎症つまり、炎症性マクロファージを制御すれば、インスリン作用に重要な脂肪組織をはじめとする他の臓器のインスリン感受性をコントロールできるという事を示しているのだ。

コラムの一覧に戻る

著者プロフィール

中川 泰一 近影Dr.中川 泰一

中川クリニック 院長

1977年関西医科大学卒業。1995年関西医科大学大学院博士課程修了。
1995年より関西医科大学附属病院勤務などを経て2006年、ときわ病院院長就任。
2016年より現職。


バックナンバー
  1. Dr.中川泰一の
    医者が知らない医療の話
  2. 40. ちょっと有名な名誉教授とのお話し
  3. 39. COVID-19と「メモリーT細胞」?
  4. 38. COVID-19の「集団免疫」
  5. 37. COVID-19のワクチン II
  6. 36. COVID-19のワクチン
  7. 35. エクソソーム化粧品
  8. 34. エクソソーム (Exosome) − 細胞間情報伝達物質
  9. 33. 新型コロナウイルスの治療薬候補
  10. 32. 熱発と免疫力の関係
  11. 31. コロナウイルス肺炎 III
  12. 30. コロナウイルス肺炎 II
  13. 29. コロナウイルス肺炎
  14. 28. 腸内細菌叢による世代間の情報伝達
  15. 27. ストレスプログラム
  16. 26. 「ダイエット薬」のお話
  17. 25. inflammasome(インフラマゾーム)の活性化
  18. 24. マクロファージと腸内フローラ
  19. 23. NK細胞を用いたCAR-NK
  20. 22. CAR(chimeric antigen receptor)-T療法
  21. 21. 組織マクロファージ間のネットワーク
  22. 20. 肥満とマクロファージ
  23. 19. アルツハイマー病とマクロファージ
  24. 18. ミクログリアは「脳内のマクロファージ」
  25. 17. 「経口寛容」と腸内フローラ
  26. 16. 腸内フローラとアレルギー
  27. 15. マクロファージの働きは非常に多彩
  28. 14. 自然免疫の主役『マクロファージ』
  29. 13. 自然免疫と獲得免疫
  30. 12. 結核菌と癌との関係
  31. 11. BRM(Biological Response Modifiers)療法
  32. 10. 癌ワクチン(樹状細胞ワクチン)
  33. 09. 癌治療の免疫療法の種類について
  34. 08. 食物繊維の摂取量の減少と肥満
  35. 07. 免疫系に重要な役割を持つ腸内細菌
  36. 06. 肥満も感染症? 免疫に関わる腸の話(2)
  37. 05. 肥満も感染症? 免疫に関わる腸の話(1)
  38. 04. なぜ免疫療法なのか?(1)
  39. 03. がん治療の現状(3)
  40. 02. がん治療の現状(2)
  41. 01. がん治療の現状(1)

 

  • Dr.井原 裕 精神科医とは、病気ではなく人間を診るもの 井原 裕Dr. 獨協医科大学越谷病院 こころの診療科教授
  • Dr.木下 平 がん専門病院での研修の奨め 木下 平Dr. 愛知県がんセンター 総長
  • Dr.武田憲夫 医学研究のすすめ 武田 憲夫Dr. 鶴岡市立湯田川温泉リハビリテーション病院 院長
  • Dr.一瀬幸人 私の研究 一瀬 幸人Dr. 国立病院機構 九州がんセンター 臨床研究センター長
  • Dr.菊池臣一 次代を担う君達へ 菊池 臣一Dr. 福島県立医科大学 前理事長兼学長
  • Dr.安藤正明 若い医師へ向けたメッセージ 安藤 正明Dr. 倉敷成人病センター 副院長・内視鏡手術センター長
  • 技術の伝承-大木永二Dr
  • 技術の伝承-赤星隆幸Dr