医者が知らない医療の話
このページをシェアする:
第62回

腸内フローラと「若返り」、そして発癌

《 2022.11.10 》

前回までで、私の提唱する癌治療の概念をおさらいした。いろいろご意見もあるだろうが、基本的な考え方としては間違っていないと思っている。もちろん、治療法も日進月歩だから細部については日々更新されていくと思うが。特に画像に捉えられない癌に対してや、癌の発生、再発の根本的な予防は論を俟たないと思う。実際、「保険診療」の概念のない海外の方が理解してもらいやすく評判が良い。しかしながら、日本では現実的に一貫してフォローできる施設はなくて、個々については、画像に捉えられる癌は保険治療をしている大病院、画像に捉えられない癌に対しての治療は自由診療のクリニック、癌の発生や再発の予防に関しては医療から離れて健康食品会社などの健康関係の業界が受けもっている。残念ながら、後者になればなるほど紛い物が混じっていることが多く胡散臭くなっていく。今後はこの辺の改善が急務だと思うがいかがですか?

そこで、今回は今までの流れとして癌化と裏腹の老化に関してとなるが、最近面白い発表があった。若いマウスの腸内フローラを高齢のマウスに移植すると若返ると言うのだ。

今まででも老齢者と若年者のフローラの差異については色々と検討がなされており、端的に言うと加齢に伴っていわゆる悪玉菌が増えるのだが、詳しくは後ほど話すことにする。

その様な事から、何となく「若い人のフローラを移植すると健康になったりはするだろうな。」とは考えられていた。そういった背景があり、うちのフローラ移植のドナーの条件としても若年者を選んでるのだが、もっと理論付けれたら良いのにと考えていた。

ところが、待てよ。フローラと言ったら免疫のはず。何で若返るのかはピンと来なかった。そもそも何をもって若返っているかの判定は難しい。まあ、シワが取れたりシミがなくなったりすれば分かり易いが、その様な外面的な変化って短期間では出にくい。最近の研究では年齢ではなくて個体のp16(他にp21,p53など)の発現量で決まると言われている。因みにウチではテロメアのGテールで評価しているがフローラ移植での検証はまだしていない。

そこで件のマウスの研究だが、若いマウスの腸内細菌を高齢のマウスに移植すると、学習力や記憶力、免疫機能までが若返ることが確認されたという。

この研究では老化は全身で生じる炎症の増加と関係しているとしている。確かに以前書いた様に老化細胞が炎症を起こしており、その老化細胞は加齢とともに増えてくる。そしてこの実験では実際に炎症は少なくなった。さらに、それによって脳の学習と記憶を司る「海馬」に含まれる化学物質が、若いマウスのものに似始めたことも確認されたという。 すると学習力や記憶力、さらには免疫機能までが若返ることが確認されたという。実際、脳における免疫反応に重要な役割を果たしているのは、「ミクログリア(小膠細胞)」という免疫細胞だ。ミクログリアは脳内のマクロファージで、マクロファージネットワークと腸内フローラとの密接な関連は以前述べた。また、最近では「脳境界マクロファージ」と言うのが発見され、脳内のミクログリアと異なる働きをしていることが発表されているが、こちらはいずれ述べるとしよう。

要は若い(健康な)腸内フローラは、老化した脳を改善しうるということだ。

アルツハイマー病の原因として、脳内の老廃物であるアミロイドβの沈着が指摘されており、このアミロイドβを処理するのが、脳内マクロファージであるミクログリアだ。よって、ミクログリアが腸内フローラの影響で活性化すれば、脳が若返ると言う理屈も筋が通ると思う。

更に考察すると、若い(健康な)腸内フローラにより活性化されるのが脳内のマクロファージだけとは考えにくく、ネットワーク化している全身のマクロファージにも影響を及ぼしていると考えるほうが自然だ。よって、脳以外の臓器も所謂「若返り」しているおり、免疫機能全体も「若返って」いると言うことになる。

今後は、腸内フローラと「若返り」および、表裏一体の発癌についての関連性が更に解明されていくと思う。

楽しみですね。

コラムの一覧に戻る

著者プロフィール

中川 泰一 近影Dr.中川 泰一

中川クリニック 院長

1977年関西医科大学卒業。1995年関西医科大学大学院博士課程修了。
1995年より関西医科大学附属病院勤務などを経て2006年、ときわ病院院長就任。
2016年より現職。


バックナンバー
  1. Dr.中川泰一の
    医者が知らない医療の話
  2. 62. 腸内フローラと「若返り」、そして発癌
  3. 61. 癌治療に対する考え方Ⅱ
  4. 60. 癌治療に対する考え方
  5. 59. COVID-19 第7波
  6. 58. COVID-19のPCR検査について
  7. 57. 若返りの治療Ⅵ
  8. 56. 若返りの治療Ⅴ
  9. 55. 若返りの治療Ⅳ
  10. 54. 若返りの治療Ⅲ
  11. 53. 若返りの治療Ⅱ
  12. 52. ワクチン騒動記Ⅳ
  13. 51. ヒト幹細胞培養上清液Ⅱ
  14. 50. ヒト幹細胞培養上清液
  15. 49. 日常の診療ネタ
  16. 48. ワクチン騒動記Ⅲ
  17. 47. ワクチン騒動記Ⅱ
  18. 46. ワクチン騒動記
  19. 45. 不老不死についてⅡ
  20. 44. 不老不死について
  21. 43. 若返りの治療
  22. 42. 「発毛」について II
  23. 41. 「発毛」について
  24. 40. ちょっと有名な名誉教授とのお話し
  25. 39. COVID-19と「メモリーT細胞」?
  26. 38. COVID-19の「集団免疫」
  27. 37. COVID-19のワクチン II
  28. 36. COVID-19のワクチン
  29. 35. エクソソーム化粧品
  30. 34. エクソソーム (Exosome) − 細胞間情報伝達物質
  31. 33. 新型コロナウイルスの治療薬候補
  32. 32. 熱発と免疫力の関係
  33. 31. コロナウイルス肺炎 III
  34. 30. コロナウイルス肺炎 II
  35. 29. コロナウイルス肺炎
  36. 28. 腸内細菌叢による世代間の情報伝達
  37. 27. ストレスプログラム
  38. 26. 「ダイエット薬」のお話
  39. 25. inflammasome(インフラマゾーム)の活性化
  40. 24. マクロファージと腸内フローラ
  41. 23. NK細胞を用いたCAR-NK
  42. 22. CAR(chimeric antigen receptor)-T療法
  43. 21. 組織マクロファージ間のネットワーク
  44. 20. 肥満とマクロファージ
  45. 19. アルツハイマー病とマクロファージ
  46. 18. ミクログリアは「脳内のマクロファージ」
  47. 17. 「経口寛容」と腸内フローラ
  48. 16. 腸内フローラとアレルギー
  49. 15. マクロファージの働きは非常に多彩
  50. 14. 自然免疫の主役『マクロファージ』
  51. 13. 自然免疫と獲得免疫
  52. 12. 結核菌と癌との関係
  53. 11. BRM(Biological Response Modifiers)療法
  54. 10. 癌ワクチン(樹状細胞ワクチン)
  55. 09. 癌治療の免疫療法の種類について
  56. 08. 食物繊維の摂取量の減少と肥満
  57. 07. 免疫系に重要な役割を持つ腸内細菌
  58. 06. 肥満も感染症? 免疫に関わる腸の話(2)
  59. 05. 肥満も感染症? 免疫に関わる腸の話(1)
  60. 04. なぜ免疫療法なのか?(1)
  61. 03. がん治療の現状(3)
  62. 02. がん治療の現状(2)
  63. 01. がん治療の現状(1)

 

  • Dr.井原 裕 精神科医とは、病気ではなく人間を診るもの 井原 裕Dr. 獨協医科大学越谷病院 こころの診療科教授
  • Dr.木下 平 がん専門病院での研修の奨め 木下 平Dr. 愛知県がんセンター 総長
  • Dr.武田憲夫 医学研究のすすめ 武田 憲夫Dr. 鶴岡市立湯田川温泉リハビリテーション病院 院長
  • Dr.一瀬幸人 私の研究 一瀬 幸人Dr. 国立病院機構 九州がんセンター 臨床研究センター長
  • Dr.菊池臣一 次代を担う君達へ 菊池 臣一Dr. 福島県立医科大学 前理事長兼学長
  • Dr.安藤正明 若い医師へ向けたメッセージ 安藤 正明Dr. 倉敷成人病センター 副院長・内視鏡手術センター長
  • 技術の伝承-大木永二Dr
  • 技術の伝承-赤星隆幸Dr