第53回
若返りの治療Ⅱ
1月になってから医療関係者の第3回目新型コロナワクチン接種が始まって、ウチにもぼちぼち来られてる。2月からは65歳以上の方が開始になるので、また暫くの間はワクチン漬けになりそうだ。更にPCR検査も始めたので、なんかコロナ漬けみたいに思われるけど、そろそろコロナネタも飽きてきたのでこの辺りのくだりはそのうちに。結構面白いですけどね。
ところで、以前「若返り」について書いた。今回は再びこの「若返り」について。ウチでNMN(nicotinamide mononucleotide:ニコチナミド・モノヌクレオチド)を点滴投与した方の前後のテロメアの長さを測定する試験を行なっていたのだが、第一陣の結果が出た。実は昨年の10月ごろには出ていたのだが、色々と取り込んでて、続きがまだ出来ていない。本来、もっと症例数を増やしてから統計取ろうと思っているのだが。取り敢えず8例なのだが、6例にテロメア長の伸張が見られた。所謂「テロメア年齢」と言う指標で言うと著しい方で20歳ほど若返った事になる。効果の出なかった方で逆に2~3歳老けた方も居られたが概ね「効果アリ」だと思う。ただ、対照群が無いなど学術的には証明できる段階ではないので詳しい事はデーターが整理出来たらお知らせしたいと思う。
この「若返り」についてだが、「老化と癌化とは表裏一体になるはず。」と言っていた事を覚えておられるだろうか?
先程のNMN投与も若返り遺伝子と言われるサーチュイン(sirtuin)遺伝子を活性化して老化の過程を逆回転させる目的で行われている。
「若返り」と「老化」の為にはサーチュイン(sirtuin)遺伝子の活性化と共に「老化細胞」の除去が必要と言われている。ではこの老化細胞とは何者だろう?
ここで以前
「本当に自然の摂理である「老化」に整合性が無いのだろうか? 細胞の「不老」つまり「不死」というと嫌でも「癌細胞」が思い浮かぶ。また、細胞の「若返り」ということは「幹細胞」の分化の過程の逆行という事になる。」と疑問を呈した。
細胞は一般的に複製回数が増えれば複写ミスにより機能が落ちてくる。その為細胞が死んでいくようプログラミングされているのだが、癌細胞はこのプログラミング死(アポトーシス)が効かなくなって無限に増殖してしまう。その為、例えば肝細胞なら肝臓の機能を保つような細胞本来の機能が失われてしまう。
若返りないし不老とは大雑把に言って、細胞が元の機能を有したまま増殖していく事で、この間にはどうしても複写ミスなどによって癌細胞が発生する率が上がってしまう。だから老化と癌化とは表裏一体なのだ。
実は近年、この疑問の解答として、老化細胞がこの癌細胞の予防策として機能していると言う説が提唱されている。そして老化細胞とはそれ以上細胞分裂せず、そのままの状態で存在し身体の中でこの老化細胞が増えていくことで、身体全体が老化していくと言われている。
つまり、癌化しそうな細胞を老化細胞として増殖を止めてしまい、癌化を防いでいると言うのだ。これが身体が「老化」する理由の一つと考えられる。もっとも他にも色々な理由はあるだろうけど、これも立派な理由になると思う。
そうすると「若返り」ないし「不老」のためにはこの出来てしまった「老化細胞」を取り除けばよいと言う事になる。老化細胞の発生自体は癌の抑止システムなので止めるわけにはいかない。要は癌化を阻止し蓄積した老化細胞を取り除けばいいのだ。
この方法として、注目されているのが、老化細胞が生存するために必要な酵素(GLS-1)をブロックすることでこれを死滅させる方法だ。
次回はこの辺りを掘り下げていきたい。
著者プロフィール
Dr.中川 泰一
中川クリニック 院長
1988年関西医科大学卒業。
1995年関西医科大学大学院博士課程修了。
1995年より関西医科大学附属病院勤務などを経て2006年、ときわ病院院長就任。
2016年より現職。
- Dr.中川泰一の
医者が知らない医療の話 - 85. 中国での幹細胞治療解禁
- 84. 過渡期に入った保険診療
- 83. 中国出張顛末記Ⅲ
- 82. 中国出張顛末記Ⅱ
- 81. 中国出張顛末記
- 80. 保険診療と自由診療
- 79. マクロバイオームの精神的影響について
- 78. マクロバイオームの遺伝子解析Ⅲ
- 77. マクロバイオームの遺伝子解析Ⅱ
- 76. 中国訪問記Ⅱ
- 75. 中国訪問記
- 74. 口腔内のマクロバイオームⅡ
- 73. 口腔内のマクロバイオーム
- 72. マクロバイオームの遺伝子解析
- 71. ベトナム訪問記Ⅱ
- 70. ベトナム訪問記
- 69. COVID-19感染の後遺症
- 68. 遺伝子解析
- 67. 口腔内・腸内マクロバイオーム
- 66. 癌細胞の中の細菌
- 65. 介護施設とコロナ
- 64. 訪問診療の話
- 63. 腸内フローラの影響
- 62. 腸内フローラと「若返り」、そして発癌
- 61. 癌治療に対する考え方Ⅱ
- 60. 癌治療に対する考え方
- 59. COVID-19 第7波
- 58. COVID-19のPCR検査について
- 57. 若返りの治療Ⅵ
- 56. 若返りの治療Ⅴ
- 55. 若返りの治療Ⅳ
- 54. 若返りの治療Ⅲ
- 53. 若返りの治療Ⅱ
- 52. ワクチン騒動記Ⅳ
- 51. ヒト幹細胞培養上清液Ⅱ
- 50. ヒト幹細胞培養上清液
- 49. 日常の診療ネタ
- 48. ワクチン騒動記Ⅲ
- 47. ワクチン騒動記Ⅱ
- 46. ワクチン騒動記
- 45. 不老不死についてⅡ
- 44. 不老不死について
- 43. 若返りの治療
- 42. 「発毛」について II
- 41. 「発毛」について
- 40. ちょっと有名な名誉教授とのお話し
- 39. COVID-19と「メモリーT細胞」?
- 38. COVID-19の「集団免疫」
- 37. COVID-19のワクチン II
- 36. COVID-19のワクチン
- 35. エクソソーム化粧品
- 34. エクソソーム (Exosome) − 細胞間情報伝達物質
- 33. 新型コロナウイルスの治療薬候補
- 32. 熱発と免疫力の関係
- 31. コロナウイルス肺炎 III
- 30. コロナウイルス肺炎 II
- 29. コロナウイルス肺炎
- 28. 腸内細菌叢による世代間の情報伝達
- 27. ストレスプログラム
- 26. 「ダイエット薬」のお話
- 25. inflammasome(インフラマゾーム)の活性化
- 24. マクロファージと腸内フローラ
- 23. NK細胞を用いたCAR-NK
- 22. CAR(chimeric antigen receptor)-T療法
- 21. 組織マクロファージ間のネットワーク
- 20. 肥満とマクロファージ
- 19. アルツハイマー病とマクロファージ
- 18. ミクログリアは「脳内のマクロファージ」
- 17. 「経口寛容」と腸内フローラ
- 16. 腸内フローラとアレルギー
- 15. マクロファージの働きは非常に多彩
- 14. 自然免疫の主役『マクロファージ』
- 13. 自然免疫と獲得免疫
- 12. 結核菌と癌との関係
- 11. BRM(Biological Response Modifiers)療法
- 10. 癌ワクチン(樹状細胞ワクチン)
- 09. 癌治療の免疫療法の種類について
- 08. 食物繊維の摂取量の減少と肥満
- 07. 免疫系に重要な役割を持つ腸内細菌
- 06. 肥満も感染症? 免疫に関わる腸の話(2)
- 05. 肥満も感染症? 免疫に関わる腸の話(1)
- 04. なぜ免疫療法なのか?(1)
- 03. がん治療の現状(3)
- 02. がん治療の現状(2)
- 01. がん治療の現状(1)
- 精神科医とは、病気ではなく人間を診るもの 井原 裕Dr. 獨協医科大学越谷病院 こころの診療科教授
- がん専門病院での研修の奨め 木下 平Dr. 愛知県がんセンター 総長
- 医学研究のすすめ 武田 憲夫Dr. 鶴岡市立湯田川温泉リハビリテーション病院 院長
- 私の研究 一瀬 幸人Dr. 国立病院機構 九州がんセンター 臨床研究センター長
- 次代を担う君達へ 菊池 臣一Dr. 福島県立医科大学 前理事長兼学長
- 若い医師へ向けたメッセージ 安藤 正明Dr. 倉敷成人病センター 副院長・内視鏡手術センター長