医者が知らない医療の話
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第46回

ワクチン騒動記

《 2021.07.10 》

 今回は話題がころっと変わってコロナのお話。と言っても全然アカデミックな話でなくてベタな臨床のお話。以前「私の日常業務で新型コロナは関係無い。関係者の皆さん頑張ってくださいね。」みたいな事を書いていたのだが、ここに来てコロナ漬けの日々を送る羽目になってしまったのだ。

 まず、ワクチン接種。開業の先生方からは「接種料が安い!」「事務手続きが煩雑過ぎる!」と大不評だ。1人、2070円(税込み)。沢山打つと加算が付くらしいが、市に問い合わすと「何も決まってません。算定どうするんですかね?無理じゃないですか?」だって。

 皆さん大半がボランティア気分で仕方ないと諦めてる。大方の先生方が、医師会に言われて仕方なくやってるのが現状じゃないだろうか。少なくとも私の周りはそうだ。日常業務犠牲にしてまでやったって割に合わないって事だろう。なのにだ!今、ワクチン接種に忙殺されている!

 ことの発端はウチの患者さんたち(主にお婆ちゃんたち)に「ここで打てないの?」とよく言われた。かなり熱心に(しつこく)。何でも近所のクリニックで打てるところがあるらしい。医師会に入っていないからなのか(30年間ぐらいは入ってたけど。)行政から何の連絡も来ない。で、ウチの「できる総務」に調べてくれるよう頼んだ。「できる」彼女は某大学病院で病院長秘書の役付き公務員だったぐらいから、たちまち厚労省のサイトで登録からワクチンの申し込みまで済ませてしまった。ウチは再生医療なんかやってるからー80°Cのディープフリーザーを持ってて「基本施設」扱いになった。すると一度の発注単位が何と1170回分!自慢じゃないがウチの本院の保険の患者さんって大していてない。「50回分ぐらいでいいかな?」なんて思っていたから、「えーどうしよう?」と思ったが、仕方ないので1セットだけ(と言っても1170回分!)申し込んだ。すると普通は2週間ごとの申し込みになり、配送はその後になるのだが、受ける施設で1箇所キャンセルが出て、保健所が送り先無くて困っていたらしい。

 「いつから受け入れられますか?」「今日でもいいですよ。」と言うと、直ぐに保健所の方が2人がかりで届けに来られた。まあ、ビックリするぐらいのでっかいドライアイス詰めの専用の「ワクチン輸送箱」が来た。重くて1人で持てないから2人なのだ。その他、接種用のシリンジや針、ワクチン希釈用のシリンジと針、生食まで。

 よく、新しいガジェット買ったら「開封の儀式」みたいのを載せてる人がいて、バカにしていたが、今回その気持ちが分かりましたよ。

 もうもうとドライアイスの煙の立つ中から、25cm四方の平べったい拍子抜けするくらい小さい箱が出てきた。写真撮って、嬉しそうにウチのスタッフに送ると、「先生!髪の毛ちゃんとといて!」「え!そっち?」。なんかせっかくのワクチンに感動が無かった。

 そんなこんなで、送られてきた「ワクチン接種会場」ポスター1枚を表に貼っただけでスタートしたのだが、いきなり電話鳴りっぱなし。

 厚労省のホームページには載ってるらしいけど、大阪市のホームページにまだ載ってないにも関わらずだ。近所の人はポスター見て直接入ってくる。常連の患者さんなんか「ここのクリニックこんなに混んでるの見たん、初めてやわ。」大きなお世話だ。まあ、患者さんが多いのは良いけど、手間がかかり過ぎる。オマケにあんまり儲からないし。特に事務作業が多い上に煩雑だ。最初大阪市だけだったのが、他の市町の方にも打って良い事になり、作業量も煩雑さも2倍、いや2乗で膨れ上がっていく。更に、毎日の接種データーを厚労省のシステムに入力しないといけない。正直、打つ側はそんなに手間は無い。筋肉注射だし。多くの医院が事務作業で遅れていると言うのもわかる。

 ウチは「できる総務」の彼女がやってくれてるから回っているが。今も、隣の部屋で鬼の形相でひたすら処理してるので、この原稿を書き終わったら「ホットカフェラテ」買ってこないといけない。

 と言うわけで、現場の問題点は次号に続く。

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著者プロフィール

中川 泰一 近影Dr.中川 泰一

中川クリニック 院長

1988年関西医科大学卒業。
1995年関西医科大学大学院博士課程修了。
1995年より関西医科大学附属病院勤務などを経て2006年、ときわ病院院長就任。
2016年より現職。


バックナンバー
  1. Dr.中川泰一の
    医者が知らない医療の話
  2. 85. 中国での幹細胞治療解禁
  3. 84. 過渡期に入った保険診療
  4. 83. 中国出張顛末記Ⅲ
  5. 82. 中国出張顛末記Ⅱ
  6. 81. 中国出張顛末記
  7. 80. 保険診療と自由診療
  8. 79. マクロバイオームの精神的影響について
  9. 78. マクロバイオームの遺伝子解析Ⅲ
  10. 77. マクロバイオームの遺伝子解析Ⅱ
  11. 76. 中国訪問記Ⅱ
  12. 75. 中国訪問記
  13. 74. 口腔内のマクロバイオームⅡ
  14. 73. 口腔内のマクロバイオーム
  15. 72. マクロバイオームの遺伝子解析
  16. 71. ベトナム訪問記Ⅱ
  17. 70. ベトナム訪問記
  18. 69. COVID-19感染の後遺症
  19. 68. 遺伝子解析
  20. 67. 口腔内・腸内マクロバイオーム
  21. 66. 癌細胞の中の細菌
  22. 65. 介護施設とコロナ
  23. 64. 訪問診療の話
  24. 63. 腸内フローラの影響
  25. 62. 腸内フローラと「若返り」、そして発癌
  26. 61. 癌治療に対する考え方Ⅱ
  27. 60. 癌治療に対する考え方
  28. 59. COVID-19 第7波
  29. 58. COVID-19のPCR検査について
  30. 57. 若返りの治療Ⅵ
  31. 56. 若返りの治療Ⅴ
  32. 55. 若返りの治療Ⅳ
  33. 54. 若返りの治療Ⅲ
  34. 53. 若返りの治療Ⅱ
  35. 52. ワクチン騒動記Ⅳ
  36. 51. ヒト幹細胞培養上清液Ⅱ
  37. 50. ヒト幹細胞培養上清液
  38. 49. 日常の診療ネタ
  39. 48. ワクチン騒動記Ⅲ
  40. 47. ワクチン騒動記Ⅱ
  41. 46. ワクチン騒動記
  42. 45. 不老不死についてⅡ
  43. 44. 不老不死について
  44. 43. 若返りの治療
  45. 42. 「発毛」について II
  46. 41. 「発毛」について
  47. 40. ちょっと有名な名誉教授とのお話し
  48. 39. COVID-19と「メモリーT細胞」?
  49. 38. COVID-19の「集団免疫」
  50. 37. COVID-19のワクチン II
  51. 36. COVID-19のワクチン
  52. 35. エクソソーム化粧品
  53. 34. エクソソーム (Exosome) − 細胞間情報伝達物質
  54. 33. 新型コロナウイルスの治療薬候補
  55. 32. 熱発と免疫力の関係
  56. 31. コロナウイルス肺炎 III
  57. 30. コロナウイルス肺炎 II
  58. 29. コロナウイルス肺炎
  59. 28. 腸内細菌叢による世代間の情報伝達
  60. 27. ストレスプログラム
  61. 26. 「ダイエット薬」のお話
  62. 25. inflammasome(インフラマゾーム)の活性化
  63. 24. マクロファージと腸内フローラ
  64. 23. NK細胞を用いたCAR-NK
  65. 22. CAR(chimeric antigen receptor)-T療法
  66. 21. 組織マクロファージ間のネットワーク
  67. 20. 肥満とマクロファージ
  68. 19. アルツハイマー病とマクロファージ
  69. 18. ミクログリアは「脳内のマクロファージ」
  70. 17. 「経口寛容」と腸内フローラ
  71. 16. 腸内フローラとアレルギー
  72. 15. マクロファージの働きは非常に多彩
  73. 14. 自然免疫の主役『マクロファージ』
  74. 13. 自然免疫と獲得免疫
  75. 12. 結核菌と癌との関係
  76. 11. BRM(Biological Response Modifiers)療法
  77. 10. 癌ワクチン(樹状細胞ワクチン)
  78. 09. 癌治療の免疫療法の種類について
  79. 08. 食物繊維の摂取量の減少と肥満
  80. 07. 免疫系に重要な役割を持つ腸内細菌
  81. 06. 肥満も感染症? 免疫に関わる腸の話(2)
  82. 05. 肥満も感染症? 免疫に関わる腸の話(1)
  83. 04. なぜ免疫療法なのか?(1)
  84. 03. がん治療の現状(3)
  85. 02. がん治療の現状(2)
  86. 01. がん治療の現状(1)

 

  • Dr.井原 裕 精神科医とは、病気ではなく人間を診るもの 井原 裕Dr. 獨協医科大学越谷病院 こころの診療科教授
  • Dr.木下 平 がん専門病院での研修の奨め 木下 平Dr. 愛知県がんセンター 総長
  • Dr.武田憲夫 医学研究のすすめ 武田 憲夫Dr. 鶴岡市立湯田川温泉リハビリテーション病院 院長
  • Dr.一瀬幸人 私の研究 一瀬 幸人Dr. 国立病院機構 九州がんセンター 臨床研究センター長
  • Dr.菊池臣一 次代を担う君達へ 菊池 臣一Dr. 福島県立医科大学 前理事長兼学長
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  • 技術の伝承-大木永二Dr
  • 技術の伝承-赤星隆幸Dr