医者が知らない医療の話
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第42回

「発毛」について II

《 2021.03.10 》

 なんかちょっと横道に逸れるみたいだけど、発毛について。いや、意外と皆さんこれに食いついてくるんですよ。肥満と薄毛はやはり2大関心事だと思い知らされますな。

 美容の先生方は「脱毛」や「発毛」について既に色々とご存知だと思うが、内科の身としては結構新鮮だったから御容赦を。

 私を含め、ほとんどの人が「発毛」となると毛根や毛母細胞とかが肝心で、独自に活動していると思っている。

 実際、毛髪は頭皮の毛根にある毛球部で活発に細胞分裂がおこなわれ成長する。そして毛球部は、主に毛乳頭と毛母細胞から成っており、毛髪の成長を司っている。
ところが、最近の知見では、毛髪をコントロールしているのは毛球部では無くバルジ(Bulge)領域であることがわかった。このバルジ領域には毛包幹細胞(Keratinocyte stem cell)と色素幹細胞(Melanocyte stem cell)が存在し、毛包幹細胞は「毛髪」を形成する角化細胞になり、色素幹細胞は色素細胞となり「毛の色」を形成する。つまり、このバルジ(Bulge)領域を活性化させる事こそが毛髪関係の幹細胞を活性化し、発毛を促す事になると言うことだ。

 ところが現在実用化されている毛髪関係の製品はまだほとんど旧来の理論に基づいている。製品の分類としては、大きく分けて「スカルプケア」、「育毛」、「発毛」をコンセプトとする製品がある。さらにこれらは含有成分によって「医薬品」、「医薬部外品」、「化粧品」に分類されている。そして品目別には、毛髪、頭皮を清浄し健やかにたもつことを主目的とする「ヘアートニック」、脱毛の阻止及び育毛を目的とする「化粧品」「医薬部外品」と発毛を目的とする「発毛剤」(医薬品)に分かれている。

 これらの主な成分は抗炎症剤、保湿剤、清涼・鎮痒剤等であるが、さらに多くの育毛、発毛剤はミノキシジル受容体阻害剤が入っている。
ミノキシジルの作用としては
1.毛母細胞の活性化。
2.毛乳頭への血行促進・栄養補給。
3.男性ホルモンのテストステロンからジヒドロテストステロンへの変化に関与する5Αレダクターゼを阻害。
4.皮脂線肥大抑制。
がある。

 初めてミノキシジルが出てきた時には、それまでの頭皮の洗浄や血行促進しかなかった「発毛」と言うより「育毛」に対して「やっと本物の毛生え薬が出てきたな。」と感心したものだった。

 ただし、このミノキシジルも全ての人に効果的であるというわけではない。

 男性ホルモンを阻害するようなものだから、そもそも女性には効果が出にくい。また、色々副作用が出る事もある。主な副作用として、性欲減退、勃起機能不全、乳房障害、抑うつ症状などだ。だいたい副作用発現率は全体の2%程度と言われている。とは言えモテようとして、せっかく苦労して毛を生やしたのに。男性にとってはこの副作用はキツい。実際、ぼやいて使用を止めた方を何人か知っている。笑い話みたいだが、流石に笑えないので、「無理して毛生やすより健康が一番ですよ!」みたいな白々しい励まししか出来ない。

 女性の方には分からないだろうなあ。決して笑ったり揶揄ったりしてはいけませんよ!なんせ「男のコケン」に関わることだから。だから~笑っちゃダメだって!

 話を戻すと、この様にこれらの製品はバルジ(Bulge)領域をターゲットにしていない。そこで、これらの欠点を補い、さらに強力な「発毛」効果を得る為、このバルジ(Bulge)領域を活性化させる新しい物質が発見されたのだ。

 それが例の「テロメラーゼ」と言う酵素で毛髪近くの皮膚に存在している。そして、これが活性化すると皮膚の中にあるバルジ(Bulge)領域にある毛包幹細胞(Keratinocyte stem cell)と色素幹細胞(Melanocyte stem cell)幹細胞も活性化する。すると、毛球と呼ばれる毛を作り出す部分が活性化して新しい毛が伸びて来ると言う理屈だ。そして肝心なのはこの毛髪近くの皮膚に存在するテロメラーゼをどうすれば活性化させることが出来るかだ。

 ここで、頭皮上皮細胞でのテロメラーゼ逆転写酵素(telomerase Reverse transcriptase)(略してTERT。特に人のものはhTERT)の発現誘導が皮膚内のテロメラーゼを活性化する研究結果が報告されていた。そこでこの事に着目し、人表皮ケラチノサイト由来HaCaT(Humanadult Ca2+ Temperature)細胞においてhTERTプロモーターを活性化する物質(これを「X」としておこう)が開発されたのだ。

 この物質Xによる「テロメア活性発毛」は頭皮上皮細胞でのテロメラーゼを活性化することによりバルジ領域に存在する毛包幹細胞(Keratinocyte stem cell)と色素幹細胞(Melanocyte stem cell)が活性化し毛包幹細胞は「毛髪」を生成し、色素幹細胞は「毛の色」を生成する。

 その為、この「テロメア活性発毛」の特徴としては1.毛髪の毛周期に関わらず効果が期待できる。2.女性にも効果がある。3.従来の製品のような副作用がない。の3点だ。

 まず1番目、毛髪は毛周期をもって成長しており、ヒトの頭髪はほぼ5~6年の周期で生え替わっている。毛包は、1つひとつが独立して再生と退縮をくりかえしており、再生から毛の形成期にあたるのが成長期、退縮期にあたるのが退行期、そして毛の形成が停止した状態の休止期を経て、やがて抜け毛となり脱毛する。

 「テロメア活性発毛」では、休止期から初期成長期への移行の誘導され、初期成長期から後期成長期への維続及び延長は確実になされる。また、テロメラーゼ及び(長寿遺伝子SIRI1の活性化による毛包再生での毛母細胞の活性化の成功しており毛髪周期のどの段階でも効果がある。

 次に、2番目の女性への効果だが、男性ホルモンの阻害などではなく、バルジ(Bulge)領域の幹細胞に働きかけるので、当然女性にも効果がある。

 そして3番目としては前述の通りホルモンへの影響を及ぼさないからだ。

「テロメア活性発毛」と言ってはいるが、結局はバルジ領域に存在する毛包幹細胞(Keratinocyte stem cell)と色素幹細胞(Melanocyte stem cell)を活性化させているので、「再生医療」と言えなくもない。実際、治療例を見てると、禿げて何年もたってる方でも生えてきてる方もおられる。

 再生医療の発毛としては、「毛球部毛根鞘細胞」を自家培養して移植したりする方法も研究されているが、64%の患者で毛髪密度が5%以上増加したと言うが、5%ぐらいなら「テロメア活性発毛」の症例を見ているとこちらの方が効果がある。手間ひま、リスク(多分費用的にも)のことを考えると尚更だ。こちらは頭皮に浸透させるだけ(せいぜい水光注射程度)だが、あちらは「毛根部の移植」だから。

 いよいよちょっと前まで夢物語だった「毛生え薬」もほぼ(100%ではないと言う意味で)現実の物になってきた感がある。皆さんの中にもやってみたい方多いんじゃないですか?あ、ハイハイ、「知り合い」がね(笑)。

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著者プロフィール

中川 泰一 近影Dr.中川 泰一

中川クリニック 院長

1977年関西医科大学卒業。1995年関西医科大学大学院博士課程修了。
1995年より関西医科大学附属病院勤務などを経て2006年、ときわ病院院長就任。
2016年より現職。


バックナンバー
  1. Dr.中川泰一の
    医者が知らない医療の話
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  3. 44. 不老不死について
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  5. 42. 「発毛」について II
  6. 41. 「発毛」について
  7. 40. ちょっと有名な名誉教授とのお話し
  8. 39. COVID-19と「メモリーT細胞」?
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  33. 14. 自然免疫の主役『マクロファージ』
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  35. 12. 結核菌と癌との関係
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  37. 10. 癌ワクチン(樹状細胞ワクチン)
  38. 09. 癌治療の免疫療法の種類について
  39. 08. 食物繊維の摂取量の減少と肥満
  40. 07. 免疫系に重要な役割を持つ腸内細菌
  41. 06. 肥満も感染症? 免疫に関わる腸の話(2)
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  43. 04. なぜ免疫療法なのか?(1)
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