医者が知らない医療の話
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第37回

COVID-19のワクチン II

《 2020.10.10 》

数ある製造法の主なものを実績のある順に挙げると、

1. 不活化ワクチン

 最も馴染み深いワクチンでウイルスを処理して不活化し、感染性や病原性を消失させたワクチン。インフルエンザ菌b型 (Hib) ワクチン、日本脳炎ワクチンなど色々な疾患で実績がある。
 原理的には不活化したウイルスが自然免疫を誘導し、さらに抗原蛋白質が主に液性免疫を誘導する。
 長所はインフルエンザ菌b型 (Hib) ワクチン、日本脳炎ワクチンなど色々な疾患で実績がある事。
 短所としてはウイルスを培養する必要があるので、それに対応したバイオセーフティー施設が必要となり、大掛かりな製造設備が必要となる。

2. 組み換えVLP (Virus Like Particle) ワクチン

 ウイルスのゲノムを含まない外殻蛋白質のみを、微生物や昆虫、植物細胞で作ったワクチン。外殻蛋白質が抗原蛋白質として細胞に取り込まれ、ペプチドに分解されて、主に液性免疫を誘導する。これまでB型肝炎ワクチンやヒトパピローマウイルスワクチンな ど、複数のVLPワクチンが承認されており、日本を含めて 相当数の投与実績がある。

3. 組み換え蛋白質ワクチン

 ウイルスの抗原蛋白質をヒト以外の、哺乳動物や昆虫、植物の細胞で制作したワクチン。 抗原蛋白質が細胞外から取り込まれ、ペプチド(たんぱく質の断片)に分解されて、主に液性免疫を誘導すると考えられている。
 現在、既に昆虫細胞を使ったインフルエンザワクチンの投与実績がある。

4. ウイルスベクターワクチン

 最近、遺伝子治療などでもレンチウイルス(ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の有害な遺伝子を除去した物。)をベクター(運び手)に用いることにより遺伝性疾患に対する遺伝子治療や癌の免疫療法などの有力な手段として用いられている。やっぱり、HIVという所で慎重になっているのだが、遺伝子治療の一つのブレークスルーだろう。
 このワクチンの原理としては病原性のない、または弱毒性のウイルスベクターに抗原蛋白質の遺伝子を組みこむ。そして このウイルスが細胞に侵入し、細胞質で抗原蛋白質をつくり出すこと で、抗体による液性免疫と同時に細胞性免疫も惹起するという物。
 ベクターには、一般的にはアデノウイルスやレトロウイルスなどが用いられる。
 長所としては、先述の通り最近ベクターの研究が進歩している事。エボラウイルス用ワクチンのみだが、承認されている事。
 短所としては、COVID-19としてはアデノウイルスが用いられているのだが、これの安全性。通常ベクターに用いるアデノウイルスは遺伝子のE1領域を欠損させて、非増殖型のウイルスになっており、物理化学的に安定性が高く、比較的大きな遺伝子を組み込めるなどメリットが多いので用いられている。しかし、ベクター投与により自然免疫が惹起される。さらに続いてウイルスタンパクに対しての液性免疫やベクターウイルス感染細胞に対して細胞性免疫が惹起される。クッパー細胞でも炎症系サイトカインであるIL-6やIL-12が産生される。つまり副作用の危険性があると言う事。

 OTC欠損症 (Ornithine transcarbamirase deficiency) に対するアデノウイルス投与による死亡事故も自然免疫系の過剰反応と考えられている。一般的にアデノウイルスに限らず、ウイルスを投与する場合、自然免疫系を完全に抑えることは不可能と思われる。
 また液性免疫によりベクターウイルス投与後に抗体が出来、2回目以降のベクター効果を阻害する。さらに技術的な事だが、アデノウイルスに関しては多くの人類はヒト5型アデノウイルスに対する抗体を既に持っていると考えられているためこれも避けなければならない。
 この様な短所(と言うか問題点)がある。現在、開発中のCOVID-19ワクチンで、カンシノはアデノウイルス (5型) を用いているらしいがどうなんだろう?
 そして世界各国が導入を予定している、アストラゼネカが開発しているワクチンは治験時にかなりの量 (1,000mg) のアセトアミノフェンを予防投与しており、免疫過剰や炎症系サイトカインの引き起こす熱発や疼痛をコントロールしている。オックスフォード大学はこれらの副作用は以前のワクチンと同程度で問題なしと言っているが、高齢者などには結構きついのではなかろうか? また、1回投与より、2回投与の方が中和抗体はよく定着したとなっているが、先述の理屈的にどうなんだろうと思う。

5. mRNAワクチン

 抗原蛋白質の塩基配列を作る情報を持ったmRNAのワクチン。技術的には生体内で分解された際に自然免疫を過剰に惹起するのを抑えるため、脂質ナノ粒子 (LNP) などに封入して投与する。
 原理としては細胞質内でmRNAが抗原蛋白質を作り出すため、この抗原により液性免疫および細胞性免疫 も惹起される。

 これまで世界で承認されたmRNAワクチンはまだ無いが、先述した通り現状モデルナ社の新型コロナワクチン「mRNA-1273」が第3相試験に入ってるとかで、トップバッターになりそうだが、効果と副作用が実際どうなるか分からない。

6. DNAワクチン

 原理としては、抗原蛋白質の塩基配列情報を持ったDNAのワクチンをmRNAワクチンの様に加工せず直接投与するため、まずはそれ自体がアジュバントとして自然免疫を誘導する。次に核内でmRNAに転写および翻訳され抗原蛋白質を生成する。これにより液性免疫および細胞性免疫も惹起する。この様に、免疫の各段階に関与する為、効果ありそうな感じなのだが、実際は余り効果が認められず、まだ世界的にも認証されたものはない。
 その理由としては免疫応答の誘発が弱いからと考えられている。この欠点を補う為、ワクチンをエレクトロポレーション(美容関係の先生方はよくご存知だろうが、皮膚に針を刺して電流流して浸透させるヤツ。BCGのマイクロニードル投与法の進化版みたいなもの。)で投与するとか考えているらしい。こんな投与法では実用性に欠けると思うのだが、それを補うだけの効果があるのだろうか?
 大阪大学のバイオベンチャーは「秘密の」アジュバンドにより、免疫応答をあげるらしいが、どんなの使うのか、こちらの方が興味をそそりますね。

 この様に、近々色々なCOVID-19ワクチンが出て来るだろう。ただ、水を差す様だが、3ヶ月程度でウイルスは変異してしまう。そうしたらせっかくのワクチンの効果がなくなる可能性や、COVID-19は抗体が数週間以内に消えてしまう可能性が示唆されている。
 一方、COVID-19に対してある程度の交差免疫を起こしている可能性がある。新型コロナウイルスと同族の一般的な風邪ウイルスは4種、さらにSARSウイルスなども交差免疫を起こすとの仮説もある。これが、アジアでは欧米の様に感染が広がらない、重症化しない理由の一つと考えられている訳だが。
 いずれにしても、これだけ多くの人々が恐怖心を煽られたものだから、ワクチンが普及して(効果があって)日々の感染者数が激減しない限りは、この「新型コロナ騒動」は収束しないだろうなあ。

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著者プロフィール

中川 泰一 近影Dr.中川 泰一

中川クリニック 院長

1988年関西医科大学卒業。
1995年関西医科大学大学院博士課程修了。
1995年より関西医科大学附属病院勤務などを経て2006年、ときわ病院院長就任。
2016年より現職。


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    医者が知らない医療の話
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