医者が知らない医療の話
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第3回

がん治療の現状(3)

《 2017.12.10 》

 前回までで、私の治療スタンスはなんと無く解っていただけたと思う。一言で言うと「やれる治療は全部しましょう」だ。

 残念ながら、どれか一つの治療法で癌が完治することはほとんどない。早期発見で、Opeが出来、その後生活態度が改まったりした場合ぐらいか。その他の標準療法で対応できない症例に対して、何か良い方法がないかと常に模索している。すでに発生している癌に対しては出来るだけ体外に取り出せれば良い。Opeで取れるだけ取った方が良いと思う。放射線や抗癌剤で縮小させてからOpeに持って行くのも有効だと思う。転移巣があれば局所療法なども併用して物理的に治療すれば良い。問題は転移などが著明で癌を排除しきれない場合、ないし画像で捉えられない癌細胞に対してどうするかだ。まあ、大抵がStageIVで、所謂「末期癌」だ。近年では「癌幹細胞」の存在も多くの癌で証明されつつあり、再発の大きなリスクとなっている。ここで、標準療法以外の治療の選択になる。勿論、併用できるなら出来るだけ早期に治療した方が良いし、予防的治療が可能な物もある。私の選択の基準として、まず、理論的に正しいもの。次に、副作用のないもの。そして、海外などで既にある程度の実績のあるもの。としている。

 気になっている例を挙げると、BNCT(Boron Neutron Capture Therapy)というものがある。ホウ素を癌細胞に取り込ませて、中性子線を照射し、癌細胞を選択的に破壊する治療で、「放射線治療」の範疇だが、ホウ素の代わりにガドニウムを用いたより強力なGdNCTなどもある。ほぼ日本独自の技術で、かつては原子炉でしか出せなかった中性子線を加速器で出せるようになった所が大きなターニングポイントだ。かなり実用化の段階だが、それでもまだ、重量子線のような結構大げさな施設が必要だ。実はこの小型化技術の特許を持っている社長がいるのだ。3mから最小1m程度の加速器で出来るのだが、そうなると現在MRIを持っているクラスの病院に全てに導入出来る事になる。そうすると、Opeの必要が無くなる症例が多くなるだろう。「神の手」でも切除しきれない衛星結節も一掃できるのだ。しかし世の常で、この小型化技術もせっかくの特許があっても資金がなくて実用化できていない。

 遺伝子療法も気にはなっている。まず、中国開発のRT181投与。これは、レンチウイルスを用いて、癌細胞にCDC6タンパクshRNAを作用させて、がん細胞中の細胞を増殖させるために発現するCDC6タンパクを作れなくするやり方だ。その後、癌抑制遺伝子の「p53」や血管新生阻害剤の「E10A」をアデノウイルスなどベクターにして送り込むと言うものだ。その他、「コロイドヨード」やら「テラヘルツ波」などなど。興味のある方は調べてみていただきたい。

 そのような中で、最も実用的と判断しているのが、「免疫療法」だ。日本では1980年代に某癌センターが最初だったと聞いている。これは、リンパ球を培養増殖して体内に戻すと言う、現在でも「免疫療法」と言えばまず思い浮かぶ治療法だ。私自身は十数年前に、この時の主任技師の方から勧められて始めた。先の私の治療選択の三原則にあっている事と、症例をみせられて「こんな末期ガンでも治るんだ!」と感心したのを覚えている。
 自分の病院があったから始められたのだが、当時の大学の諸先生方は手厳しかった。まぁ自分で経験しないと解らないのだが。「どうして、なんちゃって治療法なんか始めたんですか?」と真顔で聞かれたりもした。「だって、治るんだもん!」約800症例ほど治療した。もちろん、なんでも治る訳ではない。悪くはならないが、症状が横ばい程度の方もおられるが、劇的に改善する方もおられる。この差はなんだろうと思っていたら、どうも「癌がリンパ球の攻撃をブロックしているらしい」と言うことが解ってきた。「高濃度ビタミンCの投与でこのブロックが弱まる」として併用されたりしたが、正直そんなに劇的な差は無かったと思う。この件は、近年「チェックポイント阻害剤」が出てから劇的に改善した。リンパ免疫療法との併用なので、明確なプロトコールが無い。よって賛否両論だが、某先端医療研究所などの先生方をはじめ、免疫療法の大家の先生方も「効くよ」と仰っている。私自身は2例ほどやりかけたが、「主治医」の反対で患者さんが決断できないうちに症状が悪化して手遅れになってしまった。

 免疫療法といっても他にもいろいろな種類があるが、長くなるので後ほど。
それより、最近は再生医療法などもあって「免疫療法」も評価されるようになってきたが、未だに反対派の方もおられる。反対派の主な意見は「エビデンスが無い」と言う事らしい。結構な症例数はあると思うのだが、抗がん剤の治験のような大規模治験のデータで無いと納得しないようだ。治験については、言えないようなことが結構あって全面的には信用していないが、科学的データとしては価値がある。無論、何千症例も比較データが取れれば、それに越したことはないと思う。最終的に保険収載されるには必要だろう。しかし現状ではそんな治験出来る訳がない。データを集めろと言うけれど、やった事があるならそんなに簡単ではない事ぐらいわかるだろう。どこかの大学が本腰を入れればできないことはないと思う。いずれ、どこかがやるだろう。我々のPMCTの時のように。私も、某培養の会社と共同で症例を集めている。

 しかし、問題の本質は、「他に治療法が無い」場合、エビデンスが不十分だからと言って治療をやめてしまう事が正しいか否かだ。素直に終末期医療(積極的な治療は止める事)を受け入れられる人ばかりでは無いはずだ。何とか助かりたいと思う人の方が多いと思う。
 特に悪い副作用もない上、抗がん剤などより遥かに安全で安価。ある程度のエビデンスもあれば、治療の選択肢としてあっても良いと思わないか?

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著者プロフィール

中川 泰一 近影Dr.中川 泰一

中川クリニック 院長

1988年関西医科大学卒業。
1995年関西医科大学大学院博士課程修了。
1995年より関西医科大学附属病院勤務などを経て2006年、ときわ病院院長就任。
2016年より現職。


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