歴史的に見落とされた人々への敬意の示し方(11:00)

エイミー・パッドナーニ(Amy Padnani)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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エイミー・パッドナーニです 『ニューヨークタイムズ』紙の 追悼記事の編集をしています 私のことを 「死の天使」と呼ぶ友達もいます

(笑)

実際のところ 「追悼記事の担当として いつも死を考えるなんて 落ち込みませんか?」と 人には聞かれます 私がどう返事するか解りますか? 追悼記事では死ではなく その人の人生を語るので 興味深いし 共感できます 誰も知らないことも よくあります

例えば 最近 靴下パペット考案者の 追悼記事を掲載しました

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靴下パペットをご存じでも 誰が考案し その人がどんな人生を歩んだか 考えてみたことありますか? 追悼記事は ジャーナリズムの 特徴的な形式です あたかも 芸術作品のように 記者にとっては ある人の人生の話を 美しい物語として 織りなす機会なのです

1851年以来 『ニューヨークタイムズ』紙は 何千件という量の追悼記事を掲載してきました 首脳陣、 有名人 スリンキーというおもちゃの 名前の考案者さえいました でも 1つだけ問題がありました 女性や有色人種の人生を語った 追悼記事はごく僅かなのです それが私のプロジェクト 「Overlooked (見落とされた人々)」を 立ち上げたきっかけでした 追悼記事に載らないような 社会から疎外された人々の 人生を語るのです 『ニューヨークタイムズ』紙にとっても 創刊168年以来の在り方を見つめ直し 理由は何であれ 掲載されなかった人々の 歴史の隙間を埋める機会です 過去の間違いを正し 誰が重要と見なされるかについて 社会の見方の焦点を定め直す機会なのです

2017年に追悼記事に配属された時に 発案したプロジェクトです 黒人の人権を訴える社会運動 「ブラック・ライヴズ・マター」は頂点に達し 男女不平等に関する議論も 再燃していました 同時に 私はジャーナリストとして さらに有色人種の女性として この議論を進展させるために 私が出来ることは何かと考えました 人々が表に出てきて 理不尽さを感じたことを話しており 私は身につまされました だから 時々届く読者のメールに 「何故もっと女性や有色人種の人の 追悼記事がないのか?」 とあるのに気付き 「本当 何故なんだろう?」と思いました

私は部署内では新人なので 同僚に聞いてみると 「今亡くなっていく人たちは 女性や有色人種の人が 影響力を発揮するのを 歓迎しなかった時代の人たちだ 世代がさらに変わると 女性や有色人種の人の追悼記事が 増えるだろう」と言われました そんな答えは全然納得できませんでした

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一体 死んだ女性たちはどこに行ったの?

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そこで 訃報をどのように 入手するのか考えてみました 一番多いのは 読者からの情報提供です そこで考えたのが 「海外の新聞を見たり ソーシャルメディアを 読みあさったらどうだろう?」 ちょうど同じ時期に 色んなことが頭の中を巡っていて 私はメアリー・アウターブリッジを 紹介したサイトを見つけました メアリーは1874年に米国に テニスを紹介したとされていました 私は驚きました 「米国で最大のスポーツの1つを 紹介したのは女性だったの? それを知っている人はいたの? メアリーの追悼記事は うちの新聞に載ったの?」 ネタバレ注意です ― 載りませんでした

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他に誰が見落とされたか 考えてみました そこで私はアーカイブを 徹底的に調べることにしました 驚くことが色々ありました リンチ反対運動を始めた 草分け的存在のジャーナリスト アイダ・B・ウェルズ 才気あふれる詩人の シルヴィア・プラス 数学者のエイダ・ラブレス 今では初のコンピュータープログラマーと 認められています

そこで 部署に戻ると私は 「彼女たちの人生を今改めて 伝えてみたら」と提案しました 同意を得るには 時間がかかりました 最初に正しく報道しなかったために 本紙が面目を失うのでは という懸念もありました 現在のニュース報道ではなく 過去を回顧するのは 少し変でもありましたが 「これは本当に価値ある取材です」 と私は伝えました いったん 部署内で意義が見出されると 全員が全力投球しました 12人ほどの記者や編集者の協力を得て 2018年3月8日に 15人の非凡な女性の物語とともに 掲載を開始しました

部署の強力な取材力を 私は承知はしていましたが これほど反響を呼ぶとは 思ってもみませんでした 何百通のメールが 送られてきました 送り主はこう書いてきました 「ようやく 彼女たちに 声を与えてくれてありがとう」 こういう読者もいました 「記事を読みながら出勤中に泣けました 初めて女性として 認められたように感じたから」 私の同僚はこう言いました 「有色人種の女性が 『ニューヨークタイムズ』紙で こんな成果を出すとは 思ってもいなかった」 読者からも 約4,000通の情報提供があり 私たちが見落としていた人を 教えてくれました その中には 私のお気に入りが いくつかあります

私のナンバー1は グランマ・ゲートウッドです

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グランマは30年間 夫の家庭内暴力を生き抜いてきました ある日 夫はグランマを 見る影もないほど殴りました 夫はほうきが折れるほど グランマの頭を叩き 抵抗したグランマは 夫の顔に小麦粉を投げつけました ところが 警察が到着して逮捕されたのは 夫ではなくグランマでした 刑務所に拘束された グランマを見た市長は 彼女が回復するまで 自宅に引き取りました ある日 グランマは 『ナショナル・ジオグラフィック』で 女性が単独でアパラチア山道を トレッキングしたことはない という記事を読み 「それなら自分がやってみせる」 と言いました レポーター達が年老いたグランマが山林を トレッキングすると聞きつけました そしてゴールでグランマに尋ねたのが 「大変な環境をどう生き抜いたのですか?」 彼らはグランマが生き抜いた 夫の暴力のことは知りませんでした

「見落とされた人々」は 大成功でした Netflix の番組として 放送される予定です

(笑)

(拍手)

番組として世に出るのを 早く見たくてたまりません 25社もの多様な出版社から 「見落とされた人々」を 本にする話もきています このプロジェクトが時宜にかない 求められているのは明らかです またそれは 新聞社の務めが 世界の出来事を日々記録することであり 重要な人物を省かないように すべきだと思い出させてくれます 私は 過去を振り返ることの 意義の大きさを考えながらも ずっと考え続けている問いもあります 「追悼記事の未来はどうなるのか― どう多様化させたらいいのか」と それは 私の原点と言える問題です

この疑問に答えるための 情報を集めようと思い立ちました ニューヨーク・タイムズ・ビルの 地下の奥深く 地下3階にある 資料室に行きました モルグ(死体公示所)とも言います

(笑)

そこで文書保管係の 助けを借りました 『ニューヨークタイムズ 追悼記事目録』について教わり それを「ニューヨーク系図協会」に渡して デジタル化してもらいました プログラマーが 「Mr., Mrs., Lady, Sir」などの 性別を特定する語を伴う見出しを 解析するプログラムを書いてくれました すると 1851年から2017年までの間に 追悼記事に載った女性は 僅か15~20%だったことが分かりました 次に 私がプログラマーと手がけたのが 多様性分析ツールでした 無味乾燥な名前ですが すごく便利なツールなんです 追悼記事の男女比を 月ごとに分析してくれます 大したことではないように 聞こえるでしょうが 以前はこうやって計算していました

(笑)

私は 30%という目標設定を プログラムに組み込んでもらいました 「見落とされた人々」を 立ち上げた2018年3月から 2019年3月までの間に 女性の追悼記事を30%にするのが 私の目標でした それは 創業から168年間 到達できずにいた数字ですが 嬉しいことに 31%を達成できました

(拍手)

素晴らしいことですが 十分ではありません 次の目標は 35%で その次は 40% 最終的には半々を目指します そしてこのプログラマーとさらに協力し 追悼記事の有色人種の比率を割り出す 類似のツールを作りたいと思っています 有色人男性も「見過ごされた人々」に 加えたいと思っており 黒人の歴史を称える月の特別欄で ついにそれが可能となり 黒人男女12人程の物語を語りました 本当に強烈な経験でした その多くの人たちが奴隷だったり 奴隷制度から一世代離れた人たちでした 人生を成功させるためには その多くの人が 過去を偽る必要がありました 彼らはいくつかの形の困難に 繰り返し遭遇しました

例えば エリザベス・ジェニングスは ニューヨーク市の 人種隔離政策下で 電車に乗る権利を求めて闘いました ローザ・パークスがバスで 同じように闘った100年前のことです 私たちが歩んできた 長い道のりを示すのと同時に まだいかに多くの課題が 残されたことの表れです

「見落とされた人々」には他にも 疎外された人を含んでいます 最近 コンピュータプログラマーの アラン・チューリングの追悼記事を載せました 信じられないことに それまで この優れた人物の追悼記事はありませんでした 第二次世界大戦中 ドイツ軍の暗号を解読したことで 戦争を終結に導いた功績にもかかわらずです それどころかチューリングは 性的指向を理由に犯罪者扱いで死んだ上 化学的去勢を強制されました

このプロジェクトのような 素晴らしい物事は簡単には成し得ません 立ち上げる価値があるものだと 多くの人々を懸命に説得しても 上手くいかない日々がありました 自信喪失で 打ちひしがれた時もありました 自分はおかしいのか 信じているのは自分だけなのか 断念すべきかと 思ったこともありました でも このプロジェクトの反響を見て 自分だけではないと分かりました 私と同じように感じる人は 沢山います

まあ 追悼記事について考える人は 多くはありません でも あえて考えてみると それは人間の生き様の証だと気付きます ある人のこの世への貢献を語れる 最後の機会であり 社会が誰を重要と見なすのかの 実例なのです 今から100年後 私たちの時代がどんな時代だったのかと 過去を調べる人がいるかもしれません 私はラッキーです ジャーナリストとして 追悼記事という形式を使って 既存の語りに変化を 与えることができました 老舗の企業に 自らの現状を見直すよう 促すことにも貢献できました 少しずつでも 私がこのプロジェクトを継続することで 社会の見方の焦点を 定め直し続けることで これからは見落とされる人が いなくなることを期待しています

ありがとうございました

(拍手)

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このプレゼンテーションについて

1851年の創刊以来、『ニューヨークタイムズ』紙は、首脳陣や有名人から、靴下パペットの発案者まで、数千件の追悼記事を掲載してきました。ところが、女性や有色人種の人たちの生涯を記録したものは僅かです。この洞察力のあるトークで、『ニューヨークタイムズ』紙の編集者エイミー・パッドナーニは自らが率いているプロジェクト、「Overlooked(見落とされた人々)」の裏話を共有します。これはその死が歴史に名を残さなかった人々を評価するプロジェクトで、そうすることで誰が重要と見なされるかについて、社会の見方の焦点を定め直すのだと言います。

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