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細菌をハックしてがんと闘う(4:52)

1884年、頸部に急速に成長するがんを持つ不幸な患者が、がんと無関係な細菌性皮膚感染症を発症しました。感染症から回復するにつれて、がんが退縮し始めました。感染症が患者の免疫系を刺激したのです。今日では、合成生物学者が細菌をプログラムし、薬を安全に、直接腫瘍に届けます。どうすればこんなことが可能なのでしょうか?タル・ダニーノが解説します。

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1884年 ある患者は 運に見放されたように思われました 頸部に 急速に成長するがんができ さらに がんと無関係な 細菌性皮膚感染症を発症したのです しかしすぐに 予期せぬコトが起きました 感染症から回復するにつれて がんも退縮し始めたのです ウィリアム・コーリーという医師が 7年後にその患者を診察したところ がんの形跡は見当たりませんでした 驚くべきコトが起きていると コーリー医師は確信しました 細菌性感染症が 患者の免疫系を刺激し がんを撃退したに違いない

コーリー医師の この幸運な発見によって 細菌の意図的な注射による がん治療の道が開けました 1世紀以上を経て 合成生物学者が さらに優れた方法を発見しました かつては味方とは思えなかった細菌を プログラムし 薬を安全に 直接腫瘍に届ける方法です

がんは 細胞の正常機能が 変化することで発生し 細胞が急速に増殖し 腫瘍を形成したものです 放射線治療、化学療法、免疫療法などの 治療法は 悪性細胞を死滅させることが狙いですが 全身に影響を及ぼし その過程で 健康な組織も破壊してしまいます

しかし 大腸菌のような細菌は 腫瘍の中で選択的に育つという ユニークな特性を持ちます 実際 腫瘍の中心部は 細菌にとって理想的な環境であり そこで免疫細胞から隠れて 安心して増殖できるのです 感染症を引き起こす代わりに 腫瘍に抗がん剤を運ぶよう 細菌を再プログラムし トロイの木馬のように 内部から腫瘍を狙えます 細菌をプログラムし 新たな方法で 周囲を感知し反応させるという発想は 合成生物学と呼ばれる分野の中で 最も注目されています

では どうすれば 細菌をプログラムできるのでしょうか その鍵は 細菌の遺伝子操作にあります 細菌に特定の遺伝子塩基配列を挿入すると 様々な分子を合成するよう 指示できます がんの成長を阻害する分子も 合成させられます また 生物学的回路のおかげで  非常に特異的な行動も とれるようになります 特定の因子の有無や組合せによって 異なった行動をとるようプログラムします 特定の因子の有無や組合せによって 異なった行動をとるようプログラムします 例えば 腫瘍は 低酸素でpH値が低く 特定の分子を過剰に産生します 合成生物学者は 細菌をプログラムし これらの状態を感知させることが可能です そうすることで 健康な組織を避けながらも 腫瘍に応答できるようになります

生物学的回路の1つである 「同期溶解回路」 いわゆる「SLC」では 細菌による薬物輸送が 可能となるだけでなく スケジュールに沿った輸送も可能となります まず 健康な組織を傷つけないために 抗がん物質の産生が 細菌の成長とともに 腫瘍の中だけで起こります 抗がん物質が産生された後 菌体密度が閾値に達すると 自滅スイッチが作動し 細菌が破裂します これにより 抗がん物質が放出され 細菌の数は減少します しかし 一定数の細菌は生き残り コロニーを再構築します やがてまた細菌が増殖すると 自滅スイッチが作動します このサイクルが繰り返されます

この回路は 微調整が可能で がんとの闘いに最も適した 周期的なスケジュールで薬物を輸送できます このアプローチは マウスを用いた実験で 有望であると科学的に証明されています 科学者たちは 細菌を直接腫瘍内に注射することで リンパ腫の除去に成功しただけでなく

免疫系を刺激し マウスの全身に転移した 未治療のリンパ腫を検知し攻撃するよう 免疫細胞に能力を与えました 他の多くの治療法とは異なり 細菌は 特定のがんを 標的にするというよりは むしろ 全ての固形腫瘍に共通する 一般的な特徴を標的とします さらに プログラム可能な細菌は 単にがんと闘うだけではありません それどころか 洗練されたセンサーとして

将来起こりうる病気を監視できるのです 安全な腸内細菌は恐らく 私たちの腸内で休眠しています そして 症状が起きる前に 病気を検知、予防、治療します 技術が進歩し 機械的なナノボットによる 個別化医療の未来に 希望がもたらされていますが 数十億年にわたる進化のおかげで 私たちはすでに 細菌という意外な生物学的形態を スタート地点として持っているかもしれません これに合成生物学が加わることで これから何が可能になるかが 大いに期待されるところです

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