臓器提供を待ちながら亡くなる患者がいない世界を作るために(13:41)

ルハン・ヤン(Luhan Yang)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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皆さんこんにちは 皆さんにライカを紹介しましょう 多くの人にとって ライカは 単純に可愛いブタです しかし 命を救う臓器提供を待つ 数十万人もの患者にとって ライカは希望のシンボルです 腎臓疾患や他の臓器の 病気を患う患者にとって 臓器移植が現実的な選択肢となった 1970年代以降 臓器の供給が問題となってきました ここ数十年で 臓器の需要は爆発的に増え 問題はただ悪化するばかりです 現在アメリカでは 11.5万人近くの患者が 生きるために臓器移植を 必要としています 私のトークが終わるまでに さらに一人の患者が この待機リストに加わります

今日一日で 約100人の方が 新しい臓器を受け取ります 人生を新しく始めるチャンスです しかし今日が終わるまでに 20人が臓器提供を待ちながら亡くなります 患者やその家族 患者を助けたいと思う医師にとって 胸が張り裂けるような状況です

世界の地域によっては これが不穏な社会問題にもなります 例えばアジアでは 必死な患者たちが 残酷な闇市で 臓器を手に入れていると マスコミが報じました この危機の解決策が必要だ ということは明らかです 人々の命がかかっています

生物学者と遺伝学者として この問題を解決することは 私のミッションになりました ライカのおかげで私たちは その方向に進んでいると 今は希望を持っています 遺伝子編集技術を使うことで ヒトに移植できる臓器を ブタの体内で 精巧に安全に作ることができます

これを可能にする素晴らしい 科学へと急ぐ前に 異種移植を詳しく説明します これは 動物の臓器を ヒトに移植する処置です なぜブタの臓器かと 聞きたくなるかもしれません 大きさや生理機能がヒトの それに似た臓器を持つ ブタがいるからです

この半世紀で 先駆者たちが移植を 成功させようとしてきましたが 結果はほとんど出ませんでした なぜでしょう 根本的な壁が2つありました 1つは拒絶反応です 私たちの免疫システムが新しい臓器を 自分の物ではないと認識すると 拒絶反応を示します 2つ目は ブタからの臓器移植に 特徴的な問題です すべてのブタはウイルスを持っていて ブタには良性ですが ヒトに伝染する恐れがあります ブタ内在性レトロウイルス (PERV)と呼ばれるもので HIVのようなウイルス性伝染病を 引き起こす可能性があります これらの問題に対する 効果的な取り組みがなく 異種移植は10年以上停滞していました 進歩はほとんどありませんでした—今までは

今日ライカとここに至るまでの 経緯を説明しましょう 私の旅は中国の峨眉山で始まりました 『グリーン・デスティニー』など さまざまな伝説的な物語で よく登場する場所 私が故郷と呼ぶ場所です 山で育つ中で 私は自然との強いつながりを 持つようになりました この写真は私が7歳の頃 サルを肩に乗せて 古いお寺の前に立っているところです 友達と一緒に落花生を投げて サルの気を逸らし 向こう側に渡って谷を散策していたのを 今でも鮮明に覚えています

私は自然が大好きです 専攻分野を決める時になったとき 北京大学で生物学を勉強することにしました しかし学べば学ぶほど 疑問は増えました 私たちの遺伝子と動物の遺伝子は こんなにも似ているのに なぜこんなにも外見は異なるのか なぜ私たちの免疫システムはこれほど 沢山の病原体を攻撃するのに 自分自身を攻撃しないのか このような疑問に私は悩みました オタクっぽいのはわかっています  でも私は科学者ですからね

大学卒業後 疑問を投げるだけでなく それに答えたいと感じました 2008年に幸いなことに 私はハーバード大学の博士課程の プログラムに合格し ジョージ・チャーチ博士と研究をしました チャーチ博士の研究室で研究する中で 哺乳類の遺伝子構造を学び 実験するようになりました その実験の一つが ライカに近づくきっかけになりました 2013年私は同僚と CRISPRという 皆さんも聞いたことが あるかもしれない技術を使って ヒトの細胞を改変しました 私たちはこの技術を使ってヒトの DNAを編集することに 初めて成功した 2つの研究チームのうちの1つでした 驚くべき科学的発見の瞬間でした 遺伝子編集の道具CRISPRには 2つの要素があります Cas9酵素と呼ばれるハサミと ガイドRNAと呼ばれるものです 遺伝子のハサミに顕微鏡が ついたものと考えてください 顕微鏡がガイドRNAで 切断したい部分に ハサミを持って行って 「ここだよ」と伝えると Cas9酵素が私たちの望むように DNAを切断し修復するのです

研究を報告して間もなく マサチューセッツ総合病院の医師らが この研究の医療への応用に興味を示しました 彼らが 私たちに連絡をくれ 両者とも 臓器不足を解消するために CRISPRを使えるのではと 考えるようになりました その方法は 単純でとても複雑なのです ブタの細胞を編集して ウイルスを含まず ヒトへの免疫適合性を 持つようにすることから始めました その細胞の核をブタの卵子に埋め込み 胚へと分裂させます その胚を代理母の子宮に入れ ブタへと育てます 基本的にはクローン技術と同じ手順です そうしたブタの子はうまくいけば 人間の免疫系が拒否しない 遺伝子構造の内臓を持って生まれます 2015年にウイルス伝染の問題に まず取り組むことにしました ブタのゲノムからPERVウイルスの 62個のすべてのコピーを すべて取り除きたかったのですが 当時はそれは ほぼミッションインポッシブルでした CIRSPRを使っても 細胞内の1〜2箇所しか 変更できませんでした ある細胞で可能な変更の 最高記録は5つでした そのために処理量を10倍以上に 増やさなければいけませんでした とても慎重な設計と何百回もの実験をして すべてのウイルスを取り除きました 史上初です さらに重要なことに この危険なウイルスがヒトに伝染する 可能性を除去できるということを 私たちの研究は示していました

昨年 改変細胞とクローン技術を使って 私たちの新規事業eGenesisは ライカを生み出しました その種のブタとして初めて PERVを持たずに生まれたのです

(拍手)

ライカは安全な異種移植のための 重要な初めの一歩の象徴です さらなる遺伝子改変を行い 免疫の問題を解決するための 基盤でもあります それ以降 私たちはPERVを持たない ブタを30匹以上生み出しました もしかしたら地球上で最先端の 遺伝子改変をされた動物かもしれません ライカは 地球軌道を 動物として初めて周回した ソ連の犬にちなんで名づけました ライカと姉妹たちが 科学と医療の最先端へと 導いてくれることを期待しています

肝臓疾患の患者が 新しい肝臓によって救われ しかも臓器の提供を待つ必要がない つまり 誰かが亡くなるのを待つ 必要がない世界を 想像してください 糖尿病の患者が 毎度の食事の後の インスリンに頼る必要がなく 代わりに自らインスリンを分泌する 膵臓細胞を私たちが提供する 世界を想像してください 腎臓疾患の患者が 透析の負担を負わなくていい 世界を想像してください 私たちはそんな世界を 作るために努力しています 移植用臓器不足のない世界です 今まで取り組めなかった問題に 取り組むための道具を やっと手に入れました ライカは私たちの冒険のほんの始まりです 自然の前では 人は自分の力を 過信してはいけません 免疫の問題や 今の段階では想定もできない問題が まだあるからです しかし この最先端の技術を医療に応用し 待っているすべての患者を 救うことは我々の責任です

ありがとうございました

(拍手)

(クリス・アンダーソン) ルハンさん 素晴らしい成果ですね 前へどうぞ 次のステップは何ですか ウイルスは除去できました 今後はヒトの体が移植を 拒絶しないようにすることですよね どのように解決するのですか

(ルハン・ヤン)  とても複雑なプロセスです ブタの抗原を除去しなければいけません さらに 癌から学べることも たくさんあります 癌がどうやって免疫系に侵入したり それを回避したりするのかを学び それをブタの臓器に応用し ヒトの免疫システムを騙して 臓器を攻撃しないようにします

(クリス)臓器移植が成功するのは いつだと思いますか いつ成功することを願っていますか

(ルハン)数字を挙げることは 無責任になってしまいます

(クリス)ここはTEDですから 私たちは常に無責任ですよ

(ルハン)患者のために成功させようと 朝から晩まで働いています

(クリス)では5年とか10年といった 見通しでも 教えて頂けないのですか

(ルハン)10年以内の成功を もちろん願っています

(笑)

(クリス)それを聞いてたくさんの方が 興奮することでしょうね 素晴らしい可能性です ですが同時に ヒトの利益のために可愛いブタを 搾取するべきではない という人も出てくるでしょう それへの答えはありますか?

(ルハン)もちろんです 一匹のブタが8人の人を救える ということを考えてください さらに ヒトからの臓器移植と同じように ブタから腎臓を一つ取るだけでしたら ブタはまだ生きることができます なので私たちはこれらの問題に とても気を配っています しかし私たちの目標は 患者や家族の満たされていない 医療ニーズに取り組むことだと思います

(クリス)あとベーコンを食べる人でしたら そのようなことは言えませんよね

(ルハン)そうですね

(笑) (クリス)ありがとうございました (ルハン)ありがとうございました (拍手)

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このプレゼンテーションについて

半世紀近く、科学者は動物の臓器をヒトに移植する手法を確立しようとしてきました。生きるために移植を必要とする何十万人もの人を救う理論上の夢です。しかし、特にPERVウイルスがブタからヒトに感染するというリスクは大きく、それが研究を足止めしてきました—これまでは。 この刺激的なトークでは、遺伝学者のルハン・ヤンが、飛躍的な進歩を説明します。遺伝子を編集する技術、CRISPRを使い、ルハンと同僚はそのウイルスを持たないブタを生み出し、ヒトへの移植が可能な臓器をブタの体内で安全に作るという可能性を開きました。この最先端の科学と、それが臓器不足の危機の解決をどのように手助けするのかをより詳しく学びませんか。

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