ビッグデータと小規模農場と2つのトマトの物語(15:13)

エリン・バウムガートナー(Erin Baumgartner)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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私たちの日常生活はデータと アナリティクスで劇的に変化しています これはオンラインだけの話でも 遠い未来だけの話でもありません 現実世界の とても現実的で具体的な変化です 私はコンピュータギークとして この11年間 MITの ビッグデータラボで データ科学を現実世界の研究に活用して 社会の大きな問題の 解決を図ろうと努めてきました

ビッグデータの分野では 膨大な量のデータを 計算ツールで解析して パターンや傾向を見出します データが雄弁な語り手となって 決して気づくことのなかった 日常生活の事象の裏に 隠された物語を教えてくれます どんな経緯でそうなったのかが 色鮮やかに描き出され 説得力を持って訴えかけてきます まず 私がMITで手がけた プロジェクトを2つ この現象の好例として ご紹介します

1つ目はTrash Track(ゴミ追跡) といって 廃棄物管理システムについて 理解を深めるためのプロジェクトです 「ゴミは一体どこに行くのか?」 という疑問の答えを求めていました 古いコーヒーカップや 2000年代初頭に愛用していた携帯電話や ベーグル 今朝の新聞などを捨てたら どこに行くのでしょう? このデータがなかったので データ作りが必要でした 私たちは 答えを突き止めて この疑問を視覚化するために 色々なゴミに小型センサーを取り付けて 廃棄物処理の流れに投入しました これがその時のデータです どの線もノードも1つのゴミを表しています これがシアトルの街から週を追うごとに 州を越えて 国内を 何か月もかけて移動していきます データを視覚化することが重要なのです というのも 皆さん こんな感想は持ちませんよね 「うん そんな感じだね」

(笑)

「計画通りの運用だよね」 あり得ませんよね

(笑)

データが示すのは 根本から破綻した 効率の悪いシステムであるという真相で センサーが報告してくれなかったら この事実が明らかになることは なかったでしょう

ご紹介したい2つ目のプロジェクトは 下水道に潜って下水サンプルを 取得するロボット作りに 関係するものです 人は訳もなく下水を嫌いますが 実のところ下水は大活躍なのです というのも 下水は地域住民の健康について 非常に多くのことを教えてくれます Biobot Analyticsという 会社があります 同社は最先端の技術を作り出して 下水で公衆衛生の状態を 把握できるようにしています 目的は 下水に含まれる オピオイド鎮痛剤を調べて 市町村の消費状態を詳しく理解することです この場合もデータが鍵を握ります データがあれば 行政はどこでオピオイドが使われているか リソースをどう配分すべきか 取り組みから成果が得られているかを 理解しやすくなります ここでも この機械に埋め込まれた 技術のおかげで ベールが取り払われて 街の知られざる実態が明らかにされています

ご覧になったように 実は ビッグデータは至る所にあるのです トイレの中でさえも さて ゴミと下水の話ができたので 先に進みましょう 次は食べ物です

(笑)

私は食への情熱を追求するために 1年前にMITを離れました そして2017年に 夫とFamily Dinnerという 会社を設立しました 会社の目的は地元の食材と 生産農家を中心にした 地域社会を作ることです この実現に向けて データアナリティクス 自動化やテクノロジーを駆使して 地元農家の分散型ネットワークを構築して 食品システムの改善を図っています お分かりのように 私たちが広範な手法を用いて 実現を目指している使命は MITのラボでの作業とそれほど違いません こんな根本的な疑問が わくのではないでしょうか 一体全体なぜ 世界屈指の都市学ラボで働くという 有望なキャリアを捨ててまで 母親のアキュラを借りて 人参を運んでいるのでしょう?

(笑)

いい車なんですよ

それは私が地元の食材の物語を 理解して 知ってもらって 向上に努めていく必要があると思うからです そして多くの点で 私たちのようなオタクこそ この話をする役割にもってこいなのです

どこから始めるか? 何を出発点にするか? 現在のアメリカの食品システムは たった1つの目的のために最適化されています ご存知のとおり 企業の利益です 考えてみてください 食品会社の存在理由として 最も説得力があるのは 飢えている人に食物を与えることではなく 美味しい食品を作ることでもなく 利益を得ることです これが食品システムのあらゆる段階に 有害な影響を与えています 食品に使用される抗生物質や殺虫剤は 人の健康に悪影響を及ぼします 価格競争によって小規模農家は 廃業に追い込まれています 実際 農家と聞いて 思い浮かべる事柄の多くは もはや存在しません 農場らしさが失われ 工場の風貌を呈しています そして結局のところ 私たちが口にする食品の質も損なわれています 工場式農場のトマトは見たところ 普通のトマトと同じような感じで 鮮やかな赤色をしています ですが ひと口かじると 風味も歯ごたえも何か物足りません

なかでも おそらく最大の悲劇は 食品の30~40%が利用されないままに 捨てられてしまうことです 16億トンにも上る量です 理解の範疇を越えています 16億トンだなんて つまり年間1.2兆ドルもの食べ物が 無駄になっています これが食べたい時にいつでも食べられる 便利な暮らしと 破綻した食品システムの代償です

では どこで無駄が起こり ゴミになっているのでしょう? ご存知のように 畑では 食べごろのジャガイモが収穫されず 輸送中や 食料品店の倉庫でも 無駄が生じています 家庭の台所でも無駄が出ています バナナに黒い斑点が出てくると 美味しくなさそうと思ってしまいます 全ての努力が無駄骨に終わるのです 種を植えて 育てて収穫した食物が輸送されたすえに 単に捨てられてしまっています もっとよい方法があるはずだと考えています

どう改善して どう取り組めば より良いシステムにできるでしょう? これを実現するには 食品サプライチェーンで発生する無駄の根絶が 必要なことが分かっています 農家にデータを渡して 予測の精度を上げる必要があります そうすれば農家が 大企業と同じ土俵に上がれます そして最後に 私たちは 企業としての立場で 質と味を最優先して 風味豊かな食品が 食卓で評価されるようにする必要があります これが私たちの考える より良いシステムであり より適切なあり方です この向上を実現するための道筋を データが作ってくれます

この諸々のことを強調するために 2つのトマトの話をしたいと思います 1つずつ紹介します トマトの実には 知っておきたい生活環の すべてが収まった 美しいスナップショットが入っています どこで育てられ どんな処理がなされ どれだけ栄養価があって 食卓までどれだけの距離を移動して その途上でどれだけのCO2を排出したか こうした全ての情報 あらゆる段階の情報が 小さな実に詰まっています 非常に面白いんです

これが1つ目のトマトです 世界中のサンドイッチ店や スーパーマーケット ファーストフード店で使われています 非常に長く複雑な経歴を持ち 10種類を超える殺虫剤が使用され 2500km以上の距離を移動して 家庭に届きます 青いトマトの画像にしているのは このトマトはまだ石のように固い 青い時に収穫されて 道中にガスで処理することで 目的地に着く頃に艶のある真っ赤な 熟れた状態になるようにしているからです こうした全ての努力と 農業にもたらされた全ての革新や技術は 全く風味のない製品を 作り出すためのものなのです

では2つ目のトマトを紹介しましょう これは地元でとれたトマトで はるかに短い生い立ちを持ちます このトマトはルーク・マホーニーが家族と共に ニューハンプシャー州カンタベリーの ブルックフォード農園で育てました その経歴はかなり退屈なものです 植えられて じっと日光を浴びてから 収穫されました

(笑)

これで終わりです 拍子抜けかもしれませんが 本当にそれくらいなのです 食卓までの道のりも110キロほどのものです ですがこの違いは劇的です

新鮮な夏のトマトを最後に食べた時のことを 思い出してみてください 今はコートが必要な時期ですが 想像してみてください もぎたてのトマトを最後に口にした時のことを 太陽のぬくもりが残っていて 濃厚な赤いトマトです 大地の匂いを感じるかもしれません まるでタイムスリップするような 懐かしさを感じます 味も風味も比べ物になりません しかも それほど遠くまで 行かなくても手に入ります

これは食物チェーン全体に言えることです 食卓で私たちが口にする果物や野菜から 肉類や動物性食品まで 全てに当てはまります 何を使って育てたのか さらに大切な点として 何を使わないで育てたかが 極めて重要です

ルークの農場には牛が60頭います 伝統的な方法を使って 昔ながらの 放牧で育てています ホルモンも抗生物質も使わず 毎日まぐさだけを与えます これが牛を牛らしく扱うということなのです 科学の実験のような扱いはしません ルークは祖父が行ったのと同じ方法で 家畜を育てているのです この方が思いやりがあります 家畜にも優しく 環境にも優しいのです ルークは利益や価格のためではなく 味と思いやりのために最適化しています

すでに解決策があるのでは? と思っている人もいるはずです 「ファーマーズマーケット」です 皆さんの多くが利用する 私も楽しみにしている市場です これも素敵なことですが 多くの点で最適な解決策とは言えません 消費者にとっては非常にいいですよね 足を運べば 色とりどりの豊富な食べ物があって 地元農家を支えているという ハッピーな気持ちになれて 新しいものや多様なものに挑戦するという 経験が得られます そして どこかから お決まりのウクレレの演奏が 聞こえてきたりします

(笑)

ですが農家の立場に立つと リスクだらけです 朝4時に起きて トラックに積み込んで 人を雇って 売り場に到着する でもその日に品物が売れるかどうか 保証はありません ニューイングランドの変動要素は 非常に多く 例えば天気もその一つです ここの天気は なかなか予想がつきません 天気は 農家にとって 出店の努力が実を結ぶかどうかを決める 数々の未知の要因の一つに過ぎません 毎回サイコロを振るようなものです

他にも解決策として CSAと呼ばれる 地域支援型農業が考えられます このモデルでは 消費者が先払いすることで 農家側の財政リスクを負担します 農家は育てられる作物を育てて 消費者がその恩恵に預かるという仕組みです この方法にも2つ問題があります これは農家に都合のよい 育てたものを必ず買ってもらえる方法です 一方で消費者は 品物を取りに行く必要があります また多様な作物を育てられない農家が 多いことは周知のとおりです 1種類の作物を山のように引き取る 羽目に陥ることも出てきます 会場にも経験者がいるかもしれません 真冬にスウェーデンカブを11kgも 受け取ったらどうしますか? 途方に暮れてしまいます

先程の質問に戻ります どんな解決策があるでしょう? 私たちが構築したいと思っているのは 改良版のCSAです うまく運営するためには 3つの中核となる新機軸が必要です 1つ目が定期購買ベースの 電子商取引プラットフォームです これにより年間を通じて契約農家に対して 一貫した需要を作り出せます サブスクリプションという形態が重要です 毎週の注文処理で 購入したくない人だけが 手続きするようにします これにより毎週 ほぼ同じ数の注文を確保できます また 農家はオンラインで販売できるので 農場近辺という地理的な場所にも 販売できる市場の数にも縛られません この仕組みでは この障壁が取り払われます

2つ目が需要の予測です アナリティクスを活用することで 先を見越して 需要を予測できるようにします これにより農家は 短期的な収穫数量を判断しながら 次に何を植えるべきかを決められます 月曜日に200件の注文が 処理されるのであれば 当社はその需要の分だけ仕入れます ブロッコリー200株 鮭の切り身200切れといった具合です この注文の自動化により 食物システムの無駄という 頭痛の種をなくすことができます 需要にぴったり合う供給が確保されるからです また こうすることで 農家と一緒に将来を予測して 作物を計画できます あらかじめ農家に今年の6月は 「毎週 アスパラガスが180kg ベリー類が220kg必要」と伝えられれば 農家はこれに応じるための作付をして 育てたものを完売できるという 確信を得ることができます

最後の3つ目は経路最適化の ソフトウェアを使った 配達業務の問題の解決です 十分な人を雇って農作物を最終目的地である 購入者の自宅まで届けられるようにします データサイエンスと この上なく有能で素晴らしいチームなくして どれも達成することはできません

これが私たちが 情熱を捧げている中心的な信念なのです 私たちが構築したいのは 持続可能なビジネスですが 利益だけではなく より優れた 総合的な食品システムにも 目を向けています 重視しているのは 人を最優先にすることです 食物を愛する人と育てる人で 食を中心としたコミュニティ作りを 目指しています 私たちは小規模農家を 支援するために起業しました 無駄をゼロにするのです 誰でも食品廃棄を嫌い 正しくないと感じています 熟れすぎてしまった コーヒーテーブルの上の バナナですらそう思います そして何よりも味です 美味しくなければ あの完璧な夏のトマトのようでなければ 意味はありません

これまで私たちは地元農家と協力して 農作物を集めて 消費者の家庭に届けてきました 皆さんを農家と直接つなげて もっと総合的なシステムを作ること それが私たちの描く将来のビジョンです このモデルをボストンから ニューイングランドへ そして さらに全国に広げ 地元農家の分散型ネットワークを 全国的に構築して 全ての農家を皆さんのような 食物を愛する人たちにつなげていくためには 思うに 結局のところ 地産地消を強く主張することが 革命的な行動なのです 皆さんもぜひ参加してください 仲良しに恵まれるという オマケもあるかもしれません

ありがとうございました

(拍手)

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このプレゼンテーションについて

「食の向上への道はデータが拓く」と、起業家であるエリン・バウムガートナーは言います。「農場から食卓へ」ビジネスを営んだ経験に基づくこのトークでは、工場式農業よりも地元の小規模農場の収穫物を高く評価する、食品廃棄物ゼロでより健康的な食品システムの創出に向けた計画について説明します。

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