私達は鼻だけでなく身体で匂いを感じ取っている(7:04)

ジェニファー・プラズニック(Jennifer Pluznick)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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皆さんに質問があります 私達が嗅ぎ分けられる匂いの数— 正確に識別できる匂いの数は どれくらいだと思いますか 100? 300? 1000? ある研究によると私達が嗅ぎ分けられる匂いは 1兆種だと推定されています 1兆ですよ 想像し難いですね 私達の鼻はそんなことができる 分子機械を持っているんです

嗅覚受容体という 小さな匂い検知器が 鼻の嗅上皮内に一杯詰まっていて それらは 匂いなどの リガンドと呼ばれる受容体結合物質に 活性化されるのを辛抱強く待っています どの脊椎動物もそうですが ヒトの体内にも 多くの嗅覚受容体があります 事実 DNAは どのタンパク質の遺伝子より 多くの種類の嗅覚受容体遺伝子を コードするのに使われています

それは どうしてでしょう? 嗅覚受容体は 匂いを感知する以外に 何か他のことを しているのでしょうか?

1991年 リンダ・バックと リチャード・アクセルは 嗅覚受容体分子を特定し ノーベル賞を受賞しました その当時 鼻だけに嗅覚受容体があると 思われていましたが それから1年ほどして 鼻以外の組織に 嗅覚受容体が発現しているという 研究成果が発表されました それからというもの次から次に 他にも同じような研究成果が 発表され 今では これらの受容体は 体中にあることが分かっています 中には考えてもいなかったような 筋肉 腎臓 肺 血管などにも発見されています

でも そんな場所で嗅覚受容体は 何をしているのでしょう? 嗅覚受容体は鼻にある 敏感な化学センサーで 化学物質を敏感に感じ取り 私達に匂いを感知させます その敏感な化学センサーが 人体内のあらゆる箇所にあることが わかりました 朝 台所から来るコーヒーの香りを 肝臓が嗅ぎ取る と言うのではありませんが 朝のコーヒーを飲んだ後 肝臓が嗅覚受容体を使い 血液にある化学物質の濃度変化を 検知しているのかも知れません

体内の多くの様々な細胞と組織は 化学センサーを使い ホルモンや代謝産物 そして他の分子の濃度を 監視しています 嗅覚受容体は そんな化学センサーの一種です 膵臓や腎臓は それぞれの臓器に特化した 化学センサーが必要で それで特定の分子を監視しますが すでにある嗅覚受容体を使い 2度手間になることなどしません

まず鼻以外で見つかった 嗅覚受容体の1例 嗅覚受容体が発現する ヒト精子細胞を見てみましょう 嗅覚受容体を持った精子は その受容体に結合する化学物質— リガンドを探し求めます つまり 精子は リガンドに向かって泳ぎ進むのです これは興味深いことを示唆しています 精子は卵子を探すのに リガンド濃度が最も高い場所を 嗅ぎ分けているのでしょうか?

この例を私が気に入っているのは 嗅覚受容体の主要機能は 化学センサーですが その使われ方は 場合によって異なることです 匂いを感知すること 精子が泳いで行く方向を決めること そして その他様々な過程に 影響し得ることが分かっています 嗅覚受容体は 肺が吸い込む 化学物質を感知して反応すること また筋細胞の遊走 傷の治癒にも一役買っている と示唆されています

同じように かつて舌だけにある と思われていた味覚受容体は 体中の細胞や組織にある と今では分かっています もっと驚くことは 最近の研究で 光受容体は目の中だけでなく血管の中でも ある役割りをすると分かりました

私の研究室では 嗅覚受容体や味覚受容体の 腎臓での働きを解明しようと 研究しています 腎臓は恒常性を制御する 中央管理センターです 我々生理学者とって 恒常性管理センターに 化学物質感知器があることは 納得のいくことです 種々の嗅覚受容体や味覚受容体が 腎臓で確認され その1つの「嗅覚受容体78」は 血圧の制御に大きく関わる細胞や組織に 発現することが知られています マウスのこの受容体が取り除かれると マウスの血圧が低くなります 驚くことに この受容体は 私達の腸内にいる細菌の集まり 腸内微生物叢が生成する 短鎖脂肪酸と呼ばれる 一群の化学物質に 反応すると分かったのです 腸内細菌により生成された 短鎖脂肪酸は吸収され 血流に到達し 嗅覚受容体78のような受容体と 結合します したがって 腸内微生物叢の代謝に起こる変化は 血圧に影響するかもしれません

我々は腎臓にいくつかの 嗅覚受容体や味覚受容体を 確認しましたが それぞれの受容体の働きを 入念に調べ どの化学物質に反応するかを 少しずつ解明し始めたばかりで 同様に他の多くの臓器や組織を 調べる仕事が待っています ほんの少数の受容体しか まだ研究が終わっていないのです これにはワクワクさせられます 五感の1つ 嗅覚の 身体への影響範囲に対する 理解が革命的に変わりつつあります そして ヒト生理学の いくつかの領域に関する 理解を変える可能性があります まだ初期段階ですが 我々は追い求めているものの香りを 嗅ぎ取ったようです

(笑)

ありがとうございます

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このプレゼンテーションについて

私達の腎臓は匂いを感知するのでしょうか?鼻の嗅上皮内に小さな匂い検知器、嗅覚受容体があるように、全く思いもよらなかった場所—筋肉や腎臓、また肺にさえも嗅覚受容体が発見されています。生理学者のジェニファー・プラズニックは、新奇な事実が盛りだくさんのこの短いトークで、嗅覚受容体の思わぬ場所での働きを説明します。

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