テクノロジーは過激派やネット上の嫌がらせとどう闘えるのか(13:41)

ヤスミン・グリーン(Yasmin Green)
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対訳テキスト
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私のインターネットとの関係は ありきたりのホラー映画の設定を 思わせるんです ほら 幸せな一家が 完璧な新居に入居して 完璧な未来を 思い描いているところ 外は晴れていて 鳥のさえずりも聞こえて でもそのうち夜になり 屋根裏部屋から音がして 完璧だと思っていた家が そうでもないことに気づく

2006年 私がGoogleに 勤め始めた頃 Facebookは 誕生して2年 Twitterはまだ 存在してませんでした そして私はインターネットとその可能性に 絶大な畏敬の念を抱いていました 人と人の距離を縮め 人間をさらに賢くし いっそう自由にしてくれると しかし 私たちが検索エンジンや 動画投稿サイト ソーシャルネットワークを創り出すという 魅力的な仕事に関わると同時に 犯罪者や独裁者 テロリストは 同じプラットフォームを 私たちに対して悪用する方法を 見いだしていったのです 私たちにはそれが予見できず 止められませんでした 過去数年で 地政学に強い勢力が 破壊を目的としてネット上に進出しました それに対してGoogleは 私と数人の同僚が Jigsawという組織を設立するのを 支援してくれました 私たちの任務は人々を 暴力的な過激主義 検閲 迫害などの脅威から守ること イランで生まれ 暴力的な革命の後に 国を去った私が 個人的に強く感じている脅威です しかし 気づいたことがあります たとえ 世界中のテクノロジー企業が持つ すべての資源を合わせたとしても たった1つの決定的な要素を 見落とすだけで失敗するだろうということ その要素とは 先ほど言ったような脅威の 被害者や加害者の実体験です

私が今日ここで語れる問題点は たくさんありますが 2つに絞ることにします 1つ目はテロです 過激化の過程を理解するために 何十人もの元過激派構成員と 会いました うち1人はイギリス人女子学生 ISISに入るためシリアに向かう途中 ロンドン・ヒースロー空港で 飛行機から降ろされたのです しかも13歳という若さでした 私はその子の父親を交えて腰を下ろし 「なぜ?」と尋ねました 答えはこうでした 「シリアでの生活の様子を写真で見て イスラム版ディズニーランドに 住めるんだと思った」 それが その子から見たISISでした ISIS版ブラッド・ピットのような人と そこで出会い 結婚し 一日中モールで買い物して 末長く幸せに暮らすのだと思っていたそうです

ISISは何が人を動かすかを知っています そしてそれぞれの読者に合わせ 丹念にメッセージを作成します ISISの勧誘資料が どれだけの言語に 翻訳されているか見てください パンフレットに ラジオ番組に動画などを 英語とアラビア語だけでなく ドイツ語 ロシア語 フランス語 トルコ語 クルド語 ヘブライ語 中国語でも作っています ISISが作った 手話の動画を 見たことすらあります ちょっと考えてみてください ISISは耳の不自由な人にも メッセージが届くよう わざわざ時間と労力を費やしたのです ISISが人々の心を つかむことができるのは ハイテクに精通しているからではありません 自分たちが思いを伝えたい相手の 偏見 弱さ 願望が何なのかを 見極めているからです ネット上からISISの募集資料を 削除することに目を向けるだけでは 不十分なのはそういうわけです 過激派に対抗する テクノロジーとして 役に立つものを開発したいのならば 人間の人生の核心の部分から 始めなくてはなりません

そこで私たちは イラクへ出向きました ISISが約束する英雄像や 正義を信じ込み 戦闘員として武器を手に取ったものの ISISの支配の残虐さを目にした後 脱走した若者たちに会うためです 私は北イラクにある 簡素な仮設刑務所で ISIS脱走前には自爆テロ犯として 訓練を受けていた― 23歳の若者と座っていました 彼はこう語りました 「希望に満ち溢れて シリアに到着したのに 直後に僕にとって最も大切なものを 2つ取り上げられた それはパスポートと携帯電話だった」 自分の身体的そして 電子的な自由の象徴が 到着した途端 剥奪されたのです 彼はその喪失の瞬間について こう表現しました 「トムとジェリーのアニメでさ ジェリーが逃げようとしているのに トムがドアの鍵を締めて その鍵を飲み込んじゃって それがトムの喉を通って 胃に入る様子が見える場面みたいな感じ」 もちろん 彼の描写する場面が はっきりと目に浮かびました 彼が伝えようとしている心情— 逃げ場がないとわかっているときの 無力感に心から共感できました

そして ふと思ったのです 彼が家を出た日に 考えを改めさせる何かがあったならば どうなっていただろうか そこで尋ねてみました 「君が今だから知っていることすべて― ISISでの苦痛や腐敗や残虐さなどを 家を出た日に知っていたとして それでも行ったと思う?」 彼は「はい」と答えました それを聞いて困惑しました そうしたら彼は 「その時点では洗脳が進みすぎて ISISを否定するような情報を 一切受け入れようとしていなかったから 気持ちは変わらなかっただろう」と

「ではもし その半年前に 知っていたならば?」と尋ねると

「その時なら多分考えを改めていた」 とと返ってきました

過激化というものはイエスかノーかという 単純な選択ではないのです 人々が観念 宗教 生活環境についての 疑問を抱いていくなかで 起こるものなのです そこで答えを探すために ネットで検索したりしますが これがISISにとってはチャンスなのです 正しい答えを知る人からの動画も ネット上には転がっています 例えば自分が暴力的な世界に入って 抜け出した経験を語る脱走者の話 イラクの刑務所で面会した 若者の話もそうです ISISの支配のもとでの生活が どのようなものなのかを 携帯電話で撮影してアップロードした 現地住民もいます イスラームの平和的な解釈を説く 聖職者もいます でも こういう人たちは たいてい ISISほどの発信力を持ちません 命も惜しまず テロリストの プロパガンダに立ち向かいますが 無残なことに 最も聞くべき人々には 言葉が届かないのです 我が社ではそれを 技術の力で変えようと試みました

2016年に Moonshot CVEと 提携を結んで 過激派に対する新たな対抗手段である― 「リダイレクトメソッド」を試しました これはオンライン広告の力を ISISの発信に影響されやすい人と ISISの欠点を暴く信用ある人との間に 存在する隔たりを埋めるために 使うというものです 仕組みを説明しますね 過激派についての情報を探している人が 「ISISに入る方法」と調べたとしましょう すると聖職者や脱走者など 正しい答えを知っている人が映った― YouTubeの動画へと導く広告が現れます 広告ターゲットは 検索した人がどんな人かには関係なく その人の検索内容や疑問に 直接関連するものを特定することで 設定されます

8週間にわたる 英語とアラビア語での試験調査の結果 イスラム過激組織に興味や同情を示した 30万人以上もの人に 情報を伝えることができました 壊滅的な選択をしてしまうのを 防ぐ効果のあるかもしれないビデオを 視聴してもらえたわけです そして 暴力的な過激主義は 1つの言語 宗教 観念に 限ったものではないので リダイレクトメソッドは今や 全世界で展開され ネット上で暴力的な観念の信奉者が 接近しないよう人々を守っています 相手が イスラム過激派 白人至上主義者 その他の暴力的な過激派であろうが 自分が進もうとしている道の 反対側にいる人たちの話を聞いて 違う道を選ぶチャンスを 与えるという目標です

結局 悪者たちはインターネットを 悪用するのが得意なだけであることが多く それはテクノロジーに 精通しているからではなく 何が人を動かすかを知っているからなのです ここで2つ目の例をあげましょう ネット上での嫌がらせです オンラインで嫌がらせをする人も 人の気持ちをつかむのは何かを 知ろうとします でもISISみたいに 徴兵するためじゃなくて 苦痛を与えるためです 想像してください あなたは女性で 結婚していて 子供もいます ネットに何かを投稿したところ レイプしてやるという コメントがつきます しかも息子の見ている前で実行する と 時と場所の詳細まで書かれ しかも皆の目につくように 自宅住所も公開されました 結構な脅威に感じますよね 家に帰れますか? これまでしていたことを 続けられますか? 加害者を苛つかせている行為を これからも続けられますか?

ネットいじめは このところ 何が人を怒らせ 何が人を怖がらせ 何が人を不安にさせるかを突き止め そこを相手が黙り込むまで突くという 歪んだ遊びの極みと化しています ネット上の嫌がらせが横行すると 自由な発言ができなくなります 議論の主催者側ですら 手を上げて諦め コメント欄やフォーラムを 閉じてしまいます つまりネット上での 出会いや意見交換の場が 失われていくということです そして私たちは 残った場所で 自分と同じ考えを持つ人としか 話さなくなってしまいます でもそれは偽情報の拡散を促し 二極化を助長します その代わりに テクノロジーを使って 共感を拡散できないだろうか

この疑問がきっかけとなり Googleの乱用対策技術チームや Wikipediaや New York Timesなどの 新聞社との提携が実現しました 言葉が感情に与える影響を理解する— 機械学習モデルを作れるか 試そうというものです ネット上の会話で 誰かを退出させるコメントを 予測できないだろうか と それはもう至難の技でしょう AIで達成するのは 生半可なことではありません 私に先週送られてきたかもしれない 2通りのメッセージを考えてみれば わかりますね 「TEDで(足を折るくらい)頑張れ」 と 「TEDでお前の足を折ってやる」

(笑)

皆さん 人間ですから ほぼ同じような言葉でも 明らかな違いがあることが わかりますが AIが認識するようになるには 発話の型を教える訓練が ある程度必要なのです 違いがわかるAIを作ることの醍醐味は ネット上で起こる迷惑行為の規模に合わせて 利用を拡大できるところにあります それが「Perspective」という テクノロジーを開発する際の目標でした Perspectiveのお陰で 例えばNew York Timesは オンラインで会話が起こる場が増えました 我が社との提携前は 全記事の10%ほどでしか コメントができなかったのです しかし機械学習のお陰で 30%まで上がりました 以前の3倍です まだ始動したばかりで この成果です

でもこれは会話を主催する側の 効率化の話にとどまりません 今 皆さんが視界にいるので 私の話がどう受け取られているのか 推し量ることができますが ネット上では そんな機会はありません もし機械学習を使って コメントの投稿者が 文字を打ち込む間に 相手にどう受け取られる可能性があるのか 直接の会話での表情のように 瞬時にフィードバックできたならば どうでしょうか 機械学習は完璧ではありません まだまだ たくさん間違えます でも 言葉が感情に与える影響を理解する テクノロジーを開発できれば 共感を培うことができます それは つまり 異なる政治観や異なる世界観 そして異なる価値観を持つ人と人の間に 会話が成立するということです 大半の人が見限ってしまったネット空間に 再び活力を与えることができます

他人を食い物にしたり危害を加えるために テクノロジーを利用する人は 人間が持つ恐怖や弱さを糧としています もし 人間の醜い側面から隔絶された ネット世界を作れるなどという考えが 一度でも浮かんだのであれば それは間違いです 人間が直面する困難を乗り越えられる そんなテクノロジーを作りたければ 問題点を理解することや かつ その問題点と同じくらい 人間らしい解決策を作ることに 全身全霊を捧げなければなりません 私たちで実現させましょう

ご清聴ありがとうございました

(拍手)

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このプレゼンテーションについて

テクノロジーは、暴力的な過激派や、検閲、迫害といった脅威に対する安全性を高めることができるだろうか。一般人の急進化やネット上の嫌がらせに対抗するためにGoogleを含む企業同士が手を組んで設立された、Alphabet Inc.内の組織Jigsaw。ここで新開発されたプログラムを科学技術者ヤスミン・グリーンが詳しく紹介していく、示唆に富むスピーチです。中でも、コメントを投稿する際に他人がどのように受け取る可能性があるかを瞬時にフィードバックするプログラムを作るというプロジェクトは、会話の場を広げるという成果をすでに出しています。「人間の醜い側面から隔絶されたネット世界を作れるなどと私たちが一度でも考えたのであれば、それは間違いです」とグリーンは語ります。「問題点と同じくらい人間らしい解決策を作ることに全身全霊を捧げなければならないのです」

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