ニューヨーカー誌、象徴的な表紙イラストの舞台裏(8:29)

フランソワーズ・ムーリー(Françoise Mouly)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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私は24年前 アートディレクターとして ニューヨーカー誌に招かれました 当時 少し古臭くなっていた体制を 若返らせること そして 新たなアーティストを招いて この雑誌を象牙の塔から 引きずり出し 時代との関わりを 築くことが目的でした これは私には まさに うってつけの仕事でした というのも 私がいつも惹かれるのは たった1つのイメージ — 1枚のシンプルなイラストが 日々 目に入るイメージの洪水を 突き抜けて現れる様子や イメージが瞬間を捉える様子 — そしてイメージが 社会の動向や複雑な出来事を 言葉では不可能なやり方で はっきりと具体化し 本質を取り出して 漫画にしていく様子だからです

そこで私は図書館へ行き リー・アーヴィンが1925年に描いた 創刊号の表紙を見ました 片めがね越しに蝶を覗く 紳士のイラストで 彼の愛称は 「ユースタス・ティリー」です ニューヨーカー誌が 徹底した調査と長文の記事で 知られるようになるにつれて 次第にユーモアが 失われていったことに 気づきました というのも ユースタス・ティリーは 今でこそ高慢で きざだと思われがちですが 実際には リー・アーヴィンが1925年に このイラストを初めて描いた時は ユーモア雑誌の表紙として その時代の若者たち — 狂騒の20年代に生きる 奔放なおてんば娘を 喜ばせることが目的だったからです 私は その図書館で 大恐慌の時代精神を見事に捉えた イラストを見つけました それは単に人々の装いや 自動車のフォルムを 描き出すだけでなく 人々が何を見て笑い どんな偏見を持っていたのかまで 表していました 1930年代に生きるとは どういうことか 本当に知ることができたのです

だから私は現代アーティストを 招きました エイドリアン・トミネはその一人です 私はよく 物語を志向する アーティスト — 漫画家や児童文学作家に声をかけ 色々なテーマ 例えば 地下鉄に乗っている時の様子とか バレンタインデーといった テーマを与えて スケッチを送ってもらいました そのスケッチに 編集長のデイヴィッド・レムニックから 承認が下りると それがゴーサインです 私が気に入っているのは そういうイメージが 考え方を押し付けることなく 見る者を考えさせるところです というのも アーティストが… イラストは パズル的なのです アーティストが描いた点を 読者が結んで 絵を完成させなければなりません 左側のアニタ・クンツや 右のトマー・ハヌカのイラストを 理解するためには 間違い探しをしなければなりません そして これは何だか… とてもワクワクするのは いかに読者との 繋がりができていくか いかに これらのイラストが ステレオタイプを使って遊ぶかを 目の当たりにすることです それを理解すれば 頭の中にあるステレオタイプは 変化します

ただ イラストが表すのは 人間とは限りません 感情を表すこともあります 9/11の直後のことです 誰でもそうだったと思いますが あの時 私は 自分たちが経験したことを どう捉えればいいかわかりませんでした その瞬間を捉えるイラストなど ありえないと感じて ニューヨーカー誌の表紙を 真っ黒にしようと思っていました 表紙がないみたいに それで 私の夫で漫画家の アート・スピーゲルマンに そう提案しようと思っていると 相談したところ 彼は こう言ったんです 「表紙を黒くするんだったら ツイン・タワーのシルエットを 黒地に黒で描いては?」 そこで私は机に向かい 完成したものを見た途端 背筋がゾッとしました その時 気づいたのは イメージを描くのを 拒否することで 喪失感や 深い悲しみや 虚無が表現できる ということでした この表紙を作る過程で学んだのは とても深いことでした 時には雄弁に語るイメージを 極めて抑えた手段で 実現できるということ ― そしてシンプルなイメージでも 多くを語れるということです

さて このイラストは ボブ・スタークの作品で バラク・オバマが 大統領に選ばれた直後の 歴史的な瞬間を捉えたものです ただ 予定稿は準備できません このように描くには 出来事の真っ只中で 皆が感じることを 作家も感じなくては ならないからです ですから 2016年11月の 大統領選 期間中に 掲載できたイラストは これだけでした これが投票日の週に ニュース・スタンドに並んだのです

[ああ 神様 やめて] (笑)

選挙結果が出れば こんな風に感じる人も —

(笑)

いるだろうと思ったからです 結果が判明すると 私たちは途方に暮れました これもボブ・スタークによる イラストですが 強く訴えるものがあります それでも 今後どうなるかは わかりません この時も どうすればいいか わからないながらに とにかく私たちは進み続けました これはドナルド・トランプが 大統領に選ばれた後 アメリカ中で女性による ウィメンズ・マーチが行われた時に 発行したものです

さて 私はこれまで 24年間に渡って 千点を超えるイラストが 毎週生まれるのを見てきたので よく 一番好きな作品を 尋ねられますが 1つに絞るのは無理です 私にとって一番の誇りは イラストが1つ1つ 違っていることですから そして それは寄稿している アーティストたちの 才能と多様性のおかげです

そして現在 — 注目の的はロシアです そこで —

(笑)

バリー・ブリットによる この作品では ユースタス・“ウラジーミロヴィチ”・ ティリーになっていて 蝶は 他でもない 仰天するドナルド・トランプの姿 羽ばたきながら 「バタフライ効果」を制御する 方法を見つけようとしています リー・アーヴィンが1925年に描いた 有名なロゴも キリル文字になっています

さて 今 私が本当に ワクワクしているのは… 民主主義には 報道の自由が不可欠ですが 崇高なものにしろ 馬鹿げたものにしろ アーティストには 今を捉える力があることがわかります アーティストたちが インクと水彩絵の具だけを手に 時代を捉え 文化的な対話を 始めるのです この対話によって 彼らは 文化の中心に身を置けるのですし そこがまさに 彼らの居場所だと思うのです 今 私たちに必要なのは 「よい漫画」なのですから

ありがとうございます

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このプレゼンテーションについて

ニューヨーカー誌のアート・ディレクター、フランソワーズ・ムーリーをご紹介します。彼女は過去24年間、この雑誌の名高い表紙の決定に携わってきました。9/11直後の週には黒地に黒で描かれたツインタワー、そして最近はトレードマークの紳士ユースタス・ティリーをロシア風に描いたイラストを手がけました。イメージを回顧しながらムーリーが考えるのは、シンプルなイラストが、いかにして私たちが毎日目にするイメージの洪水を突き破れるか、そしていかにして時代のある一瞬の感覚(そして感性)を上品に捉えることができるかということです。

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