獣医が知っていて医師が知らないこと(14:57)

バーバラ・ナッターソン・ホロウィッツ(Barbara Natterson-Horowitz)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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10年前、私は人生を変える電話を受け取りました。当時私はUCLAの循環器科医で、心臓の画像診断を専門にしていました。

その電話は、ロスの動物園の獣医からのものでした。
老齢の雌のチンパンジーが目を覚ました時、顔がたるんでいました。
獣医は脳卒中を起こしたと懸念していました。私は動物園まで来て、原因の可能性のある心臓疾患を探るため画像診断をしてもらいたいと言われました。

お断りしておきますが、現在北アメリカの動物園では、能力が高く広く、認定された獣医たちが職員として働いており、病気の動物に対して優れたケアを行っています。
しかし時には医師に依頼して何か特別な相談をすることもあります。その手助けを頼まれたラッキーな医師は、この私でした。

私はこれまでに このチンパンジーが 脳卒中でないことや このゴリラに大動脈乖離がない事を 確かめ このコンゴウインコの 心臓の雑音を見極めたりしています。
このカリフォルニアアシカは 心嚢炎ではありませんでした。この写真では ライオンの心音を聞いています。

獣医と医師の共同の救命処置が行われ、私たちは700㏄の心嚢液を抜き取り このライオンの心臓は事なきを得ました。
この処置は 手足や尻尾を除いて 多くの人間の患者に施すのと同じものです。
現在ほとんど私はUCLAメディカルセンターで医師として働いており、人間の患者の症状・診断・治療について 議論しあっていますが、ロスの動物園で働き、獣医と共に動物の症状・診断・治療について議論しあうこともあります。
時には UCLAメディカルセンターとロスの動物園で、全く同じ日に回診を行うことがありました。

すると こんなことが次第にくっきりと浮かび上がってきたのです。
医師と獣医は、患者こそ動物と人間であっても本質的に同じ病気を見ているのです。
うっ血性心不全 脳腫瘍 白血病 糖尿病 関節炎 ALS 乳癌 さらに精神疾患として うつや不安 強迫症 摂食障害 自傷行為などもあります。

ここで皆さんに 言っておかなければなりません。
私は比較生理学と進化生物学を研究しました。大学の時ですが、ダーウィンの理論に関する卒論を書いたのです。
その中で、動物と人間の病気には大いに共通部分があると学びました。それは私にとって より必要な警鐘となりました。
私は思い始めました。その共通性があるにもかかわらず、何故人間の患者に対して 深い理解を得る為に、それまで獣医に意見を求めたり獣医学の文献を調べようと思わなかったのだろう?
何故私だけでなく 、私が答を乞うた医師の友人や同僚も、これまで獣医のカンファレンスに出席しなかったのだろうか?
こういう考え自体が驚かれるのは なぜだろう。

つまり どの医師も 動物と人間との間の 生物学的な繋がりは受け入れています。
私たちが処方するどの薬剤も、また自分で飲んだり 家族に与える薬も、初めは動物で試験しているのです。
しかし、動物に薬を与える事や、人間の病気と動物が自然にうっ血性心不全や糖尿病、乳癌になる事には なんらかの違いがあります。
さて、おそらく驚きのいくつかは、世界中の都市部と それ以外の場所で 広がる隔たりが原因なのでしょう。
都市部の子供たちは 羊毛が木に生えると思っているとか、チーズは植物で出来ていると思っているといった噂を耳にします。

今日の人間の病院は ますます、科学技術のきらめく聖堂になりつつあります。
そしてそこで治療を受けている人間の患者と、海や農場、ジャングルに住んでいる動物の患者との間には心理的な距離が生まれます。
しかし、むしろもっと深い理由があると思うのです。

医師や科学者である我々は 理屈の上では自分たち―ホモサピエンスは単なる一つの種であり 他の種と同じで珍しくもなければ 特別でもないとわかっています。
しかし気持ちの上では 全くその通りだと思っている訳ではありません。
モーツァルトを聴いていたり MacBookで 火星探査車を見ているときの気持ちは 人間が特別だという思いに傾きます。
自分たちを とび抜けて 優秀な種と見なす事が 科学的に孤立するという 犠牲を払うと分かっていたとしても、です。

さて 最近私は、人間の患者を診る時 いつも思うのです。私が分からないこの問題について 獣医は何を知っているのだろう?
ヒトという動物として患者を見たら もっと上手く 人間の患者も診られるかもしれないのかなと。
こんな事を私が考えるきっかけとなった いくつかの面白い事例があります。不安が引き起こす心不全です。

2000年頃、人間の循環器科医は感情が原因で心不全を引き起こすと「発見」しました。
ギャンブル好きの父親が サイコロの一振りで 一生の貯金を失った例や 祭壇に残された花嫁の例が説明されていました。
しかしこの「新しい」人間の診断は新しいものでも、人間に特有のものでもありませんでした。
獣医は猿からフラミンゴ、鹿から兎に至るまでの動物に対し、感情によって引き起こされた症状を診断し、治療し、予防すらしています。

1970年代以来、もしこの獣医の知識がERの医師や循環器科医に伝えられていたならば、どれだけの人の命が 救われたことでしょう。 自傷行為 人間の患者で 自分を傷つける人たちがいます。
自分の髪の一部分を引き抜く人たちもいますし 実際自分の体に傷をつける人たちもいます。
動物の患者も又自分を傷つける事があります 羽を自分でむしり取る鳥もいますし 血が出るまで自分の脇腹を噛む種馬もいます。
しかし獣医は自傷行為をする動物に対して とても特殊且つ効果的な方法で 治療や予防すら行います。
この獣医の知識は 自傷行為に苦しむ患者や 臨床心理士や親たちに 手渡されるべきではないでしょうか?

産後うつや産後の精神病は、時折、産後すぐに 現れることがあります。そして 時には深刻なうつや 精神病にさえなってしまうのです。 彼女たちは 自分の生まれたばかりの赤ん坊を無視し 極端なケースだと 子どもを傷つける事もあります。
馬専門の獣医は 時として 雌馬が産後すぐに 子馬を無視し、授乳を拒否する事を知っています。また、雌馬が子馬を蹴って死に至らせる例もあるといいます。
しかし、雌馬が子馬に授乳拒否をするのは、雌馬の血中オキシトシンの増加と関わりのある病的現象が介入していると、獣医は気づきました。
オキシトシンは絆を形成するホルモンで これによって雌馬は子馬に対し より興味を強めます。
この情報は産後うつや精神病で苦しむ患者や 臨床心理士やホームドクターや親に 手渡されるべきではないでしょうか?

さて この大きな期待にもかかわらず、残念ながら 双方の分野の間の隔たりは大きいままです。それを説明する為に 問題点をひとつひとつ洗い出さないといけません。
メディカルドクターでないドクターに対し、医師の中には下に見る者もいます。すなわち、歯科医とか検眼士、心理療法士とか。でも特に動物の医師への態度です。
もちろん 殆どの医師は 最近では 医科大学に入るよりも 獣医学部に入る方が難しい事を知りません。
医科大学に入ると 一つの種 ホモサピエンスを 知る事が全てですが 獣医は哺乳類 両生類 爬虫類 魚 鳥の 健康や病気について知る必要があるのです。
だから私は医師の恩着せがましさや無知に 獣医が苛立つのは無理からぬ事だと思います。

これは獣医の言葉です。
一つの種しか診ることの出来ない獣医を 何と呼ぶでしょう?
医師です(笑)

そのギャップを埋める事に 私は熱中するようになりました。
UCLAでの「ダーウィンの回診」のように プログラムを通して ギャップを埋めているのです。
そこで私たちは動物の専門家や 進化生物学者を連れて来て インターンやレジデントと一緒に 私たちのチームに入ってもらいます。
全動物カンファレンスを通し 医科大学と獣医学部とを一緒にした 共同デイスカッションをして 動物と人間の患者の病気や障害を 共有し合うのです。

全動物カンファレンスでは、参加者は虎の乳癌の治療法が幼稚園の先生の 乳癌のより良い治療に役立ち、ホルスタイン牛の卵巣のう胞が どうなっているか理解する事が月経困難症の ダンスインストラクターのより良いケアの手助けになり、神経質なシェルティーの 別離不安の治療を いかにより良く理解するかが、学校に初めて登校する児童の不安を 和らげる手助けとなります

アメリカだけでなく他の国でも、全動物カンファレンスを通し医師と獣医がドクターとして、仲間として、同僚として、入り口で自分たちの態度や先入観をチェックし、そして一緒に入って来るのです。

結局 私たち人間も動物なのです。
私たち医師が患者の性質と自身の 動物としての性質を大事にして 私たち医師が患者の性質と自身の 動物としての性質を大事にして 健康に対して 種を跨ったアプローチにおいて 獣医と一緒になる時が来たのです。

何故なら最良で最も人本主義の医療の中には 人間でない患者を持つ医者によって 施されるものがあるからです。
我々が人間の患者を ケア出来る最良の方法の一つは この惑星に住む人間以外の全ての患者に対して どのように生き 成長し 病気になり、癒すかに 深い注意を向けることによるのです。

ありがとうございました(拍手)

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このプレゼンテーションについて

たった一種類の動物しか診ない獣医を何と呼ぶでしょうか?それは医師です。魅力的なトークの中で、バーバラ・ナッターソン・ホロウィッツは、健康に対する種を跨ったアプローチがどのようにして人間という動物の医療―殊に心の健康―を改善出来るかを語っています。

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