コラム・連載

~内藤証券アナリストが書く~中国よもやま話

“口にすべし、楽しむべし”~中国的可楽世界

2023.5.5|text by 千原 靖弘(内藤証券投資調査部 情報統括次長)

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ハルビンビール
初の中国製ビール
1900年創業
青島ビールよりも歴史が長い
日本国内を旅行では、各地の“地ビール”(クラフトビール)が楽しみの一つだったりする。中国では“青島ビール”が有名だが、日本と同じくローカルな地ビールが数多くあり、美味いかどうかは別として、味は多様だ。

中国を旅行する機会があれば、各地の地ビールを味見すると、楽しいだろう。味はともなく、話のネタが増えること請け合いだ。

しかし、アルコールが苦手の人には、そうした楽しみがない。そこで、お勧めなのが、中国の“地コーラ”(クラフトコーラ)だ。

コーラと聞いて、多くの日本人が連想するのは、“コカ・コーラ”と“ペプシコーラ”の二種類だけかも知れない。

上海租界のコカ・コーラ広告
モデルは大女優の阮玲玉
1930年代に活躍した
漢字は右から左へ読む
だが、日本にも多くの地コーラがあり、東京では18年に誕生した“伊良コーラ”が有名。筆者の故郷である福岡県田川郡川崎町では、向山(むかやま)食堂という1世紀半を超える老舗食堂が、オレンジ色の手作りコーラを期間限定で販売し、県内のローカルテレビ放送などで話題となった。中国で修業した六代目の向山皓紀さんが考案したという。

中国のコーラの歴史は意外と長く、地コーラの種類も、日本を大きく超える。コカ・コーラは1886年に米国で誕生し、その輸入品が上海租界にも出回るようになったという。

コカ・コーラが正式に中国市場に参入したのは1927年。英領香港の老舗ドラッグストア“屈臣氏”(ワトソンズ)が、上海にコカ・コーラのボトリング工場を開設し、中国市場に進出した。コカ・コーラの中国名は “可口可楽”。「口にすべし、楽しむべし」という意味であり、その中国語の発音も“クーコウクーラー”と、英語の響きに近い。

1937年の第二次上海事変
交戦中の日本軍の横にコカ・コーラの看板
上海のボトリング工場は、米国域外で最大規模に発展。中国本土が共産化されるまで、売れ行きは好調だったという。

1979年に米中両国の国交が正常化すると、コカ・コーラは中国市場への復帰を決定した。1981年に北京市などのボトリング工場が稼働。1988年には上海市で濃縮原液の工場が操業を始めた。

雑誌「タイム」1984年4月号
コカ・コーラを持つ中国人男性
米国文化を象徴するコカ・コーラのテレビ広告は、1986年に中国中央電視台(CCTV)でも流れ、人々は新時代の到来を実感した。

上海の幸福可楽 すると、中国各地に地コーラが誕生した。1970年代末に上海市では“幸福可楽”が登場。英語名は“ハッピー・コーラ”と思いきや、なぜか“ラッキー・コーラ”だった。

重慶の天楽可楽 1980年代に重慶市で誕生した“天府可楽”は、中国市場で75%のシェアを獲得したことがある。1990年代には“非常可楽”が登場。英語名は“フューチャー・コーラ”だが、米国では“チャイナ・コーラ”の名で知られる。

娃哈哈集団の非常可楽 なお、現在の中国本土では、英国資本のスワイヤ・パシフィック(太古公司)と中国政府系の中国食品(チャイナフーズ)が、コカ・コーラの販売事業を展開している。

中国の地コーラは、ネットでざっと検索しても、50種類くらい見つかる。検索にヒットしない未知のコーラもあるだろう。もしかすると、コカ・コーラを凌ぐ逸品が見つかるかも知れない。だって中国は広いのだから。

 

~内藤証券アナリストが書く~中国よもやま話
次回は5/20公開予定です。お楽しみに!

バックナンバー
  1. ~内藤証券アナリストが書く~
    中国よもやま話
  2. 30. なぜ犯罪組織が人気?~中国起源の任侠道が果たした社会的役割NEW!
  3. 29. 21世紀版のグレート・ゲーム~ウイグルをめぐる情報戦
  4. 28. 現代の屯田兵~新疆生産建設兵団
  5. 27. 新疆ウイグル自治区は東西交易の要衝~現代も続く「西域経営」
  6. 26. 東トルキスタン独立運動と西側諸国の連帯~ウイグル人が歩んだ歴史
  7. 25. 中国の街で目立つウイグル人~民族移動と人種的変容
  8. 24. チベット発展の秘策とは?~天国に最も近いタックス・ヘイブン
  9. 23. 神秘な世界の複雑な裏側~チベットの“化身ラマ制度”
  10. 22. 人を拒む神秘の地~異質で過酷なチベットの環境
  11. 21. 情報の真偽をめぐる混乱と論争~昔も今も中国は“遠い国”
  12. 20. 隋王朝に始まる中国経済の挑戦~言葉に映る南北の相違と一体化
  13. 19. 黄河文明と長江文明の融合と摩擦~中国の南北対立
  14. 18. 中国南北相違の原点~東アジアで異色な中国北部の小麦食
  15. 17. 漢字は同じでも、ひと味違う~複雑に絡み合う“麺料理”の概念
  16. 16. 現代中国の“漢服ルネサンス”~漢民族の服飾文化の探求
  17. 15. “人民服”の歴史的変遷~国民服から最高指導者の正装へ
  18. 14. 元々同じ圓が結ぶ奇妙な縁~東アジア一円の通貨
  19. 13. 誰もが彼らを無視できない~香港の摩天楼に潜む陰の実力者
  20. 12. 中国の人々を鼓舞する名曲~中国国歌の「義勇軍進行曲」
  21. 11. 伝統的バイオテクノロジーの傑作~茅台酒が高価な理由
  22. 10. 世界に目を向けよう~国際分散投資の魅力
  23. 09. なんでも漢字で表記~奥深い中国語名の世界
  24. 08. 自由を追い求める姿~中国の投資家たち
  25. 07. “口にすべし、楽しむべし”~中国的可楽世界
  26. 06. “いままで”と“これから”~EV投資をめぐる視点の違い
  27. 05. 株式市場を育てる順序~ミャンマーと中国の違い
  28. 04. 対中情報戦の犠牲者~王立強事件の空騒ぎ
  29. 03. 全国展開可能な中華料理~アメリカザリガニの恵み
  30. 02. 強烈すぎるこだわり~中華的な数の世界
  31. 01. イメージの先に在るもの~中国株投資の魅力

筆者プロフィール

千原 靖弘 近影千原 靖弘(ちはら やすひろ)

内藤証券投資調査部 情報統括次長

1971年福岡県出身。東海大学大学院で中国戦国時代の秦の法律を研究し、1997年に修士号を取得。同年に中国政府奨学金を得て、上海の復旦大学に2年間留学。帰国後はアジア情報の配信会社で、半導体産業を中心とした台湾ニュースの執筆・編集を担当。その後、広東省広州に駐在。2002年から中国株情報の配信会社で執筆・編集を担当。2004年から内藤証券株式会社の中国部に在籍し、情報配信、投資家セミナーなどを担当。十数年にわたり中国の経済、金融市場、上場企業をウォッチし、それらの詳細な情報に加え、現地事情や社会・文化にも詳しい。


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  1. ~内藤証券アナリストが書く~
    中国よもやま話
  2. 30. なぜ犯罪組織が人気?~中国起源の任侠道が果たした社会的役割NEW!
  3. 29. 21世紀版のグレート・ゲーム~ウイグルをめぐる情報戦
  4. 28. 現代の屯田兵~新疆生産建設兵団
  5. 27. 新疆ウイグル自治区は東西交易の要衝~現代も続く「西域経営」
  6. 26. 東トルキスタン独立運動と西側諸国の連帯~ウイグル人が歩んだ歴史
  7. 25. 中国の街で目立つウイグル人~民族移動と人種的変容
  8. 24. チベット発展の秘策とは?~天国に最も近いタックス・ヘイブン
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  10. 22. 人を拒む神秘の地~異質で過酷なチベットの環境
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  13. 19. 黄河文明と長江文明の融合と摩擦~中国の南北対立
  14. 18. 中国南北相違の原点~東アジアで異色な中国北部の小麦食
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