暗黒物質の探求とこれまでにわかったこと(15:35)

リサ・ウェクスラー(Risa Wechsler)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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この世界が 今とは少し違っていたら どうなっていただろうと 想像したことはありませんか? 現代ではなく 5千年後に生まれていたら どんな生活だっただろう? 大陸の緯度が違っていたとしたら 歴史はどう変わっていただろう? あるいは 太陽が今よりも 10%大きかったとしたら 太陽系の生物は どんな風に 進化していただろう?

こんな風にいろいろな可能性に 思いを巡らせるのが 私の仕事ですが 相手は宇宙全体です 私はコンピューターで 宇宙のモデルを作っています デジタル版の宇宙をたくさん作って 起点を変えたり 宇宙を構成する物質の種類や量を変えたりして それを私たちの住む宇宙と比較して 宇宙の構成物質や進化の過程を 見ています

天体観測で得たデータを使って モデルを分析する過程で 宇宙について 多くのことが 分かってきました とても不思議な発見を 1つ紹介しましょう 宇宙に存在する物質のほとんどは 私たち人間を構成している物質とは 全く異なっています しかも この物質が存在しなければ 今のような宇宙が存在することは ありませんでした 望遠鏡で観測できるのは 宇宙の総質量のわずか 15%程度に過ぎません それ以外の全て つまり残り85%は 光(電磁波)を出しもしなければ 吸収もしません 目で見ることは不可能です 電波だろうがマイクロ波だろうが どんな電磁波を使っても検知できません ですが 目に見えるものに与える 影響を見れば その存在は確かです

例えて言うと 宇宙から撮影した こんな夜の地球の写真を元に 地表の全てのものを 描き出そうとするようなものです 光の場所を手がかりに することはできますが 見えない部分がたくさんあります 人も山脈も 何もかもが見えません ほんのわずかなヒントをもとに 何があるかを推測する必要があります この見えない部分が 「暗黒物質」と呼ばれるものです

この言葉を聞いたことがある人は 多いと思いますが 耳にしたことはあっても 抽象的に思えたのでは ないでしょうか? はるか彼方のもので 自分とは無縁のものだと ところが 面白いことに 私たちは暗黒物質に 取り囲まれているんです おそらく ここにも存在していて 会場の皆さんの体を 今まさに通り抜けている 暗黒物質の粒子もあるはずです なぜなら 私たちの住む地球は 太陽の周りを公転していますが その太陽は時速約80万キロのスピードで 銀河系を突き進んでいるからです でも暗黒物質は私たちに 衝突することなく ただ通り抜けていきます

どうすれば そんな物質の正体を突き止め 人類の存在にどう関係するか 調べられるのでしょうか? 人類が存在するに至った過程を 理解するためには まずは私たちの住む銀河系の生い立ちを 知る必要があります これは現在の天の川銀河の写真です 今から100億年前 または100億年後なら どんな風に見えるでしょうか? 大規模な天体観測から 所在が確認された 何百万という銀河は どんなストーリーを 持っているのでしょうか? 宇宙が別のもので構成されていたり 含有物質の量が違っていたりしたら そういう銀河の歴史は どう変わっていたでしょうか? 宇宙モデルの面白い点は こうした様々な可能性を 分析できることです

宇宙誕生の瞬間に戻ってみましょう ビッグバンが起こってから ほんの1秒も経っていない状態です この最初の瞬間には 物質は全く存在していません そのとき 宇宙はとてつもないスピードで 拡大していました 量子力学から分かることですが 物質は四六時中 常に 生成や崩壊をしています この時は 宇宙の拡大が速すぎて 崩壊が生成に 追い付きませんでした そういうわけで 全ての物質は この時期に作られたと 考えられています 暗黒物質もそうですし 私たちを構成している 通常の物質もそうです

ここで 少しだけ時計の針を進めて 物質ができた後の世界を考えてみましょう 陽子と中性子が形成されて 水素も形成されました ビッグバンから約40万年後の世界です 宇宙は高温で高密度 また とても均一でした ですが 完全に均一という わけではありません この画像は プランク衛星という 宇宙望遠鏡で撮影されたものです 全天の宇宙の温度を示しています この写真を見ると 温度と密度が 他よりも少し高い部分があります まだらになっている部分は 初期の宇宙で多かれ少なかれ 質量のあった場所を示しています そういう場所が 重力の働きで成長します

この138億年間 宇宙は拡大し続けていて 全体的に密度は 下がり続けています その一方で 質量が 少し大きい場所には 重力が強く作用して どんどん質量が引き寄せられました

これだけでは ちょっと 想像しにくいですよね ですので 今の話を 実際にお見せしましょう こうした概念も 先ほどお話した コンピューターモデルで実験できます お見せするのは1つの例です この動画は 私の研究グループで 作ったものです 宇宙が誕生して間もない頃に 何が起こったかを示しています このように最初 宇宙は とても一様でしたが 物質が少し多めに存在する 領域もありました ほんの少し質量が 大きい領域には 重力の作用で 質量が引き付けられていきます やがて 十分な量が1か所に集まると 最初は暗黒物質としっかりと 混ざり合っていた水素ガスが 分離し始めます そして 温度が下がり 星が形成され 小さな銀河ができます そして何十億年もの 長い時間をかけて 小さな銀河どうしが衝突し 結合することで 銀河は成長を続け 私たちの天の川銀河のような 大きさになります

さて 暗黒物質が存在しない場合には 何が起こるのでしょうか? 暗黒物質がなければ そういう場所で 十分な塊ができません 1つの高密度の領域に 太陽の百万倍以上の質量が集まらなければ 星の形成は始まらないことが 分かっていますが 暗黒物質がなければ 1か所に十分な量が 集まらないのです

07:21 ここで2種類の宇宙を並べて見てみましょう 一方では すぐに塊ができていきます この宇宙では 銀河が容易に形成されます もう一方の宇宙では 最初に小さな塊になっていた部分が 成長せずに 小さいままです ほとんど何も起こりません この宇宙では 私たちの住む 銀河系はおろか どんな銀河も生まれません 天の川銀河が形成されることも 太陽ができることもなく 人類も誕生しません 人間が存在し得ない宇宙なのです

この非常に不思議な暗黒物質は 宇宙の質量の大半を占めています 人類の存在は 絶えず体を通過する この物質のおかげです その正体は? 実は全く分かっていません

(笑)

ですが 根拠に基づいた推測が たくさん出てきており さらに探るためのアイデアも 数多くあります ほとんどの物理学者は 暗黒物質は粒子だと考えています おなじみの 陽子、中性子、電子といった 亜原子粒子に 類似したものだろうと それが何にせよ 重力を受けたときの反応は 非常に似通っています ですが 光は出さず 吸収もしません また 通常の物質を突き抜けてしまいます そこに物質がないかのように 暗黒物質とは どんな粒子なのでしょうか? 例えば 重さはどれくらいなのか? 通常の物質と何らかの 相互作用をするのか? 物理学者は暗黒物質の正体について 色々推測していて 実にクリエイティブに考えていますが そういうアイデアが 非常に広範囲に及んでいるために とても難しいものになっています 最小の亜原子粒子くらい 小さいという考えから 太陽100個分の質量を持つほど 大きいという 考えまであります

では どうすれば正体を 突き止められるでしょうか? 物理学者や天文学者にとって 暗黒物質を探す方法はたくさんあります その1つの例が 地下鉱山深くで現在進行中の 高感度検出器の製作です 地球や私たちを通り抜ける 暗黒物質の粒子が 密度の高い物質にぶつかって 通過の痕跡を残す可能性を探るのです 暗黒物質の探求は 空でも進められています 暗黒物質粒子どうしが衝突したときに 発生するであろう高エネルギーの電磁波を 特殊なガンマ線望遠鏡で 確認することを目論んでいます 地球上では 暗黒物質を 作り出す試みさえ行われていて スイスにある 大型ハドロン衝突型加速器で 粒子どうしを衝突させて 現象を観察しています

これまでに そういった実験により 多くのことが分かりました 暗黒物質が 何物でないかについて―

(笑)

正体はまだ分かっていません 暗黒物質が何物かについては いろいろアイデアがあって その通りなら これらの実験で 観察されるはずですが まだ確認はされていません ですので 今後も知恵を絞って 探し続ける必要があります

さて 暗黒物質の正体についてヒントを得る 方法がもう1つあります それが銀河の研究です 先ほどお話ししたように 暗黒物質がなければ 銀河系をはじめ 多くの銀河は存在し得ません モデルに基づいた 銀河についての予想は これ以外にも たくさんあります 宇宙における銀河の分布 どんな動きをしているのか 時間とともに どう進化していくのか こうした予想は 天体観測で確かめられます

そういう銀河を使った方法を 2つご紹介しましょう 1つ目は 銀河を使い 宇宙の地図を作るというものです 私が関わっている ダークエネルギー調査では これまでで最大の 宇宙の地図を作っています 全天の8分の1の部分の 1億にのぼる銀河の位置と形が 測定されています この宇宙地図には 空のその部分に存在する 全物質が示されています これは1億の銀河からの光の歪みに基づいて 推測された結果です 光は そういう銀河と私たちの間に存在する 全ての物質によって歪みます 物質の持つ重力には光を曲げるのに 十分な強さがあるんです それを考慮して得られるのが この画像です つまり こうした天体図を見れば どれくらい暗黒物質が あるのかが わかり また その位置や 経時的な変化もわかります

ここでは 最大規模での観察から 宇宙の構成要素を知ろうとしているわけですが 実は 宇宙で一番小さい銀河から 有益なヒントを得られることが分かりました 理由を説明しましょう

ここに2つの宇宙の シミュレーションがあります 違いは暗黒物質の種類です どちらの写真も 天の川銀河のような銀河の 周辺の領域を示したものです 周囲に他の物質がたくさんあるのが 分かります 小さな塊になっている部分です さて 右側の画像では 暗黒物質の粒子は 左側の画像よりも ゆっくりと動いています 暗黒物質の粒子の動きが 非常に速いと 小さな塊の重力では力が弱すぎて 高速の粒子の速度は下がらず そのまま進み続け 小さな塊に取り込まれる ことはありません 左側の宇宙では 右側の宇宙よりも 塊の数が少なくなります 小さな塊が存在しなければ 小銀河の数も少なくなります 南の空を見上げると 実際にそういう小銀河を 2つ見ることができます 天の川銀河を周回する 小銀河としては最大の 大マゼラン雲と小マゼラン雲です

この数年で さらに小さな銀河が たくさん見つかっています これはその1つです 先ほどの 宇宙地図を作るときに使った ダークエネルギー調査で 発見されたものです 非常に小さい銀河の中には 極めて小さいものもあり 天の川銀河のように 何千億の恒星ではなく 数百の恒星だけで できています そうなると見つけるのは 非常に厄介ですが この10年の間に たくさんの小銀河が 新たに発見されました 今では 60の小銀河が天の川銀河を 周回していることが分かっています この小さな銀河が暗黒物質の謎を解くうえで 大きなヒント与えてくれます 小銀河が存在するという 事実そのものから 暗黒物質はすごく速く動くものではなく 通常の物質に遭遇しても 特に何も 起こらないことが分かるからです

今後 数年のうちに 今よりもずっと正確な天体図を 作るつもりです それができれば 宇宙や銀河全体の動画に さらに磨きをかけることができます 物理学者も 実験室で 暗黒物質の兆候を捉えるべく 新しい高感度の実験を準備中です

暗黒物質は依然として 大きな謎に 包まれていますが 今は それに取り組む 絶好の時です 暗黒物質が存在することには 明確な証拠があります 極小の銀河という規模から 宇宙全体という規模まで 実際にこの物質を見つけて 正体を突き止めることはできるのでしょうか? 何とも言えません ですが それを解明するのは 非常に楽しいだろうと思います 発見できる可能性は大いにあります 暗黒物質が何をしているのか それが何物ではないのか もっと学べるだろうことは確かです 近いうちに この粒子を 見つけられるかどうかは別にして この謎が非常に身近な話だと 皆さんに理解してもらえたことを願います 暗黒物質の探求により 物理学や 宇宙における 我々の位置についての認識が 刷新されるかもしれません

ありがとうございました

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このプレゼンテーションについて

宇宙の全質量の約85パーセントを占めるのは、宇宙に膨大な影響を及ぼしているものの直接観察することができない「暗黒物質」です。この不思議な物質の正体は何か?我々の存在にどう関わるのか?宇宙物理学者のリサ・ウェクスラーが、宇宙形成の過程を理解するうえで暗黒物質が鍵を握る理由を論じ、世界の物理学者がその研究のために考え出した独創的方法を紹介します。

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