舞台芸術が民主主義に不可欠な理由(13:10)

オスカー・ユスティス(Oskar Eustis)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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舞台芸術は大事ですー それは民主主義が大事だから 舞台は民主主義には不可欠な 芸術の表現です 何故なら 舞台と民主主義は 同じ発祥地だから

紀元前6世紀の後半に 西洋の民主主義の教えが誕生しました もちろんそれは 不完全で 欠陥のある民主主義でしたが 権力は治められる者の同意から 発するべきだという思想や 権力は下から上へと伝わるもので その反対ではないという思想も 同じ世紀に誕生しました 伝説によるとある人ー テスピスという名の人がー 同じ頃 対話という手法を考案しました

「対話」を考案するとは どういうことでしょうか? わかっていることは ディオニソスの祭が アテネの全市民を集め アクロポリスの横で 市民は音楽を聴き 踊りを鑑賞し ディオニソスの祭の一部として 語られた物語に聴き入りました 物語を語ることは 今ここで起きていることに似ています 私はこの場に立ち 単独の権威として みなさんに話をしています みなさんは深く腰をかけ 私のメッセージを伝受しています 私の考えに同意できず あきれたやつだと思うかもしれません 話は全くつまらないかもしれません でもそんな対話のほとんどが あなたの頭の中で起きています

ところが ここで私が あなたに話しかける代わりにー これはテスピスが考案したことですがー 左に90度体を向け 舞台の上のもう1人の人に話しかけると どうなるでしょう? 全てが変わります その時点で私は 真実の持ち主ではなくなり ある意見の持ち主になります 私はもう一人の人と話をしています するとどうなるか? 相手も意見を持っています いいですか それがドラマであり 対立です — 相手は私に同意しません 二つの視点に対立が生じます そこに表れる主張は 真実とは 異なる意見の対立があって はじめて生まれるものであり 個人が所有するものでは ないということです 民主主義を支持するのであれば これが正しいと思わなくてはなりません そう思えないなら あなたは独裁者で 民主主義に我慢しているだけです それが民主主義の理念で 相違する視点の対立が 真理に結びつきます

ここでは起きているもう一つのこととは? 私が皆さんに求めるのは くつろいで話を聞くことではなく 身を乗り出して 私の視点を想像することです 私という人物から見たこと 感じたことを 立場を入れ替えて考えてほしいのです 話をしている相手の気持ちを 想像してみてほしい 相手と共感してほしいと お願いしているのです そして 異なる考えの衝突と 共感という感情の力から 真実が生まれるという考え方は 民主的な市民であるために 必要な道具なのです

他に何が起きますか? 3番目はあなた自身についてです コミュニティや聴衆についてです 個人的な体験があるかと思いますが 映画を観に行き 映画館の中ががらんとしていると 嬉しいものです それはあなたと映画の間を さえぎるものが何もないから 場所を大きく取り 足を観客席に乗せてもいいし ポップコーンを食べながら 何も気にせず楽しめます ところがライブ劇場に入り 場内が半分しか埋まっていないと 気持ちが沈みます すぐに失望してしまいます それは自分では気づかなくても 劇場に来る目的が 聴衆の一部となる為だったから 共通の体験を分かち合い 共に笑い 泣き 息をのみ 次に何が起こるかを 一緒になって待ち受けたいから 劇場には一人の顧客として入場したとしても その芝居の務めがきちんと達成されれば そこから出る時には 自分自身が全体の一部と感じ 体験を共有したメンバーの一人と 感じます 私が取り組む芸術形式のDNAに 組み込まれています

舞台芸術が誕生してから2,500年後 演出家のジョー・パップは この文化はアメリカ合衆国の全市民が 所有するべきものであり 自分の任務はその約束を 果たすことだと考え そこで 『フリー・シェイクスピア・イン・ ザ・パーク』を発足させました 公園で 無料で楽しめるシェイクスピア という発想は実にシンプルで この国の一番優れた舞台 この国で生まれた一番優れた芸術は 全市民が利用でき 全市民で共有すべきという考え方です そのおかげで 今でも 夏の期間の毎晩 ニューヨークのセントラルパークで 2千人が列を作り 私たちが無料で提供できる 一番優れた舞台を観劇しています ここには営利目的はありません

パップがこの試みを 発案してから13年後の1967年 今度は違うことに気づきました それは 人々に古典劇を提供するだけでは 民主主義の輪は 完結しないということ 市民自らに古典劇を制作してもらい 上演すべきだということです そこで1967年に ジョーはダウンタウンのアスター・ プレイスにパブリックシアターを開き 初制作となったのが『ヘアー』の ワールドプレミアでした ジョーにとっては初めての シェイクスピア以外の作品でした 『ザ・タイムズ』のクライブ・バーンズの 批評によると 「それはまるでパップ氏が イーストビレッジの道路のゴミを一掃し パブリックシアターの舞台に かき集めたようだ」と

(笑)

称賛のつもりではありませんでしたが ジョーは誇らしげに それを劇場のロビーに掲げました

(笑)(拍手)

パブリックシアターがそれから何年にも渡り 素晴らしい作品ー 『For Colored Girls Who Have Considered Suicide / When the Rainbow Is Enuf』 『コーラスライン』等 そして中でも並外れた例として あげられるのが ラリー・クレイマーの作品で エイズ危機の怒りの叫びを語った 『ノーマル・ハート』 ジョーがこの作品を1985年に制作した頃は エイズについての知識は ニューヨークタイムズ紙に掲載された フランク・リッチの この作品の批評の中での方が ニューヨークタイムズ紙が過去4年間に 掲載した内容よりも多くありました ラリーはエイズについての常識を この芝居を書くことで変え それをまたジョーが制作することで 変貌させました 私はトニー・クシュナーの『エンジェルズ・ イン・アメリカ』の舞台化を依頼され 上演したところ 『ノーマル・ハート』で経験したのと同じく 文化が実際に変化していくのを 感じました それは芝居が発端となったことではなく 芝居もその流れの一部としての役目を果たし アメリカにおいてゲイであることの 理解を変えました これは私も非常に誇りに思っています

(拍手)

私がパブリックシアターの ジョーの後任となった2005年 私たちが抱える問題は 成功の犠牲だと気づきました 『シェイクスピア・イン・ザ・パーク』は 市民に近づくために生まれたのにも関わらず ニューヨークシティーで一番 手に入りにくい切符になっていたからです 観客は二日間野宿して 切符を手に入れようとしていました その結果は? 他98%の市民の人々は このイベントに行こうとすら 思わなくなったのです そこで私たちは巡業型の 演劇ユニットを再結成し シェイクスピアを刑務所 ホームレスの保護施設 ニューヨーク市5つの行政区の コミュニティセンターに持っていきました それからニュージャージー州や ウェストチェスター郡にも この試みは 私たちが直観していたことの 裏付けとなりましたー 人々が生きて行く上での 舞台の必要性は 食料や水分が必要なのと 同じぐらいに重要だということ この試みは驚くほどの成功を収め ずっと続けています

それから まだ超えていない 別の障壁にも気づきました それは参加という障壁です 考え方はこうです どうすれば 商品すなわち単なる物に なってしまった舞台を 本来あるべき姿である 人々の間にある 種々の関係へと戻せるか? リア・デベソネの 素晴らしい指導のもとで パブリック・ワークス・プログラムを始め それが今では毎夏 大がかりなシェイクスピアの ミュージカルショーを公演し トニー賞受賞の 役者や音楽家に混じりながら シッターさんや家庭内労働者 退役軍人や投獄されたばかりの受刑者 アマチュアもプロも 同じ舞台で共に芝居をしています これは単に素晴らしい 社会プログラムというだけでなく 私たちが作る最高の芸術です ここでの主張は 芸術の体現は 少数の人の手によってでは ないということです 芸術の表現力は人間が皆 持ち備えています より多くの時間を その実践に費やせる 私たちのような人がいるだけです そしてその中からたまにはー

(拍手)

『ハミルトン』の様な奇跡の作品が 誕生します アメリカ建国の話を リン・マニュエルが ミュージカルに仕立てたこの作品は 西インド諸島から来た私生児の移民孤児である 唯一の『建国の父』の目から見た すっかり書き直された建国逸話です リンの試みは シェイクスピアの試みと全く同じでした 市民の声を使い 市民の言葉を 詩歌という形に高め そうすることで 市民の言葉を気高くし よってその言葉を話す人たちの高尚さを 讃えることができました そしてこの劇を全てブラックかブラウンの 人種の役者で構成することで リンが私たちに伝えたかったこと 私たちの中に復活させたことは 私たちがアメリカに求める 一番重要な願望であり アメリカが持つ善の部分 私たちが理想とするこの国のあり方 「アメリカン・ドリーム」の基本である 多様性の受け入れでした この作品によって 私の中にも 観客の中にも 愛国心が込みあがり そういう気持ちが 決して 止まらないことが裏付けられました

ただ これには別の一面もあって 最後にその話をしたいと思います 本日話したい最後の物語です 皆さんの中には 次期副大統領だったペンス氏が 『ハミルトン』を見に来たことを ご存知の方もいるでしょう 彼が会場に着くと 一部のニューヨーカーが ブーイングしましたが ペンス氏は見事なコメントをしました 「それが自由の音だ」

舞台の最後に 制作者の私たちは舞台から 私の意見では 非常に誠意あるコメントを読み上げました ペンス氏は聞いてくれましたが この出来事が多少の怒りを引き起こし ツイートストームとなり ネット上では『ハミルトン』の ボイコット運動が ペンス氏に対し無礼だと怒る 人々の間で広がりました 私はあのボイコットを見て これは何かがおかしいと思いました ボイコットの賛同書面に署名した人達は どのみち『ハミルトン』を 見る気はありませんでした この舞台は彼らの住む町の近くで 上演される予定もなく 上演されても 彼らには 高価なチケットは買えず もし お金があっても チケットを手に入れる ツテがありませんでした ボイコットされたのは 私たちではなく 彼らだったのです アメリカの赤と青で色分けされた 選挙地図を見ながら 私があなたに 「青の部分が この国の主要な非営利文化団体を 示しています」 と言うとすると それは事実だと言えます 信じていただけるでしょう 私たち文化人は この国の経済や 教育制度 技術と まったく同じ態度をとっていました つまり この国の多くの人々に 背を向けていました

多様性を包含するという考え方は 持ち続けねばなりません 来秋 私たちはリン・ナタージュの 素晴らしい作品で ピュリッツァー賞受賞劇 『Sweat(汗)』の巡業公演を始めます ペンシルバニア州レディングでの 長年の調査の後書き上げられたこの作品は ペンシルバニアの産業空洞化の話で 鉄鋼産業が去ってしまった後の 失業が引き金となり 解き放たれた怒り 人間関係の緊張 人種差別を物語っています 私たちはこの芝居で ペンシルバニアの農村地域 オハイオ州 ミシガン州 ミネソタ州 ウィスコンシン州を 巡業します 私たちはその地域の地元団体と手を組み この芝居が手を差し伸べたいと思う人たちに きちんと伝わることを心がけるだけでなく 彼らの話にも耳を傾け 「文化はあなたの為にもある」と 伝えたいのです なぜならー

(拍手)

私たち文化事業に携わる人間 舞台芸術家の私たちは 自分たちの任務が解らないと 言い訳はできません それは演劇のDNAに 組み込まれているのですから 私たち舞台人の務めを ハムレットの言葉で表現すると 「鏡を自然に向けて 善さも醜さも 本来の姿を写すこと そして時代の姿形を 映し出すこと」 私たちの務めは アメリカに理想を示し 個人として私たちが どのような人間かを表すだけでなく 私たちが必要とする共通性 すなわち — 一体感 全体性 国家の一員である感覚を 取り戻すことです それが芝居がやるべきことで 私たちが最善の努力をして 成し遂げるべき使命です

ありがとうございました

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このプレゼンテーションについて

「真実は、異なる考えがぶつかり合う中で生まれ、舞台芸術はその真実を私達に伝える重要な役割を果たす」—そう話すのは伝説的芸術監督のオスカー・ユスティス。この力強いトークを通じて、ユスティスは全米各地を巡業しながら人々に手を差し伸べる(そして人々の声に耳を傾ける)計画を説明します。産業が衰退したラストベルトのような場所では、演劇も他様々な組織同様に、人々に背を向けていたからです。「私たちの務めは、個人の本当の姿をアメリカに示すだけでなく、我々が必要とする共通性を取り戻すというビジョンを提示すること」と、ユスティスは語ります。「それが演劇のすべきことだ」と。

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