過去、現在、未来を巡る詩人 ― スペイン・サンティアゴ巡礼(20:16)

デイビッド・ホワイト(David Whyte)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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若い頃に描いた未来 今考えている未来 成熟した時に考えるであろう未来 この3つの時制を1つにまとめる試みを 今夜行おうと思います いろいろな意味で 詩人というのは 「現実の対話的性質」を 見ています 皆さんは こう思うでしょう 「現実の対話的性質」とは何だろう? それは 皆さんが世界に望むもの すなわち 結婚あるいは恋愛中の パートナーに望むもの 子供に望むもの 部下や同僚に望むもの 自分自身に望むもの そういったものは 自分の思いどおりには 起こらないということです

しかし同じように 世界が私たちに望むもの パートナーや子供や同僚 社会が望むもの 将来が私たちに要求することも 起きるとは限りません 実際に起こることは あなたが 自分だと考える存在と 自分ではないと考える存在の 境界上にあります つまり「自分自身」と呼ぶ存在と 「世界」と呼ぶ存在が出会う この境界線こそ 事物が現実である 唯一の場所なのです

しかし驚くべきことに 私たちが どんな手段を使おうと この対話的境界で過ごし そこから排除されない時間は 極めて短いのです 私は入国審査を通過しました まさに境界を通って 昨年 米国に来ました 大西洋を横断する 国際線から降りると 最適な場所にいるわけでもなく 精神的な成熟状態でもなく 自分以外の人間の様子に かなり苛立っています シャツの襟がはみ出した状態で 入国審査に向かいます あごひげは1日分伸びた状態です 苛立ちが募っています 入国審査官が パスポートを見て 私に職業を尋ねました 「現実の対話的性質」に 関わる仕事をしていると答えました

(笑)

すると審査官はボックスから身を乗り出し 昨晩 あなたに話を聞いて もらいたかったと言いました

(笑)

(拍手)

私はこう言いました 「詩人や哲学者としてなら 力になれますが お役に立てるかどうかは―」 知らない間に 彼の結婚生活についての 話になっていました 彼は仕事中でしたが 面白いことに 私たちが本物の対話をしているのを 監督者が気付かないように まわりの審査官を気にしていました 誰もがこのように 未来との対話的な境界で 生きています

アイルランド人である私の姪 マーリーン・マコーミックの 例を話します 姪はスペイン西海岸の岸壁から 広大な大西洋を見ました 当時23才だった姪は 800キロ歩いて ピレネー山脈のフランス側に位置する サン・ジャン・ピエ・ド・ポーから スペイン北部を越えました この巡礼は古くから 今に至るまでとても有名で カミーノ・デ・サンティアゴ・ デ・コンポステーラと呼ばれ コンポステーラのサンティアゴ に続く道という意味です 実際にサンティアゴに着いても 極点という感じがしません 10万人程が住む街に 到着しても 拍手される訳でもありません

(笑)

そのうち1万人は記念品を 売ろうとしてきます でも そこから更に 3日間歩き続けると マーリーンが立った場所に着きます スペイン語でフィニステーレと呼ばれますが 英語ではフィニスターと発音します 「地の果て」という意味の ラテン語に由来します 陸と海の境界であり 現在が未来へと変わる場所です マーリーンはこの道を歩きました スライゴ大学を23才で卒業し 専攻はアイルランド演劇でした 彼女は こう話していました 「世界的な大企業から 声がかかるわけじゃない」 そこで彼女をなだめました 「いいかい 私は世界中の企業で 何十年も働いているけれど 演劇の学位こそ 大人の企業社会に向けた—

(笑)

準備に最適だろう」

(拍手)

しかし姪は 「私はそれに興味がないし 演劇を教えたくもない 私がなりたいのは劇作家 戯曲を書きたい だから 勇気をもらって 未来に踏み出すために 巡礼の旅に出たの」 巡礼中に最も力強く感じた瞬間について 尋ねました 彼女曰く そういう場面は たくさんあったが 最も力強く感じたのは巡礼後で サンティアゴから この岸壁に来る間の3日間でした その間に3つの儀式がありました 1つ目はホタテ貝のタパスを食べること もしベジタリアンなら ホタテ貝の貝殻を思い浮かべるだけ

(笑)

貝殻は巡礼を行った証になります 道中には道しるべとして 貝殻の下に矢印があります 1つ目の儀式が意味するのは どのようにゴールに辿り着いたか どのような道のりだったか 嫌がらせを受けたと思う時 どのように人生の対話を続けるか けなされている時は ふと我に返る時は どのようにあなたをこの地に至らせた 人生の対話を続けるのか 2つめの儀式は 何か自分が持ってきたものを焼くことです 何を焼いたか尋ねると 手紙1通とハガキ2枚を焼いたそうです 驚きました 23才の若者が 手紙やハガキを持っていたとは 信じられませんでした

(笑)

巡礼用のアプリがあって 思い出したくないメールを 削除するのかと思っていました

(笑)

色の着いた光に パッと包まれて 炎をあげて消えてしまいます 手紙を持参してもいいし その場で書いてもいいのですが そこで焼いてしまうのです 手紙やハガキにどんなことが 書かれているかは直観的にわかります 終わってしまった恋についてなどでしょう

3つ目の儀式です 手紙やハガキを燃やしている傍らに たくさんの服が山になっています 道中で着けていた衣服の一つを この地に置いて行くのです 何を置いたのかという問いに マーリーンはこう答えました 「私は巡礼中に使用していた ブーツを置いた きれいで気に入っていたけど この7週間の巡礼で役目を終えたので ブーツをそこに置いて スポーツ用の靴で立ち去ったの

信じられないような体験だった もっとも力強く思った瞬間は 太陽が沈んでいく時に 背後から満月が昇り 沈みゆく太陽に 月が煌々と照らされ 太陽が水平線よりも下に沈んだ後も 月は太陽に照らされていた その月の光によって 私の影ができて その影が大西洋を歩いて渡るの 大西洋をよ そのとき思ったのは これこそ未来に向かう 自分自身だと でも突然 太陽がさらに沈むのに気付き 太陽の光の 月からの反射もなくなり 私の影も消えていった 巡礼中でもっとも力強く感じた瞬間は 私自身がこの未知の大洋を渡って 未来に向かって歩かなければらないことに 気づいた時だった」

私はこのエピソードに たいへん感化され 姪のために詩を書きました 一緒に車に乗り 家に着き ソファーに身を沈め 午前2時まで書きました 家族は皆寝ていました 朝食時にマーリーンに 詩を渡しました 題名は『フィニステーレ』 マーリーンに捧げた詩です

「その道はついに

太陽が通った道をたどり

太陽が通った道をたどり 西の海へと続いていた

西の海へと続いていた

そして 月は

背後から昇り 海へとつながる地の果てに あなたは たたずんでいた:

今は未来への

道はない あるのは あなたの影が辿れる道だけ あなたの眼前で海を渡って 影の赴く方に

行く手を阻む世界を 理解する術もなく 辿ってきた道に終わりを告げるだけ 持ってきた手紙を一枚ずつ取り出し 照らされた角に火をともし 夕方の薄暗い明かりの中で 揺らめく文字を読む

バッグを空にし

これを置いていこう

これを置いていこう ずっと誓わねばならなかったことを

ここで誓おう あなたをここまで運んだ靴を 波打ち際に捨てる

諦めからではなく

諦めからではなく 今 歩むべき別の道を見つけたから そして あなたの一部は ずっと 歩き続けるだろうから どんなことがあっても 波頭を越えて」

『フィニステーレ』 マーリーン・マコーミックに捧ぐ

(拍手)

彼女の第3作が すでに公演されました ブロードウェイから 遥か遠く離れた ダブリンですが

(笑)

もう自分の道を歩んでいます

もう一つ 話を聴いてください 私たちが努力を積み重ねて 予期した終着地に着くことについてです 終着地は サンティアゴかもしれないし メッカ(イスラム教の聖地)や バラナシ(ヒンズー教と仏教の聖地)や 京都でもよいでしょう 自分で設定したゴールかもしれません とにかく ゴールへの到着を目指して 不安を抱えて近づいていくことについてです

自分の人生や 自分の肉体 そして この世界にすっかりと 歩み入ることの難しさの1つは はじめから すべての他人と共有した 3つの頭から離れない幻想を 作り上げたと 気づき始めることです

1つ目の幻想は 弱点を持たずに 生きていくことができる と考えることです 原初から人が課されてきた 避けられない 困難や病気や喪失に 遭わずに済むと 考えることです 自然界を見渡すと 循環しないものなど 無いことに気づきます まず 姿が現れ初め あるいは隠された時期があり やがて成熟します その後 美しく消え始め そして 最後には 厳しく完全な消滅です それを見たときの 私たちの反応は 「美しいけれど 前半だけ経験できないだろうか? そして消え始めたら 目を閉じて 新たな循環が 始まるのを待つとしよう」 人は 生きている半分の時間 現実と戦っているということです 成熟したアイデンティティとは この全循環の中で 生きていけることです

2つ目の幻想は 心を傷つけられずに 生きていけるというものです まず恋愛について 新しい恋愛や結婚の始まる時は 「自分を傷つけない人を 見つけた」と言うものです 残念ながら そういう性質を持った相手を 無意識に選んだに過ぎません

(笑)

彼らはやがてあなたを傷つけます なぜでしょうか あなたが相手を思いやるからです 子育てをするとき 完璧な父や母になろうとすると やがて子供は親を傷つけるでしょう 子供は特別ひどいことを する必要はないのですが たいていはひどいことをして

(笑)

親を傷つけるものです その後 子供たちはスパイや工作員のように 何年も親と生活します 親の心理的な変化を子細に観察して 弱みを探しながら一緒にいます そしてある日 14歳になる頃 子供に背を向けて キッチンで 何か作ってやっている時に

(笑)

心理的なナイフが突き刺さります

(笑)

(拍手)

どうやって 私の弱みを 知ったのか尋ねると

(笑)

こう言うのです 「ずっと観察してたんだ」

(笑)

「何年も」

仕事においては プロとしての鎧を着た自分が 傷つけられないようにしています しかし誠意を持って 仕事に臨めば 必ず傷つけられるでしょう どのように対処してよいか 分からない状況に 必ず陥ります どう進んでよいか 分からないのです 何が起きるでしょうか 現実と向き合うことになります なぜでしょうか 誰かに助けを求める必要があるからです

傷つくことからは 逃れられません 自分が心から気にかけていた 人やモノや仕事によって 傷つけられます

3つ目の幻想は 十分な計画を立てれば 準備をして終わりまで見通し 物事を進められると考えることです 今いるところから地平線まで しかし そう考えるとき それが成立する状況とは 他に生物がいない 砂漠の平地だけでしょう しかし そこでさえ 地球の湾曲は 行く道を隠します よって そのような状況は ありえないのです 道が見えたり 見えなくなったり そして再び見えたり

つまりこれが『サンティアゴ』です やがて到着できると 考えていた終着地です 同時に ある意味では 最初に戻ることです 私たちは旅という経験をします それは偉大な精神的伝統である 巡礼の経験です これは実際に自分の人生に しっかり立つことで得られるのですが 未来への計画に 逃げようとすることではありません それは現在の心の痛みからの 逃避に過ぎません 自分の人生の中でしっかりと立ち あなたをけん引している 地平を見る能力― その時 自分が旅そのものであり 対話そのものなのです

『サンティアゴ』

「道は見えたり

見えなかったり

丘はあなたの行くべき道を隠し そして行く手を見せる

道は見えたり 見えなかったり

丘はあなたの行くべき道を隠し そして行く手を見せる 道が落ちて消えてしまう まるで空中を歩けとばかりに あなたを捉まえ 落ちるかと思ったときに 拾い上げてくれる

あなたを捉まえ 落ちるかと思ったときに 拾い上げてくれる

そして前へ進む道は

最後には必ず 来た道となる

そして前へ進む道は 最後には必ず 来た道となる それは あなたが従った道 あなたを未来へ導いた道 そして あなたを

この終着地へ導いた道 たとえその道が 時にあなたから 期待を奪うことになったとしても たとえ道半ばで 必ずあなたの心を 傷つけたとしても:

感覚 自分の奥深くから 啓示に向かって歩いたという感覚 自分の中と自分を遥かに超えたところ 両方にあるように見える何かを求め そして あなたがたどれる唯一の道に あなたを最後に呼び戻した 何かを求めて 自分を危険に曝したという感覚 愛着のある服を身にまとって歩き

愛着のある服を身にまとって歩き 夜には 無事に到着することを願う 祈りとなった その声で話し そして やがて

ある日 あなたは気づいた 自分が望んでいたことが すでに実現していたことに

ある日 あなたは気づいた 自分が望んでいたことが すでに実現していたことに それも ずっと以前 旅を始める前 住んでいた場所で そして

道のりを一歩一歩 進む間 道のりを一歩一歩 進む間 初めにあなたを旅立たせ そして あなたを引き寄せた 気持ちや思いや期待を 運んでいたことに気づいた そして

道を探そうという あなたの純粋な希望は

あなたの到達できるどんな土地の 煌びやかな町並みより 素晴らしいことに気づいた

あなたの到達できるどんな土地の 煌びやかな町並みより 素晴らしいことに気づいた: まるで ずっと 終着地には いくつもの金のドームがある街や 歓声をあげる人がいると思い 道の終わりと思って 角を曲がって 見つけたのは 単に反射した像と 自分を見返す顔の背後にある はっきりした啓示と そこにある新たな道への誘い すべてを一瞥で

すべてを一瞥で: ずっと探していた

人や場所のように

人や場所のように あなたをさらに先へと誘う 自由の広い土地 別の人生のように

別の人生のように 道は 道は さらに続く」

(拍手)

ご清聴ありがとうございました

(拍手)

ありがとう

(拍手)

ありがとう

ありがとう

(拍手)

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このプレゼンテーションについて

独特な魅力と深い洞察力を備えたデイビッド・ホワイト氏。彼は姪が辿ったスペイン・サンティアゴ巡礼に感化され、詩を2編作りました。それを詠みながら、過去・現在・未来を巡ります。

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