科学と研究における人間の感情の役割(10:42)

イロナ・シュテンゲル(Ilona Stengel)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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私は科学者で 『スター・トレック』の大ファン 特にミスター・スポックが好きです 彼も科学者で 宇宙船エンタープライズ号の 副長でもあり エンタープライズ号の乗組員が 冒険をする間 スポックと仲間達は 彼の感情 あるいは感情の無さに 振り回されます スポックは半分人間 半分ヴァルカン人 ヴァルカン人は異星人種で 感情を制御し 押し殺して 完全に論理に基づいて行動します スポックは 半分だけヴァルカン人なので いつも論理と感情の葛藤を抱いていることが 自分でも分かっています 彼はチームの一員なので 乗組員全員が 彼の葛藤と格闘したり それを分析したり 茶化したりします 『スター・トレック』のファン達も 彼の矛盾して見える振舞いを 面白く観ています ファン達にとって この作品の大きな魅力です この問題は60年代から今日に至る― 『スター・トレック』の全TVシリーズと 映画を繋ぐ重要なテーマです

今日はまさにこのこと つまり 科学における感情の役割について お話しします 科学は事実と論理のみに関わるもの と私達は思いがちで 人間の感情はしばしば無視されるか あるいは取り除くべき障害とみなされます 私が提案したいのは 感情が私達の生活の様々な場面で重要なように 科学においても 同様に重要だということです 科学は人間が作ったものですし 私達人間はどんなに頑張っても 感情を取り除くことはできません だから感情と戦うのではなく 科学においても 感情を利用するべきだと考えます 偉大な発見や技術革新にとって 感情は事実や論理と同じくらい 重要だからです

スポックの話は また後にすることにして 科学における感情の役割について 私の体験を先にお話しします とくに ここ数年ずっと 考え続けてきた ある1つの体験についてです 私は有機発光ダイオード いわゆるOLEDの研究をしています ご存知かもしれませんが OLEDは 次世代ディスプレイに利用されています スマホのディスプレイやテレビ画面に 最近ますます利用されています 鮮明で発色もよく ディスプレイを曲げることもできます これが仲間の物理学者達の実験室にある OLEDの画像です 化学者としてOLEDについて考える時 いつもこの画像が頭に浮かびます OLEDの研究を始めて以来 夢中になって取り組んできました

だから当時勤めていた会社で OLEDの研究をやめる との告知があった時は― さっきのが かつての 勤め先ですが― 嬉しくはありませんでしたね 当時の経営陣には この決断を下す正当な理由がありましたし 実際に 会社はこの決断を とても上手く実行に移しました 職を失う者はいなかったし 誰もが成果に応じた報酬を得ました 今日 お話ししたいのは 告知から 研究プロジェクト最終日までの期間に 私と科学者の同僚達に起こったことです 科学における感情についての ささやかな事例研究と考えてください

2015年 私達の研究チームは 80人を超す陣容に成長していて プロジェクト中止の告知後も 1日また1日と 中止は延期されました 全ての研究活動を上手に終え 全員分の新たな職を社内に見つけるのに 数か月を要しました こんなことが起こったんです 自分達が取り組んでいるプロジェクトが 中止になることは分かっていましたが あの数か月間で私達は とても大きな成果を残しました 私達は2件の異なるOLED研究に 取り組んでいました 1件目は青色OLEDの素材開発で 2001年に始めた研究です 2件目は緑色OLEDの素材開発で 2014年に開始しました ここに示したのは 緑色OLEDに関する成果です

機器の耐用性の重要な尺度となる 耐用期間が 月日を重ねるにつれ伸びたことが グラフから分かります 2015年 私達は プロジェクトの開始からわずか半年で 規模を縮小し 出来るだけ早い時期に そのプロジェクトを中止して 別の仕事を始めるように 言われました でもそれ以来 私達は急速に進展し続けたのです

一体どうやって? 告知の後 同僚達は 足早にチームを去り始め 程なくして 少数だけが残されました 残った者は皆ほとんど同じ態度でした 「最後の1人になってもここに残る」 私がここで強調したいのは プロジェクトに携わる人の数は 減ったけれど 残った者たちの研究への献身ぶりが 飛躍的に増したことです より強力な団結心も新たに生まれました 私達は皆 研究に対する情熱を等しく抱き 研究が間もなく終わってしまうことを悲しがり 自分達の着想を実現してみせたかったのです より大きなものへの帰属感を 私達は感じていました その上 私達のプロジェクトは ますます経営陣から注目されなくなっていました 新しいプロジェクトやリストラ等の検討が 既に始まっていたからです その結果 以前より自由に いくつかの事を自分たちの手で 進められるようになりました もちろん 自由に采配を振るえるようになれば それだけ責任も増えますが それは私達の望むところでした 自分達の研究に自信があったからです 権限を与えられたように感じました これら3つの柱 つまり 献身 帰属感 権限を与えられることが 一種の自己強化サイクルの中で うまく組み合わさって機能し 活動停止が近づけば近づくほど 成果が上がりました こうして私達は各々が熱意をもって 既に死刑宣告を受けたプロジェクトに 取り組みました 何故なら私達は 有意義な何かとの繋がりを 感じていたからです もちろんそれは困難で 時にもどかしさを伴う期間でもありましたが 私達は実験室や 時にはカフェで 研究上の喜びや プロジェクトが終わる悲しみを 共に分かち合いました 最後までとても充実した 魅惑的なほどワクワクした時間でした そしてとうとう 私達の素材は 当時 既に商品化されていた 緑色OLEDと 同等の耐用期間を記録しました 私達はこれを僅か1年以内で達成しました こうした成果のおかげで 会社は 特許をその価値に見合った額で 売ることができました

さて登場人物も違い 任務も少し異なりますが これと同じお話があります 『スター・トレック』の1コマです 映画を観たことがない人には 申し訳ないですが ひとつネタバレです 『スター・トレック II』のラストで スポックが自分を顧みずに 宇宙船エンタープライズ号を救った後 カーク船長とその主たる部下達は スポックを見つけるために 宇宙を捜索する決意をしました とは言え スポックの生存の見込みは 殆どありませんでした 宇宙艦隊司令部はカーク船長達にも 他の宇宙船にも そんなことを許可しませんでした 熱い想いに駆られた船長達は 自分たちの裁量で スポックを捜すために出航しました 大きな試練を幾つも乗り越えて ようやくスポックを発見し 彼は嬉しそうに感謝しながら チームに戻りました スポックは任務に対するチームの 献身と結束力を感じました それが彼を救うこととなり 乗組員達を団結させたのです そして年月が過ぎ 幾つもの冒険物語を経て スポックが悟ったことは 試練と向き合い 新しい世界を探求する上で 論理と感情の両方の組み合わせが 無くてはならないのだということでした 矛盾はもはや ありませんでした

OLEDと『スター・トレック』 この2つの筋書きは実のところ 科学に限らず他の分野でも 多くの画期的な成功物語の 基本的設定です 主要人物達は皆 優れたチームに属しています 彼らは皆 目標達成のために 非常に熱心に取り組みます 手に入れられる全ての自由を 掴もうと奮闘し 必要な責任を引き受けます

OLED研究プロジェクトが 終焉を迎えていた頃 私は何回かこんな忠告を受けました 「気にするな また別の研究をすればいい」 もし私が忠告に従っていたら 憂鬱な夕べを幾度と過ごしたり 何度も涙を流したりせずに 済んだでしょうが 同時に 人としての成長や幸せの点で 多くを手に入れる機会を逃していたことでしょう 同じことが私の同僚達や プロジェクト全体にも言えるので 私達の成果はごく僅かだったでしょう

科学は当然 事実と論理に基づくべきものです 科学でも感情を利用するべきだというのは 事実の代わりに感情を使う ということではありません ただ 事実に基づく科学や技術革新を実行し またそれを触媒するために 感情を利用することを恐れるべきではない と言いたいのです 感情と論理は 相対立するものではありません 互いを補い合い 強化し合います

有意義な何かに献身しているという感覚 より大きなものへの帰属感 そして権限が与えられているという感覚は 創造や革新には不可欠です どんな仕事であれ これは大事な仕事だと確信して 思う存分 真剣に打ち込んでください

ありがとう

(歓声)

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このプレゼンテーションについて

空想科学小説が描く未来では、人工知能は私たちと同じ筋道で思考をするようになっています。でも、自然界にある他の知性をモデルに人工知能を作り上げたらどうでしょう? ロボット技術者のラディカ・ナグパールは、昆虫や魚の群れが示す集団的知性を研究し、それらの行動規則を理解しようとしています。この先見性のあるトークで、ナグパールは人工的に集団の力を作り出す自らの研究を紹介するとともに、ロボットが群れをなして堤防を作ったり、作物の受粉をしたり、サンゴ礁の監視や衛星の集団形成をしたりする未来を語ります。

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