製造業の仕事が減っている本当の理由(12:02)

オーギー・ピカード(Augie Picado)
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対訳テキスト
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キューバという国名を聞いて 何を連想しますか? クラシックカー? 上等な葉巻? 有名な野球選手かも では北朝鮮はどうでしょう? ミサイル実験や 悪名高き最高指導者 その親友のデニス・ロッドマン

(笑)

まず連想しないのは 自由経済の恩恵により 国民が いろんな製品を 手頃な値段で手に入れられる そんな国の姿ではないでしょうか

これらの国が なぜそうなったのか ここで議論するつもりはありません 輸入を制限し 自国の産業を保護するという 貿易政策によって 国民が悪影響を受けた例として 挙げさせてもらいました 昨今 多くの国で 輸入を制限することで 国内の産業を保護しよう という動きが見られます 聞こえは良いかもしれませんが つまりは保護貿易主義です このことは 2016年の大統領選の際も よく耳にしました ブレグジットの論議でも 直近ではフランスの大統領選の際も 話題に上りました 実際 非常に重要なテーマとして 世界中で語られており 政治的リーダーの地位を狙う多くの者が 保護貿易を良しとする政策を 掲げています

良策だと思うのもわかる気がします 貿易は時にして不平等に見えますから アメリカ国内の問題のいくつかを 貿易のせいにする人もいます もう何年も アメリカでは 賃金の高い製造業の仕事が減少していると 言われています アメリカで製造業が衰退するのは 中国 メキシコ ベトナムなどの 安い労働力のある市場へ 企業が事業を海外移転しているからだと 多くの方が考えています 貿易協定にも 不公平な部分があると思われています 例えばNAFTA(北米自由貿易協定)や TPP(環太平洋パートナーシップ協定)です こうした協定があれば 企業は 海外で安く生産した商品を アメリカなど 製造の仕事が奪われた国に 再輸入できるようになるからです 輸出する側が得をして 輸入する側は損をする そのように見えますね

しかし現実には アメリカにおける製造業の生産高は 増加しているのです でも 仕事は減っています それもかなりの数がです 2000年から2010年までで 製造業では570万の仕事が失われました しかしその原因は 皆さんの想像と 違うかもしれません オハイオ州トレドのマイク・ジョンソン氏が メキシコのモンテレイ市の ミゲル・サンチェス氏に 工場の仕事を奪われた? 違います 機械が奪ったのです 失われた製造業の仕事のうち87%は 自動化によって 生産性が向上したために なくなったのです つまり オフショアリングによって 失われた職は 全体の10分の1だけということです これはアメリカに固有の現象ではありません あらゆる国のあらゆる生産ラインへ 自動化は普及しているんです

まあ 気持ちはわかります 仕事を失ったばかりで 元の会社が中国と提携をする という記事を新聞で読んだら 1対1の条件で 自分は他人に取って代わられたと 思い込むのも当然でしょう

こんな話を聞く度に思うのですが 皆さんは― 貿易は2国間だけで起こるものだと 考えられているのではないでしょうか ある国の企業が商品を製造し 他国の消費者へと輸出する という構図で 製造国の勝ち 輸入国の負けのような 感じがします

しかし現実はちょっと違います 私はサプライチェーンを専門とし メキシコを生活と仕事の拠点にしています 私が仕事をしているのは 世界中の製造業者が密に繋がって 協力し合い 我々が手にする多くの製品を 作り出しているネットワークの中です メキシコシティの 最前線で見る現場は 実際にはこんな感じです この方が 貿易というものの より正確な描写であると思います ありがたいことに私は 様々な製品の製造過程を見てきました ゴルフクラブからノートパソコン サーバー機器や自動車 それに飛行機まで 単一製造ラインで完結するものは ただ1つとしてありません

例を出しましょう 何か月か前 メキシコのケレタロ州で ある多国籍航空宇宙事業会社の 製造工場を見て回っていた時のことです ロジスティクスの責任者が 完成した機尾部分を見せてくれました 機尾はフランスで製造されたパネルと アメリカから輸入した部品を使って メキシコで組み立てられているそうです 組み立てられた機尾は トラックでカナダまで輸送され 最終組立工場で 他の何千ものパーツと 合わせて組み立てられます 機翼や座席をはじめ 窓のシェードなど 新しい航空機の あらゆる部品が集まるのです 考えてみてください その新しい機体は 初のフライトに飛び立つ前から 幾度となく国境を越えているんですから アンジェリーナ・ジョリー顔負けです

このような加工工程へのアプローチは 世界中で使われていて スキンクリームから飛行機まで 我々が日々使用する製品の多くが こうして作り出されています 今夜 家に帰ったら 見てみてください こんな表示ラベルを見つけて 驚くかもしれません 「国内外の部品を使用しアメリカで製造」

経済学者のマイケル・ポーターは こんな状況を絶妙に言い表しています 何十年も前の彼の言葉です 「国にとって最も有益なのは 自国で最も効率的に生産できる 製品を集中的に製造し 他は貿易に頼ることである」 これは つまり国際生産分業 効率性を制する者の勝ち ということです 家庭や職場でも 同じような経験があるでしょう

事例で考えてみましょう 家を建てるとき または キッチンのリフォームの際 一般的には総合請負業者がいて その業者が様々な請負業者の 作業を調整します 建築士に設計図を書かせたり 掘削除去業者に土台を掘らせたり 配管工 大工などを使ったりです なぜ総合請負業者は 1つの業者に全ての仕事を 任せないのでしょう? 例えば 建築士にです それは理屈に合わないからです 複数の専門家を採用するのは 家を建てたり 台所のリフォームをするのに必要な 個々の作業を学び極めるには 何年もかかるからです 特殊訓練が必要な作業もあります あなただったら 建築士にトイレの取り付けを 任せますか? 任せないでしょう

このやり方を 企業活動に当てはめましょう 今日の企業は 自社が最も得意とし 効率よく生産できる製品に集中し 他は全て買い入れています つまり 自社製品の製造にあたっては 相互連携 相互依存の関係にある 国際的な製造業者のネットワークに 頼っているのです この相互連携はあまりに密なため それを解体して 一国内で製品を造ることは 不可能に近いでしょう

先ほどお見せした― この相互連携のネットワークの中で アメリカとメキシコを結ぶ一本の線に 焦点を当ててみましょう Wilson Institute によると この2国間の貿易額5千億ドルのうち 40%が生産分業に関わるもので つまり2千億ドル ポルトガルの国内総生産に匹敵します 仮にアメリカが メキシコからの輸入品全てに 20%の国境税を課すことにしたら どうなるでしょう? メキシコが黙って それを見ているでしょうか? あり得ませんね 仕返しに アメリカからの輸入品全てに 同じような課税をし しっぺ返しが来るわけです 20%の関税が 国境を行き来する あらゆる物 製品や部品にかけられたら 関税は40%以上も増加するでしょう つまり800億ドル以上です いいですか そのコストを最終的に負担するのは 他でもない私たちです 我々が日々購入する製品の価格に どんな影響を及ぼすでしょう 30%の増税分が上乗せされたとしたら 物価はかなり上昇するでしょう 高級車のリンカーン・MKZは 3万7千ドルから4万8千ドルへ シャープの60インチHDテレビは 898ドルから1,167ドルへ ドラッグストアで買える 450g入りの保湿クリームは 13ドルから17ドルへ値上がりします しかも これは アメリカ・メキシコ間の生産チェーンに 限った場合の話です これが 全ての繋がりへと 掛け算されていくのですから とんでもない規模の影響です

想像してください たとえ このネットワークを解体し 自国で全てを生産したとしても― それが可能であればの話ですがー 失われた製造業の仕事のうち 救えるのは たった10%です 思い出してください そうした仕事のほとんど 87%は 自らの生産性向上により 失われたのですから そして残念なことに これらの職は戻って来ません 本当に問うべきなのは 多くの人が日用品さえ 買えなくなるほど 物価を上昇させてまで どうあがいても 数年でなくなりそうな仕事を 残すことが 理にかなっているかどうかです

生産分業をすれば より高品質の製品を 低コストで生産できる これが現実です 単純なことです これにより 限られた資源や技術で 最大限の利益を得ると同時に 価格も低く抑えられるのです 生産分業がうまく行くかは 原料 部品 最終製品などを 効率的に国境を越えて 移動させられるかに かかっています

ですから覚えておいてください もし誰かが保護貿易は良策だなどと 論じ始めたならば それは大間違いです

ありがとうございました

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このプレゼンテーションについて

アメリカなどでは貴重な製造業の仕事が中国、メキシコ、ベトナムといった労働コストの低い国に奪われており、保護貿易政策を今進めなければならないと、もっともらしく語られるのをよく耳にします。しかし、それらの仕事が失われた理由は、あなたの想像とは違うかもしれないと、ロジスティクス専門家のオーギー・ピカードは言います。ピカードは、国際貿易の実情を紹介し、生産分業と開かれた国境が、高品質で低価格な商品の製造にどう役立つかを説明します。

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