なぜ私たちは笑うのか?(17:04)

ソフィー・スコット(Sophie Scott)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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今日は「笑い」について お話しします。ここから始めましょう― おそらく私が生まれて初めて 笑いに気づいたのは まだ子供の頃 6歳にもなってなかったかな、たまたま両親の 珍しい姿を見ました。笑っていたんです それはもう 大爆笑で、床に寝転がって 笑っていたんです。ギャーギャー言って笑っていました。何が可笑しいのか分からないのに 私もそこに加わって 一緒に笑いたくなりました。それで端のほうに座って 「ホウ ホウ!」って(笑)
ちなみに 両親が笑っていたものは 当時の流行歌です。列車のトイレにある貼り紙を もじったもので 列車のトイレでしていいこと いけないことについての歌です。ご存じだと思いますが、私たちイギリス人はユーモアのセンスが非常に洗練されてますからね (笑)

でも当時は 何も分かりませんでした。その笑いが気になっただけでした。でも神経科学者として 再び笑いに注目するようになりました。笑うという行動は すごく変なことなんです これからいくつかお見せするのは 人間が実際に笑う様子です 人の笑い声が 音としてはいかに奇妙で いかに原始的かを 考えてほしいのです 話し声よりは動物の鳴き声に ずっと近いんです では いくつかの笑いを見てみましょう 最初のはかなり楽しそうですよ

(ビデオ:笑い声)

次のこの人は 息を吸わなきゃね ここで皆さんにも言いましょう 皆さんも息を吸ってくださいね だってこの人 息を吐き出してるだけみたい

(ビデオ:笑い声)

これは編集なしです 彼の笑い声そのものです

(ビデオ:笑い声) (笑)

最後に これは女性の笑い声です 笑いはノイズという角度から捉えると また違った見方ができます (笑い声) 彼女はフランス語でこう言ってます 「ちょっと! 何これ?」 私たちも全く同感ね 分かんないわ

さて 笑いを理解するには ある身体部位に目をやる必要があります 心理学者や神経科学者は普通 あまり時間をかけて見ない部位― 胸郭です それほどワクワクしませんね でも実は 人間は常時 胸郭を使っています 胸郭で常時行われていて 止むことのないもの― それは呼吸です 肋間筋という 肋骨の間の筋肉を使って 空気を肺に吸い込み 吐き出すために 胸郭を拡張したり 収縮したりさせるんです もし胸の上から ストラップのような 呼吸ベルトを巻いて その動きを見てみると かなり安定した正弦波になります これが呼吸なんです 常時行われているもので 止むことはありません 話し始めるとすぐに 呼吸の使い方は全く変わります 今私がしているのは こっちに近いんです 話している時 胸郭のこの精巧な動きが 息を外に絞り出すんです 実は 私たちはこれをできる 唯一の動物です だから人間は 話ができるんです

さて 話すことと呼吸には 不倶戴天の敵がいます それが 笑いです なぜなら笑っている時には この同じ筋肉が非常に規則的に 収縮を始めるからです このように すごいジグザグになります 息を絞り出しているんです これこそがまさに声を出す 基本的な仕組みです 誰かを上から踏みつけても 同じ現象が見られますよ 息を絞り出しているんです この収縮1つ1つが 「ハッ!」という声になります そしてこの収縮が重なって起きると このようなけいれんが起きます こんな(ゼーゼー)声が出るのは この時です 私ものすごく上手なのよ これ(笑)

現状では 笑いに関する科学的知見は あまり多くありませんが 私たちが知っていたつもりでいた 大半のことが 間違いだったことは 明らかになっています 例えば 人はよくこう言いますね 「人間は笑う唯一の動物だ」 ニーチェはそう考えていました 実際には 哺乳類なら 皆笑えるんです 詳しい記述や観察例が多いのは 霊長類です さらにネズミでも見られます いずれの場合でも― 人間でも それ以外の霊長類でも ネズミでも― くすぐった時などに 笑いを観察できます 人間の場合も同じです 笑いは遊びの中で起こりますし 全ての哺乳類は遊びます どんな場合でも 相互交流を伴っているんです このことを研究してきた ロバート・プロヴァィンによると 人がより多く笑うのは 独りでいる時より 誰かと一緒にいる時で その差は30倍だそうです 大部分の笑いは 会話などの 他者との交流の中で起きます ですから誰かに 「どんな時に笑う?」と尋ねると コメディとかユーモア 冗談なんかを 挙げるでしょう 人が笑っている様子を見ると 彼らは友達と一緒に笑っています 私たちが誰かといて笑うのは 本当に冗談が面白いからではありません 「理解してますよ」と 笑いによって示しているのです 相手に賛同していて 同じグループの一員だよと 相手への好意を示すために 笑っているんです 愛情でさえあるかもね 会話しながら こんなことを全部やっているなんて 笑いとは たくさんの感情が 用いられる活動なんです こんなふうに プロヴァイン氏が指摘したこと それから なぜ私たちは 冒頭の可笑しな笑いを聞いて 笑ったのか なぜ私は両親が笑うのを見て 笑ったのか― その理由は この行動が 強い伝染性をもつからです 誰かの笑いを受け取って 知り合いの誰かにうつすんです ここでも状況によって 笑いが調整されています ユーモアは脇に置いて 対人関係での笑いの意味を 考えてみましょう なぜなら笑いの起源は そこにあるからです

さて私が非常に関心があるのは 笑いに様々な種類があることです 私たちの持つ人の発声に関する 神経生物学的証拠から考えると 笑いには2種類あるようです おバカな歌でひっくり返って笑っていた うちの親の場合みたいに 自分では意図せずに どうしようもなく出てしまう笑いは より礼儀正しくて社会的な笑い― つまり馬鹿笑いではなく コミュニケーション行動 つまり 対人交流の一環で 意図的に行われる笑いとは 神経生物学的基盤が 異なる可能性があります 進化の過程で 2種類の発声法が 発達してきました 意図しない発声の方が 今しているスピーチのような 意図的な発声よりも 原始的なのです ですから笑いに関しても 2つの異なるルーツが想定できるのです

そこで これをより詳しく 検討してきました そのためには 多くの人の笑い声を 録音する必要がありました それで人を笑わせるべく あらゆる手段を試みました さらにその同一人物に 作りものの 愛想笑いもお願いしました あなたの友達が 冗談を言ったとします あなたが笑うのは 友達を好きだからで 冗談がそこまで面白いからという わけではありません ではそのいくつかを お聞かせしましょう 皆さん教えてください この笑いは本物だと思うか それとも愛想笑いだと思うか つまり思わず出た笑いか 意図的な笑いか

(ビデオ:笑い声)

この音声はどっちでしょう? 観客:愛想笑い 演者:愛想笑い? 正解 これはどうでしょう

(ビデオ:笑い声)

これ私の最高傑作(笑)(拍手)

実は違うんです これはこらえきれずに出てしまった 笑いなんです 実はこれを録音するのは 簡単でした ある友人が何かを聴いて 無理に笑おうとしている姿を見てたら 自然に笑いがこみあげてきたんです

お分かりになったとおり 人間は本物の笑いか愛想笑いかを 見分けるのが得意なんです 私たちにとっては両者は別物です 面白いことに チンパンジーでも かなり似た傾向が見られます チンパンジーの笑いは くすぐられた時と お互いに遊んでいる時とでは 違うんです これも先程のような 違いかもしれません くすぐられた時に意図せず出る笑いは 社会的な笑いとは違います 音声的にもう大違いです 本物の笑いは長くて ピッチも高いんです 激しく笑い始めると 空気が肺から絞り出されます 意図的に行う時よりも はるかに高い圧力がかかっています 例えば 私が歌う時には こんな高い声は出ません またこんな収縮が始まり 笛を吹いたような 変な音がします これらのことから分かるのは 本物の笑いが至極容易である― または本物だと簡単に 見分けられることです

それに対して 愛想笑いはちょっと 偽物みたいに聞こえるかもしれません 実際にはそうではなく 重要な社会的手掛かりなんです 私たちは多くの状況で 意図的に笑いますが これは独自の特徴をもつようです 例えば愛想笑いには 鼻音性があります こんな「ハハハハハ」といった音です 思わず笑う時には こんな音は決して出ません ですから実際に この2種類が存在するんです

私たちはスキャナーを用いて 脳がどんなふうに 笑い声に反応するか調べました 実験参加者にとっては ほんと退屈な実験ですよ 実験参加者にとっては ほんと退屈な実験ですよ 笑いに関する研究だとは 知らせませんでした 目的に気づかれないよう 他の音声も混ぜました 参加者はただ寝転んで 音声を聴いていればいいんです 何をしろとかお願いしません それなのに 本物の笑い または愛想笑いを聞くと 脳は全く異なった反応をするのです もう明らかに違うんです 青く示された部分が 聴覚野にあたる場所にありますが ここは本物の笑いの方に より強く反応する脳の領域です そしてどうやら 意図せずに出る笑いの音は その他の状況では決して聞かれない 特異なもののようです その特異さは明白で そのような聞き慣れない音には より活発な聴覚的処理が 行われると考えられます 対照的に 誰かの愛想笑いを聞くと 本物の笑いの時より ピンクの領域が強く活性化します この領域はメンタライジング つまり 「他者が何を考えているか」 を考えることに関連があります つまりどういうことかというと 脳をスキャンされている時でも― その間 全く退屈だし それほど面白くもないですけど― 誰かの「アーハハハハハ」 という笑い声を聞くと なぜ笑っているのかを 知ろうとするんです 笑いには常に 意味があり 皆さんは常に 状況をふまえて それを理解しようとします たとえ 皆さんには その時点で 必ずしも関係がない場合でも その人たちが なぜ笑っているのか 知りたくなります

さて私たちは 様々な年代の人たちが 本物の笑いと愛想笑いを聞く様子を 観察する機会を得ました これは王立協会と共同で行った オンライン実験です ここでは2つだけ質問をしました まず笑いを聞いてもらい それが本物か愛想笑いかを 答えてもらいました 本物の笑いは赤 愛想笑いは青です 発達が急激に始まりますね 成長に伴い 本物の笑いを当てるのが 上手になっていきます 6歳だと偶然程度の正答率なので 違いが分かっているとは言えません 大きくなると もっと上手になります でも面白いことに 成績のピークは このデータセットの場合 30代後半から 40代前半にあることです 思春期に達した時点では まだ笑いの理解が十分ではありません 脳が充分に成熟した10代の終わり頃でも まだ不十分です 脳が充分に成熟した10代の終わり頃でも まだ不十分です 笑いは成人期早期全体を通じて 学習され続けるんです

ここで質問を変えて その笑いが 本物か愛想笑いかではなく この笑いがどの位 笑いたくさせるか つまり この笑いがどのくらい伝染するかを 見ると 年齢層が変わります ここでは 若い人ほど 笑いを耳にすると それに加わりたくなる傾向があります 何が起こっているか全く分からないまま 私は両親と笑っていたでしょう? ここでもそれが分かります さて老いも若きも関係なく 本物の笑いは愛想笑いより 伝染的であることが分かっています しかし歳をとるにつれ 伝染性は弱まります 歳をとるほど気難しくなるのか あるいは 笑いをより深く理解できるようになって 対処が上手になるのかもしれませんが 笑いたくなるには 人の笑い声を聞くだけでは足りません 対人的な要素が必要なんです

一般的な思い込みの多くが 誤りであることを示す 非常に興味深い行動が このように見出されてきています しかし 笑いが社会的感情として 重要であること以上の点に 目を向けるべきであることに 私は気づき始めました 人々が笑いに 特別な意味合いを持たせて 活用していることが 分かってきたからです とても魅力的な研究成果を カリフォルニアの ロバート・レヴェンソンの研究室が 発表しました そこでは夫婦関係の 長期的変化を研究しています 彼は夫婦で実験室に来てもらい ストレスを感じる会話を してもらいます その間 彼らはポリグラフにつながれ ストレスの増加がチェックされます つまり 2人に来てもらって 旦那さんの方にこう言うんです 「奥さんにされて 苛々することは何ですか?」 すると即座に― あなたとバートナーのことが 頭の中をさっと駆け巡り こうなると ご想像どおり 誰でも多少ストレスが増します ストレスのかかった様子は 身体面にも表れます 彼が発見したのは そのストレスに 笑いなどポジティブな感情で 対処する夫婦は ストレスがすぐに軽減するだけでなく 身体的な快適さも増すことでした 彼らはこの不愉快な状況を 一緒に改善したのです そのような夫婦は 夫婦関係の満足度も高く 夫婦生活もより長く 続けていました ですから親密な関係性に 着目する場合 笑いは 実に 素晴らしく有益な指標なのです 笑いは感情をどう「一緒に」 調整しているかを示すからです 私たちは 好意を伝えるために 笑いあっているだけではなく 心地よさを一緒に 生み出しているんです

これは恋愛関係だけに 限ったことではないと思います 友達といる時なども含めた 親密な情緒関係全般の特徴でしょう 友達といる時なども含めた 親密な情緒関係全般の特徴でしょう 次のビデオでこれを説明します これはYouTubeのビデオで 旧東ドイツの若者数人が ヘビメタ・バンドの プロモ―ションビデオを撮影する様子です すごくマッチョで 真剣極まりない雰囲気 そして皆さん 笑いの点で 何が起きるか見ていてください。物事が悪い方向に展開すると 笑いがいかに瞬く間に生じて 雰囲気を変えるのか。 寒そうです。これからびしょ濡れになります 水着を着てます タオルに― そして氷 何が起こるでしょう? 撮影スタート 真剣な雰囲気です 友人たちはもう笑ってます 爆笑ね 彼はまだよ (笑) 今 笑い始めました そして 全員で笑っています (笑) 座り込んじゃってる (笑)

私が実に好きなのは 全て大真面目なところなんです 彼が氷の上に飛び込むまでね そして氷は割れず― しかも血や骨がそこらに 散らばったりもしていません 友人たちが笑い始めます 想像してみてください もし友人たちが 「いや待てよ お前 骨が折れてるんじゃないか」なんて 楽しく見るどころか ストレスですよね もしくは 彼が明らかに骨折した足で 笑いながら走り回っていて 「ヘンリック 病院に行こう」 と友人たちが言ったら これも愉快ではないでしょう 笑いの力によって 痛くて恥ずかしい 大変な状況が 可笑しくて 楽しく見られるものに 変化します これはすごく興味深い 笑いの活用法ですよね こういうことは 実は 常に起きています

例えば こんな出来事を 思い出します 父の葬儀でのことです パンツ一丁で 氷の上を 跳び回ったんじゃありませんよ 氷で馬鹿騒ぎなんか 私たちはしませんからね (笑)(拍手) 葬式のような行事は いつも難儀です 少し厄介な親戚もいましたしね 母の状態は 良くはありませんでした 私の記憶では 式が始まる直前 私は 70年代のコメディー番組の話を し始めたんです なぜこんな話をしているのか その時は分からなかったんですが あとで分かってきたのは 私は記憶のどこかから 母と一緒に笑えるものを 思いついたんだということです それはれっきとした理由のある とても基本的な反応だったのです 私たちは一緒に笑って この困難を切り抜けられます これで良い方向にいくでしょう

実際 私たちは皆 こういうことを常に行っています あまりに頻繁なので ことさら注意を払いません 皆 自分が思っている以上に 笑っているのです 他の人と笑っている時には 実は― とても古い進化システムに アクセスしています そのシステムは哺乳類が 他者との絆を形成・維持し 感情をしっかり調整し 快適に過ごすために 進化させてきたものです これは人間だけのものではありません それは古い起源をもつ行動で 感情を調整し より快い気分になるのを 実によく助けてくれるのです

別の言い方をすれば 笑いに関しては あなたも私も 哺乳類にすぎないということです(笑)

ありがとうございました。ありがとう(拍手)

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このプレゼンテーションについて

人は独りでいる時より誰かと一緒の時の方が30倍も多く笑うことを知っていましたか?認知神経科学者のソフィー・スコットによる早口でアクション満載、そしてもちろん笑いの渦を巻き起こすトークが、笑いの科学に関する驚くべき事実を教えてくれます。

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