やる気に関する驚きの科学(18:36)

ダニエル・ピンク(Dan Pink)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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最初に告白させてください。20年ほど前にしたあることを、私は後悔しています。あまり自慢できないようなことをしてしまいました。誰にも知られたくないと思うようなことです。それでも明かさなければならないと感じています(ざわざわ)――1980年代の後半に、私は若気の至りからロースクールに行ったのです(笑)。

アメリカでは、法律は専門職学位です。まず大学を出て、それからロースクールへ行きます。ロースクールで私はあまり成績が芳しくありませんでした。控えめに言ってもあまり良くなく、上位90パーセント以内という成績で卒業しました(笑)。どうも、法律関係の仕事はしたことがありません。やらせてもらえなかったというべきかも(笑)。

しかしながら今日は、良くないことだとは思いつつ、妻の忠告にも反しながらこの法律のスキルを再び引っ張り出すことにしました。今日はストーリーは語りません。主張を立証します。合理的で、証拠に基づいた、法廷におけるような論証でビジネスのやり方を再考してみたいと思います。

陪審員の皆さん、こちらをご覧ください。これは「ロウソクの問題」と呼ばれるものです。ご存じの方もいるかもしれません。1945年に、カール・ドゥンカーという心理学者がこの実験を考案し、様々な行動科学の実験で用いました。ご説明しましょう。私が実験者だとします。私はあなた方を部屋に入れて、ロウソクと画鋲とマッチを渡します。そしてこう言います。「テーブルに蝋がたれないように、ロウソクを壁に取り付けてください」。あなたならどうしますか?

多くの人は、画鋲でロウソクを壁に留めようとします。でも、うまくいきません。あそこで手真似をしている人がいましたが、マッチの火でロウソクを溶かして、壁にくっつけるというアイデアを思いつく人もいます。いいアイデアですが、うまくいきません。5分か10分すると、たいていの人は解決法を見つけます。このようにすればいいのです。鍵になるのは「機能的固着」を乗り越えるということです。最初あの箱を見て、単なる画鋲の入れ物だと思います。しかしそれは別な使い方をすることもでき、ロウソクの台になるのです。これがロウソクの問題です。

次に、サム・グラックスバーグという科学者が、このロウソクの問題を使って行った実験をご紹介します。彼は、現在プリンストン大学にいます。この実験でインセンティブの力がわかります。彼は参加者を集めてこう言いました。「この問題をどれくらい早く解けるか時計で計ります」。そして1つのグループには、この種の問題を解くのに一般にどれくらい時間がかかるのか、平均時間を知りたいのだと言います。

もう1つのグループには、報酬を提示します。「上位25パーセントの人には5ドルお渡しします。1番になった人は20ドルです」。これは何年も前の話なので、物価上昇を考慮に入れれば、数分の作業でもらえる金額としては悪くありません。十分なモチベーションになります。

このグループは、どれくらい早く問題を解けたのでしょう? 答えは、平均で――3分半、余計に時間がかかりました。3分半長くかかったのです。そんなのおかしいですよね? 私はアメリカ人です。自由市場を信じています。そんな風になるわけがありません(笑)。人々により良く働いてもらおうと思ったら、報酬を出せばいい。ボーナスにコミッション、あるいは何であれ――インセンティブを与えるのです。ビジネスの世界ではそうやっています。しかしここでは結果が違いました。思考が鋭くなり、クリエイティビティが加速されるようにとインセンティブを用意したのに、結果は反対になりました。思考は鈍く、クリエイティビティは阻害されたのです。

この実験が興味深いのは、それが例外ではないということです。この結果は何度も何度も、40年に渡って再現されてきたのです。この成功報酬的な動機付け―If Then式に「これをしたらこれが貰える」というやり方は、状況によっては機能します。しかし多くの作業ではうまくいかず、時には害にすらなります。これは社会科学における最も確固とした発見の1つです。そして最も無視されている発見でもあります。

私はこの数年というもの、動機付けの科学に注目してきました。特に外的動機付けと内的動機付けのダイナミクスについてです。大きな違いがあります。これを見ると、科学が解明したこととビジネスで行われていることに食い違いがあるのがわかります。ビジネス運営のシステム、つまりビジネスの背後にある前提や手順においては、どう人を動機付け、どう人を割り当てるかという問題は、もっぱら外的動機付け――アメとムチにたよっています。20世紀的な作業の多くでは、これは実際うまくいきます。しかし21世紀的な作業には、機械的なご褒美と罰というアプローチは機能せず、うまくいかないか、害になるのです。どういうことか説明しましょう。

グラックスバーグはこれと似た別な実験もしました。このように若干違った形で問題を提示したのです。机に蝋がたれないようにロウソクを壁に付けてください。条件は同じ。あなたたちは平均時間を計ります。あなたたちにはインセンティブを与えます。どうなったのでしょう? 今回は――インセンティブを与えられたグループの方が断然勝ちました。なぜでしょう? 箱に画鋲が入っていなかったら、問題はバカみたいに簡単になるからです(「サルでもわかる」ロウソクの問題)。(笑)

If Then式の報酬は、このような作業にはとても効果があります。単純なルールと明確な答えがある場合です。報酬というのは、視野を狭め、心を集中させるものです。報酬が機能する場合が多いのはそのためです。だから、このような狭い視野で、目の前にあるゴールをまっすぐ見ていればよい場合にはうまく機能するのです。しかし本当のロウソクの問題では、そのような見方をしているわけにはいきません。答えが目の前に転がってはいないからです。周りを見回す必要があります。報酬は視野を狭め、私たちの可能性を限定してしまうのです。

これがどうしてそんなに重要なことなのでしょうか。西ヨーロッパ、アジアの多く、北アメリカ、オーストラリアなどでは、ホワイトカラーの仕事にはこのような種類の仕事は少なく、このような種類の仕事が増えています。ルーチン的・ルール適用型・左脳的な仕事・ある種の会計・ある種の財務分析・ある種のプログラミングは簡単にアウトソースできます。簡単に自動化できます。ソフトウェアのほうが早くできます。世界中に低価格のサービス提供者がいます。だから重要になるのは、もっと右脳的でクリエイティブな、考える能力です。

ご自分の仕事を考えてみてください。あなた方が直面している問題は、あるいは私たちが――この場で議論しているような問題はこちらの種類でしょうか? 明確なルールと1つの答えがあるような? そうではないでしょう。ルールはあいまいで、答えはそもそも存在するとしての話ですが、驚くようなものであり、けっして自明ではありません。ここにいる誰もが、その人のバージョンのロウソクの問題を扱っています。そして、ロウソクの問題は、どんな種類であれ、どんな分野であれ、If Then式の報酬は――企業の多くはそうしていますが――機能しないのです。

これには頭がおかしくなりそうです。どういうことかというと、これは感情ではありません。私は法律家です。感情なんて信じません。これは哲学でもありません。私はアメリカ人です。哲学なんて信じません。(笑) これは事実なのです。私が住んでいるワシントンDCでよく使われる言い方をすると、真実の事実です。(笑) (拍手)
例を使って説明しましょう。証拠の品を提示します。私はストーリーを語っているのではありません。立証しているのです。

陪審員の皆さん、証拠を提示します。ダン・アリエリーは現代における最高の経済学者の1人です。彼は3人の仲間とともにMITの学生を対象に実験を行いました。学生たちにたくさんのゲームを与えます。クリエイティビティや、運動能力や集中力が要求されるようなゲームです。そして、成績に対する報酬を3種類用意しました。小さな報酬、中くらいの報酬、大きな報酬です。非常にいい成績なら全額、いい成績なら半分の報酬がもらえます。どうなったのでしょう?「タスクが機械的にできるものである限りは、報酬は期待通りに機能し、報酬が大きいほどパフォーマンスが良くなった。しかし認知能力が多少とも要求されるタスクになると、より大きな報酬はより低い成績をもたらした」。

それで彼らはこう考えました。「文化的なバイアスがあるのかもしれない。インドのマドゥライで試してみよう」生活水準が低いので、北アメリカではたいしたことのない報酬が、マドゥライでは大きな意味を持ちます。実験の条件は同じです。たくさんのゲームと、3レベルの報酬。どうなったのでしょう? 中くらいの報酬を提示された人たちは、小さな報酬の人たちと成績が変わりませんでした。しかし今回は、最大の報酬を提示された人たちの成績が最低になったのです。「3回の実験を通して、9つのタスクのうちの8つでより高いインセンティブがより低い成績という結果となった」。

これは、おなじみの、感覚的な社会主義者の陰謀なのでしょうか? いいえ、彼らはMITに、カーネギーメロンに、シカゴ大学の経済学者です。そしてこの研究に資金を出したのはどこでしょう? 合衆国連邦準備銀行です。これはまさにアメリカの経験なのです。

海の向こう、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)に行ってみましょう。11人のノーベル経済学賞受賞者を輩出しています。偉大な経済の頭脳がここで学んでいます。ジョージ・ソロス、フリードリヒ・ハイエク、ミック・ジャガー。(笑) 先月、ほんの先月のこと、LSEの経済学者が、企業内における成果主義を導入した工場51の事例を調べました。彼らの結論は「金銭的なインセンティブは…全体的なパフォーマンスに対し、マイナスの影響を持ちうる」ということでした。

科学が見出したことと、ビジネスで行われていることの間には、食い違いがあるのです。この潰れた経済の瓦礫の中に立って、私が心配するのは、あまりに多くの組織がその決断や人や才能に関するポリシーを、時代遅れで検証されていない前提に基づいて行っている。科学よりは神話に基づいて行っているということです。この経済の窮地から抜けだそうと思うなら、21世紀的な答えのないタスクで高いパフォーマンスを出そうと思うのなら、間違ったことをこれ以上続けるのはやめるべきです。人をより甘いアメで誘惑したり、より鋭いムチで脅すのはやめることです。まったく新しいアプローチが必要なのです。

いいニュースは、科学者たちが新しいアプローチを示してくれているということです。内的な動機付けに基づくアプローチです。重要だからやる、好きだからやる、面白いからやる、何か重要なことの一部を担っているからやる。ビジネスのための新しい運営システムは、3つの要素を軸にして回ります。自主性・成長・目的。自主性は、自分の人生の方向は自分で決めたいという欲求です。成長は、何か大切なことについて上達したいということです。目的は、私たち自身よりも大きな何かのためにやりたいという切望です。これらが、私たちのビジネスの全く新しい運営システムの要素なのです。

今日は自主性についてだけお話ししましょう。20世紀にマネジメントという考えが生まれました。マネジメントというのは自然に生じたものではありません。マネジメントは木のようなものではなく、テレビのようなものです。誰かが発明したのです。永久に機能しつづけはしないということです。マネジメントは素晴らしいです。服従を望むなら、伝統的なマネジメントの考え方はふさわしいものです。しかし、参加を望むなら、自主性のほうがうまく機能します。

自主性について、少し過激な考え方の例を示しましょう。あまり多くはありませんが、非常に面白いことが起きています。人々に、適切に、公正に、間違いなく支払い、お金の問題はそれ以上考えさせないことにします。そして、人々に大きな自主性を認めます。具体的な例でお話しします。

Atlassianという会社をご存じの方はどれくらいいますか?(誰も手を挙げない)…半分もいない感じですね。(笑) Atlassianはオーストラリアのソフトウェア会社です。彼らはすごくクールなことをやっています。1年に何回か、エンジニアたちに言うのです。「これから24時間何をやってもいい。普段の仕事の一部でさえなければ何でもいい。何でも好きなことをやれ」エンジニアたちは、この時間を使ってコードを継ぎ接ぎしたり、エレガントなハックをしたりします。そしてその日の終わりには、雑然とした全員参加の会合があって、チームメートや会社のみんなに何を作ったのか見せるのです。オーストラリアですからみんなでビールを飲みます。

彼らはこれを「FedExの日」と呼んでいます。なぜかって? それは、何かを一晩で送り届けなければならないからです。素敵ですよね。商標権は侵害しているかもしれませんが、ピッタリしています。(笑) この1日の集中的な自主活動で生まれた多数のソフトウェアの修正は、この活動なしには生まれなかったでしょう。

これがうまくいったので次のレベルへと進み、「20パーセントの時間」を始めました。Googleがやっていることで有名ですね。エンジニアは仕事時間の20パーセントを何でも好きなことに使うことができます。時間、タスク、チーム、使う技術、すべてに自主性が認められます。すごく大きな裁量です。そして、Googleでは、よく知られている通り、新製品の半分近くがこの20パーセントの時間から生まれています。Gmail、Orkut、Google Newsなどがそうです。

さらに過激な例をご紹介しましょう。「完全結果志向の職場環境」と呼ばれるものがあります。ROWE (Results Only Work Environment) 、アメリカのコンサルタントたちにより考案され、実施している会社が北アメリカに10社ばかりあります。ROWEでは、人々にはスケジュールがありません。好きなときに出社できます。特定の時間に会社にいなきゃいけないということがありません。全然行かなくてもかまいません。ただ仕事を成し遂げれば良いのです。どのようにやろうと、いつやろうと、どこでやろうとかまわないのです。そのような環境では、ミーティングはオプショナルです。

どんな結果になるのでしょう? ほとんどの場合、生産性は上がり、雇用期間は長くなり、社員満足度は上がり、離職率は下がります。自主性・成長・目的は、物事をする新しいやり方の構成要素なのです。こういう話を聞いて「結構だけど、夢物語だね」と言う人もいることでしょう。違います。証拠があるのです。

1990年代半ば、Microsoftは「Encarta」という百科事典を作り始めました。適切なインセンティブを設定しました。何千というプロにお金を払って記事を書いてもらいました。たっぷり報酬をもらっているマネージャが全体を監督し、予算と納期の中で出来上がるようにしました。何年か後に、別な百科事典が開始されました。別なモデルを採っていました。楽しみでやる1セント、1ユーロ、1円たりとも支払われません。みんな好きだからやるのです。

ほんの10年前に経済学者のところへ行ってこう聞いたとします。「ねえ 百科事典を作る2つのモデルを考えたんだけど、対決したらどっちが勝つと思います?」10年前、この地球上のまともな経済学者でWikipediaのモデルが勝つという人は1人もいなかったでしょう。

これは、2つのアプローチの大きな対決なのです。モチベーションにおけるアリvsフレージャー戦です。伝説のマニラ決戦です。内的な動機付けvs外的な動機付け、自主性・成長・目的vsアメとムチ。そしてどちらが勝つのでしょう? 内的な動機付け…自主性・成長・目的がノックアウト勝利します。まとめましょう。

科学が解明したことと、ビジネスで行われていることの間には食い違いがあります。科学が解明したのは、
1. 20世紀的な報酬――ビジネスで当然のものだとみんなが思っている動機付けは、機能はするが驚くほど狭い範囲の状況にしか合いません
2. If Then式の報酬は、時にクリエイティビティを損なってしまいます
3. 高いパフォーマンスの秘訣は、報酬と罰ではなく見えない内的な意欲にあります。自分自身のためにやるという意欲、それが重要なことだからやるという意欲

大事なのは――私たちがこのことを知っているということです。科学はそれを確認しただけです。科学知識とビジネスの慣行の間のこのミスマッチを正せば、21世紀的な動機付けの考え方を採用すれば、怠惰で危険でイデオロギー的なアメとムチを脱却すれば、私たちは会社を強くし、多くのロウソクの問題を解き、そしておそらくは世界を変えることができるのです。これにて立証を終わります。(拍手)

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このプレゼンテーションについて:

キャリアアナリストであるダニエル・ピンクが、社会科学者が知っていて多くのマネージャが知らない「伝統的な報奨は我々が考えているほど有効ではない」という事実を手始めに、やる気の謎を調べます。
啓発される話に耳を傾け、そして前に進むことにしましょう。

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