コラム・連載

~内藤証券アナリストが書く~中国よもやま話

新疆ウイグル自治区は東西交易の要衝~現代も続く「西域経営」

2024.03.05|text by 千原 靖弘(内藤証券投資調査部 情報統括次長)

このページをシェアする:

新疆ウイグル自治区は広大であり、その面積は日本の約4.4倍。中国全体の約6分の1を占め、周辺8カ国と国境を接している。

その地形は非常に複雑。「三山挟両盆」(三つの山脈が二つの盆地を挟む)と形容される。

自治区内を東西に走る三つの山脈は、北から順番にアルタイ山脈、天山山脈、崑崙山脈。

それらの最高峰は、平均海抜が最も低いアルタイ山脈でも4500メートルもあり、天山山脈と崑崙山脈では7000メートルを超える。

二つの盆地とは、アルタイ山脈と天山山脈に挟まれたジュンガル盆地と天山山脈と崑崙山脈に挟まれたタリム盆地を指す。

ジュンガル盆地はステップ草原や半砂漠地帯が広がる。タリム盆地は大部分がタクラマカン砂漠。山脈と砂漠の境界線に沿って、シルクロードのオアシス都市が点在する。

新疆ウイグル自治区は古代に「西域」と呼ばれた地域。ユーラシア大陸の交易路として栄えた古代のシルクロードは、この複雑な地形の間隙を縫って東西に走る。

中国の歴代王朝は、現代の甘粛省に相当する「河西回廊」と呼ばれた狭い平地を通じ、安全保障や通商活動のため、西域に影響力を及ぼした。こうした「西域経営」を中国の歴代王朝は国家戦略として脈々と受け継いだ。

河西回廊の西端に位置する敦煌で、シルクロードは3つのルートに分岐する。最北の「天山北路」は、北西のトルファンを経由し、区都のウルムチに至るルートだ。さらに天山山脈の北麓に沿ってジュンガル盆地を西に進めば、シルクロードの要衝であるウズベキスタンのサマルカンドに到着する。

新疆ウイグル自治区の阿拉山口駅
カザフスタンとの国境に位置
旧ソ連地域と中国でレール幅が異なるため、
中欧班列の貨物は、ここで積み替えられる。
浙江省義烏の貨物をスペインへ輸送可能
空路より遅いが安い、海路より高いが早い。
この天山北路は現代でも重要であり、中国と欧州を結ぶ鉄道「中欧班列」(トランス・ユーラシア・ロジスティクス)は、このルートを通る。現代ではサマルカンドを目指さず、カザフスタン経由でロシアに向かう。

タクラマカン砂漠の北辺と天山山脈の南麓の間を通るルートは、「天山南路」「漠北路」「西域北道」などと呼ばれる。一方、タクラマカン砂漠の南辺と崑崙山脈の北麓を通るルートは、「西域南路」「漠南路」などと呼ばれる。どちらのルートも、現代では鉄道が敷設されており、シルクロードは健在だ。

パキスタンのグワダル港
07年にシンガポールが開発・経営権を取得
15年に中国が43年間の租借権を獲得
これら2つのルートは、タクラマカン砂漠の西端に位置するカシュガルで合流する。要衝のカシュガルからは、5カ所の国境検問所を通じ、8カ国に向かうことが可能。その地理的優位性は「五口通八国」と形容される。

ただし、西の中央アジア諸国を目指すには、平均標高5000メートルのパミール高原を越えなければならない。また、南のパキスタンやインドに向かうなら、7000メートル級のカラコルム山脈を走破する必要がある。

カシュガル周辺には、隣国に通じる道路が整備されている。このうち中国が特に力を入れているのが、「中国パキスタン経済回廊」(CPEC)の建設。カシュガルからパキスタンを縦断し、中国が租借するアラビア海のグワダル港に向かうルートだ。これは中国が推進する「一帯一路」の中核事業。現代の中国も、歴代王朝の「西域経営」を継承している。

 

~内藤証券アナリストが書く~中国よもやま話
次回は3/20公開予定です。お楽しみに!

バックナンバー
  1. ~内藤証券アナリストが書く~
    中国よもやま話
  2. 29. 21世紀版のグレート・ゲーム~ウイグルをめぐる情報戦NEW!
  3. 28. 現代の屯田兵~新疆生産建設兵団
  4. 27. 新疆ウイグル自治区は東西交易の要衝~現代も続く「西域経営」
  5. 26. 東トルキスタン独立運動と西側諸国の連帯~ウイグル人が歩んだ歴史
  6. 25. 中国の街で目立つウイグル人~民族移動と人種的変容
  7. 24. チベット発展の秘策とは?~天国に最も近いタックス・ヘイブン
  8. 23. 神秘な世界の複雑な裏側~チベットの“化身ラマ制度”
  9. 22. 人を拒む神秘の地~異質で過酷なチベットの環境
  10. 21. 情報の真偽をめぐる混乱と論争~昔も今も中国は“遠い国”
  11. 20. 隋王朝に始まる中国経済の挑戦~言葉に映る南北の相違と一体化
  12. 19. 黄河文明と長江文明の融合と摩擦~中国の南北対立
  13. 18. 中国南北相違の原点~東アジアで異色な中国北部の小麦食
  14. 17. 漢字は同じでも、ひと味違う~複雑に絡み合う“麺料理”の概念
  15. 16. 現代中国の“漢服ルネサンス”~漢民族の服飾文化の探求
  16. 15. “人民服”の歴史的変遷~国民服から最高指導者の正装へ
  17. 14. 元々同じ圓が結ぶ奇妙な縁~東アジア一円の通貨
  18. 13. 誰もが彼らを無視できない~香港の摩天楼に潜む陰の実力者
  19. 12. 中国の人々を鼓舞する名曲~中国国歌の「義勇軍進行曲」
  20. 11. 伝統的バイオテクノロジーの傑作~茅台酒が高価な理由
  21. 10. 世界に目を向けよう~国際分散投資の魅力
  22. 09. なんでも漢字で表記~奥深い中国語名の世界
  23. 08. 自由を追い求める姿~中国の投資家たち
  24. 07. “口にすべし、楽しむべし”~中国的可楽世界
  25. 06. “いままで”と“これから”~EV投資をめぐる視点の違い
  26. 05. 株式市場を育てる順序~ミャンマーと中国の違い
  27. 04. 対中情報戦の犠牲者~王立強事件の空騒ぎ
  28. 03. 全国展開可能な中華料理~アメリカザリガニの恵み
  29. 02. 強烈すぎるこだわり~中華的な数の世界
  30. 01. イメージの先に在るもの~中国株投資の魅力

筆者プロフィール

千原 靖弘 近影千原 靖弘(ちはら やすひろ)

内藤証券投資調査部 情報統括次長

1971年福岡県出身。東海大学大学院で中国戦国時代の秦の法律を研究し、1997年に修士号を取得。同年に中国政府奨学金を得て、上海の復旦大学に2年間留学。帰国後はアジア情報の配信会社で、半導体産業を中心とした台湾ニュースの執筆・編集を担当。その後、広東省広州に駐在。2002年から中国株情報の配信会社で執筆・編集を担当。2004年から内藤証券株式会社の中国部に在籍し、情報配信、投資家セミナーなどを担当。十数年にわたり中国の経済、金融市場、上場企業をウォッチし、それらの詳細な情報に加え、現地事情や社会・文化にも詳しい。


バックナンバー
  1. ~内藤証券アナリストが書く~
    中国よもやま話
  2. 29. 21世紀版のグレート・ゲーム~ウイグルをめぐる情報戦NEW!
  3. 28. 現代の屯田兵~新疆生産建設兵団
  4. 27. 新疆ウイグル自治区は東西交易の要衝~現代も続く「西域経営」
  5. 26. 東トルキスタン独立運動と西側諸国の連帯~ウイグル人が歩んだ歴史
  6. 25. 中国の街で目立つウイグル人~民族移動と人種的変容
  7. 24. チベット発展の秘策とは?~天国に最も近いタックス・ヘイブン
  8. 23. 神秘な世界の複雑な裏側~チベットの“化身ラマ制度”
  9. 22. 人を拒む神秘の地~異質で過酷なチベットの環境
  10. 21. 情報の真偽をめぐる混乱と論争~昔も今も中国は“遠い国”
  11. 20. 隋王朝に始まる中国経済の挑戦~言葉に映る南北の相違と一体化
  12. 19. 黄河文明と長江文明の融合と摩擦~中国の南北対立
  13. 18. 中国南北相違の原点~東アジアで異色な中国北部の小麦食
  14. 17. 漢字は同じでも、ひと味違う~複雑に絡み合う“麺料理”の概念
  15. 16. 現代中国の“漢服ルネサンス”~漢民族の服飾文化の探求
  16. 15. “人民服”の歴史的変遷~国民服から最高指導者の正装へ
  17. 14. 元々同じ圓が結ぶ奇妙な縁~東アジア一円の通貨
  18. 13. 誰もが彼らを無視できない~香港の摩天楼に潜む陰の実力者
  19. 12. 中国の人々を鼓舞する名曲~中国国歌の「義勇軍進行曲」
  20. 11. 伝統的バイオテクノロジーの傑作~茅台酒が高価な理由
  21. 10. 世界に目を向けよう~国際分散投資の魅力
  22. 09. なんでも漢字で表記~奥深い中国語名の世界
  23. 08. 自由を追い求める姿~中国の投資家たち
  24. 07. “口にすべし、楽しむべし”~中国的可楽世界
  25. 06. “いままで”と“これから”~EV投資をめぐる視点の違い
  26. 05. 株式市場を育てる順序~ミャンマーと中国の違い
  27. 04. 対中情報戦の犠牲者~王立強事件の空騒ぎ
  28. 03. 全国展開可能な中華料理~アメリカザリガニの恵み
  29. 02. 強烈すぎるこだわり~中華的な数の世界
  30. 01. イメージの先に在るもの~中国株投資の魅力