コラム・連載

~内藤証券アナリストが書く~中国よもやま話

東トルキスタン独立運動と西側諸国の連帯~ウイグル人が歩んだ歴史

2024.2.20|text by 千原 靖弘(内藤証券投資調査部 情報統括次長)

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唐王朝第十代皇帝の粛宗
安史の乱で回鶻(ウイグル)に援兵を要請
これを機に回鶻はジュンガル盆地に進出
現在は主に中国西部の新疆ウイグル自治区に定住するウイグル人だが、9世紀まではモンゴル高原に帝国を築いたテュルク系の遊牧民族であり、人種はモンゴロイドだった。

755年に中国の唐王朝で「安史の乱」が勃発すると、ウイグル帝国は現在の新疆ウイグル自治区に属するジュンガル盆地やタリム盆地に進出。ウイグル帝国が内乱で崩壊すると、ウイグル人はモンゴル高原を去り、タリム盆地や現在の甘粛省などに王国を築いた。これにより、ウイグル人の定住民化が進んだ。

ウイグル人の新天地には、印欧諸語の言語を話すコーカソイド人種のトハラ人やソグド人が住んでいた。彼らと混血した結果、ウイグル人のコーカソイド化が進んだ。ウイグル人の独特な容貌は、こうして生まれた。

サトゥク・ボグラ・ハンの墓
新疆ウイグル自治区アルトゥシュ市
サトゥクはカラハン朝の君主
イスラム教に改宗した最初のハン(王)
テュルク系民族のムスリム化を促した。
さらに、中央アジアで9世紀にテュルク系の遊牧民が、イスラム教を信奉するカラハン王朝を建国し、ウイグル人の諸王国へ侵攻。これを機に、もともとマニ教などを信奉していたウイグル人がムスリム化した。

清王朝がジュンガル帝国を平定する様子を描いた銅版画
清王朝第六代皇帝の乾隆帝が、宣教師に作成を命令
イエズス会のカスティリオーネなどによってフランスで作成
13年の歳月を経て1777年に完成した。
その後のウイグル人は、契丹族やモンゴル族などの支配を受ける。17~18世紀には“最後の遊牧帝国”と呼ばれるモンゴル系のジュンガル帝国に支配される。ジュンガル帝国は18世紀半ばに中国の清王朝によって滅亡。ウイグル人が暮らす土地は、新しい領土という意味の「新疆」と呼ばれるようになった。

ユースフ・アクチュラ
(1876~1935)
ロシア帝国のタタール人
汎テュルク主義を提唱
ウイグル人は長期にわたり自らの国家を持たず、その民族意識も19世紀には希薄となっていた。こうしたなか、ユーラシア大陸に広がるテュルク系諸民族の統合を目指す「汎テュルク主義」が台頭すると、ウイグル人の知識層で民族意識が覚醒した。

テュルク系諸民族の分布
シベリアの極北からユーラシア全体に広がる。
ウイグル人もテュルク系諸民族の一派
テュルク系諸民族は言語の共通点も多い。
1912年に清王朝が滅亡し、中華民国が誕生すると、新疆ではウイグル人の独立機運が高揚。一部のウイグル人は1933年に新疆西部で東トルキスタン・イスラム共和国を建国したが、翌年に軍閥の侵攻を受けて瓦解した。

東トルキスタン・イスラム共和国の建国式典
(1933年11月12日)
カシュガル市の会場には1万人以上が集まった。
しかし、独立運動の火は消えず、1944年にはソビエト連邦(ソ連)の支援を受けた東トルキスタン共和国が、新疆北西部に誕生。だが、ソ連と中華民国の交渉により、この新国家も1946年に崩壊した。1949年に中華人民共和国が建国されると、中国人民解放軍は中国国民党が残存する新疆に侵攻。新疆全域が中華人民共和国の統治下に入り、1955年に新疆ウイグル自治区が発足した。

43人が死亡、94人が負傷した自爆テロ
新疆ウイグル自治区ウルムチ市
2014年5月22日
東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)の犯行
米国は2002年にETIMをテロ組織に指定
だが、米中対立を背景に、2020年に指定を解除
新疆ウイグル自治区では民族主義や独立運動などを背景としたテロ事件や騒乱がたびたび発生。海外では亡命ウイグル人の組織が、東トルキスタン独立運動を継続している。

東トルキスタン共和国亡命政府の創設式典
2004年9月14日
米国ワシントン
海外の亡命ウイグル人の組織は分散していたが、2004年4月にドイツのミュンヘンでウイグル人の民族自決を標榜する「世界ウイグル会議」が発足。同年9月には米国ワシントンに「東トルキスタン共和国亡命政府」が誕生し、独立運動を強化している。

世界ウイグル会議(WUC)のラビア・カーディル議長
G20大阪サミットでの抗議活動に参加した時の様子
(2019年6月)
これら組織の政治宣伝を大義名分に、人権重視の西側諸国は中国を制裁。だが、その影響を受けるは、故郷で働く大多数のウイグル人だ。彼らの人権を守るという制裁が、彼らの生活を奪うことになって欲しくない。

 

~内藤証券アナリストが書く~中国よもやま話
次回は3/5公開予定です。お楽しみに!

バックナンバー
  1. ~内藤証券アナリストが書く~
    中国よもやま話
  2. 29. 21世紀版のグレート・ゲーム~ウイグルをめぐる情報戦NEW!
  3. 28. 現代の屯田兵~新疆生産建設兵団
  4. 27. 新疆ウイグル自治区は東西交易の要衝~現代も続く「西域経営」
  5. 26. 東トルキスタン独立運動と西側諸国の連帯~ウイグル人が歩んだ歴史
  6. 25. 中国の街で目立つウイグル人~民族移動と人種的変容
  7. 24. チベット発展の秘策とは?~天国に最も近いタックス・ヘイブン
  8. 23. 神秘な世界の複雑な裏側~チベットの“化身ラマ制度”
  9. 22. 人を拒む神秘の地~異質で過酷なチベットの環境
  10. 21. 情報の真偽をめぐる混乱と論争~昔も今も中国は“遠い国”
  11. 20. 隋王朝に始まる中国経済の挑戦~言葉に映る南北の相違と一体化
  12. 19. 黄河文明と長江文明の融合と摩擦~中国の南北対立
  13. 18. 中国南北相違の原点~東アジアで異色な中国北部の小麦食
  14. 17. 漢字は同じでも、ひと味違う~複雑に絡み合う“麺料理”の概念
  15. 16. 現代中国の“漢服ルネサンス”~漢民族の服飾文化の探求
  16. 15. “人民服”の歴史的変遷~国民服から最高指導者の正装へ
  17. 14. 元々同じ圓が結ぶ奇妙な縁~東アジア一円の通貨
  18. 13. 誰もが彼らを無視できない~香港の摩天楼に潜む陰の実力者
  19. 12. 中国の人々を鼓舞する名曲~中国国歌の「義勇軍進行曲」
  20. 11. 伝統的バイオテクノロジーの傑作~茅台酒が高価な理由
  21. 10. 世界に目を向けよう~国際分散投資の魅力
  22. 09. なんでも漢字で表記~奥深い中国語名の世界
  23. 08. 自由を追い求める姿~中国の投資家たち
  24. 07. “口にすべし、楽しむべし”~中国的可楽世界
  25. 06. “いままで”と“これから”~EV投資をめぐる視点の違い
  26. 05. 株式市場を育てる順序~ミャンマーと中国の違い
  27. 04. 対中情報戦の犠牲者~王立強事件の空騒ぎ
  28. 03. 全国展開可能な中華料理~アメリカザリガニの恵み
  29. 02. 強烈すぎるこだわり~中華的な数の世界
  30. 01. イメージの先に在るもの~中国株投資の魅力

筆者プロフィール

千原 靖弘 近影千原 靖弘(ちはら やすひろ)

内藤証券投資調査部 情報統括次長

1971年福岡県出身。東海大学大学院で中国戦国時代の秦の法律を研究し、1997年に修士号を取得。同年に中国政府奨学金を得て、上海の復旦大学に2年間留学。帰国後はアジア情報の配信会社で、半導体産業を中心とした台湾ニュースの執筆・編集を担当。その後、広東省広州に駐在。2002年から中国株情報の配信会社で執筆・編集を担当。2004年から内藤証券株式会社の中国部に在籍し、情報配信、投資家セミナーなどを担当。十数年にわたり中国の経済、金融市場、上場企業をウォッチし、それらの詳細な情報に加え、現地事情や社会・文化にも詳しい。


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  1. ~内藤証券アナリストが書く~
    中国よもやま話
  2. 29. 21世紀版のグレート・ゲーム~ウイグルをめぐる情報戦NEW!
  3. 28. 現代の屯田兵~新疆生産建設兵団
  4. 27. 新疆ウイグル自治区は東西交易の要衝~現代も続く「西域経営」
  5. 26. 東トルキスタン独立運動と西側諸国の連帯~ウイグル人が歩んだ歴史
  6. 25. 中国の街で目立つウイグル人~民族移動と人種的変容
  7. 24. チベット発展の秘策とは?~天国に最も近いタックス・ヘイブン
  8. 23. 神秘な世界の複雑な裏側~チベットの“化身ラマ制度”
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  13. 18. 中国南北相違の原点~東アジアで異色な中国北部の小麦食
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