コラム・連載

~内藤証券アナリストが書く~中国よもやま話

黄河文明と長江文明の融合と摩擦~中国の南北対立

2023.11.5|text by 千原 靖弘(内藤証券投資調査部 情報統括次長)

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【注意】上記は中国での一般的なイメージだが、
あくまでも偏見にすぎない
主食が違うと、文化も異なる。中国は北緯33度付近の秦嶺山脈と淮河を東西に結ぶ「秦嶺・淮河線」を境に、小麦食の北部と米食の南部に分かれる。中国の主要民族である漢民族も、この線を境に「北方人」と「南方人」に大別され、明瞭な差異が存在する。

北方人と南方人は、主食が異なるだけではなく、その違いは多岐にわたる。中国の標準語である「普通話」を話しても、響きが異なるので、すぐに違いが分かる。北方人はR音のような巻き舌音を多用するが、南方人は基本的にそれをしない。そこから、普通話も“北方話”と“南方話”に大別される。

そのほかのステレオタイプな違いを挙げると、体格は北方人が大柄で、南方人は小柄。性格は北方人が豪快で外交的、南方人は繊細で内向的などのイメージが広まっている。

こうした中国と漢民族の“南北対立”は歴史が長い。黄河の氾濫原で紀元前7000年ごろから畑作農業が始まり、黄河文明が勃興すると、北部が中国の中心地として繁栄した。一方、南部では紀元前6000年ごろから長江流域で水稲栽培が普及し、長江文明が興った。

北部では各地に都市国家が誕生し、それらの興亡を経て、領域国家に発展。衣冠の整った官僚機構も発達した。

浙江省博物館所蔵の越人像
文献の記録通り断髪文身の姿
一方、南部は「四面楚歌」で知られる楚人、「呉越同舟」で有名な呉人や越人など異民族の世界であり、黄河文明から蛮人とされた。

例えば、紀元前9世紀に楚人の首領となった熊渠は、「我は蛮夷なり」と開き直った。

諸子百家の一人である楚人の許子は、儒家の孟子に「南蛮鴃舌之人」(モズの鳴き声のような言葉を話す南の野蛮人)と罵倒された。

また、呉人や越人の習俗は、髪を結わずに身体に刺青を入れる“断髪文身”であり、衣冠を整えた北部とは異質だった。

南部の楚人、呉人、越人も、春秋戦国時代の動乱に加わり、中国の覇権を争った。紀元前221年に秦の始皇帝が中国を統一すると、南部の開拓が本格化するが、文明の中心地は長きにわたり北部だった。

「永嘉の乱」で起きた「衣冠南渡」
黄河文明の中心である中原の人々が南部に移動
長江文明の人々と融合し、南部の開拓が本格化
大きな転機となったのは、晋王朝の西暦311年に始まった「永嘉の乱」。騎馬遊牧民族の匈奴が反乱を起こし、朝廷が南部に逃亡。衣冠を整えた文明の民が、長江を越えて、野蛮な南部に移ったことから、この出来事を「衣冠南渡」という。こうして漢民族が南部にも大きな勢力を持つようになり、中国は五胡十六国時代、南北朝時代の分裂期を迎える。

中国は西暦589年に北部の隋王朝によって統一された。だが、唐王朝が崩壊すると、中国は再び「秦嶺・淮河線」の付近で南北に分かれ、五代十国の分裂期を迎える。この線は統一王朝を分断する“急所”でもあった。

中国はモンゴル人の元王朝に再統一されたが、漢民族を北部の「漢人」と南部の「南人」に分け、身分に差を設けたという。

左は北方人がイメージする南方人
右は南方人がイメージする北方人
これはもちろん偏見
どちらも偏見を裏切る個性的な人が多い
明王朝や清王朝の時代には、中国社会や漢民族の一体化も再開したが、北方人と南方人の違いは、今日でも意識される。その背景には、黄河文明と長江文明の融合と摩擦という地殻変動のように壮大で悠久な歴史がある。

 

~内藤証券アナリストが書く~中国よもやま話
次回は11/20公開予定です。お楽しみに!

バックナンバー
  1. ~内藤証券アナリストが書く~
    中国よもやま話
  2. 35. “割当品から商品へ”~中国本土の住宅市場勃興 NEW!
  3. 34. “所有権はないが、不便もない”~中国本土の土地制度
  4. 33. 労働力需要で犯罪組織が誕生~明治日本と改革開放中国の共通点
  5. 32. 香港裏社会に暗躍する三合会~返還後の表社会にも及ぶ影響力
  6. 31. 香港犯罪組織の系譜~数百年に及ぶ「洪門」の伝統
  7. 30. なぜ犯罪組織が人気?~中国起源の任侠道が果たした社会的役割
  8. 29. 21世紀版のグレート・ゲーム~ウイグルをめぐる情報戦
  9. 28. 現代の屯田兵~新疆生産建設兵団
  10. 27. 新疆ウイグル自治区は東西交易の要衝~現代も続く「西域経営」
  11. 26. 東トルキスタン独立運動と西側諸国の連帯~ウイグル人が歩んだ歴史
  12. 25. 中国の街で目立つウイグル人~民族移動と人種的変容
  13. 24. チベット発展の秘策とは?~天国に最も近いタックス・ヘイブン
  14. 23. 神秘な世界の複雑な裏側~チベットの“化身ラマ制度”
  15. 22. 人を拒む神秘の地~異質で過酷なチベットの環境
  16. 21. 情報の真偽をめぐる混乱と論争~昔も今も中国は“遠い国”
  17. 20. 隋王朝に始まる中国経済の挑戦~言葉に映る南北の相違と一体化
  18. 19. 黄河文明と長江文明の融合と摩擦~中国の南北対立
  19. 18. 中国南北相違の原点~東アジアで異色な中国北部の小麦食
  20. 17. 漢字は同じでも、ひと味違う~複雑に絡み合う“麺料理”の概念
  21. 16. 現代中国の“漢服ルネサンス”~漢民族の服飾文化の探求
  22. 15. “人民服”の歴史的変遷~国民服から最高指導者の正装へ
  23. 14. 元々同じ圓が結ぶ奇妙な縁~東アジア一円の通貨
  24. 13. 誰もが彼らを無視できない~香港の摩天楼に潜む陰の実力者
  25. 12. 中国の人々を鼓舞する名曲~中国国歌の「義勇軍進行曲」
  26. 11. 伝統的バイオテクノロジーの傑作~茅台酒が高価な理由
  27. 10. 世界に目を向けよう~国際分散投資の魅力
  28. 09. なんでも漢字で表記~奥深い中国語名の世界
  29. 08. 自由を追い求める姿~中国の投資家たち
  30. 07. “口にすべし、楽しむべし”~中国的可楽世界
  31. 06. “いままで”と“これから”~EV投資をめぐる視点の違い
  32. 05. 株式市場を育てる順序~ミャンマーと中国の違い
  33. 04. 対中情報戦の犠牲者~王立強事件の空騒ぎ
  34. 03. 全国展開可能な中華料理~アメリカザリガニの恵み
  35. 02. 強烈すぎるこだわり~中華的な数の世界
  36. 01. イメージの先に在るもの~中国株投資の魅力

筆者プロフィール

千原 靖弘 近影千原 靖弘(ちはら やすひろ)

内藤証券投資調査部 情報統括次長

1971年福岡県出身。東海大学大学院で中国戦国時代の秦の法律を研究し、1997年に修士号を取得。同年に中国政府奨学金を得て、上海の復旦大学に2年間留学。帰国後はアジア情報の配信会社で、半導体産業を中心とした台湾ニュースの執筆・編集を担当。その後、広東省広州に駐在。2002年から中国株情報の配信会社で執筆・編集を担当。2004年から内藤証券株式会社の中国部に在籍し、情報配信、投資家セミナーなどを担当。十数年にわたり中国の経済、金融市場、上場企業をウォッチし、それらの詳細な情報に加え、現地事情や社会・文化にも詳しい。


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  1. ~内藤証券アナリストが書く~
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  2. 35. “割当品から商品へ”~中国本土の住宅市場勃興 NEW!
  3. 34. “所有権はないが、不便もない”~中国本土の土地制度
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