コラム・連載

~内藤証券アナリストが書く~中国よもやま話

中国の人々を鼓舞する名曲~中国国歌の「義勇軍進行曲」

2023.7.20|text by 千原 靖弘(内藤証券投資調査部 情報統括次長)

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国歌斉唱する中国政府と国際五輪委員会の要人
2022年2月4日の北京冬季五輪開会式
中央は習近平・国家主席
中国の国歌は、「義勇軍進行曲」という。スポーツ競技会で中国人選手が金メダルを獲得すると、この曲が演奏される。聞き覚えのある日本人も多いだろう。

その作曲者は聶耳(じょうじ)という男性。1912年に雲南省昆明市に生まれた彼は、幼少から音楽の才に恵まれていた。

1930年に上海に移った聶耳は、音楽家として働く一方、政治活動にも積極的であり、1933年に中国共産党に入党した。

1935年5月に上海で上映された「風雲児女」は、日本軍の侵略への抵抗を呼びかける中国映画。その主題歌が、後に中国の国歌となる「義勇軍進行曲」だった。

この映画の脚本を手掛けた田漢も共産党員。彼は主題歌の作詞も担当し、作曲は聶耳が引き受けた。「義勇軍進行曲」は日本軍と戦う中国軍にも広まり、愛唱された。

聶耳
2022年2月4日の北京冬季五輪開会式
中国国歌の作曲者
聶耳は共産党員に対する弾圧から逃れるため、「風雲児女」の上映直前に、日本に渡航。だが、日本滞在中の1935年7月17日に、聶耳は神奈川県藤沢市で遊泳中に溺れ、23歳で夭折した。彼が亡くなった鵠沼海岸には、1954年に聶耳記念碑が建てられた。その縁で藤沢市と聶耳の出身地である昆明市は、1981年に友好都市提携を結んでいる。

鵠沼海岸の聶耳記念広場
毎年命日には碑前祭を開催
聶耳が作曲した国歌のメロディは、日本人も聞き覚えがあるだろうが、田漢が作った歌詞は、中国語であるため、あまり知られていない。そこで、歌詞の日本語訳を紹介する

「義勇軍進行曲」の歌詞と楽譜 <義勇軍進行曲>作詞:田漢、翻訳:筆者 立ち上がれ!奴隷になりたくない人々よ!
我らの血肉で、新たな長城を築き上げよう!
中華民族に最大の危機が迫った時、
すべての人が最後の雄叫びを迫られる。
立ち上がれ!立ち上がれ!立ち上がれ!
我ら万民の心を一つに合わせ、
敵の砲火を冒しつつ、前進!
敵の砲火を冒しつつ、前進!
前進!前進!前進進!

この歌詞の歴史的背景は、フランス国歌の「ラ・マルセイエーズ」に似ている。フランス国歌は1792年に始まった「フランス革命戦争」の際に作られた義勇兵の歌だ。

ルジェ・ド・リール大尉(中央の人物)
「ラ・マルセイエーズ」の作詞作曲者
その歌詞を見ると、「血にまみれた暴君の旗が翻った」、「(残忍な敵兵は)子や妻の喉を掻き切って殺すだろう」、「敵の汚れた血で耕地を染めよ」など、強烈なフレーズが並ぶ。

中国国歌の歌詞が“怖い”と感じる日本人もいるが、フランス国歌よりは温和だろう。

確かに、これらの国歌には、不穏な言葉が並ぶ。ただ、歴史的背景を考慮せずに、歌詞の言葉だけを見て、中国人やフランス人が好戦的と言うのは、少し浅はかと思う。

どちらの国歌も、国家存亡の危機に立ち上がる庶民の愛国心や義勇心を鼓舞する内容。それこそが、人々に愛される理由だろう。

台湾の台北市に翻る中華人民共和国の国旗「五星紅旗」
隣には中華民国の国旗「青天白日満地紅旗」
これらの国旗を掲揚したのは台湾の「中華愛国同心会」
中国共産党を支持し、「一国二制度」による統一を主張
彼らは台湾で「義勇軍進行曲」を歌う
写真は2018年1月に行われた民進党への抗議活動
田漢は文化大革命で批判を受け、1968年に獄死した。これが原因で「義勇軍進行曲」は国歌の地位を一時失うが、1982年に復活を果たした。中国の人々は愛国心が高揚すると、国歌を合唱する。今日も「義勇軍進行曲」は愛唱され、中国の人々を鼓舞し続ける。

 

~内藤証券アナリストが書く~中国よもやま話
次回は8/5公開予定です。お楽しみに!

バックナンバー
  1. ~内藤証券アナリストが書く~
    中国よもやま話
  2. 33. 労働力需要で犯罪組織が誕生~明治日本と改革開放中国の共通点 NEW!
  3. 32. 香港裏社会に暗躍する三合会~返還後の表社会にも及ぶ影響力
  4. 31. 香港犯罪組織の系譜~数百年に及ぶ「洪門」の伝統
  5. 30. なぜ犯罪組織が人気?~中国起源の任侠道が果たした社会的役割
  6. 29. 21世紀版のグレート・ゲーム~ウイグルをめぐる情報戦
  7. 28. 現代の屯田兵~新疆生産建設兵団
  8. 27. 新疆ウイグル自治区は東西交易の要衝~現代も続く「西域経営」
  9. 26. 東トルキスタン独立運動と西側諸国の連帯~ウイグル人が歩んだ歴史
  10. 25. 中国の街で目立つウイグル人~民族移動と人種的変容
  11. 24. チベット発展の秘策とは?~天国に最も近いタックス・ヘイブン
  12. 23. 神秘な世界の複雑な裏側~チベットの“化身ラマ制度”
  13. 22. 人を拒む神秘の地~異質で過酷なチベットの環境
  14. 21. 情報の真偽をめぐる混乱と論争~昔も今も中国は“遠い国”
  15. 20. 隋王朝に始まる中国経済の挑戦~言葉に映る南北の相違と一体化
  16. 19. 黄河文明と長江文明の融合と摩擦~中国の南北対立
  17. 18. 中国南北相違の原点~東アジアで異色な中国北部の小麦食
  18. 17. 漢字は同じでも、ひと味違う~複雑に絡み合う“麺料理”の概念
  19. 16. 現代中国の“漢服ルネサンス”~漢民族の服飾文化の探求
  20. 15. “人民服”の歴史的変遷~国民服から最高指導者の正装へ
  21. 14. 元々同じ圓が結ぶ奇妙な縁~東アジア一円の通貨
  22. 13. 誰もが彼らを無視できない~香港の摩天楼に潜む陰の実力者
  23. 12. 中国の人々を鼓舞する名曲~中国国歌の「義勇軍進行曲」
  24. 11. 伝統的バイオテクノロジーの傑作~茅台酒が高価な理由
  25. 10. 世界に目を向けよう~国際分散投資の魅力
  26. 09. なんでも漢字で表記~奥深い中国語名の世界
  27. 08. 自由を追い求める姿~中国の投資家たち
  28. 07. “口にすべし、楽しむべし”~中国的可楽世界
  29. 06. “いままで”と“これから”~EV投資をめぐる視点の違い
  30. 05. 株式市場を育てる順序~ミャンマーと中国の違い
  31. 04. 対中情報戦の犠牲者~王立強事件の空騒ぎ
  32. 03. 全国展開可能な中華料理~アメリカザリガニの恵み
  33. 02. 強烈すぎるこだわり~中華的な数の世界
  34. 01. イメージの先に在るもの~中国株投資の魅力

筆者プロフィール

千原 靖弘 近影千原 靖弘(ちはら やすひろ)

内藤証券投資調査部 情報統括次長

1971年福岡県出身。東海大学大学院で中国戦国時代の秦の法律を研究し、1997年に修士号を取得。同年に中国政府奨学金を得て、上海の復旦大学に2年間留学。帰国後はアジア情報の配信会社で、半導体産業を中心とした台湾ニュースの執筆・編集を担当。その後、広東省広州に駐在。2002年から中国株情報の配信会社で執筆・編集を担当。2004年から内藤証券株式会社の中国部に在籍し、情報配信、投資家セミナーなどを担当。十数年にわたり中国の経済、金融市場、上場企業をウォッチし、それらの詳細な情報に加え、現地事情や社会・文化にも詳しい。


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  1. ~内藤証券アナリストが書く~
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  2. 33. 労働力需要で犯罪組織が誕生~明治日本と改革開放中国の共通点 NEW!
  3. 32. 香港裏社会に暗躍する三合会~返還後の表社会にも及ぶ影響力
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