コラム・連載

~内藤証券アナリストが書く~中国よもやま話

イメージの先に在るもの~中国株投資の魅力

2023.2.5|text by 千原 靖弘(内藤証券投資調査部 情報統括次長)

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1493年出版「ニュルンベルク年代記」に描かれた世界
左側に怪物たちの姿が描かれている
マルコ・ポーロの『東方見聞録』は、欧州人の東洋に対する見方を変えた。

“東洋は怪物や化け物が住む世界”

当時の欧州人は、こうしたキリスト教的世界観を信じ切っていた。だが、『東方見聞録』が伝えた東洋の情報は、従来からの世界観とまるで違った。

“世界で最も豪華で裕福な大都市”

これは南宋の帝都だった臨安に関する記述。現在の浙江省杭州市のことだ。その当時の中国は、まぎれもなく欧州より豊かだった。

マルコ・ポーロが語る東洋の富と豊かさに、当時の欧州人は耳を疑い、にわかには信じなかった。キリスト教的世界観の方が、権威があったからだ。それゆえ一説によると、マルコ・ポーロはホラ吹き呼ばわりされたという。

その一方で、新大陸を発見したクリストファー・コロンブスのように、マルコ・ポーロからの情報に魅了された人々もいた。勇敢な彼らは怪物を恐れず、東洋を目指して大航海時代を切り開き、莫大な富を欧州にもたらした。

世界各地の情報が瞬時に広がる現代社会。“怪物や化け物が住む世界”は、いまも人々の心に存在する。現在の中国がまさにそれだ。

上海市浦東新区の金融街から望む夕焼け 中国の人口は14億人。それは全人類の2割を占め、19世紀後半の世界人口に匹敵する。経済規模は世界2位であり、2030年代にも米国を抜く勢い。無視できない大国だ。

しかし、この国をめぐる情報は、いまだに正確とは限らない。まるで中世欧州のように。

“中国崩壊論”がその一例だ。かれこれ十数年にわたって広まり、その信奉者はなお多い。だが、現実を見れば、中国の発展は加速し、崩壊論の方が崩れつつある。

崩壊論の“予言”と違い、いまやIT(情報技術)や5G(第五世代移動通信)などの最先端分野で、中国が世界をリード。中国は国際特許の出願件数で、2019年に米国を抜き、世界一となった。これが現実だ。

日本の家電量販店で”爆買い”する中国人旅行者 これが中国への投資の第一歩だ。それは今も昔も変わらない。中国への投資は、もちろん失敗もあろうが、成功すれば、大きな成果を得る可能性もある。

中国の強大化を恐れる人々は、その脅威を煽ることに躍起だ。“怪物や化け物が住む世界”のように、中国は恐ろしいというイメージを広めようとしている。

“イメージに翻弄されない”

これが中国への投資の第一歩だ。それは今も昔も変わらない。中国への投資は、もちろん失敗もあろうが、成功すれば、大きな成果を得る可能性もある。

一例を挙げよう。中国のIT大手テンセントは、2004年6月16日に上場した。中国崩壊論が盛んだった時期だ。その公募価格は3.7香港ドルで、上場日の終値は4.15香港ドルだった。

一方、今年1月20日の終値は391.8香港ドルであり、2014年の5分割を考慮すると、上場日の終値に比べて472倍に膨らんだことになる。さらに支払われた配当金や現物配当株式を加味すると、614倍だ。

外国株投資では円相場も損益を左右する。為替変動を加味すると、テンセントの今年1月20日の終値は、上場終値に比べて556倍。さらに配当を加えると、724倍に達する。

2021年2月18日に記録したテンセントの史上最高値に比べると、今年1月20日の終値は45%安(配当権利落ち調整済み)。この約1年で株価がこれほど下落したのだが、それでも上場日の終値で買っていれば、上記のような利益を手に入れることができた。

恐いイメージを乗り越えると、こうした成功例もあったりする。それが中国株投資の魅力の一つなのかも知れない。

 

~内藤証券アナリストが書く~中国よもやま話
次回は2/20開予定です。お楽しみに!

バックナンバー
  1. ~内藤証券アナリストが書く~
    中国よもやま話
  2. 29. 21世紀版のグレート・ゲーム~ウイグルをめぐる情報戦NEW!
  3. 28. 現代の屯田兵~新疆生産建設兵団
  4. 27. 新疆ウイグル自治区は東西交易の要衝~現代も続く「西域経営」
  5. 26. 東トルキスタン独立運動と西側諸国の連帯~ウイグル人が歩んだ歴史
  6. 25. 中国の街で目立つウイグル人~民族移動と人種的変容
  7. 24. チベット発展の秘策とは?~天国に最も近いタックス・ヘイブン
  8. 23. 神秘な世界の複雑な裏側~チベットの“化身ラマ制度”
  9. 22. 人を拒む神秘の地~異質で過酷なチベットの環境
  10. 21. 情報の真偽をめぐる混乱と論争~昔も今も中国は“遠い国”
  11. 20. 隋王朝に始まる中国経済の挑戦~言葉に映る南北の相違と一体化
  12. 19. 黄河文明と長江文明の融合と摩擦~中国の南北対立
  13. 18. 中国南北相違の原点~東アジアで異色な中国北部の小麦食
  14. 17. 漢字は同じでも、ひと味違う~複雑に絡み合う“麺料理”の概念
  15. 16. 現代中国の“漢服ルネサンス”~漢民族の服飾文化の探求
  16. 15. “人民服”の歴史的変遷~国民服から最高指導者の正装へ
  17. 14. 元々同じ圓が結ぶ奇妙な縁~東アジア一円の通貨
  18. 13. 誰もが彼らを無視できない~香港の摩天楼に潜む陰の実力者
  19. 12. 中国の人々を鼓舞する名曲~中国国歌の「義勇軍進行曲」
  20. 11. 伝統的バイオテクノロジーの傑作~茅台酒が高価な理由
  21. 10. 世界に目を向けよう~国際分散投資の魅力
  22. 09. なんでも漢字で表記~奥深い中国語名の世界
  23. 08. 自由を追い求める姿~中国の投資家たち
  24. 07. “口にすべし、楽しむべし”~中国的可楽世界
  25. 06. “いままで”と“これから”~EV投資をめぐる視点の違い
  26. 05. 株式市場を育てる順序~ミャンマーと中国の違い
  27. 04. 対中情報戦の犠牲者~王立強事件の空騒ぎ
  28. 03. 全国展開可能な中華料理~アメリカザリガニの恵み
  29. 02. 強烈すぎるこだわり~中華的な数の世界
  30. 01. イメージの先に在るもの~中国株投資の魅力

筆者プロフィール

千原 靖弘 近影千原 靖弘(ちはら やすひろ)

内藤証券投資調査部 情報統括次長

1971年福岡県出身。東海大学大学院で中国戦国時代の秦の法律を研究し、1997年に修士号を取得。同年に中国政府奨学金を得て、上海の復旦大学に2年間留学。帰国後はアジア情報の配信会社で、半導体産業を中心とした台湾ニュースの執筆・編集を担当。その後、広東省広州に駐在。2002年から中国株情報の配信会社で執筆・編集を担当。2004年から内藤証券株式会社の中国部に在籍し、情報配信、投資家セミナーなどを担当。十数年にわたり中国の経済、金融市場、上場企業をウォッチし、それらの詳細な情報に加え、現地事情や社会・文化にも詳しい。


バックナンバー
  1. ~内藤証券アナリストが書く~
    中国よもやま話
  2. 29. 21世紀版のグレート・ゲーム~ウイグルをめぐる情報戦NEW!
  3. 28. 現代の屯田兵~新疆生産建設兵団
  4. 27. 新疆ウイグル自治区は東西交易の要衝~現代も続く「西域経営」
  5. 26. 東トルキスタン独立運動と西側諸国の連帯~ウイグル人が歩んだ歴史
  6. 25. 中国の街で目立つウイグル人~民族移動と人種的変容
  7. 24. チベット発展の秘策とは?~天国に最も近いタックス・ヘイブン
  8. 23. 神秘な世界の複雑な裏側~チベットの“化身ラマ制度”
  9. 22. 人を拒む神秘の地~異質で過酷なチベットの環境
  10. 21. 情報の真偽をめぐる混乱と論争~昔も今も中国は“遠い国”
  11. 20. 隋王朝に始まる中国経済の挑戦~言葉に映る南北の相違と一体化
  12. 19. 黄河文明と長江文明の融合と摩擦~中国の南北対立
  13. 18. 中国南北相違の原点~東アジアで異色な中国北部の小麦食
  14. 17. 漢字は同じでも、ひと味違う~複雑に絡み合う“麺料理”の概念
  15. 16. 現代中国の“漢服ルネサンス”~漢民族の服飾文化の探求
  16. 15. “人民服”の歴史的変遷~国民服から最高指導者の正装へ
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  21. 10. 世界に目を向けよう~国際分散投資の魅力
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  26. 05. 株式市場を育てる順序~ミャンマーと中国の違い
  27. 04. 対中情報戦の犠牲者~王立強事件の空騒ぎ
  28. 03. 全国展開可能な中華料理~アメリカザリガニの恵み
  29. 02. 強烈すぎるこだわり~中華的な数の世界
  30. 01. イメージの先に在るもの~中国株投資の魅力