非効率の重要性(13:45)
講演内容の日本語対訳テキストです。
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効率性を好まない人がいるでしょうか? 私は好きです 効率性とは 少ない投資で 多くの利益を生み出すこと 1リットルで より長距離を進み 1ワットで より明るく 1分間に より多くの単語を 効率的であることは 無から何かを生み出す次に 良いものです アルゴリズム ビッグデータ クラウドは 効率性の典型です 我々が行き着くのは 軋轢のないユートピア もしくは 監視がはびこる悪夢の どちらでしょう
わかりません 私はただ 今に興味があります そして 皆さんにお伝えしたいのは 現在を理解するのに いかに過去が役立つかということです
効率性が持つ有望性と 危険性を 最もよく示してくれるのは つつましいジャガイモです ジャガイモはアンデス地方を由来とし 古代インカからヨーロッパへ 広がりました ジャガイモは 栄養バランスに優れた 最高傑作です 有力なお友達もいました プロイセン王であった フリードリヒ2世が ジャガイモの初代愛好家です 彼はジャガイモが 健康な国民の数を増やし ひいては健康な兵士を 増やすのに有効だと考えました その健康なプロイセン兵たちに 捕らえられたのが フランス軍の薬剤師 パルマンティエでした パルマンティエは 初め 愕然としました 朝 昼 晩の捕虜への食事がすべて ジャガイモなのです でも そのうち好きになりました ジャガイモのおかげで 健康になっていると思ったのです そのため 解放されたとき 彼はジャガイモを フランスに 広めることにしました パルマンティエにも 強力なお友達がいました ベンジャミン・フランクリンです 彼は パルマンティエに ジャガイモ料理だけを出す 晩餐会を開かせました フランクリンが主賓でした フランスの国王や王妃でさえも ジャガイモを 身に着けさせられました 失礼 ジャガイモの花です
(笑)
国王は ジャガイモの花を襟につけ 王妃は髪に飾りました これは最高のPRとなりました
しかし問題がひとつありました ジャガイモはヨーロッパには 効率的すぎたのです アイルランドにとっては 奇跡の食材でした ジャガイモが普及し 人口が増えたからです しかし 危険が潜んでいました アイルランドのジャガイモは どれも同じ遺伝子をもっていました ランパーという 非常に生産性の高い品種です このランパーの問題は 南米からやってきた疫病が 一つに感染すると 全ジャガイモが壊滅することでした イギリスの搾取と非情の せいでもありますが しかし この単一栽培のために 100万人が死亡しました そして200万人は 国外に移住せざるを得なかったのです 飢饉をなくすはずの作物が 最も悲惨な飢饉を生み出したのです
今日の効率性の問題は ここまで極端ではないにしても より慢性的です 対処するはずの問題を 長引かせることすらあります 電子カルテの例を考えましょう 医師の手書きカルテの読みにくさを 解決するばかりでなく 治療のために より良いデータを提供するという 利点もあるはずでした しかし実際には 電子的な書類仕事が 増えてしまいました 医者は 文句を言っています 患者一人ひとりを診察する 時間が減ったからです 効率性への執着は 実際には非効率を生んでいます
効率性の背後には 誤検知の問題がつきものです 病院には何百もの警報機が 設置されています オオカミ少年が 何人もいるようなものです 警報ひとつひとつを 確認するので 結果 スタッフの疲労とストレスがたまり 本当に助けが必要な患者を 助けられなくなっています パターン認識にも 同様の現象が見られます スクールバスは 見る角度によっては サンドバッグにも見えます 誤認を確認するために 貴重な時間が奪われるのです 検出漏れも問題になります アルゴリズムは数多くのことを 高速で学習します しかし分かるのは 過去のことだけです 小説『白鯨』のように 初めは全く評価されなかったり あらゆる出版社に断られた 名作はたくさんあります 『ハリー・ポッター』もそうです 無駄を回避しようとすることこそ 無駄につながりかねないのです
効率性は 敵に真似られたときも 罠となります 19世紀後半のフランスの 75mm野砲が良い例です 致死兵器としては最高傑作で 4秒ごとに弾を発射できました しかし凄いのは そんなことではなく 駐退復座機を装備したことにより 撃った後 砲身が元の位置に戻り 照準を定め直す必要がないことで 砲撃の命中率は 大幅に向上しました フランスにとって 次のドイツ戦は 有利な戦いとなりそうでした しかし 予想できることですが ドイツ軍も同じようなものを 作っていました そのため第一次世界大戦は 誰もの予想を上回る 長期の塹壕戦となりました 戦争を短期で終わらせるはずの 技術によって 戦争は長期化したのです
機会を逃すことは 最大の損失でしょう 買い手と売り手を繋ぐ プラットフォーム・エコノミーは 優れた投資になり得ます ここ数週間でも 明らかです 未だに何億ドルの損失を 出し続けている会社も 新規公開株を買った投資家は 億万長者かもしれません
ですが本当に難しい発明は 物理的 化学的なものなんです よりリスクが大きいからです 物理的 化学的な発明は ハード製品ですから ソフト開発に比べて 規模を拡大するのが はるかに大変で 大損の可能性があります 電池を例にとりましょう ポータブル機器や電気自動車の リチウムイオン電池の原理には 30年の歴史があります 現在どれだけのスマホの電池が 1回の充電で丸一日 もつようになったでしょうか? ハードウェアは難しいのです 乾式複写技法の原理は 1938年 チェスター・カールソンにより 発明されましたが その特許が 1959年 Xerox 914 複写機を生み出すまで 20年かかりました ニューヨーク州ロチェスターにあった 小さくて勇敢な会社 ハロイドは 他の企業だったら諦めていたような 困難を乗り越える必要がありました 失敗の連続でした 困難を極めたのは発火の問題です Xerox 914 が遂に発売されたとき 焦げ除去器なるものを 装着していましたが 実のところ これは ミニ消火器を内蔵したものです
これらを踏まえた私の結論は 「刺激的非効率性」です データと計測は必須です でも それだけではだめです 人間のもつ直観力 人間の能力を 活用するべきです 刺激的非効率性には 7つのやり方があります 1つ目— 景観の良い道を行き 思いがけない幸運を喜ぶこと 道を間違えることが 生産的なこともあります 昔 私はミシシッピ川東岸を 探索しましたが 道を間違えてしまいました 大河にかかる有料橋が 目の前に見えました ゲートの職員に 引き返すことは できないと言われたので 50セントを払う羽目になり― 当時はこれだけでしたが たどり着いたのは アイオワ州のマスカティンです そんな町は 聞いたこともなかったものの 素晴らしい場所でした マスカティンは 世界有数の カラスガイの産地でした 100年前には 世界のボタンの3分の1が マスカティン産でした 1年に15億のボタンを生産していました もう工場は残っていませんが パールボタン博物館があります なんとも珍しいですよね ですが まだあります マスカティンにあるこの家には 未来の中国国家主席である 習近平が1986年に 農業視察団の一員として 訪れていたのです 今では米中友好の家であり 中国人観光客の巡礼地となっています こんなこと予測できたでしょうか
(笑)
2つ目— 重い腰をあげなさい 困難なやり方の方が 効率的ということもあるんです IoT技術などは良い例です 照明を調節し 室温を設定し 掃除機までかけてくれる間 自分は座ったままでいられます でも医学研究によると 自ら触って 立ち上がって 歩き回ってみるのが 心臓の健康を保つ 最善策の一つだそうです 心臓と ウエストラインもです
3つ目— 過ちから利益を得ること 事故を創造的に発展させることで 偉大なものが生まれます タッド・レスキは ニューヨーク メトロポリタン歌劇場の建築家ですが 彼のスケッチの最中 絵に白いインクがこぼれました 他の人だったら 絵をボツにしたでしょう でも彼はそこから スターバースト・シャンデリアの 着想を得たのです 20世紀において 恐らく 最も傑出した作品です
4つ目― 時には困難な方を選びなさい 手間がかかるほうが 効果的ということもあります 心理学者が 望ましい困難と呼ぶものです 誰かの話を聞くとき キーボードで詳細にメモを取ることが 後々 一字一句もらさず振り返るために 最も有効だと思えるかもしれません しかし研究によると 人が話していることを 簡潔に要約しなければならないときは 紙にペンや鉛筆でメモを取る方が 情報を処理できるそうです その方が ただ書き写すよりも 聞いたことを 自分のものにできて 学びも能動的になるんだそうです
5つ目— 多様性こそ安全性 単一栽培は命取りです ジャガイモですね 効率性に限界がありました 多様性は組織にも当てはまります 組織内のある人間が過去に成功した理由は ソフトウェアで分かります 社員を選抜するときなんかには 便利ですよね しかし覚えておいていただきたいー 環境は常に変化するのです 選抜ソフトにも さすがに 将来 誰が役に立つかはわかりません ですから アルゴリズムが導く回答に 盲目的に従うのではなく 人間の直感と 様々な背景や見解のある人材を 見つけることで それを補うのです
6つ目— 予備と人間の技術による 安全性の確保 ボーイング737 MAX は どうして2度も墜落したんでしょう 詳細は未だに謎です ですが同じ悲劇を 繰り返さない方法はわかります 複数の独立したシステムが必要なのです ひとつが失敗しても 残りでカバーできます 失敗を挽回できる 腕のいい技師も必要ですから 絶え間ないトレーニングを要します
7つ目は 理性的浪費をすること トーマス・エジソンは 映画産業だけでなく カメラ技術のパイオニアでもありました エジソンほど効率性を 追求した人はいません しかし彼の経費削減の努力は 頓挫しました マネージャーが雇った 効率エンジニアなる人間が コスト削減のために こう助言したのです 映像ストックを無駄なく活用し 撮り直しを減らしなさい と 確かにエジソンは天才でしたが 長編映画の新しいルールを理解せず 失敗こそ成功のもとに なりつつあると知りませんでした エリッヒ・フォン・シュトロハイムのような 偉大な監督たちは 正反対でした 彼らは一流の劇作家であり シュトロハイムは 印象的な俳優でもありました しかし 彼らは予算内に収められず 持続できませんでした 理性的浪費ができたのは アーヴィング・タルバーグ 秘書の経験がある 直感の天才です ユニバーサル・スタジオ社から MGM社へ移り ハリウッドのプロデューサーの 理想像になりました
まとめると 真に効率的であるためには 最適な非効率性が必要なのです 最短の道は まっすぐではなく 曲がっている方かもしれない チャールズ・ダーウィンには 分かっていました 難しい問題に直面したときは 裏庭につくった 散歩道を一周したのです 生産性への道は ダーウィンのように 実際の道かもしれないし ヴァーチャルなものかもしれないし 想定していたのとは違う 予期せぬ回り道かもしれません 過剰な効率性は 弱体化につながりますが ちょっとした刺激的な非効率性が 助けになるのです 前進する一番の近道は 往々にして 回り道をすることなのです
ありがとうございました
(拍手)
効率主義への執着は、実は私たちを非効率にしているのでしょうか。作家であり歴史家のエドワード・テナーは、何事もできるかぎり早く済ませようとする効率性が持つ有望性とその危険性について啓示的に議論し、生産性向上のために取りうる「刺激的非効率性」を実践する7つの方法を提示します。