3つのアイデア。3つの矛盾。それとも?(16:59)

ハンナ・ギャズビー(Hannah Gadsby)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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私はハンナ(Hannah)です 回文になっています 前から書いても 後ろから書いても同じ綴りです ちゃんと書けばね 面白いことに―

(笑)

うちの家族は 全員名前が回文なんです うちの伝統です 母(はは)でしょ 父(ちち)でしょ―

(笑)

バァバとジィジ

(笑)

弟はカヤック(Kayak)

(笑)

ほらね ちょっとしたジョークですけど

(笑)

ジョークから始めるのが好きなのは 私がコメディアンだからです もう私のことを 2つもご存じですね 名前はハンナ 職業はコメディアン 一刻も無駄にしてません 私について3つめの情報です 私は 自分の思いを伝える資格が ないと思っています トークの冒頭にしちゃ 大胆ですよね でも本当です 考えを言葉にするのには いつだって苦労しています ちょっとした矛盾ですよね おしゃべりが苦手な 私なんかが スタンダップ・コメディアンに なるなんて ところが ところが なっちゃったんです

初めて スタンダップ・コメエディ... ほらね ほらね ほらね

(笑)

スタンダップ・コメディに 初めて 挑戦したのは 20代後半でした 病的なまでにシャイで 文字通り無口で 自尊心が低くて マイクも握ったことがなかったのに 観客の前に立つと すぐに分かりました 最初のジョークのオチを 言う前に分かりました スタンダップがすごく好きで スタンダップに好かれていると 分かったんです でも どういうわけなのか 見当もつきませんでした こんなに苦手なことをするのが どうしてこんなに上手いのか?

(笑)

さっぱり分かりません 理解不能でしたが やがて理解しました

さて こんなに苦手なことが どうして上手いのかを 説明する前に もうひとつの矛盾も 先に投下しておきますよ この理由が分かってからすぐ コメディから 引退することにしたという話です 考え中の皆さんに出した イジワルな問題について なぞ解きをお話しする前に どうなったかお伝えします 引退したはずが コメディアンとして 人気が出たんです

(笑)

コメディを辞めた後に 本当に人気が沸騰して 地球上で一番話題の コメディアンになりました どうやら 考えを言葉にすることよりも 引退後の人生設計のほうが さらに下手なようです

さて ここまでお話しする中で ちょっとした自己紹介を除けば 今日お話ししたい 3つのアイデアを 間接的に伝えてきました 3つの矛盾を提示しましたね ひとつめは「話すのが苦手だけど 話すのが上手い」 そして「辞めたけど 辞めなかった」 3つのアイデアと3つの矛盾です 3つと言うわりに 2つしかないのはなぜかと 考えていると思いますが―

(笑)

それこそが文字通り 矛盾なんです ついてきてください

(笑)

TEDの人たちには この長さのトークなら 1つのアイデアに絞るのがいいと 言われました お断りしました

(笑)

何をもってそう言うのか

明らかに良いアドバイスですが 従わなかったわけを説明しましょう トークの冒頭に話を戻します 回文のジョークです このジョークには私が好きな コメディの法則が使われています 3の法則です ある考えを述べて リストアップしていきます 「うちの家族は 全員名前が回文なんです」 「母 父 バァバ ジィジ」 最初の2つで パターンが生まれます パターンから予測が生じて それから3つめがオチです カヤック? 何だって? これが3の法則です 1、2、サプライズ! ははは

さて― (笑)

3の法則は私のコメディの 基礎であるだけでなく 私のコミュニケーションの 基礎でもあります だから何を言われようと TEDのためだって変えはしません TED だって3つじゃないですか テクノロジー エンターテインメント デキそこない

(笑)

この法則は万能でしょ?

とはいえ プロのコメディアンとしては ジョークだけでは不十分です 魅力と弛緩の絶妙な加減が大事です 和ませキャラでもない私の性格を 補うには魅力を高める必要があり その一番効果的な方法は ジョークではなく エピソードだと分かりました ですから 私のネタは エピソードが多いんです 幼少時代の話や カミングアウトした話 女性で 体格が大きい上に マスキュリンオブセンターの男性性ゆえに 受けてきた誹謗中傷の話などです ネットで私のコメディの コメント欄を見れば どんな誹謗中傷かわかります

(笑)

ここでトークのギアを セカンドに入れて これまで述べてきたことを エピソードでお話しします

亡くなる前の数日間 祖母は人々に囲まれていました たくさんの人にです うちの祖母は 愛情深い大家族の 愛すべき女家長だったんです まだお気づきでない方のために言えば 私もその家族の一員です 幸運なことに 祖母が亡くなるその日に お別れを言うことができました でも 祖母の意識は すでに遠のきつつあったので 一方的なお別れではありました そこで 色々と考えました 長いこと考えていなかったようなことを 大学入学当初に 祖母に宛てて書いた― 手紙なんかのことを 楽しんでもらえるように ちょっと脚色を加えて 面白いエピソードを たくさん書き連ねました 自分の手には余るほど広い世界で 道を切り開こうとするときに 自分の中にあふれる 不安や恐怖については 上手く伝えられなかったことを 思い出しました でも手紙を書くことは 自分の慰めにもなりました 祖母のことを思って 書いたからです やがて 周りの世界に どんどん圧倒されて 上手く乗り切ることが できなくなっていくと 手紙を書くのをやめました 祖母が手紙で知りたいような生活を 送ってはいないと思ったからです

祖母は私がゲイであると 知りませんでした 亡くなる半年ほど前に 突然 彼氏はいるかと 祖母に聞かれました その瞬間に 祖母には カムアウトしないと はっきりと決めたのを覚えています なぜなら 祖母の命は 尽きようとしており 限られた時間の中で 自分と祖母の違いについては 話したくなかったからです 祖母とつながりを感じられる事柄を 話したいと思いました だから 話題を変えました その時は 正しい判断に思えました でも 祖母の命が 徐々に消えゆくのを 座って 目の当たりにしていると 私の人生でこれほど重要なことを 伝えなかったことが 間違いであるような気持ちになりました そして その機会を 逸してしまったのだと悟りました 祖母がよく言っていたように 「あーあ もうスープに溶けちゃったね 玉ねぎを取り出そうったって もう遅いよ」

(笑)

その言葉を思い 成長するにつれ どれほど多くの「玉ねぎ」に 向き合わねばならなかったかを考えました 私が育った州では 同性愛が違法だったからです そのことと共に 内面化された恥という蔓に この身をきつく絡め取られていたかが 分かりました 自分が抱える あらゆるトラウマについて考えました 暴力 虐待 レイプなどです そんな風に色々な思いが 交錯する中で ある考え 答えのない問いが 頭に浮かびました 私という人間は なぜ存在しているのか?

家族の中で 祖母は 一番近しい存在でした とても多くの点が共通していました 最近はそうでもありません 死んだら 人は変わるものですね でも ―

(笑)

これも祖母譲りのユーモアです 私がこの世界で 一番近しく感じた存在は 母であり 祖母であり 曾祖母であり 高祖母でもある人でした 私といえば― 家系図では 私もある枝の一番先っぽですが 幹との繋がりが残っているのかさえ 怪しいものでした 私という人間は なぜ存在しているのか?

祖母の亡くなった翌年は 人生で最高にクリエイティブな年でした 思うに その頃には 考えがあちこちに散らばらず まとまってきたからでしょう 私の思考プロセスは 直線的ではありません 視覚的に考えるので 思考が目に浮かぶのです 写真のように 正確な記憶力はありませんし 思考が頭の中の棚に 整然と並んでいるわけでもありません どちらかと言うと自分で考案した 日々進化していく象形文字の言語があって それで物事をよく理解したり 深く考えたりできるのです でも翻訳するのは至難の業です 絵を描くのも 彫刻も 手芸さえも上手くないし 文章を書くのは そこそこできますが 考えを翻訳する過程には苦しめられ 上手に表現できているとも 思えないのです 先程言ったとおり 考えを話すのも さほど上手くありません 話すのは 自分の内側にある命を 下手くそに捉えた― 静止画像のようだと 思ってきました 何が言いたいかというと これまで常に 自分が伝えられる以上に 深く理解してきたということです

祖母が亡くなる前の年 私は正式に自閉症だと 診断されました 私にとって これは 概ね良い知らせでした それまでずっと 自分が 普通の人のような生活ができないのは 鬱状態で不安神経症だからだと 思っていたんです でも 実際には 鬱状態で不安神経症だったのは 普通の人のような生活が 送れないからで 私が普通ではなかったのに それを知らなかったからです もう苦労がないと いうわけでありません 正直に言って 毎日 何かと大変です でも 少なくとも その苦労の正体を知っているし それは普通の人になろうと することではありません 嵐から逃れようと 努力するのではなく できるだけ上手く 台風の目を見つけるのです

自閉症スペクトラムの人たちが 平穏を得る方法には 反復行動や決まった手順 強迫的思考などがありますが 台風の目につながる 意表をついた扉が私にはあります スタンダップ・コメディです 私が定型発達していないという こんな証拠もあります ほとんどの人が恐れることで 私は落ち着くんです 舞台では死んだように冷静ですよ

(笑)

診断を受けたおかげで 自分では理解できなかったような 側面を考える枠組みができました はみ出し者だった自分が 急に居場所を得て しばらくの間 私は 自分の考え方に自信が生まれて うきうきしていました でも祖母が亡くなった後 その自信は影を潜めました 私は考えることによって 死を悼むからです その悲しみの中で 突然くっきりと見通せたんです これまでどれほど自分が 深く孤立していたことか 私という人間は なぜ存在しているのか?

自閉症とPTSDには共通点が 多くあると考えるようになりました そして悩み始めました 私は両方患っているからです 2つを解きほぐすことは できるのだろうか? それまでずっと トラウマを克服するには 一貫した物語が必要だと 言われてきました 一貫した物語はありましたが トラウマからは 逃れられていませんでした スープの中に溶け込んでいるのに 玉ねぎが まだ目にしみるのです その時 気付いたのは 笑わせるために 自分の話をしてきたということでした 薄暗い部分を取り除き 痛々しさを切り落とした上で 自分のトラウマに執着して 観客を喜ばせてきました 他の人々を笑いで ひとつにする一方で 私自身は深く切り離されていたのです 私という人間は なぜ存在しているのか? 答えは分からないながらも アイデアはありました 私の真実を伝えたら どうかと思いました 私のすべてを 笑わせるのではなく 私のトラウマを― 文字通り 心の底からの痛みを伝えるのです そのためにはコメディ番組が 適していると思いました

そこで 実行したのです 私はオチにこだわらない コメディを書きました コメディアンは オチの 程良い一撃で 笑わせることが 期待されるのですが 私はオチで終わらせず 突き抜けるような一撃を 視聴者の 腹にズシンと 打ち込んだのです 笑わせたかったのではありません 息をのませるような 衝撃を与えれば 視聴者は 私の話を聴いて 個人として痛みを受け止めるはずなのです 思考せず ただ笑うだけの群衆では なくなるはずです それが実現しました 『ナネット』というタイトルです さて 多くの ―

(拍手)

さて 多くの人が 『ナネット』は コメディではないと言いました 『ナネット』が コメディ番組ではないことは認めますが 皆 間違っています

(笑)

なぜなら 人々の論調は 「コメディがすべった」 というものだからです コメディがすべったのではありません 私はコメディについての知識を 総動員しました テクニックも方法も ノウハウもすべてを すべてを使った上で コメディをぶっ壊したんです コメディがすべっていたら コメディでコメディを ぶっ壊せません ピコピコハンマーじゃ駄目なのです

(笑)(拍手)

破壊が目的ではありません 単にコメディを 破壊したかったのではなく 目的は コメディを破壊して 再構築することでした 伝えたい内容をすべて 盛り込めるような より良いものに 作りかえること ― だからこそ 「コメディから引退」と 言ったんです

さて そろそろ こう思う頃ですね 「ふうん 分かった でも3つのアイデアって 結局何なの? よくわかんない」

聞かれたことにさせてください

(笑)

3つのアイデアがお分かりの人も 結構いるんじゃないでしょうか どう考えても 賢い人の集まりですから 驚くにはあたりません でも3つのアイデアなんかないと聞けば 驚くかもしれませんね 3つのアイデアがあると 言ったのは嘘です まったくのでっちあげです 私 変わり者なんです 今 やってみたのは 様々なアイデアを種として トーク全体に 種を蒔いたんです なぜ そんなことをしたかって? 笑わせるためを除けば 祖母がよく言っていた ある言葉に尽きます 「大事なのは庭じゃなくて 庭仕事だ」 それが本当だと 『ナネット』が教えてくれました コメディの決まり事を破ることや 真実と痛みをそのままに 自分の話をすることで 人生においてもアートにおいても 自らを周縁に押しやることは重々承知でした 分かった上で 真実を伝えるために 自ら犠牲を払う覚悟でした でも そうはなりませんでした 世界は私を押しやらずに 近くに引き寄せてくれたんです 自らを切り離すことで 繋がりを見いだしました そう理解するまでには 時間がかかりました その矛盾の核心は これほど苦手なことが とても得意なのはなぜかという 別の矛盾の核心でもあります

実生活では 人に話しかけるのが苦手です 脳の多様性の中で 私は 考えたり 耳を傾けたり 話したり 新しい情報を処理したりするのを 同時に行うのが 難しいタイプなのです でも舞台では 考える必要はありません 前もって 考えておくことができます 耳を傾ける必要もありません それは皆さんの役割です

(笑)

それに実は 話す必要もありません 厳密には 暗唱しているんですから そこで 残るものは 観客と真に繋がるために 努力をするということです 『ナネット』から 学んだことがあるとしたら 繋がりは私だけが 作るものではないということです 皆さんも参加するのです 『ナネット』が私の内から 生まれたものであったとしても あのキャラクターは 世界中の人々の頭の中に生きています 私ではない他者ですが 私と繋がっていると思います ですから ナネットは 私よりずっと大きい存在で 人間として存在する目的が 私たちよりずっと大きいのと同じです 好きなように解釈してください

ありがとう そして こんにちは

(拍手)

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このプレゼンテーションについて

ハンナ・ギャズビーによる大人気作品『ナネット』はコメディの常識を覆しました。真実と目的について語るこのトークで、ギャズビーの3つのアイデアと3つの矛盾について語ります。そうじゃなかった?

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