地中深くに生きる不思議な微生物が人類を救う可能性(13:59)

カレン・ロイド(Karen Lloyd)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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私達はぎっちり詰まった固い地面に 立っているようでいて 実は違います 私達の足の下の 岩や土の中には 小さな割れ目や隙間が 縦横に走っていて その隙間は膨大な量の こういう微生物によって 満たされています 最も深いところで 見つかった微生物は 5キロの深さにいました 真下に向けて 地中をかけていくとしたら 5キロ走をしている間ずっと まわりに微生物がいるのです

地面のそんな深くまで 微生物がいるとは 思わなかった かもしれませんが 腸の中に微生物が 棲んでいるのはご存じでしょう 地球上のすべての動物の 腸内細菌を集めたら その重さは 10万トンにもなります 巨大な生物群系をお腹に抱えて 私達は生きているのです 誇りにすべきでしょう

(笑)

でも地表の 土壌や河川や海洋を覆う 微生物の量に比べれば 大したものではなく その総重量は 20億トンにもなります でも実は地球上の 微生物の大部分は 海洋や腸や下水処理場に いるわけではありません ほとんどは地中にいるのです その総重量は400億トンです これは地球上でも 特に大きな生物群系ですが ほんの数十年前まで その存在は知られていませんでした その生態がどのようなもので 人間にどう役立ちうるか 限りない可能性があります

赤い点で示したのは 現代的な微生物学手法によって 地下深くのサンプルが よく得られている地点で 世界各地が 網羅されていると 感心するかもしれませんが これらの場所の サンプルしかないと考えると ちょっと寂しい感じがします 私達が宇宙船でやって来た 異星人だったとして これらのサンプルだけで 地球の地図を作ろうとするのは 無理な話でしょう

でもこんな風に言う人もいます 「地中に微生物がたくさんいても 休眠状態なんじゃないの?」 良い指摘です イチジクの木や 麻疹ウイルスや 娘のモルモットなんかに比べたら そういう微生物はあんまり 活動していないと言えるでしょう あれだけ膨大な量がいるわけですから その活動はゆっくりなはずです もし大腸菌並のスピードで 分裂を始めたとしたら 岩石も含めた地球の重さが 一夜にして 2倍になってしまいます その多くは おそらく 古代エジプト時代から 細胞分裂を一度も していないことでしょう 途方もない話です そんなに長生きなものというのは 想像もできない感じですが

いい喩えを思い付きました ちょっと奇妙で 複雑なんですが 付いて来ていただきたいです やってみましょう それは1日しか 生きられない者が 木のライフサイクルを 理解しようとするようなものです 人の寿命が1日で 冬に生きているとします すると葉を持った木を 見ることなく 生涯を過ごすことになります 一冬の間に 幾世代も移り変わり 歴史書を見ても 木は何もしない 生気のない棒きれとしか 書かれていません これは馬鹿げた見方です 木は再び活動を始める 夏を待っているのだと 私達は知っています でも人間の寿命が木の寿命より はるかに短かったとしたら この当たり前の事実に 気付かずにいるかもしれないのです

あの地下深くにいる微生物が 休眠中だと言うのは 1日で死んでしまう人間が 木を理解しようとするようなものかもしれません 地下深くにいる微生物は 夏に相当するものを 待っているのに 私達の寿命が それを見るには 短すぎるのだとしたら? 大腸菌を 食べ物も栄養もなしで 試験管の中に密封し 何ヶ月も何年も放っておくと その多くは 飢えて死にますが 一部生き残るものもいます そういう生き残ったものを また飢餓状況に置いて 新たな急成長する 大腸菌と生存競争させると 毎回 タフな年寄り連中が ピカピカの新米たちに 打ち勝ちます 極めてゆっくりであることに 進化上の利点があることを これは示しています ゆっくりだからと言って 重要でないと決めつける べきではないでしょう この目に付かず 気にもとめられない微生物が 人類の役に立つ かもしれないんです

地下生活には 私達に分かる限りで 2つのやり方があります 1つは地表の世界から降りてくる 食べ物を持つというもの 千年前に起こったピクニックの 食べ残しを食べようとするというような まったくおかしな生き方ですが 地球上の多くの微生物が そんな風に生きているようなのです もう1つの可能性は 「地上世界なんて必要ないよ ここだけでやっていける」というものです そういう道を行く微生物は 生存に必要なものをすべて 地中から得る 必要があります 中にはむしろ 得やすいものもあります 地中の方が豊かにあるもの 窒素や鉄や硫黄のような栄養分とか 水とか 生きる場所とか 地上の世界では 手に入れるために 殺し合いにもなりうるものです

地中の世界で獲得が問題になるのは エネルギーです 地上では植物が 太陽の光が 葉に当たるやいなや 二酸化炭素分子を編み合わせて おいしい糖を作り出せます でも地中に太陽光はなく 地下の生態系では 誰がみんなの食事を作るのかという問題を 解決する必要があります 地下では 岩を呼吸する植物のようなものが 必要になります さいわいに そのようなものは存在し 「化学合成無機栄養生物」と 呼ばれています

(笑)

これは「化学合成」をすることで 「無機」物の岩から 「栄養」を得る「生物」です それを様々な 元素に対し行えます 硫黄 鉄 マンガン 窒素 炭素 電子を直接 扱えるものまでいます 電気コードを切って シュノーケルみたいに 吸うようなものです

(笑)

化学合成無機栄養生物は その過程で得た エネルギーを使い 植物のように 食べ物を作るのです でも植物は食べ物を 作るだけではありません 排出物として酸素を作り 私達動物は それに依存しています 化学合成無機栄養生物が 生成する廃棄物は よく鉱物の形を取ります 錆とか 「愚者の黄金」の黄鉄鉱とか 石灰岩のような炭酸塩とか ですから 岩のようにすごく ゆっくりした微生物がいて 岩からエネルギーを得て 排出物として別の岩を 作っているわけです これは生物学の話なのか それとも地質学の話なのか? これのおかげで 話がややこしくなります

(笑)

これについて調べるんだったら 岩のように振る舞う微生物を 研究する生物学者になって 地質学から取り組み始める べきかと思います では 地質学で一番イカしてるのは 何でしょう? 火山です

(笑)

これはコスタリカにある ポアス火山の内側を撮したものです 火山の多くは 海洋プレートが大陸プレートに ぶつかることでできます 海洋プレートが 大陸プレートの下に沈み込むとき 濡れタオルを 絞ったときのように 水や二酸化炭素 その他の物質が 絞り出されます 沈み込み帯は地球深部への 入り口のようなもので 地表と地下の世界の間を 物質が行き来します

最近コスタリカの研究者から 一緒に火山の調査をしようと 招待されて もちろん応じました コスタリカは素敵なところだし 沈み込み帯の上に 位置していますから 私達には知りたいことがありました 深く埋もれた 海洋プレートからの 二酸化炭素が 出てくるのは 火山からだけで 沈み込み帯全体に 分散していないのはなぜか? 微生物はそれに何か 関わりがあるのか?

この写真は ポアス火山の中にいる 私と共同研究者の ドナト・ジョヴァネッリです 私達の脇にある湖は バッテリー液並の酸です この写真を撮ったときに pHを測ったので分かります 火口内で調査していて ふとコスタリカの研究者 カルロス・ラミレスに聞いてみました 「これが今噴火し始めたら どうすればいいのかしら?」 彼は「良い質問だね 簡単さ 振り向いて 眺めを楽しめばいい」

(笑)

「それが最後の眺めになるから」

(笑)

ちょっと大袈裟に 聞こえるかもしれませんが 私があの湖の脇にいた54日後に こんなことがありました

(聴衆から驚きの声)

びびりますよね?

(笑)

この火山では六十何年ぶりかの 大きな噴火で この映像のしばらく後に 撮影していた カメラが吹き飛び 私達がサンプルを 取っていた湖は すっかり蒸発しました ただ私達が火山の 中にいた日には こういうことが 起きないだろうことは かなり確信がありました コスタリカ火山・地震観測所 (OVSICORI) が 注意深く火山活動を 監視していて その組織の科学者も あの日は同行していたからです この火山の噴火は 海洋プレートからの二酸化炭素が 出てくるところを見たければ 火山を見ればよいことを 示しているようですが

コスタリカに行くと 火山の他にも 気持ちの良い小さな温泉が そこらじゅうにあることに 気付きます 温泉の水の一部は 深く埋もれた海洋プレートから 沸き上がってきたものです 私達の仮説では 二酸化炭素も一緒に 出てきているはずだけど 地中深くの何かが それを取り除いているんです

それで私達は2週間 コスタリカ中を車で回って 見付けた温泉すべてから サンプルを取りました すごく大変でした その後の2年間を 測定とデータ分析に費やしました 科学者でない人のために 言いますと 大きな発見というのは 素敵な温泉や舞台の上にいるときに 起きるものではありません ごちゃごちゃした コンピューター画面と睨めっこし 難しい装置に取り組み データに訳が分からなくなって スカイプで同僚に相談する中で 生まれるものです 科学的発見というのも 地中深くの微生物みたいに すごくゆっくりとしたものなんです

でも今回は それが報われました 深く埋もれた 海洋プレートから 膨大な二酸化炭素が出てきていることを 発見したんです そして その二酸化炭素が 大気に放出されるのを抑え 地中に保持しているのが 地下深いところ コスタリカのかわいい ナマケモノやオオハシたちの下にいる 化学合成無機栄養生物なんです この微生物の周囲で起きる 化学的な過程によって 二酸化炭素が 炭酸塩鉱物に変わり 地下に閉じ込められて いるのです

そこで疑問が生じます 地下で起きるその過程が 下から来る二酸化炭素の吸収に そんなに優れているなら 地表で私達が抱えている 二酸化炭素の問題も それでどうにか できないか? 人類が大気に放出する 膨大な二酸化炭素によって 今いる生物を支える 地球の力が 損なわれつつあります 二酸化炭素が 大気に放出されないよう 根源で二酸化炭素を 取り除く方法を開発しようと 科学者や技術者や 起業家が取り組んでいます 取り除いた二酸化炭素を どうにかする必要があります そのため 地中にある炭素が 保持されている場所の 研究を続ける 必要があります そこで炭素が どうなるか知るために

地下深くの微生物は 何かを保持させるには ゆっくりすぎて 問題かもしれないし あるいは微生物が二酸化炭素を 固体の鉱物に変えるのに 役立つかもしれません 私達がコスタリカでした 1つの研究から そのような大きな進歩が 起きうるのだとしたら 他にどんな発見が地下で待ち受けているか 考えてみてください

この地質・生物・化学の新分野 地下深くの生物学は それを何と呼ぶにせよ 大きな影響を もたらすことでしょう 気候変動を緩和するだけでなく 生命と地球がどう 共進化してきたかの理解や 工業や医学への応用に 役立つものの発見 地震の予知や 地球外生命の発見 生命の起原の理解にも 繋がるかもしれません

さいわい 私が1人でやる 必要はありません 世界中に素晴らしい 研究者がいて 地下深くの世界の 謎の解明に挑んでいます 地下深くに埋もれた 生物なんて 日常生活からは遠く隔たっていて 無関係だと思うかもしれませんが この奇妙で ゆっくりした生物は 地球の生命の 大いなる謎への答えを 持っているかも しれないのです

ありがとうございました

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このプレゼンテーションについて

あなたの足の下の地面は膨大な不思議な微生物の棲み家で、地下で何百年、何千年と生き続けるものもいます。いったいどんな生き方をしているのでしょう? コスタリカの火山や温泉を巡る旅に出て、微生物学者カレン・ロイドが光を当てる地下の生命と、それが地上の生き物にどれほど大きな影響をもたらしうるのかという話に耳を傾けましょう。

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