点数ではなく身に付けることを目指す教育(10:49)

サルマン・カーン( Sal Khan)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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今日 お話しするのは カーン・アカデミーを 見守ってきた中で 私が学習の要だと思う 2つのもの ― 習得について そしてマインドセットについてです

これは昔 従兄弟たちに 教えていて気付いたことですが 子供達の多くが 数学で躓くようになるのは 学習過程で知識の穴が 蓄積されているためなんです 代数を学び始めたとき それ以前の知識に 怪しいところがあって そのせいで自分には数学の才能が ないんだと思い込みます あるいは解析を学び始めたとき その基礎になる代数に 怪しいところがあって躓きます 数学のビデオをYouTubeに アップするようになって それをまた目にしました まず気付いたのは 見ているのが 従兄弟達じゃないということでしたけど —

観衆:(笑)

当初のコメントは単に 「ありがとう」というものでしたが これは大したことでした 皆さんどれくらいYouTubeを 見ているか知りませんが 「ありがとう」なんてコメントは あまりお目にかからないはずです

観衆:(笑)

もっとトゲがあるのが普通です コメント内容は その後 濃くなっていき 成長につれ数学が嫌いになった という生徒が相次いで現れました 先に進むにつれ 難しくなっていき 代数を学ぶ頃には ついていけなくなるくらい 知識の穴が 大きくなっています それで自分は数学に 向いていないと思うのです しかし少し年を経て 主体的に勉強してみよう という気になって カーン・アカデミーの ようなものを見つけ 知識の穴を埋めて 概念を習得すると 別に才能の問題ではなく 数学だって やればできるという マインドセットが強化されます

これが世の中で様々なことを 身に付ける方法なんです 武道を身に付けるのも 同じです まず白帯の技が できるようになるまで 練習します それができて初めて 黄帯の技へと進みます 楽器演奏を学ぶのも 同じです 基本的な曲を 何度も繰り返し練習し それがマスターできて 初めて もっと難しい曲へと 進みます

しかしこれは従来的な 私たちの多くが受けてきた 学校教育の やり方ではありません 従来的な学校教育では 通常 年齢ごとに 生徒をひとまとめにし 中学くらいになると 年齢と成績でまとめて 全員同じペースで教えます 典型的には たとえば中学の 代数基礎で 指数を習うという場合 まず先生が授業で 指数を説明し 家で宿題をやり 翌朝 宿題の答え合わせをし それから授業 宿題 授業 宿題と 繰り返して 2、3週間後に テストがあります テストでは 私が75%で 彼は90% 彼女は95% という具合に 知識の穴が 明らかになります 私は25% 理解しておらず Aを取った生徒でも 5%理解していないところがあります

しかし知識に穴があると 分かっても 授業はそのまま 次の項目へと進みます より高度な内容で それが穴の上に積み上げられます 対数だったり 負の指数だったり それが続いていきます これがどんなに変なことか お分かりになるでしょう 基礎的なことの 25%が分からなかったのに もっと高度な内容に 進ませられるんです それが何ヶ月 何年と 続いていき 代数か三角関数か どこかの時点で 壁にぶつかります それは代数が 本質的に難しいからでも 生徒の頭が 悪いからでもなく 30%理解していない ところのある指数が 方程式の中に 出てくるためで そうやって 取り残されていくんです

これがどれほど馬鹿げているか 分かるように 別な領域になぞらえて 考えてみましょう たとえば家の建築のような

観衆:(笑)

建築作業員を集めて言います 「2週間で基礎を 作るようにとのことだ できるだけのことを やってみよう」

観衆:(笑)

それで できることをやります 雨が降るかもしれないし 必要な資材が 届かないかもしれません 2週間後に工事監督がやってきて 見て回ります 「あそこのコンクリートが 乾いてないし この部分は 基準に合っていないな・・・ 80%の出来だ」

観衆:(笑)

「よし “C” だ じゃあ1階部分に取りかかろうか」

観衆:(笑)

同じようにして 2週間でやれるだけ やることになり 工事監督がチェックし 「75%の出来」 「D+」となります さらに2階 3階と進み 3階に取り組んでいる最中に 建物全体が 突然崩れてしまいます これに対して 学校教育における 典型的な反応をするなら 業者が悪かったんだとか もっと頻繁に 詳しく検査を しなきゃいけないという話になります しかし本当に問題があるのは プロセスそのものなんです やるのにかける時間を 人為的に制限することで 結果に 出来・不出来を 出しています そして わざわざ検査の手間をかけて 欠陥を見つけたのに そのまま積み上げ続けています

「完全習得学習」では これと正反対のやり方をします 従来式のように 学ぶ時期や期間を 人為的に固定して 当然の結果として 優・良・可・不可と バラツキを出すのとは逆に 学ぶ時期や期間は 生徒ごとに変えて 実際に習得するという部分を 固定するのです

ここで重要なのは 指数などの概念を生徒が 良く学べるというだけでなく 適切なマインドセットを 育めるということです 何かで20%間違えた からといって 別にDNAに “C” と 刻印されているわけではなく ただ取り組み続ければいいんだ やり抜く力 粘りが必要だ 学習に主体的でなければ ならないんだと分かります

懐疑的な人は 言うかもしれません 「そりゃ考えとしての 完全習得学習や それによるマインドセット 生徒の主体性は 素晴らしいものだし 言っていることは分かるが 現実的じゃない 実践しようものなら 生徒の進度がバラバラになって 生徒ごとにカスタマイズした 課程が必要になり 個人教師や個別の練習問題が 必要になる」 これは別に新しい考え というわけではありません 100年前にイリノイ州ウィネトカで 行われた実験で 完全習得学習によって 素晴らしい成果が出ましたが 運用が大変で 規模拡大は無理ということでした 教師は生徒それぞれに 異なる課題を出し 個別に評価しなければなりません

しかし今日では 非現実的なことではありません そのための道具があります 生徒のペースに合わせて 説明を与える必要がある? それならオンデマンド・ ビデオがあります 練習問題が必要? フィードバックが必要? 生徒に合わせた 適応型の練習問題があります

そして完全習得学習を行うとき 沢山の素晴らしいことが起こります 生徒が概念をすっかり 習得できるだけでなく 成長のマインドセット やり抜く力 粘り強さを身に付け 学習に対して 主体的になります また教室でも 様々な素晴らしいことが 起き始めます 授業を聞くだけでなく 教室の中に 交流が生まれます 内容をより深く 習得できるようになります シミュレーションや ソクラテス的対話ができます

これが どういうことであり 失われている可能性が どれだけ悲劇的か分かるように ちょっと思考実験をしてみましょう 400年前の西欧に 行ったとします 当時でも地球上で最も 識字率が高かった地域で 人口の15%くらいは 文字が読めたでしょう 誰か字の読める人 聖職者のような人に 「字が読めるようになり得る人の割合は どれくらいだろうか?」と聞いたら 「優れた教育システムがあれば 20〜30%の人が読めるように なるかもしれない」と答えるでしょう しかし今日から見れば その答えが悲観的すぎるのが 分かります 実際 ほぼ100%に近い人が 字を読めるようになります 似た質問を考えてみましょう 「本当に微積分を マスターできる人は どれくらいの割合だろうか? あるいは有機化学を 理解できる人は? あるいはガン研究に貢献 できる人は?」 多くの人は言うでしょう 「優れた教育システムがあれば 20~30%の人が 出来るようになるかもしれない」

しかし そのような 予想が単に 習得に基づかない 教育における経験 みんな同じペースで 進ませられ 知識の穴が蓄積されていく教室で 自身が体験したことや 周りの人を観察した結果から 来ているのだとしたら? Aを取って 95%できたとしても 落とした5%は 何だったのか? 穴は蓄積されていき 高度な内容に進んだとき 突然壁にぶつかって 「ガン研究なんて自分には無理だ」とか 「物理学は向いてない」とか 「数学は向いてない」と思うんです それが実際に起きていることでは と思いますが もし 完全習得の 枠組みでやっていけ 学習に対して 真に主体的になれ 間違いを歓迎し できなかったことを 学びの機会ととらえるなら 微積分をマスターしたり 有機化学を理解したり できる人の割合は 100%に近いものに なるでしょう

これは「あれば結構なもの」 ではありません 社会的要請です 工業化時代と 呼ばれた時代は過ぎ 情報革命の時代に 入っていきます そこで起きつつある ことがあります 工業化時代には 社会はピラミッド型でした ピラミッドの底辺には 多くの労働者が必要です ピラミッドの真ん中には 情報処理をする人や 官僚がいて 頂点に資産家や 起業家や 「創造的階級」 がいます しかし情報革命が進む中で すでにご承知のとおり ピラミッドの底辺で 仕事が機械に奪われていきます 真ん中の情報処理にしても コンピューターの 得意とするところです

社会として 問うべき質問があります テクノロジーが生産性を 劇的に変えるとき そこに参加できるのは誰か? ピラミッドの頂点に いる人たちだけでは? そうなったら 他の人たちは いったい どうしたらいいのか? あるいは 何かもっと 野心的なことをしては? ピラミッドをひっくり返して 創造的階級を 大多数にし ほとんどの人が 起業や芸術や研究に 携われるようにするとか?

これは別に夢物語だとは 思いません 完全習得の考え方と 学習に対して主体的に なることによって 人々の潜在能力が 発揮されるようになれば そこへ到ることが できると思います 世界市民として そのことを考えると ワクワクします そうやって可能になる 世界の公平さや 文明が進歩する速さを 考えてみてください 私はそのことについて 楽観的です 生きているのが素晴らしい時代に なると思います

どうもありがとう

観衆:(拍手)

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このプレゼンテーションについて

未完成の土台の上に家を建てようと思いますか? もちろんそんなことはしないでしょう。それならどうして教育においては、まだ基礎が出来ていないうちに先へと進めてしまうのでしょう? 難しい問題ですが、教育者のサルマン・カーンが、自分のペースで習得していくのを助けることで落ちこぼれつつある生徒を好学の士へと変えられるプランを話してくれます。

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