コスプレへの愛(13:07)
講演内容の日本語対訳テキストです。
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何かで読んで 気に入っている話なんですが 人類の種としての成功に 貢献をした要因に 体毛の欠如が あると言うんです 我々に体毛がなく 裸であることが 服の発明と相まって 体温を自由に 調整できるようにし どのような気候条件下でも 生きられるようになったのだと 今では我々は服なしには 生きられないまでになりましたが 服には実用以上の 意味があり 一種のコミュニケーションツールです 我々の身に付けるものすべてが 何かを物語っています 自分がどこにいて 何をしていて 何になりたいのか
私は孤独な子供でした 遊び友達をなかなか作れず 一人で遊ぶ方法を 見つけていました 自分でおもちゃを いろいろ作りましたが はじまりはアイスクリームでした 私の故郷の町には サーティワンアイスクリームがあって カウンターに並んだ 20Lの巨大な厚紙製の桶から アイスを提供していました 8歳の時のことですが 誰かから聞いたんです 空になった桶は 洗って裏に置いてあり 頼めばもらえるんだと 勇気を奮い起こすのに 2週間かかりましたが 頼んだら本当にもらえて その素敵な厚紙製の桶を 持ち帰りました その魅惑的な素材で いったい何ができるか考えました 上下に金属の輪がついています 頭に被ってみて気付きました 「おや 頭にピッタリの大きさだ」(笑)
それで穴を開けて 透明フィルムを張り 宇宙ヘルメットを作りました(笑)
そうすると宇宙ヘルメットを 被れる場所が必要です 家から2ブロック離れたところで 大きな段ボール箱を見つけ それを家まで押してきて ゲストルームのクローゼットに入れ そこを宇宙船に変えました まずボール紙で 制御板を作り始めました レーダー画面のための穴を開け 下から懐中電灯で照らしました 上には黒い壁に向けて 画面を付けます すごく上手い考えだと 思ったんですが 両親の許可を得ずに クローゼットの壁を黒く塗り 屋根裏で見つけた クリスマスのランプで 星空を作りました そしてスペースミッションに 乗り出したのです
それから2年ほどして 映画『ジョーズ』が公開されました 私は小さすぎて 見られませんでしたが 当時のアメリカのみんなと同様 ジョーズ熱に浮かされました 町に『ジョーズ』のコスチュームを 飾っている店があって それがすごくイカしていると 誰かに私が言ったのを 聞いたのに違いありません 母がハロウィーンの数日前に そのジョーズのコスチュームをくれて 私を驚喜させました
「今時の子供は 自分がどれほど恵まれているか わかっていない」と 年寄りが愚痴るのは野暮だ というのは分かってますが 近頃ネットで買える入門レベルの 子供用コスチュームがどんなものか ちょっと見てください そしてこれが 私に母が買ってくれた ジョーズのコスチュームです(笑)
ペラペラのサメの頭と ジョーズのポスターをプリントした ビニールが貼り付けてあります(笑)すごく気に入りましたよ
さらに2年ほどして 父が『エクスカリバー」という映画に 連れて行ってくれました 2度も連れて行ってもらいましたが これは大したことでした R指定の映画でしたから でも私がまた 見たくなったのは 血や内臓やおっぱいの ためではありません それもなくはありませんが —(笑)
鎧なんです 『エクスカリバー』に出てくる鎧は うっとりするほど素晴らしく見えました 文字通り鏡のように磨き上げられた 輝く鎧を身にまとった騎士達 — しかも『エクスカリバー』の騎士達は いつでも鎧を着ていました 夕食の時だろうと 寝る時だろうと(笑)
僕の気持ちが 分かるのかと思いました 「僕だってずっと 鎧を着ていたい!」(笑)
それでまた お気に入りの素材を手にしました もの作りの入門薬物とも言うべき 段ポールです それで鎧一式を作りました ネック・シールドと 白馬までつけて ちょっと誇大表現だったかも これが私の作った鎧です(笑)
(拍手)
これは私が『エクスカリバー』に 刺激されて作った 鎧の第1号です 2年後 ちゃんとした鎧を作るのを 手伝ってくれるよう父を説得しました 1ヶ月以上費やし 段ボールは卒業して 屋根に使うアルミ材の フラッシングを使い 今でもお気に入りの留め具 ポップリベットで留めました 1ヶ月以上かけて私たちは 複合曲線で構成され関節のある アルミ製の鎧一式を 入念に深く作り上げました ヘルメットには息が出来るよう ドリルで穴を開けました ちょうどハロウィーン前に完成させ 学校に着て行ったんです お見せできるスライドが これだけはありません この鎧の写真がないからです 私は学校に着ていき 卒業アルバムのカメラマンが 廊下を歩き回っていましたが 後で述べる理由により 私を見かけることはなかったのです
アルミで出来た完全な鎧を 学校に着ていくことには 予期しなかった問題がありました 3時限目の数学の時 私は教室の後ろに 立っていました その鎧を着ていると 座れなかったものですから(笑)
これは私の予期して いなかったことの1つです 先生が授業の途中に 心配して 「大丈夫?」と聞きました 私は思いました 「何言ってるの? 大丈夫かだって? 鎧を着ているんだぞ! 人生最高の時と言っても・・・」 自分がどんなにいい気分か 言おうとした矢先 教室が左に傾きはじめ 長いトンネルの向こうに 消えていきました 目を覚ますと 保健室にいました 鎧を着ていたために 熱中症になって 気を失ったのです 目覚めたときに思ったのは 教室で気を失って 恥ずかしいということではなく 「僕の鎧はどこなの?」 ということでした
それからずっと後のこと 私達はディスカバリー チャンネルで 『怪しい伝説』という番組を やることになりました この仕事を14年する中で 実験方法の組み立て方や テレビでの伝え方について 多くを学びました また早い時点で ストーリーテリングにおいては コスチュームが重要な役割を 果たしうることに気付きました
私はコスチュームを ユーモアを持たせるために コメディとして 特色を与えるために また語っている物語を 明快に示すために使います それから『ゴミ箱ダイブ』 という回をやったとき コスチュームは自分にとって もっと深い意味があることに 気付きました この回で 答えようとした疑問は 「高いところから ゴミ箱に飛び込むのは 映画が見せているように 本当に安全なのか?」 ということです(笑)
この回は2部に 分かれていました 1つは建物からエアマットに 飛び降りるトレーニングを スタントマンから 受けるというもの 2つ目の部分で 実験へと進んで ゴミ箱にものを詰め込んで その中に飛び降ります この2つの要素を視覚的に はっきり分けたくて 考えました 「1番目の部分はトレーニングだから 運動着を着るべきだろう そうだ 服の背中に “スタント実習生” と 書いておくことにしよう トレーニングだと 分かるように」 2番目の部分は視覚的に インパクトのあるものにしたかったので 「よし “マトリックス” のネオの 格好で行くぞ!」と決めました(笑)
それでサンフランシスコの ヘイト通りに行って 膝まである見事な 留め金付ブーツを買い さらにeBayで 長いすらっとしたコートを買いました サングラスも手に入れましたが するとコンタクトにしなきゃいけません 実験パートの撮影の日 このコスチュームで 車から降り立つと それを見た番組スタッフが — 必死に笑いを押し殺し ているのがわかりました 「ウプッ」「プーッ」と この時同時に 2つの感情を覚えました 私がこのコスチュームに マジで入れ込んでいることが スタッフの目に明かで 恥ずかしいというのが1つ(笑)
しかしプロデューサーとしての私は 高速度撮影のスロー再生で このコートは きれいに後ろへ たなびくはずだとも思っていました(笑)
『怪しい伝説』の5年目に 私たちはサンディエゴの コミコンに招待されました ずっと行きたいと思いながら それまで行く機会がありませんでした すごく大規模な コスプレの祭典です このサンディエゴの舞台で 自分の見事な創作物を見せようと 世界中から人が集まります 自分も参戦したいと思いました 凝ったコスチュームで 全身をすっかり覆い 人知れずコミコン会場を 歩き回ることにしました 私が選んだコスチュームは 『ヘルボーイ』です これは私じゃありません 本物です(笑)
視覚的に可能な限り正確な コスチュームを組み上げるために 何ヶ月もかけました ブーツからベルトにズボン そしてあの破滅の右腕まで ヘルボーイの頭部と胸部を 作ったという人を見つけ それを使わせて もらうことにし 度入りのカラーコンタクトまで 用意しました コミコン会場で これを着ましたが このコスチュームの中が どれだけクソ暑かったことか(笑)
汗だくです 忘れていましたけど 汗でびしょ濡れになって コンタクトで目も痛くなりましたが 全然気になりませんでした もうすっかり夢中になっていたので(笑)
このコスチュームを着て 会場を歩き回るというプロセスだけでなく コスプレーヤーたちの コミュニティが素晴らしいんです コミコンでは「コスチューム」でなく 「コスプレ」と呼んでいます コスプレというのは人々が 映画やテレビやアニメの お気に入りのキャラクタの姿に 着飾るということですが ここには それ以上のものがあります コスチュームを見つけて 着てみたというのではなく 自分で作り上げているんです 自分の好みで変えています 番組に登場して欲しいと思うキャラクターを 作り出しているんです すごい創意工夫をしています オタク・パワーを全開にしていて 実に素晴らしいものです(笑)
それだけでなく 良く稽古もしています コミコンや その他のコスプレイベントでは 歩き回る人たちを ただ撮ったりはしません 近づいて頼むんです 「あなたのコスチュームいいですね 写真撮ってもいいですか?」 それから相手が決めポーズを 取るのを待ちます 彼らはコスチュームが 最高に見えるポーズを見つけるために 大変努力しています 見ていて実に感心します 私もこのことを心に留めています その後のコンベンションのために 私は『ダークナイト』でのヒース・レジャー扮する ジョーカーの歩き方を練習しました 『ロード・オブ・ザ・リング』の指輪の幽鬼が いかにも恐ろしげになるよう練習して 子供達を本当に怖がらせました あの「ホゥッ ホゥッ ホゥッ」という チューバッカの笑い方を練習しました
それから『千と千尋の神隠し』の カオナシの扮装をしました もし宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』を 知らないなんて人がいたら 許しといてあげます(笑)
全くの名作で 大好きな映画の1つです 日本のとある 廃れたテーマパークで 千尋という女の子が 霊の世界に迷い込むという話です 千尋は戻る道を探す中で そこで出来た友達の 助けを借ります 囚われの龍ハク 孤独な化け物カオナシ 孤独なカオナシは 友達がほしくて 手から金を作り出して 気を引こうとします それがうまくいかなくて 大暴れすることになりますが 千尋に救われます 千尋に救われます
私はカオナシの コスチュームを作り上げて コミコンで着ました そしてカオナシらしい動きを よく練習しました このコスチュームを着ているときは 口を利かないと決めていました 写真を撮らせてと頼まれたら うなずいて 内気そうに相手の横に立ちます 写真を撮っている間に 外套の中から 密かにチョコレートの金貨を取り出し 別れ際に差し出しました 「ア・・・ア・・・」と
みんな大喜びでした 「カオナシが金をくれた! すごい!」 私は上機嫌で会場を歩き回り 実に楽しかったです それから15分くらいして あることが起きました 誰かが私の手を掴んで 金貨を返したんです お返しとして何かのコインを くれたのかと思いましたが 違いました 私があげたものです なぜなのか 分かりませんでした 引き続き写真を撮っていると それがまた起きました このコスチュームを着ていると 何も見えないんです かろうじて口を通して 相手の靴が見えるだけです 相手の言っていることは聞こえ 足だけが見えます 3度目に金貨を 突き返されたとき いったい何なのか 知りたいと思いました それでよく見えるよう 頭を上向けると 誰かが歩き去りながら こんな身振りをするのが見えました それで思い当たりました カオナシから金を受け取ると 不幸になるんです 『千と千尋』の映画の中で カオナシから金を受け取った人には みんな不幸が訪れます
これは演ずる者と観客という関係ではなく 「コスプレ」なんです その場にいるみんなが 私たちにとって大切な物語の中に 身を置いていて みんなそれを 自分のものにしています 私たちの中にある大切なもので みんな繋がっているんです そしてコスチュームは 私たちが相手に 自分を見せる方法なんです
どうもありがとう(拍手)
アダム・サヴェッジはものを作り、実験を遂行し、コスチュームによってストーリーにユーモアや特色や明快さを付け加えます。子供の頃にアイスクリームの桶で作った宇宙ヘルメットからコミコンで着たカオナシのコスチュームまで、自らの生涯にわたるコスチュームへの愛をたどりながら、サヴェッジはコスプレの世界と、それがコミュニティに生み出している意味を探っていきます。彼は言います。「私たちの中にある大切なものでみんな繋がっているんです。そしてコスチュームは私たちが相手に自分を見せる方法なんです」