ジル・ボルト・テイラーのパワフルな洞察の発作(18:19)

ジル・ボルト・テイラー (Jill Bolte Taylor)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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私が脳の研究をするようになったのは、統合失調症という脳障害を持つ兄のためでした。妹として、後には科学者として、知りたかったのです。私には、夢と現実を関連づけられ、夢を実現させることもできるのに、なぜ統合失調症の兄の脳には、夢をみんなと同じ普通の現実に結び付けることができず、妄想となってしまうのか?

そうして私は、重い精神疾患の研究に身を捧げることになりました。故郷のインディアナ州からボストンへと移り住み、ハーバード大学精神科のフランシーン・ベネスの研究室に入り、1つの問への答えを追い求めました。
『正常と診断される人の脳と、統合失調症や統合失調性感情障害、双極性障害と診断される人の脳には生物学的にどんな違いがあるのか?』

私たちは、脳の回路のマッピングをして、どの細胞とどの細胞がどんな化学物質をどれだけ使って通信をしているのか調べました。日中はこのような研究を行い、とても充実していました。そして、夜や週末には精神障害者家族会であるNAMIの活動であちこち飛び回っていました。ところが 1996年12月10日の朝、目を覚ますと私自身が脳障害を起こしていたのです。左脳の血管が破裂したのです。4時間の間に、自分の脳が情報処理能力を失っていくのを経験しました。大出血を起こしたその朝、私は歩けず、話せず、読み書きも自分の生活について思い出すこともできませんでした。私は要するに、大人の体をした赤ん坊になったのです。

人間の脳を見たことがあれば、2つの脳半球は完全に分離されているのをご存じでしょう。本物の人間の脳を持ってきました。これが本物の人間の脳です。

こちらが脳の正面で、後ろには脊髄がぶら下がっています。こういう状態で頭の中に納まっています。ご覧のとおり、2つの大脳皮質は完全に分離しています。コンピューターに例えるなら、右脳は並列プロセッサのように機能し、左脳は単一プロセッサのように機能します。3億もの神経線維から成る脳梁を通して、2つの脳半球は通信し合っています。しかしそれを除けば、2つの脳半球は完全に分かれています。別々に情報を処理するため、それぞれの脳半球は考えることが違い、別なことに関心を持ち、あえて言うならそれぞれ別な人格を持っています。

(脳を助手の持つお盆に戻しながら)もういいわ 。ありがとう、楽しかったわ (笑)

右脳にとっては『現在』がすべてです。『この場所、この瞬間』がすべてです。右脳は映像で考え、自分の体の動きから運動感覚で学びます。情報は、エネルギーの形をとってすべての感覚システムから同時に一気に流れ込み、この現在の瞬間がどのように見え、どのように臭い、どういう味がし、どんな感触がし、どう聞こえるかが巨大なコラージュになって現れるのです。右脳の意識を通して見ると、私という存在は自分を取り巻くすべてのエネルギーとつながった存在なのです。右脳の意識を通して見た私たちという存在は、1つの家族として互いにつながっているエネルギー的存在です。今、この場所、この瞬間、私たちはこの地球上で共に世界をより良くしようとしている兄弟姉妹です。この瞬間に、私たちは完璧であり、完全であり、美しいのです。

私たちの左脳はまったく異なった存在です。私たちの左脳は直線的、系統的に考えます。左脳にとっては過去と未来がすべてです。左脳は、現在の瞬間を表す巨大なコラージュから詳細を拾い出し、その詳細の中から、さらに詳細についての詳細を拾い出すようにできています。そしてそれらを分類し、全ての情報を整理し、これまで覚えてきた過去の全てと結びつけて将来の全ての可能性へと投影します。そして、左脳は言語で考えます。継続的な脳のしゃべり声が内面の世界と外の世界とをつないでいます。その小さな声が私に囁きます。『帰る途中で――』『――バナナを買うのを忘れないで――』『――明日の朝いるから』。

計算的な知能が、洗濯をするよう思い出させます。しかし、最も重要なのは、その小さな声が私に『私がある』と言うことです。そして左脳が『私がある』と言った途端、私は 切り離されるのです。私は 1人の確固たる個人となり、周りのエネルギーの流れから離れ、周りの人から分離されます。そしてその部分が、脳卒中の朝に私の失ったものでした。

脳卒中の朝、私は左目の裏にひどい痛みを感じ、目を覚ましました。その痛みは、アイスクリームをかじった時に感じるような鋭い痛みです。それは、私を捕らえて解放し、それからまた捕らえ、解放しました。私にとっては、痛みを体験すること自体珍しいことだったので、そのうち消えるだろうと思い、起き上がって全身有酸素運動用のローイングマシンに飛び乗りました。
一生懸命こうやっていたのですが、バーを握っている自分の手が、まるで怪獣の鉤爪のように見えるのです。『すごく変だわ』と思いました。そして自分の体を見下ろすと、『うわ、私奇妙な格好してる』と思いました。私の意識は、マシンの上にいるという通常の現実認識から離れ、どこか奇妙な場所からエクササイズする自分を見ているようでした。

全てがとても奇妙で、頭痛がひどくなり、マシンを降りてリビングルームを歩きながら、体の中のすべてが速度を落としたように感じました。一歩一歩がとても硬直し、とても意識的なのです。歩みはぎこちなく、認識能力が制限されているようなので、自分の体の中だけに意識を集中しました。浴室に入ってシャワーを浴びようとしていると、体の中で会話する声が聞こえてきました。小さな声が『そこの筋肉縮んで』『そっちは緩めて』。

私はバランスを崩し、壁にもたれました。そして腕を見ると、もはや自分の体の境界が分からなくなっていることに気付きました。自分がどこから始まりどこで終わるのか、その境界が分かりませんでした。腕の原子・分子が壁の原子・分子と混じり合って 一緒になっているのです。唯一感じ取れるのはエネルギーだけでした。

そして自分に問いかけました。『私はどうしちゃったの? 何が起きているの?』その瞬間、左脳のささやきが完全に途絶えました。まるで、誰かがテレビのリモコンを取り、ミュートボタンを押したかのように、全くの静寂になりました。最初、頭の中の静寂にショックを受けていましたが、それからすぐに、周囲の大きなエネルギーに魅了されました。もはや、体の境界が分からない私は、自分が大きく広がるように感じました。全てのエネルギーと一体となり、それは素晴らしいものでした。

突然左脳が復帰して言いました。 『おい トラブルだ!』『トラブルだ! 助けを呼ばなきゃ!』『大変 大変!』と繰り返します。それで私は、『そうか、トラブルなのか』と。

しかし、すぐ、さっきの意識の中へと押し戻されます。私はこの空間を、親しみを込め『ラ ラ ランド(陶酔の世界)』と呼んでいます。そこは素晴らしい所でした。外の世界と自分をつなぐ脳のしゃべり声から、完全に切り離されているのです。

この空間の中では、仕事に関わるストレスが全て消えました。体が軽くなったのを感じました。外界全ての関係と、それにかかわるストレスの元がすべてなくなったのです。平安で満ち足りた気分になりました。想像して下さい、37年間の感情の重荷から解放されるのがどんなものか!(笑) ああ! なんという幸福。幸福、とても素敵でした。

それからまた左脳が戻ってきました。『おい! ちゃんと注意を払え!』『助けを呼ばないと!』それで私も『集中しなくては』と思い、シャワーから出て、無意識に服を着てアパートの中を歩き回り、『仕事に行かないと』と考えていました。『でも運転できるかしら?』

そしてその瞬間、右腕が完全に麻痺し、私は気付きました。『信じられない! 私、脳卒中を起こしたんだわ!』

次の瞬間私が思ったのは『わあ! すごい! すごいぞ!』『自分の脳を内側から調べるチャンスに恵まれる脳科学者なんてそうはいない』(笑)

それから思いました『でも私すごく忙しいんだった!』(笑) 『脳卒中になってる暇なんかないわ!』と。

『でも脳卒中は止められないし、1~2週間だけこれをやって、それからまた通常に戻せばいいわ。取りあえず職場に連絡しないと』でも職場の電話番号が思い出せず、名刺に電話番号が書いてあるのを思い出し、書斎に行って、8センチほどの名刺の山を取り出しました。一番上の名刺を見て、心の中ではちゃんと自分の名刺がどんなものか分かっているのに、それが自分の名刺なのか分からず、見えるのは画素だけでした。文字の画素が、背景の画素や記号の画素と混じり合って見分けられませんでした。それで『物事がクリアになる波』を待ちました。その波が訪れると、普段の現実に再び結びつくことができて、「これは違う、これは違う」と振り分けられたのです。45分かかって、やっと名刺の山を3分の1進みました。その45分の間に、出血は脳の左側でさらに広がっていました。数字も電話も理解できなくなりましたが、私のプランはそれしかありません。それで、電話機をこちらに置き、名刺をこちらに置き、名刺に書かれたくねった線の形と電話のボタンにあるくねった線の形を照らし合わせていきました。しかし、また「ラ ラ ランド」へ押し流されてしまい、我に返ると、番号をどこまで押したか覚えていません。だから、切り株のように麻痺した腕で、名刺の電話番号を覆っていき、また現実に戻ったときに『この番号は押した』と分かるようにしました。

最終的に全ての番号を押して電話に耳を澄ますと、電話を取った同僚が言いました。『ワン ワン ワン ワン』(笑) 私は思いました。『ゴールデンレトリバーみたいだわ!』

それで、自分としてははっきり言ったんです『ジルよ! 助けが必要なの!』でも、口から出たのは『ワン ワン ワン ワン ワン』でした。『やだ、私もゴールデンレトリバーみたい』話も言葉の理解もできないことに、試してみるまで気付かなかったのです。彼は、私に助けが必要だと分かり手配してくれました。

しばらくして、私は、ボストンのある病院からマサチューセッツ総合病院へ向かう救急車に乗っていました。私は、胎児のように丸まって、ほんの少し空気の残った風船から最後の空気が抜けていくようにエネルギーが抜けて、魂が諦めるのを感じました。

そして、その瞬間に、私はもはや自分の人生の振付師ではなくなったのだと知りました。医者が私の体を助けて、もう一度チャンスを与えてくれなかったら、おそらくこの世を去るところだったのでしょう。

その日の午後に目覚め、自分がまだ生きていることに驚きました。私は、自分の魂が諦めるのを感じたとき、自分の人生にお別れをしていたのです。私の心は、 2つの対照的な現実の間で宙づりになっていました。感覚システムから入って来る刺激は、痛み以外の何でもなく、光は野火のように私の脳を焼き、音はあまりにうるさく、騒音の中から声を聞きわけることができず、ただ逃げ出したかった。自分の体の状態も認識できませんでした。体が大きく拡大するように感じ、ランプから解放されたばかりの精霊のようでした。私の魂は大きなクジラのように自由に飛び、静かな幸福の海を滑るように進みました。天国を、私は天国を見つけたのです。この大きくなった自分を、再び小さな体の中に押し込めるのは無理だろうなと思ったのを覚えています。

しかし私は『でもまだ私は生きてる!』と思いました。『そして天国を見つけた――私が天国を見つけて、まだ生きていられるのであれば、生きている皆も――天国を見つけることができるんだ』と気付きました。世界が美しく平安で、思いやりに満ちた、愛する人々で満たされ、みんないつでもこの場所に来られると知っているのを思い描きました。意図して左脳から右脳へと歩み寄り、この平安を見出すことができるのだと。この体験がどれほど大きな賜物となるか、生きている人たちにどれほど強い洞察を与え得るか、そのことに気付き、それが回復への力になりました。

大出血から2週間半後、手術で、私の言語中枢を圧迫していたゴルフボール大の血栓が取り除かれました。(写真を指して)私と母です。母は私の天使です。完全に回復するまで8年かかりました。

さて、私たちは一体何者なんでしょう? 私たちは、器用に動く手と2つの認識的な心を備えた、宇宙の生命力です。そして、私たちは、この世界の中でどんな人間でいたいのか、どのようにありたいのか、すべての瞬間瞬間において選ぶ力があります。今ここでこの瞬間、私は右脳の意識へと寄る事が出来ます。そこでは、私は宇宙の生命力です。私を作り上げる50兆もの美しい分子が一体となった、生命力の塊です。あるいは、左脳の意識へと寄って、1人の堅実な個人としてあることを選べます。大きな流れや、他の人とは別個の存在です。私はジル・ボルト・テイラー博士。理知的な神経解剖学者です。この2者が、私の中にある『私たち』なのです。皆さんが選ぶのはどちらでしょう? どちらをいつ選びますか? 私たちが、より多くの時間を右脳にある深い内的平安の回路で生きることを選択すれば、世界にはもっと平和が広がり、私たちの地球ももっと平和な場所になると信じています。

そして、これは、広める価値のある考えだと思ったのです。

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このプレゼンテーションについて:

ジル・ボルト・テイラーは、脳科学者なら願ってもない研究の機会を得ました。広範囲に及ぶ脳卒中の発作により、自分の脳の機能―運動、言語、自己認識―が、1つひとつ活動を停止していくのを観察することになったのです。この驚くべき物語をお聞きください。

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