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トルコ南部で6日に起きた地震は、発生から10日が過ぎ、「生存者の捜索」から「被災者の健康管理」へと支援のフェーズが移りつつある。しかし現地では、今も捜索活動に多くの人員が割かれ、厳しい避難生活を余儀なくされている被災者への支援が十分に行き届いていない現状がある。(山口翔平)
トルコ南部で支援活動を続けているNPO法人「ピースウィンズ・ジャパン」(広島県)の医師、坂田大三さん(41)は、「被災地のニーズは日々、変わっている」と指摘する。
坂田さんは地震から2日後の8日に、トルコ南部のハタイ県イスケンデルンで、国際救助チームの一員として現地入りした。大通りの両側で多くのビルが倒壊しており、十数人でチームを組み、ビルごとに生存者の捜索にあたった。坂田さんたち医師は、生存者が救助された際に、現場で応急処置を施す役割を任された。
「娘が埋もれているはず。早く助けてほしい」。活動本部には、市民から切実な訴えが次々と寄せられたという。坂田さんたちのチームは訴えに基づき、救助犬や金属探知機を駆使してビルの倒壊跡などを捜索したが、生存者は見つからなかった。坂田さんは「報道では発見されたケースが紹介されているが、実際には捜索の9割以上は空振りという印象だ」と振り返る。
捜索活動が成果を上げにくくなるなかで、現地のニーズは「生き残った被災者をどう支援するか」に移りつつある。
震源地に近いガジアンテップ郊外の公立病院は、建物にひびが入り、倒壊の危険があることから、病院内での診療を中止した。この病院では入院、外来を含めて500人以上の患者を診ていた。坂田さんたちが支援を申し出ると、「人手が足りない。すぐに来てほしい」と連絡があり、13日から、仮設診療所で再開した外来診療を担当することになった。
被災者からは、「風邪をひいて避難生活がつらい」や「精神的に追い詰められている」など、厳しい寒さの中で強いられる避難生活に伴う相談が多く聞かれるという。その外来診療業務も、日本から来た国際緊急援助隊に役割を引き継いだ。このため坂田さんらは、17日以降、支援物資を被災者に届ける活動に切り替えるという。
坂田さんは「現地の混乱は続いて
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政府が新型コロナウイルス対策として導入した接触確認アプリ「COCOA(ココア)」を巡るデジタル庁の総括案が判明した。関係者へのヒアリングで、「国の開発、運用の能力、体制が不足していた」との指摘があり、政府全体で人材を確保する仕組みを整えるべきだとしている。
河野デジタル相が近く公表する。パンデミックと呼ばれる世界的な流行に備え、普段使うスマートフォンのアプリを緊急時も活用することが望ましいと提案した。運用で生じた課題に速やかに対応できる開発・運用体制が必要だとする考えも示した。
利用者へのアンケート調査では、感染者と接触した可能性があるとの通知を受けた際に、「普段と異なる行動を取った」との回答が75%に上った。接触した時間帯や場所がわからないことや、感染しても登録が義務付けられていないことが課題との意見もあった。
ココアは、2020年6月に運用が始まり、22年11月までにダウンロード数は4100万件を超えた。約370万件の陽性登録があったという。スマホに接触通知が届かない問題が発覚するなど、不具合も相次いだ。政府は開発や運用に、約13億円の予算を投じている。
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厚生労働省は、介護保険制度で必要な介護事業者による自治体への文書提出を、全国共通の電子データによる申請・届け出システムでの処理に切り替える。これまで自治体によっては「持参・郵送のみで受け付ける」といった独自ルールが存在し、業務効率化の妨げになっているとの指摘があった。2025年度には全国で切り替えを完了させる方針だ。
介護保険で提供されるサービスの内容は全国共通だが、制度自体は原則として市区町村単位で運営されている。介護事業者は、施設の新増設や人員配置の変更、介護保険サービスの報酬請求など、様々な文書を自治体に提出する必要がある。
ところが、自治体によっては電子メールでの文書提出を受け付けなかったり、厚労省が通知で廃止を求めている押印や署名の欄が残っていたりするケースがある。書式が異なっていることも多く、同じ手続きであっても、自治体ごとに文書を作成し直す必要があった。最近は介護職員の処遇改善のための書類が増えるなど、事務負担が重くなっており、改善を求める声が上がっていた。
厚労省は今年度、介護事業者が全国共通の書式に沿って記入した内容を、提出先の自治体とオンライン上で共有できる「電子申請・届出システム」を開発した。電子化の準備の整った自治体から順次、移行を進める。介護事業者は、端末を使って、全国で統一された方式で手続きができるようになり、業務の効率化につながると期待されている。
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脳の画像を解析する人工知能(AI)で、うつ病の患者を高精度に見つけることに成功したと、広島大や国際電気通信基礎技術研究所(京都府)などの研究チームが発表した。医師の診断を補う医療機器として実用化される可能性がある。論文が国際医学誌に掲載された。
うつ病の診断は、問診で症状を聞き取ったり、心理テストを実施したりする方法が主流。医師による診断のばらつきが課題だった。
チームは、脳の血流などを調べる「機能的磁気共鳴画像装置(fMRI)」で健康な人39人とうつ病患者47人の脳画像を撮影。患者ら約1200人の脳回路の特徴を学ばせたAIで解析したところ、約7割の確率で患者を見分けられたという。
チームの岡田剛・広島大准教授(精神神経医科学)は「従来の診断では、うつ病が見逃されることもあった。診断を補助する新たな手法にしたい」と話す。このAIについて、共同研究する企業が今年度中にも厚生労働省に承認申請する予定だという。
東北大の筒井健一郎教授(システム神経科学)の話 「精神疾患を客観的に判断する手法は長年、模索されてきた。今回の研究は、その動きを前進させる重要な一歩だ。今後は精度を高める研究や、他の精神疾患への応用も求められる」
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新型コロナウイルスに感染したことを示す抗体を持つ人の割合が、東京都や大阪府で約3割となったことが、厚生労働省の調査でわかった。昨年2~3月の前回調査から大幅に増えたものの、欧米と比べて低い水準だ。ワクチンの接種と感染で新型コロナに対する免疫が高まるとされる。政府はマスク着用の緩和方針を示したが、専門家は「日本は海外より感染が広がりやすく、適切な感染対策の継続が必要だ」と指摘する。
調査は昨年11~12月、5都府県で20歳以上の住民約8000人を対象に、抗体の有無を調べた。その結果、感染した場合にだけ得られる抗体の保有率は、大阪が28・8%で最も高く、東京が28・2%、福岡が27・1%、愛知が26・5%、宮城が17・6%だった。昨夏以降の感染拡大で、前回調査から宮城では約12倍に急増した。
一方、海外では英国イングランドが約8割、米国では約6割などの報告がある。日本のワクチン接種率は高いものの、感染による抗体保有率は低水準となっている。
大阪大の忽那賢志教授(感染制御学)は、感染とワクチン接種で強い免疫を持つ人が多い国では、マスクを外すなど感染対策を緩和しても感染が広がりにくいとし、「日本は今後も拡大期にはマスクを着けるなど対策にメリハリをつけ、小規模な流行に抑える必要がある」と語る。
国立感染症研究所の脇田隆字所長も「感染対策を安易に緩和すれば、日本では感染が拡大しやすく、死者の増加につながる恐れがある」と訴える。
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国内では12日、新型コロナウイルス感染者が新たに1万3203人確認された。死者は89人、重症者は前日から23人減り、291人だった。
東京都では、新たに799人の感染者が確認された。都によると、感染者が1000人を下回るのは昨年6月13日以来、8か月ぶり。前週の同じ曜日から1488人減り、26日連続で1週間前を下回った。
直近1週間の平均新規感染者は1928人で、前週から40%減った。50~90歳代の男女8人の死亡が確認された。
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慶応大発の新興企業「ハートシード」(東京)は10日、重い心不全患者の治療で、人のiPS細胞(人工多能性幹細胞)から作製した心臓の筋肉(心筋)の細胞を小さな塊「心筋球」にして心臓に移植する世界初の治験を行ったと発表した。現時点で合併症はなく、心臓の状態にも改善がみられたという。移植した細胞が成長して心筋が再生すれば、心臓移植に代わる根本的な治療法につながる可能性がある。
心不全は、心臓のポンプ機能が低下し、血液をうまく送り出せなくなる状態を指す。国内の患者数は約120万人に上り、年間9万人近くが亡くなっている。
治験の対象は、心筋に血液が行き渡らなくなる「虚血性心疾患」を起こした20~80歳の重い心不全患者10人。心筋細胞は再生しないため、根本的な治療は心臓移植しかない。移植した細胞が心臓の一部として一体化し、拍動することで心機能の改善を図る。
同社は昨年12月中旬、1例目として、60歳代男性への移植を東京女子医科大病院(東京)で行った。他人のiPS細胞から変化させた心筋細胞5000万個から細胞の塊「心筋球」を約5万個作製し、特殊な注射器で心臓に直接注入した。
約1か月後に検査をしたところ、ポンプ機能の低下で緩んだ心臓の状態に改善がみられたという。今後、約1年かけて細胞の成長や移植による効果を確かめる。
同社は2024年までに10人の移植を終える目標で、10日に記者会見した同社社長の福田恵一・慶応大教授(循環器内科)は「新たな治療法をできる限り早く患者に届けたい」と話した。
iPS細胞由来の心筋細胞移植は大阪大が20年1月に初めて実施し、シート状の心筋細胞を心臓の外側に貼って心機能の改善を狙う治験を現在も続けている。
心不全患者らでつくるNPO法人ハート・プラスの会代表の鈴木英司さん(63)は「心臓の悪くなった部分は絶対に治らないと言われ、諦めて人生を送るしかなかっただけに大きな期待が持てる」と話す。
吉田善紀・京都大准教授(循環器内科学)の話「複数の治療の選択肢があれば、患者のメリットは大きい。安全性だけでなく治療効果を向上させる研究も重要だ」
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岸田首相は10日、新型コロナウイルス対策のマスク着用の目安について、3月13日に緩和する方針を固めた。10日夕に政府対策本部で正式決定する。
これに先立ち、政府の基本的対処方針分科会は、3月13日の緩和を盛り込んだ基本的対処方針を大筋で了承した。
国民全体に呼びかける目安としては、屋内、屋外を問わず、「個人の主体的な選択を尊重し、着用は個人の判断に委ねることを基本」と明記する。卒業式については、3月13日の前でも「着用せず出席することを基本」とするとした。
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北海道室蘭市内の水道水から基準を超える発がん性物質ベンゼンが検出された問題で、市は9日、住民ら42人の体内のベンゼン量を示す数値の平均が、昨年9月~10月の前回調査より上昇したと明らかにした。尿検査などで、このうち7人は健康被害が懸念される1リットルあたり25ミリ・グラムを超えた。
市内の給油所から大量のガソリンが漏れ出したのが判明している。今回の調査は1月4~10日に実施した。
前回調査より上昇した理由は不明だが、市の健康影響評価検討委員会の森満委員長は「長年にわたって体内に蓄積したベンゼンが現在排出されており、それによって数値が高くなっている可能性もある」と語り、ガソリン漏出の開始時期の特定を急ぐ考えを示した。
同市によると、ガソリン漏出元の給油所周辺の大気中に含まれるベンゼン濃度は国の環境基準を下回っており、水道水も現在は水質基準に適合して問題はないという。
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政府は9日、新型コロナウイルス対策のマスク着用の目安について、3月前半に緩和する方向で検討に入った。屋内、屋外を問わず原則として個人の判断に委ねる。10日に政府対策本部で決定する見通しだ。
政府は5月8日に新型コロナの感染症法上の位置づけを2類相当から、季節性インフルエンザと同じ5類に引き下げる。これに先立ってマスクの目安を緩和することを検討してきた。接客業界などが自主指針を検討する準備期間として約1か月を確保するため、緩和日は3月10日か13日とする案で最終調整している。学校で3月上旬に卒業式が始まるため、なるべく児童生徒がマスクなしで式に臨めるよう配慮する方針だ。
電車やバスが混雑する時間帯は着用を推奨する方向だ。医療機関や高齢者施設で高齢者と接する場合など、着用が効果的な場面も例示する。
現在の目安は屋内は距離を確保できて会話がない場合以外は着用を推奨し、屋外は距離をとれずに会話がある場合は推奨している。