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九州大医学部の加藤隆弘准教授(精神医学)のチームが、外部の支援が必要な「病的ひきこもり」に該当するかを判定できるチェックシート(質問票)を開発した。計12項目の質問に回答することで、ひきこもりの程度を見定め、精神科医らに支援を仰ぐべきかどうかを判断できるという。早期に発見することで、うつ病やゲーム障害などの予防につながると期待される。(中村直人)
国はひきこもりを「会社や学校に行かないなど、社会参加を避け、半年以上にわたり家にとどまる状態」と定義している。内閣府が昨年公表した調査結果によると、近所のコンビニ店などに出かける場合も含めた「広義のひきこもり」は、全国に約146万人(15~64歳)いると推定される。
九大のチームは生活に支障が出ているか、本人や家族が苦悩している場合を「病的ひきこもり」と呼び、在宅ワークやオンライン授業などで外出頻度が少ない人と区別するよう提唱している。ただ、これまで一般の人が自己評価できる手段がなかったという。
質問票では直近の1か月の外出頻度を尋ね、「合計1時間以上の外出」が週3日以下の場合を「物理的ひきこもり」と定義。こうした期間が、3か月~半年続くと「プレひきこもり」、半年以上は「ひきこもり」に該当するとした。
これらの質問を踏まえ、「寂しい感じや、孤独な感じがあるか」「家族との関係に支障が出ているか」といった七つの問いを設け、一つでも当てはまれば「病的」な可能性があると判定する。追加で専門家による10~20分程度の面接を受けることで、より正確な評価が可能になるという。
過去の研究では、ひきこもりは始まってから支援を受けるまでに平均で4年もの長期間を要している。「病的ひきこもり」はうつ病や統合失調症などの精神疾患が関わっているケースがあるほか、家庭内暴力などの深刻な事態に発展する恐れもあるため、早期に発見し、適切な治療を行うことが急務となっている。
コロナ禍によってひきこもり状態の人が増えたとの見方もある。
加藤准教授らがオンラインで行った調査では、コロナ前の2019年6月時点でひきこもりではなかった社会人約560人のうち、3割以上がコロナ禍の20~22年に -
【カイロ=西田道成】世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム事務局長は4日、パレスチナ自治区ガザでのポリオ(小児まひ)のワクチン接種について、中部で集団接種が完了し、「想定を大幅に上回る」18万7000人以上の子どもが接種したとX(旧ツイッター)で明らかにした。WHOは1日から中部での接種を始め、約15万6500人への接種を想定していた。
ガザでイスラエルとイスラム主義組織ハマスによる戦闘が続いていることを踏まえ、WHOは1日からのワクチン接種を目的にした一時的な戦闘休止を発表した。対象地域で設定された時間帯ごとに局地的に戦闘を休止する内容で、WHOパレスチナ事務所の代表は3日、「これまでのところ戦闘休止は機能している」との認識を示していた。
5日にはガザ南部での接種を始める見込みだ。 -
厚生労働省は2日、新型コロナウイルスワクチンの今年度の供給量が、約3200万回分になるとの見通しを明らかにした。昨年度に接種された約2800万回を上回るという。
最新のウイルスの変化を踏まえ、オミクロン株の新系統「JN・1」や、その派生型に対応したものを使う。米ファイザーや米モデルナ、第一三共、武田薬品工業、Meiji Seika ファルマの5社が承認の取得や申請をしており、厚労省は5社の供給量を積算した。
厚労省は今年度、新型コロナワクチンを定期接種に位置付け、10月1日をめどに始める予定だ。主な対象の65歳以上は昨年度、約1900万回の接種を受けており、今年度の供給量はこれも超えることになる。
また、季節性インフルエンザの今年度の供給量は約2700万本分で、過去3年間の年平均使用量の約2500万本を上回るとの見通しも公表した。 -
膵臓の細胞が正常に働かない重症の1型糖尿病について、京都大病院がiPS細胞(人工多能性幹細胞)から作った細胞のシートを患者に移植する治験を、来年にも実施する計画であることが、京大関係者らへの取材でわかった。有効性が確認されれば、注射治療が継続的に必要な患者の負担を軽減する効果が期待できるという。企業による大規模な治験を経て、2030年以降の実用化を目指す。
1型糖尿病の患者は通常、インスリン製剤を毎日数回、腹部に自分で注射する必要がある。国内では、亡くなった人の膵臓からインスリンを出す膵島細胞を取り出し、重症患者に移植する「膵島移植」が20年から公的医療保険の対象になっているが、日本膵・膵島移植学会によると、提供者(ドナー)不足などから、保険適用後に実施されたのは10人以下にとどまっている。
そこで京大などは、iPS細胞から膵島を作製してシート状にする技術を開発し、京大病院での治験実施を計画。8月下旬に学内の治験審査委員会で承認され、治験の助言や審査を行う厚生労働省所管の独立行政法人・医薬品医療機器総合機構(PMDA)に計画書を送付した。
計画では、健康な人のiPS細胞から膵島細胞の塊を作り、これらを集めて数センチ四方のシート状にする。これを複数枚、患者の腹部の皮下に移植する。
治験の対象は、20歳以上65歳未満の患者3人の予定で、1年以上かけて安全性を確認する。シートが血糖値の変化に応じてインスリンを放出することで、注射をしなくても血糖値を安定させる効果が期待できるという。
膵島細胞シートの製造は京大と武田薬品工業の共同研究から生まれた新興企業「オリヅルセラピューティクス」(神奈川県藤沢市)が担当する。実用化に向けて、同社は規模を拡大した治験で有効性を確かめる。
米国ではバイオ医薬品会社「バーテックス」が、同様に人の幹細胞から膵島細胞を作って移植する臨床試験を実施している。同社は6月、投与された患者12人全てで細胞が定着し、インスリンが出ているのを確認したと発表した。
京都大肝胆膵・移植外科の穴澤貴行講師は、「実用化されれば、低血糖による命の危険や糖尿病による合併症を減らせるだろう」と話す -
政府は、アフリカ向け医療機器の実用化を目指し、日本メーカーに対する開発支援に乗り出す。公衆衛生上の課題解決などに貢献できるよう、現地ニーズに合った製品づくりを進める。経済成長が著しい市場への進出を後押しするとともに、新興・途上国の人たちに適切な医療が届くようにする。2024年度からメーカー2社を4年間程度支援し、25年度にも、2社程度を追加する方針だ。
開発支援では、日本メーカーの担当者が現地の病院を訪問し、医療現場の視察や医師らへのヒアリングを通して、アフリカ特有の課題やニーズを把握してもらう。専門家らを交えた意見交換会なども実施する。この結果を踏まえ、製品開発に着手し、試作品を現場で使ってもらいながら改良を重ねて実用化につなげる。
開発サポート機関としては、東京大が参画する。医学や工学などの専門家チームが試作品の開発や事業戦略の策定、訪問先の調整などを支援する。厚生労働省は、現地の保健省や規制当局と連携する。
第1弾となる支援企業には、東京都内の医療機器メーカーと慶応大発のベンチャー(新興企業)が公募で選ばれた。この医療機器メーカーは、西アフリカ地域で主にみられる皮膚病の治療機器を開発する計画だ。
日本の医療機器産業は22年の貿易収支が約1・8兆円の赤字となっている。欧米企業との競争が激しく、放射線治療装置などで市場を奪われている。国連によると、22年のアフリカの人口は約14億人で、50年までに約25億人に急増し、世界の4分の1を占めると予測されている。経済成長が著しく、「最後のフロンティア」とも呼ばれる市場を開拓することで、産業競争力を高める狙いがある。
日本メーカーは内視鏡やMRI、CTなどの画像診断装置に強みを持つが、アフリカ市場への参入には難しさもある。電力や上下水道などのインフラ整備は途上で、日本向けの高機能で高価格な製品はマッチしないケースも多いからだ。このため、現地ニーズに合った製品をいかに開発できるかがカギとなる。
一方、アフリカは乳幼児や妊産婦の死亡率が高く、マラリアは22年に50万人以上が死亡し、エイズ、結核が流行するなど、公衆衛生上の問題を抱えている。厚労省は「先行する海外製品との差別化を図る。ま -
厚生労働省は27日、2023年の人口10万人あたりの結核患者数は、前年を0・1人下回る8・1人で過去最少を更新したと発表した。3年連続で10人を下回り、世界保健機関(WHO)による「低まん延国」の水準を保っている。
発表によると、23年に感染が判明した結核患者数は前年より139人少ない1万96人。死者数(概数)は1587人で、前年から77人減少した。BCGワクチンや抗菌薬の普及などで国内の感染者は減少傾向にある。
新規感染者のうち、外国生まれの人が1619人で前年から405人の大幅増となり、感染者全体の約16%を占めた。感染後の治療が十分に終わっていないケースがあるという。 -
文部科学省は来年度、大学病院で働く医師らの研究環境を改善するため、研究時間の確保や業務負担の軽減に取り組む大学に補助金を支給する制度を創設する方針を固めた。今年4月に始まった「医師の働き方改革」では、残業時間に上限規制が設けられた。規制の範囲で研究時間を確保するよう大学に促すことで、新たな薬や治療法の開発が停滞しないようにする。
大学病院や医学部の医師は、医学研究と並行して診療を行っている。だが、地域医療の中核を担っているため、多くの医師は勤務時間の大半を診療に充て、研究に十分な時間を割けない。
こうした事態が続けば、専門性の高い治療法の習得や学生を指導する機会が減り、医療水準を維持・向上させることが困難になる可能性がある。製薬企業との共同研究が減れば、創薬力の低下も招きかねない。
文科省が2023年に発表した大学病院で働く医師を対象にした調査では、若手中心で構成される助教の回答者173人の65%は研究時間が週に5時間以下で、15%は時間がゼロだった。働き方改革が始まったことで、今後、さらに状況が深刻化すると予想されている。
そのため文科省は来年度、研究時間を十分確保できるよう医師をサポートする大学を支援する「医学系研究支援プログラム」を始める。
対象は、医師が協力して診療を分担する体制を整える試みや、人工知能(AI)を活用した書類作成業務の自動化、事務作業の外部委託を通じて医師を支える大学などを想定している。
文科省は、人件費や委託費の一部などに使う補助金を大学に支給。来年度予算の概算要求に関連費約30億円を盛り込み、1件あたり2億円程度を支援する。
地方の複数大学で構成するグループも支援対象とし、地方の医師不足の緩和につなげる効果を狙う。文科省は、成功事例を全国に波及させ、研究と診療が両立できる環境を早期に実現する。
慶応大の前医学部長で、医学研究の実態に詳しい同大の天谷雅行教授は「日本の医師は研究に専念する余力がなく、その傾向は若手ほど顕著だ。医学研究の現場は危機的な状況で、国は次世代を担う専門医を戦略的に支えるべきだ」と話す。
厚生労働省は26日、アルツハイマー型認知症に伴う暴言や暴力などの症状に対する初の治療薬を承認する方針を決めた。大塚製薬などが開発したうつ病などの治療薬「ブレクスピプラゾール」(商品名レキサルティ)で、厚労省の専門家部会が同日、適応の拡大を了承した。9月にも承認される見通しだ。
この薬は脳内の神経伝達物質の働きを調整する飲み薬。国内外で、うつ病と統合失調症の治療に使われてきた。米国など3か国ではすでに、アルツハイマー型認知症にみられる暴力などの症状に対する治療薬として承認されている。
国内で行われた最終段階の臨床試験は、55~90歳の患者410人が参加。10週間投与したグループは、偽薬を投与したグループに比べ、暴言や暴力などが起こる頻度が減った。
今回、治療対象となる症状は、アルツハイマー型認知症患者の約半数にみられ、家族や介護者の心身の負担になる。冨本秀和・三重大特定教授(脳神経内科)は「症状を招く不安を和らげるようケアを工夫し、漢方薬などでも効果が乏しい場合の選択肢となる。転倒につながる副作用もあり、慎重に使う必要がある」と話している。
昨年9月に承認されたアルツハイマー病治療薬「レカネマブ」(商品名レケンビ)は、進行を抑える効果があり、認知症の早期段階の患者らが使える。一方、ブレクスピプラゾールは、主に病気が進行した患者が対象となる。全身の筋力が徐々に衰える難病「脊髄性筋萎縮症(SMA)」について、名古屋大などは発症する可能性を早期に検知できる新たなスクリーニングキットを開発し、来年の実用化を目指すと発表した。
SMAは、運動神経の維持に必要なたんぱく質をつくる遺伝子(SMN1)の欠失や変異によって起きる神経性の筋萎縮症で、新生児の2万人に1人が発症するとされる。近年は点滴や飲み薬などによる治療で改善がみられるようになったが、病気が進行後の治療効果は限られているため、早期発見が求められていた。
23日に熊本城ホール(熊本市中央区)で行われた「日本マススクリーニング学会」で、研究を主導した同大発のベンチャー企業「Craif(クライフ)」が新キットについて解説。従来の検査期間1~2週間を1時間半に短縮できるとし、血液ではなく唾液で検査することから新生児の負担軽減につながることを説明した。同社によると、新キットは新生児から採取した唾液と試薬を混ぜてSMN1を増幅させ、特殊な紙に流し込んで判定する。
研究を担当した同大の平野雅規・特任講師は「実用化に向けて、積極的に検査を実施する。すぐに導入できる方法なので、検査を導入していない産科クリニックでも使ってもらいたい」と話した。【バンコク=佐藤友紀】タイの保健当局は22日、アフリカ中部で急速に広がる感染症「エムポックス(サル痘)」の新系統のウイルス感染者がタイ国内で確認されたと発表した。英BBCなどによると、新系統のエムポックスウイルスの感染がアジアで確認されたのは初めて。発表によると、感染が確認されたのは欧州出身の66歳の男性で、14日にアフリカから中東を経由してタイに入国した。
世界保健機関(WHO)は14日、エムポックスの急速な感染拡大を受け、緊急事態宣言を出した。